どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
6.
大出力小型コンデンサーが最後のご奉公をはじめ、集落一体の通信設備に問題が発生し始めた。
膨大なノイズが集落全域にひびきわた――――らない。
所詮はゲリラ放送局。ちゃんとした放送塔や衛星、ケーブルなどを介しているならまだしも、それらはこの戦争により既に接収されているか機能停止されているのが多い。
強引に稼働した結果、集落にまるでECMが機能したかのようなノイズが走る空間が出来上がったが、逆に言えばそれだけだ。
そして、当然それほどの電波を発信すれば発信源特定はたやすい。
それに対し、指揮官は安物の葉巻の火を踏み消しながら、指示を出す。曰く「無視しろ」と。
そして、無視された。
7.
大出力小型コンデンサーから放たれた大電力が放送設備を動かし、スクランブル放送という名の簡易即席ECMとして機能する中、翔は――――
「――体力、つきたかなぁ……」
先ほどまでの焦ったような足取りはどこへ行ったのか、フラフラと遅い歩みで小さな路地裏を歩いていた。
だけど、急いで移動しないといけない。合流ポイントはもっと先だ。
ああ、なんだ……体が重いように感じていたのは――――
――理由がわかったことで、思わず失笑が口から洩れてしまう。
『戦闘防護服(コンバット・プロテクター)』のバッテリーが完全に切れてる。今じゃ重いだけの代物だ。
考えてみれば、シルビアのところで一度充電したきりだ。それだって、あせっていた。時間が足りなかったのである。
今の今までよくぞ電気が残っていたものである……。
いや、むしろいつからバッテリーは尽きていたのだろう?
「ハハハッ、そりゃ疲れるはずだわ」
ひょっとしたら、放送局探して走り回ってる頃には切れてたかもしれない。
プロテクターを外す作業を行う。まずは邪魔なものを取り出す。
P90にMP7、そして多数の手榴弾に無反動砲砲弾。
その他さまざまなワイヤーや対人レーダー用のセンサー素子。
医薬品の入ったバックパック類と次々と様々な道具や兵装を取り外していく。
プロテクターの解除スイッチを外して、手で引っこ抜くようにパワーアシスト用の油圧電磁硬化ケーブルやその他機材をはがしていく。
すべて外したその身は軽い。だが、再び武器弾薬類やバックパックを背負っていく。
またも体が重くなった。次第にプロテクター時代にはあった兵装取り付けのパーツやポケットなどに入らないものが見えてくる。
「捨てるしかないな……」
もったいない……そんな思いがある。
大量の爆薬類……最も戦闘工兵相当のひよりのほうが持っているが、それでも翔だって持っているし、扱い方を知っている。
そして、実際にそれは今大活躍している。
だが、もうこれ以上は持てそうにない。『戦闘防護服(コンパット・プロテクター)』の『搭載量(ペイロード)』はもはやあてに出来ない。
持てるだけ持って、持てない分は近くに隠そう。
ひょっとしたら取りに来るかもしれないから……。
持てない弾薬類を適当な建物の中に入れて隠す。
隠しながら、思うのは一つ。なぜこんなところで一人必死で戦っているのだろうか。
ばかげたことかもしれないが、今更ながらにそんな疑問を小さく思ってしまったのだ。
一人で、必死で戦っていることと疲れたことで、判断能力が落ちているのかもしれない。
思い出すのは――――シルビアとの会話。
「そもそも、『カランド』という名前ではなかったんですよ、このあたりは」
シルビアはそう語った。
『K-ランド・エリア』と称される作戦エリアの名称が戦後にも中途半端に残った結果がカランドという名称だ。
第2次世界大戦の前哨戦は人類と人類の戦争だった。中盤から人類と化け物の戦争になった。後半になってようやく人類は化け物に対し優位になった。
けれど、優位になった人類は戦略的判断から当たり前の決断をする。
工業力のある大国や戦争遂行に必要な戦略資源のある資源国を最優先で防衛し、あるいは解放するという物だ。
でも、それは言ってみればそうじゃない地域は見捨てるという判断でもある。
カランドが解放されたのは『人類の勝利宣言』が出された後だったと言われる。
その時代の人々はカランドに資源や工業力など見出さなかったからだし、その代りとなりそうな戦略的理由も少なかったからだ。
でも、祖国の解放を持つ民族兵士たちにとっては別問題だった。
必至の働き掛けや人類の勝利宣言を完全なものとするべく編成された『Dエリア人類合同解放軍』の部隊がK-ランド・エリアに投入され、全土ではないものの、カランドはようやく解放された。
「そこまではきっとよかったんでしょうねぇ……」
民族……というのは言語や文化、そして祖先をある一定の範囲で共有し、互いに同朋意識をもつ集団のことを言う。
けれども、民族以前の段階というのが存在する。それが「部族」とか「氏族」と呼ばれる何かだ。
それは民族よりも少数で、時に民族以上に武力でもって団結して活動する。
部族の利益になるために……。
近代国民国家というワードがある。これは一つの民族が、あるいは複数の民族が、『民族』の枠を超えて『国民』意識を持って一つの国家の人間となるという意味の言葉だ。
近代的な制度や軍隊、その他政府などを運用しようと思えば、強い同朋意識でもって団結し、一つの国の繁栄を願わないといけない。
けれども、その意識が不十分だと、国よりも自分たちの一族……を優先する。
考えてみれば、職場で家族を大事にしていると言えば立派だと扱われるだろう。家族は一番身近な他人にして、身内だ。身内を大事にする人は親しみやすい。
それを拡大できるだけ拡大したものが、部族を最優先する価値観だ。
そう言う意味では、存外王権の強い……いわゆる専制君主制とは効果的な制度かもしれない。何しろ、王室の財産=国家の財産である。
国家の繁栄が王室の繁栄となるのだから、存外馬鹿王というのは歴史にいないものである。
最も、国家=王室のイコールの関係にわずかでもヒビが入れば歴史に名前を残す暴君の誕生となりえるのだが。
ともあれ、近代国民国家ではないカランドには、当然の様にそれが吹き荒れた。
部族同士の権力闘争と武力闘争だ。
莫大な流血があった。膨大な陰謀がすすめられた。
あらん限りの流言がばら撒かれ、あらん限りの銃弾が飛び交った。
大戦前には見つからなかった資源が見つかった。流血が増えた。憎悪が拡大した。
最後には、3つの大勢力にまとまって内戦は続けられた。
それが、独裁者などと吐き捨てられる人間とその出身部族や関係者で固められた政府軍。
二つ目が、そんな政府への反旗を翻した部族・氏族の連合部隊である反乱軍。
最後が、そんな状況下の国を捨てた、新たな自分たちによる自分たちのための自分たちの国家を作ろうとする独立派。
「あなた方が戦う理由は何ですか――――?」
――シルビアの疑問。答えは
「俺様たちは、学生傭兵だ。それ以外の生き方なんて、存在しないのさ」
世界的企業連合は世界中から孤児やそれに類する存在を集めた。目的は自分たちに都合のいい性能の高い人材に作り変えて売るため。
人材派遣という名目さえつけばちょっとした人身売買くらい大した問題ではあるまい。
世界的企業連合は優秀な人材を育成すべく、そして世界中に紛争地が広がる世界に対応すべく、学院傭兵軍という教育機関と傭兵部隊を組み合わせたものを作った。
そこにいる者たちは、そこ以外に居場所がない。そして、そこ以外で居場所を作れるほど、立場は強くない。
世界中が、あらゆる場所で、あらゆるやり方で殺し合いをしている……そんな時代と世界で、高々1人の子供……少年少女に出来ることなんてないに等しい。
「そんな風に世界中で引き金引けて、いいなって思います」
自分には出来ないからという。
「だって、そうでしょう。必至な怖い思いでたった一つ引き金を引いて、それで終わりですもの。みなさんは一つじゃない。無数の引き金を例え命令であっても躊躇なく引けるんですから」
そんなわけあるか……と思う。
翔はありったけの持てる武装を持って移動始める。
誰だって引き金を引く瞬間にたどりつくまでは必至だ。ただ、引き金を引く必要があるから引いてるだけなのだ。
それは、仕事であったり、命令であったり、自衛のためであったり。とにかくその一瞬、体が必要だと判断したから引いている。頭で一々引き金を引くかどうかなんて1回1回考えてない。
いや、その前の段階なら何か考えているかもしれないが、それだって、別に人間相手に引き金を引くことを悩んでの事じゃない。
どうすれば、任務を果たせるか、あるいは生き残れるか。それを考えてるだけだ。
「おーい、大丈夫かね?」
一人のおじいさんが翔に水の入ったコップを差し出す。
「いつの間に――?」 「――ここは、わしらのホームグラウンドじゃよ」
爺さんの武装はセミオートライフルが1丁に単発式グレネードランチャー。
「ほれ、わしの銃では使えんがそっちの銃なら使えるじゃろ?」
そう言って渡されたのは、3つの弾薬クリップ。5.56mm連合西側規格。
「ありがとうございます」 「ほれ、さっさと行け、主力はあんたらじゃ。わしらじゃ足を引っ張るからな。精々命で時間稼ぎさせてもらおう」
8.
小さな音、単発式のグレネードランチャーから放たれたグレネードが次々と着弾前に空中で撃破されていく。
「っち、アクティブ・ディフェンスという奴か……」
戦車やIFVに搭載されているそれが稼働している。
つまり――――
「――新規目標M1撃て!」
戦車兵たちが叫び、歩兵は身を隠す。
単発式のグレネードランチャー。次弾は装填しない。
「そんな暇ねぇなぁ……」
直後、グレネードランチャーを操ってて老人の居場所に榴弾が飛び込んできた。
男の子。10歳を超えた男の子は己の体格よりもはるかに大きな銃器を抱えて走っていた。
建物の中を走っていた。
そして、わきに抱えた銃器を横において、さらに大きな銃器のグリップを握る。
バレッタ対物ライフル改造型有線ドローン、二連装の対物ライフル、フルオート射撃が可能に改造され、後方から有線で狙いを定め引き金を引くそんな、武器。
窓の向こうの風景。だというのに、窓に強引に戦車砲の砲身が突っ込まれる。
フルオートで対物ライフルから、鉄鋼焼夷弾が放たれるが、全部分厚い装甲に阻まれる。
そして、戦車砲が火を噴いた――――
――――衝撃波が、バレッタを粉砕し、建物内の壁をただの建材の残骸に変え、その後ろに隠れていた子供の肉を細切れにする。
索敵ドローンを銃撃する。
場所がばれた。でも、仕方がない。このままあれをのさばらせておくよりはましだ。
翔は、走る。
走って走って、大きな道に飛び出しかけて、倒れこむ。
「クソッタレ!」
立ち上がろうと――
――する前に耳を地面に近づけて……
(エンジン音! 近い! すぐ近く!)
立ち上がり、彼は再び走り出す。
後ろから、銃撃。銃弾がすぐそばの建物にぶち当たる。
喚きたくても喚けない。クソッタレと叫びたくても叫べない。
それよりも体は酸素を欲する。
走る。彼は、目的であった戦場の一つに。
(――やるしかねぇだろ! やりたくなかったのに!)
彼は向かう。籠城できるか……あるいは内部で戦えるか。
今やどこに国にもある施設にて、一つの小さな決戦。
戦車は相手に出来ない。IFVと真正面から戦えるほど強くはない。
敵は無視するかもしれない。爆撃するかもしれない。それでも――――
――彼が向かう先にあるのは、『戦争記念館』。