どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
5.
歩兵。
それは歩く兵士と書くすべての陸戦兵の基本である。故に彼らの第1の仕事は――歩くことだ。
だが、ただ、歩くだけならわざわざ兵隊じゃなくても出来ることを理解せねばならない。
たとえば、窓、たとえばベランダ。たとえば排水溝。それらを一つ一つ警戒して、姿をさらさないように進む――事が兵隊以外の人間にどこまで実践できるだろうか?
そして、なぜ姿をさらしてはいけないのか。
きわめて簡単な理屈――姿を晒せば〝死ぬ〟
(ああ、なんで俺はこんなところでこんなことをしているんだろうな……)
心の中で思う――1人の少年兵。
手の中のAK系統のアサルトライフルが重い。
戦車兵……は嫌だった。だって戦車の中はすごく狭くて――
(おまけに甲冑どもに狙われるからやだ)
だからといって、歩兵になりたいわけじゃなかった。
こんな風に重い銃を担いで、今みたいに、たまたま運悪く窓に姿を晒したかったわけじゃなかった。
(あ――レ? なんで風景がぎゃくな、んるんだ――?)
反転。視界の反転――そして、何故。彼の疑問にこたえるものは誰もいない。そのまま彼の視界は砂まみれの大地が映って暗転。彼の最後の記憶はそこで途切れる。
一人の少年兵の頭蓋が吹き飛ぶ風景――――。
「クソッ!」
年長の兵士が、すぐさま手榴弾を取り出しピンを引き抜いてすぐそばの――窓に投げ込む。
次の瞬間――衝撃波が周囲を揺さぶった。
衝撃波と共に、建物の壁が崩落していくのを横目で見ながら、ひよりは走る。
上出来だ。赤外線ポインターを改造したブービートラップ一つで、敵兵が一人、死亡。速攻手榴弾で攻略されたとはいえ、何もないよりはましだろう。これで連中は四六時中、360度警戒をしないといけない。人間の集中限度は90分から3時間程度。それ以上、特定の事に熱中しすぎる、集中しすぎるのは限界がある。
そして、2つ目の仕掛けが起動する。例のブービートラップとは、電波を用いて連動させている。ブービートラップの反応が消えてからおよそ30秒後――――。
コンピューター制御、装填だけは人力を有するその軽迫撃砲は以前に設定された座標に向けて、砲撃を開始した。
仕掛けられた軽迫撃砲は2門。装填は人力で行うため、2連射しかできず、後は何もしないが、そこはそれ、ドローン化されたその2門は撃った後、指定されたポイントまで自力移動出来る様になっている。世界中の持たざる軍隊が使うベストセラーである。
その迫撃砲弾が敵兵の群れに着弾。悲鳴にもにた甲高いうめき声が周囲に響き渡り衝撃波が大地に大きな傷跡をつける中、ひよりは――
「よし……」
M4カービンを構え、砂が入って使い物にならないようにあえてつけていたゴムのカバーを銃口から外す。
どことなく、男の一物に着けるあれに見えるのは仕様のないことだ。
引き金が引かれる。引き金を引く回数は決めてある
「1……2、3、4、5、6……」
10発。それだけ撃ったら移動する予定である。
「10……」
予定された数の弾を敵兵に向けて、撃った。すぐさま安全装置をかけると走って移動する。
横隔膜が酸素を求めている。体が、酸素を求めている。だが、走りながらも彼女の呼吸は常に一定だ。
出ないと、すぐにへたってしまう。1回の酸素摂取量を徐々に上げてしまえば問題はないが、いきなり酸素がないから息を荒げれば沈静化するのにだいぶ時間を使ってしまう。
スタミナと時間を無駄にしてしまう。
だからこそ、彼女は走る。普通通りの呼吸をしながら――横隔膜が悲鳴を上げながら――――。
――――そして彼女が走っていくのをPDAで確認しながら、翔は
「……XYZ、全座標入力終了」
コンピューター制御の軽迫撃砲に新たな座標を入力。さらには砲撃後の移動位置を指定。
そして、走る彼女の様にアサルトライフルを片手に担いで、走り出す。と、同時にナイフを1本、走った先にある1本のワイヤー。
走りながらワイヤーを切った。切られたワイヤーはものすごい勢いで、弾き飛んで――――
歩兵隊を援護するように道路のど真ん中から少し横にずれた地点を走るIFV(歩兵戦闘車)。
IFVはAPC(装甲兵員輸送車・兵隊を運ぶ装甲車)にさらなる重武装化した結果、全盛期の軽戦車の様な存在になった装甲車と説明するのがすごくわかりやすい存在だ。
軽戦車とは重戦車と比べて薄い装甲に火力に乏しい装備を持った歩兵支援用戦車の事だ。
技術が未熟な時代、防御と火力を両立させるのは難しく軽戦車は装甲が薄く火力に乏しくその代わりなのかとても足が速く、逆に重戦車はとんでもなくのろまだった。
その後、軽戦車と重戦車のいいとこどりを目指した中戦車の子孫にあたる主力戦車(MBT)に駆逐されていった軽戦車と重戦車だったが、現在。
歩兵支援という意味において、MBTを重戦車と呼ぶのであれば、軽量のIFVと通常のIFVよりさらに火力が向上した機動砲システムという重量IFVの登場により
軽戦車(軽量のIFV)、中戦車(機動砲システム・重量のIFV)、重戦車(主力戦車)のカテゴリが復活した……といえるのかもしれない。
だが、逆に言えば、歩兵支援に向けられたあれやこれやは主力戦車でもない限りはよわーい車両しか与えられないという……風に解釈できる。
つまり――
――無反動砲の一撃で吹き飛ぶ可能性も常にあるという事だ。
歩兵の一人が吹き飛ぶ。衝撃波に体をあおられて――――!
「――クソッ! IFVを下げろ! 戦車(MBT)を連れてこい!」
「しかしッ!?」
分隊長の叫び声に抗命する軍曹。
IFVを盾に進んでいた歩兵分隊は1発の無反動砲の砲撃を受けた。
だが、逆に言えばそれだけだ。IFVには直撃してないからまだ問題はない。だが――
「IFVが狙われてるんだよ! 馬鹿野郎! あのでかい鉄くずの塊を下がらせろ! 2階3階の窓から狙われてんのがわからねーのか!」
周囲に散らばる歩兵たちのうめき声。砂と泥で顔を汚しながら、分隊長が叫ぶ。
そんな彼らの気配を感じながら、翔は走る。あの元お嬢様の豪邸にため込まれてあった各種武器弾薬類は無限というわけではない。
やたら無反動砲が多かったので、こいつは使えると大量に持ち出したのだが、それだけだ。
軽迫撃砲遠隔砲撃ドローンだって、たった1機しかないものを使いまわしているだけ。
敵にばれている……こちらの人数が少ないことを……。
あちらこちらから聞こえてくる銃声と爆音。手榴弾が投げ込まれ、迫撃砲弾が空を飛ぶ。
「はっはっはっ……」
口から出る大量の酸素と二酸化炭素。さすがにリズムを刻んで呼吸するのも難しくなっていく。
そして、建物の中へ!
とっさに感じる違和感。翔は、すぐさま、入ったばかりの民家の玄関ではなくすぐわきの窓から外に飛び出した――!
飛び散るガラス。次の瞬間建物の2階より翔に向けられる銃口!
(先回り――!)
とっさに口にするは、金属のピン。煙幕弾のピン。
口の中で金属をかんだ時に感じる特有の反響。
力の限り右手でつかんだ煙幕弾を体から突き放すようにピンを引き抜いて、そのまま投げる。
――だが、――銃撃のほうが早い!
――起爆はまだか!
走る相手を1発の弾丸だけで仕留めるのは難しい。その1発の銃撃からは辛くも逃れる!
そして、起爆。煙幕のスモークがあたり一面を汚染する。空気が――まずい。
それだけじゃ足りない! 呼吸を抑えろ。フードをかぶれ、空を見ろ。何故先回りされたのかを考えて逃げろ、何故先回りされたのか周囲をよく見ろ!
ちっきしょぉ!
(索敵ドローンが飛んでやがる! 俺様の動きはバレバレってことか! いや――ちょっと考えれば当たり前か! 建物の中を移動すればOKなんて甘くはなかったッ!)
走る車の中、高高度から中に何人、男女の違いすら見分けるとまで言われる偵察ドローンよりは低精度かつ、飛行せず、ジャンプするように移動する索敵ドローンの目をごまかすのは偵察ドローンよりはましでも並大抵の努力では報われない。
偵察ドローンではなくても、それと同じくらい厄介な代物相手で、この程度の壁、意味がない。
行けるか? やれるか? 逃げ切れるのか――?
たかが、煙幕弾でどこまでごまかせる?
煙幕弾の効果範囲からはとっくにはずれている。
どうだ? 索敵ドローンは俺様を見逃さずマークしているだろうか? 屋根を――屋根のあるところを逃げ回るしかない。たとえどんなに意味がなかったとしても。それ以上に空から監視する存在を遠ざける方法はわからない。
いや、今考えるべきは少しでも安全な逃走ルートの再構築だ。
次のブービートラップエリア――敵をそこに誘導する計画だったが……路線を変更するしかない。
(……ただの屋根や壁で貫通して監視されるというのなら――――)
――彼は走る。酸素が足りないと体が文句を言う中、走る。
(ついてくるか? クソッタレ、来い!)
だが、敵はついてこない。
高射砲塔の地上目標用のガスト機関砲の砲門が動き出す。
スプリングの力とジャイロモーターの力、そしてイオンスラスターの力で強引に跳躍して、移動しながら物を見るラグビーボールを思わせる形状の索敵ドローンは常に1か所を見ているわけでもなけいし、そもそも放射されるレーダー波を検知されれば、終わりだ。
偵察ドローンより手軽に地上の敵を発見できると同時に、偵察ドローンより手軽にあらゆる方向の敵から撃破される。
それが、索敵ドローン。
6基の高射砲塔の管制A.I.は全自動で、無数の索敵ドローンを敵性と判断した。
何故ならば、味方なら、あんなもの使う必要ないから。
「ちくしょぉ!」
翔は思わず叫ぶ。敵が索敵ドローンの追跡通りにやってきて、高射砲塔で一斉掃射とはいかないようだ。
とはいえ、どのみち、敵は6基の高射砲塔を攻略しなければならない。破壊するにせよ、制圧して反乱軍が使用するにせよ、あんなものが勝手に動いているのは困る。この集落上空を安心して飛べやしない。
だとすれば、高射砲塔の近くにいれば、自然と敵は寄ってくる。問題は自立式高射砲塔が、敵兵をちゃんと敵と認定するかどうか。
索敵ドローンは、味方であればあんなものに頼る必要がないという思考プロセスの元、撃破されたのだ。
では、人間の兵隊は?
(新たに今の政府軍のIFFロックシグナルコードの設定をいじれば、敵兵を自動的に攻撃するはずだ、が、そうでもない限りは反応しないか、無差別に殺しまくるの2つのみ!)
そして、あの子供たちや老人たちは反応されてなかった。もっと言えば反応されたという話を一切聞かなければ、彼らがIFFロックのインプラントマーカーを持っている、あるいは埋め込まれている様子は一切なかった。
つまり、基本人間に対しては無反応だろう。
走れ、どうせあの近くに敵は来る。
「ひより! 今どこだ!?」
翔は叫ぶ。高射砲塔のIFFロックシグナルコード設定をいじくり反乱軍を攻撃する。
一度考え、いざ反乱軍と戦う際、捨てたプランの再利用を2人でもう一度考えようと。奥歯に仕込まれている骨伝導の通信機が機能することを前提に叫ぶ。
結局のところ、反乱軍がすでに侵入している集落で、高射砲塔までいじる時間はなかったのだ。そして、数分でそういう設定が全部出来るだけの技術力も正直不安である。
だから、2人は、高射砲塔という最大戦力を自分たちの戦力として利用することをあきらめた。
しかし、敵のほうが強い。
(クソッ! 相手は高々戦車1個小隊とそれに付随する機動歩兵だぞ! 2、3人やって、2、3人ほど重症にすりゃ、一時下がるはずじゃねーか!)
翔たちはそう見込んだ。セグメンタタ分隊の場合は6人ほど。通常の歩兵隊の分隊は大体10~15人ほど。
これで、5、6人がやられるとなれば、それは半数が戦闘に投入できない計算になる。こうなると普通はいったん体制を立て直す方向に話が進むはずだ。
だが、その兆しがない。
(クソッ、クソッ、クソっ! 前提から間違っていたのか!? 5、6人ほどやるか負傷させりゃ、こっちの勝ちじゃなかったのか!?)
市街地に戦車を単独で突っ込むバカはいない。
何故ならば、市街戦における戦車は歩兵の盾であり、カモだからだ。
歩兵は戦車に守られ、戦車は歩兵に助けられる。そうでもない限り、戦車は市街戦で勝利できない。
それが、鉄則にして、限りなく破られない定理。
騎兵が街中で圧倒的強者として君臨したのは戦史上に一体いくつあっただろうか。
現代の重装騎兵。それが戦車の存在価値にして理由。
だからこそ――――
(――歩兵共を一定数駆逐すりゃ、引くだろう! 戦車だって!)
翔の考えは正しくて、間違っている。敵は翔たちが寡兵であることを知っている。少数であることを知っている。多く見積もっても10人いないとばれている。
そんな寡兵にいろいろと配慮してやる必要などない。
単純な力押しで問題なく勝てるのであれば、やたら強力な戦闘能力など不要だ。
単純な力押しで問題なく勝てるのであれば、面倒な戦術などいらない。
単純な力押しで問題なく勝てるのであれば、複雑な戦略などいらない。
単純な指示、単純明朗明快な戦術。そしてそれを考え実行できる将と兵士がいればいい――。
そもそも、ただの負傷程度なら――――〝どうとでも出来る〟――。
こちらには戦車という火力と盾がある。歩兵の負傷程度、大したことはない。
数が、減ってしまったのはさすがに問題だが、それだけだ。ドローンやその他いろいろな兵器をつかってカバーする。
カバーできるのだから、一々考慮する必要はない。
「何してる! 答えろ! 今どこだ!?」
ひよりからの返事がない。おい、ウソだろ?
翔はPDAを取り出す。表示されるひよりの位置とはいかない。
こちらには相手の動きや自分たちの動きをサポートするような電子支援はない。
それでも、避難民たちから提出された町のマップデータとひよりの通信機の位置から、居場所を産出するソフトウェアが稼働する。
稼働して、稼働して――――
「――遅いぞ……?」
翔は焦る。事実上今の自分と彼女が最大戦力だ。そして、それ以上に――――。
――近くで轟く重低音。
何かの爆発音と駆動音だ。
翔は走り出す。敵がそこまで来ているのか? それとも?
高射砲塔が全自動で動き出す。狙いはやってきた偵察ドローンと爆撃ドローンのセット。
次の瞬間集落外縁部から、一直線の光が――――
(――――『対レーダーミサイル』っ!)
次の瞬間――衝撃波が周囲を揺さぶった。
翔の中で、情景が想像される。それは、簡易小型TEL車両から発射される、垂直発射型短距離対レーダーミサイルという代物。
反乱軍の増援なのか。
しかし、翔が勝手にそう推測しただけで光の正体はわからない。仮にそうだったとしても垂直発射型ごときの短距離ミサイルの1発に頑丈な高射砲塔を吹き飛ばすほどの力はない。
何よりも、粉塵が舞い散る空中に何度か輝く緑色のフラッシュ。
あの光は、間違いなく対空レーザーの光。
走りながら、必死に翔は考える。
もしも、あれが簡易小型TEL車両から発射された対レーダーミサイルだった場合、車両の団体が来ていることになる。
そして、その護衛の兵力も。
走る。走る。走る。
翔は走る。敵にいつ見つかるかわからない。
索敵ドローンはあれだけじゃないはずだ。
ひよりはどこに行った!?
走りながら翔は、一つの拳銃を手にする。拳銃に弾丸は入っていない。
彼は立ち止まる。慣性の法則にのっとり、体がわずかに浮き上がる。
それでも立ち止まり、取り出したのは万能多目的スコップ。
基本は小さなスコップなのだが、斧としても利用出来れば、ちょっとしたナイフや栓抜きとしても利用できる優れもの。それで、彼はいきなり小さな穴を掘り始める。
取り出すのは手榴弾。
そして――――。
軍靴が大地を踏みしめ、先行した斥候の2人が周囲を見渡す。
索敵ドローンが不用意に近づけない高射砲塔の周辺。
人間が歩いてみるしかない。
本来ならば分隊行動しなくてはならないところだが、あいにく敵よりは多いとはいえ、こっちも少数である。
反乱軍、いや政府軍がそう呼んでいるだけで、本人たちは正統軍であると名乗る軍隊が派遣した高射砲塔破壊の戦車小隊。
虎の子の戦車4両を無残に撃破されたくはない。
まずは、安全性を確認するために少数の歩兵が数十メートルほど先行する。
その際、彼らは最重要で警戒しなくてはならない。窓を、路地を、建物の上階を。
何故ならばそこから狙われるからだ。だから、彼らは建物の壁際に、歩く。時折存在する建物の窓や出入口には警戒して、姿勢を低くしたりして対応する。
そんな彼らが発見したのは何かの爆発によって吹っ飛ばされたと思われるスクラップの古い車とそのそばの小さな窪地。精々指が1本入る程度の小さなくぼんだ箇所に拳銃が1丁。
まるで捨てられたように存在していた。
それらは壁沿いであるため、避けようと思えば避けるように進路を少しだけ変えなくてはいけない。
「……?」 「……」
こんな話がある。絶賛戦争中の国家と平和な大国。どちらの軍隊のほうが、練度が高く、戦場での生存性が高いのか。
答えは平和な大国の軍隊。
平和な大国の軍隊には訓練する時間がある。マニュアルを精査し考える時間と余裕がある。そして、何よりも『平時の日常』を知っている。
絶賛戦争中の軍隊にはそれがない。戦時の空気は知っていても『平時の日常』は知らない。
だから、わからなくなる。
平和な街中に銃が落ちていて、それを異常と感じられればそれはその人物が『平時の日常』の当たり前を知っていて、肌で感じているという事だ。
その異常が感じられなくなると、死ぬ。おかしい場所がわからなくなっていくのだから。
だが、
(馬鹿にしているのか?)
敵兵だって、平時の日常を知っている。決勝戦プログラム実施地に選ばれた結果、国際和平調停機関のもとに行われた軍事介入にって一時的とはいえ、強制的に平和を営まされたのだから。
だから、あからさますぎる罠にイライラする。
落ちている拳銃はあからさますぎるブービートラップだ。大方、あれを拾った瞬間IEDが炸裂する仕組みなのだろう。
故に、彼らはそれを避けて通る。壁際沿いにあるから、あえてわずかばかりのの危険を冒して、道の真ん中目指して歩いて――――
――――スクラップの古い車に仕掛けられたIED(即席爆弾)が発動した。
聞こえてくる爆轟の轟音。
(引っかかってくれたか……)
拳銃はあまりにもオーソドックスすぎるブービートラップだ。もちろん、気が抜けた&練度の低い兵士なら、思わずやらかしてしまいそうだが、あのものの見事な電撃戦を執り行った反乱軍があの罠に簡単に引っかかるとは思えない。
IEDに使えそうな爆薬も有限だ。
だから、拳銃を避けようとしたら引っかかる位置にワイヤートラップを仕掛けた。砂をかけて精一杯ごまかしたが、うまくいってくれたようだ。
走る。走る。走る。酸素を欲する筋肉が、肺胞が、躍動の結果は空気の流れとなり、空気の流れが口から小さな音になって出てくる。
建物の入り口が見えてきた。小さなアパートだ。
アパートといっても治安の悪い地域だと結構存在する1階部分が要塞の様にがっちりと壁で囲まれ、建物の専用の出入口を通らないと建物内部に入れない構造になっている。
そして、出入口は頑丈そうな鋼鉄の扉。
中に入ると鉄格子が当たり前のように入った窓と鉄のドアが並ぶ空間が出てくる。
(確か2階だ)
覚えた地図の中に書き込まれていたことがあった。階段を上って、2-2とプレートのある部屋を目指す。
開く。ゲリラ的な衛星放送局がそこにはあった。
最もめぼしい機材はとっくに持ち去られていたが。それでもここで何かが放送されていた痕跡は残っている。
当然、不安定な電力供給事情でも確実に放送できるように大出力小型コンデンサーから、アンテナ機材などの部品や持ち出せなかった中古の大型機材などがまだ転がっていたりする。
「こいつなら、届く。何が何でも通信が届く」
ひょっとしたら、敵の通信も傍受できるかもしれない。だが、やらない。
ひよりに呼びかけるのはなしだ。生きてるはずだ。それよりは――――
「――――スクランブルの乱数はどこだ?」
放送局なら、スクランブル放送用のあれやこれといったものを持っているはず――と言わんばかりに探し始める。
焦りと緊張から彼は自分が無意味な独り言をつぶやいていることに気が付くこともなく、まるで泥棒が家探しをするように捨てられた、あるいは放置された機材や書類を散らばらせる。
彼が望むのは、大出力スクランブル放送による、ECM効果の発揮。
数分でいいから、敵の通信を妨害したい。出なければ自分たちはこのまま、孤立したまま奴らに轢き殺されるだけだ。
たった2人と数人の武装した老人の民兵。
それが、現状の全戦力。それに対し、敵は……戦車1個小隊随伴歩兵付き……という形を崩していない。
増援でも来られたら最後だ。だから、数分でいい。相手の通信を完全に妨害することが出来れば――――
「――見つけた!」