どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争   作:ホエール

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 集落での戦闘開始から、もうすでに1時間半が立とうとしていた。

けれども、翔たちの想定どうりには進まない。

しかし、だからと言って逃げるという手段は使えない。戦力で圧倒的に劣るうえにすでに戦端は開かれているわけで、安易に町から脱出できるような状況ではないのだ。 

そんな中、翔は階段を下りていた。

長い地下への階段。現れるいくつもの鉄の扉。

カギがかかった扉もあれば無い扉もある。

ただ、気にかかるのが――――

 

「――建材の素材……これって、衛星からの地下探査を妨害、ごまかす素材だよな……」

衛星軌道上からの探知を避けるための素材自体は早々珍しいものじゃない。だが、泥沼紛争地帯で、これほどふんだんにその素材を使った地下施設なんて相当重要な軍事施設のはず。

だが、現実にこの町にこのような施設があるとは聞いてないし、そもそもこの町はいったんとはいえ守備を放棄されている。

 

「高射砲塔か? あれらの本当の目的はここか?」

そう呟きながら目の前の鋼鉄の扉を開いて――――

――目に見える広大な『違法』施設に思わず目を見張る。

巨大な吹き抜け上の広大な空間。そして、その空間を円形に取り囲むように存在するいくつもの階層。

真ん中の吹き抜けの様な広大な空間には巨大水槽状の代物が存在する。

そして、その中に浮かぶ無数の赤ん坊程度の人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人が……大量に浮かぶ。

 

「『条約外』の――――国民生産施設――!」

間違いない。この施設は条約に違反する秘密の施設だ。

急いで近くの端末をとる。表記されるOSから見て、この施設の建造者は政府軍だろう。

 

「ははっ、とんでもねぇな……おい」

『兵隊』の生産ラインのあるあたりに到着する。

と、そこで施設全体のカメラ映像が放映されてるモニターを見つけた。

そこで見つけるのは、同じようにこの秘密の地下施設に入り込んだ、反乱軍の兵隊の姿。

 

「ッ!」

それが意味するもの。もう、そこまで敵は来ている。

翔は走り出す。そして、見つける一つのコンソール。

動けと祈る様に操作を始める。よかった。基本フォーマットは英語をベースにしたユーザーエージェントインターフェースを持っている。

これなら、翔も動かせる。

『兵隊』の生産ラインにいくつかの指示を飛ばし、同時に履行するシステムの設定を変更していく。

 

「……急げよ、頼むから…………急げ、急げ!」

苛立ちまぎれに設定を進めていく。そして、動き出すのは生産ラインのベルトコンベア。

サブマシンガンがハンガーにひっかけられ、次々と空中を運ばれていく。

溶液がこぼれ始め、『素体』が透明のプラスチック製パイプラインの中を流れていく。

コツリと響く。

古ぼけた戦場用スニーカーを履く、翔と、軍靴を履いた敵兵。

響き方に――――

――とっさに、翔は耳を床に着けた。

聞こえる足音。床板が足音を反響させて――正確な音源位置を教える……とは、行きそうになかった。

 

(やべぇ。床の建材が反響してやがる。うまくつかめない)

音響センサーや嗅覚センサー、その他さまざまなセンサー類があれば状況は違ったのだろうが、セグメンタタを使わないナリウスなど、ただの軽歩兵だ。

そんな立派なセンサー類に恵まれてるような立場ではない。

せめて彼がいつも使っているGN-11Bキャットファイト砲兵型があれば、違うのだろうが。

むしろ、この状況では翔がたった一人でも敵を圧倒していただろう。

だけども現実にはそうならない。

彼はひよりと共にたった2人の軽歩兵として、敵の小隊とやりあっている。一応、現地の住民が民兵的に協力はしてくれているが、本来は彼らを逃がす時間を稼ぐための戦闘だったはずだ。

本末転倒。その言葉がすべてだ。

 

「クソッタレ……!」

 

動き出した、『兵隊』の生産ライン。

 

「政府軍の奴ら、こんな施設を……卑怯な!」  「……ここのシステムは外部から操作されているのか? それとも今、誰かがいじって?」

『国民』が生産されていく――――。

『規定量産された人間』たちが次々と出荷用の電子タグをつけられ、同時に『役割』が与えられていく。

出身地:『 』  人種:『 』

民族:『 』  語族:『 』

職業:『 』

役割に沿って、生産ラインが最終的には振り分けられていく。

 

「『条約外』の違法施設……。ふん、ここを占領して、正統軍の兵力として活用できれば最高だ」  「だが、見つかれば制裁を受けるぞ」

「ふん、どこの国でも大なり小なり、条約を無視して『規定国民生産数』を超えて製造してるだろ」  「あの政府軍の兵士はここを守っていたのか?」

「だとすれば、この集落に残ってると思われるいくつかの人間たちの衛星観測の熱量も説明がつく」

政府軍の兵士たちのおしゃべり。みな階級が同じ伍長ばかり。

だから、ひょっとしたら、同期というやつかもしれない。彼らの会話は気やすい仲間同士の言葉だった。

目の前で動く生産ライン。そして、その搬出口。

たんぱく質の溶液をまき散らしながら、次々とそれらが、転げ落ちていく。

そして、ロボットアームでもって、次々とおろされる無数のサブマシンガン。

10歳にも満たない少年少女たちであった。裸で、溶液につかり切っていた為、全身ずぶ濡れ。  

目も開くのが億劫そうなその小さな男児女児が、サブマシンガンを手に取って――――

――反乱軍兵士に向けて引き金を引いた。

すぐさま、反撃がなされる。皆が次々と引き金を引く。

 

「始まったっ!」

翔は、予定してた戦いが始まったことを高台のコンソールののぞき窓から見る。

コンソールとなる端末自体は複数あった。ただ、どうせなら高い場所のほうが見やすくていい。

おそらく、この施設の設計者もそう思ったのか、高い場所のコンソールのほうが優先度が高くシステムへの干渉が出来る様に設計されているようだ。

馬鹿と煙は何とやらなのか、それとも単純にわかりやすくしたのか。

純粋な軍事施設ではないからこそ、出来る設計かもしれない。

何せ、下手をすればバンカーバスターで撃破されかねないし、あるいは内部に生化学兵器を大量に散布されてしまうかもしれない。

そうした事態において、高所のコンソールは不利だ。ちゃんとした防護された空間にないと。

とはいえ、コンソール事態は無数にあるわけで。上の順番からだめになれば下に降りてくる仕組みかもしれない。

いや、〝かも〟ではなくそうなのだろう。

けれども、そんなこと今の翔にはどうでもいいし、案外高所のコンソールが持つ、上位命令権は都合がいい。

彼は、高所から、敵兵の頭めがけて引き金を引いた。

 

丸裸の幼女や幼子が、サブマシンガンの引き金を引き、反乱軍へと銃撃の雨を降らせる。

けれども、サブマシンガンの連射の反動は、幼い子供に過ぎない肉体には負担をかけているようで、たんぱく質の溶液をふりまきながら、腕や肩を次々と破損させている。

だが、そんなことどうでもいい、次々と、子供たちは――――

                                     ――撃ち殺されていく。

そりゃ当然だ。敵なのだから。

子供たちだって、ただではやられようとはしない。すでに死んだ子供の体を盾に使い、そして、遮蔽物を探していく。

そのうち、グレネードマシンガンやその他さまざまな兵装がロボットアームでもって供給されていくが、サイズが微妙に合わない。

生産ラインのパイプラインを新たな『素体』の群れが運ばれていく。

次は、幼児じゃない。次は成人。

けれども――――

 

(――なんで、俺様は…………ハハハッ、なんであのガキどもの代わりに撃たれてるんだろうなぁ……)

気が付けば翔は、小さな子供の兵隊以上に銃弾を使い、手榴弾を投げていた。

手榴弾といっても、有効範囲は狭いやつを少し遠くに投げているだけ。

おかげで、最優先で撃破する対象に選ばれてしまった。もともと高所に陣取っているのだから当たり前だけど。

 

(何をやっているんだろ……俺様)

 

燃える街。戦火の火花があちらこちらから降り注ぐ。

幼い小さな体に、その火花は熱く痛く、でも、体はとっくに麻痺してて、それよりも、背中に背負った小さな失われていく命のほうが大事で…………。

 

「いやな……ものを! 思い出させやがって――――ッ! 死にやがれ、このクソどもがぁぁあああああああああああ――――っ!!」

引き金を引く。引く、引く、引いて引いて引きまくる。バースト射撃。

フルオートとセミオート、2つしかない機関部のレバー。セミオートには絶対しない。フルオート。指切りでバースト。

反動が、もどかしい。フルオートが全部思うところに銃弾が当たればいいのに。

無数の銃弾の嵐、だが、いずれは尽きる。マガジンの限界点。

曳光弾が飛び出た。

ラスト10発目と5発目に設置した曳光弾が――――。

 

(――!)

一か八かの賭け。こんなときに使わなければいつ使うのか。

スタングレネードと煙幕のピンを引き抜いて投げ入れる。

そして、取り出すのはワイヤーアンカー。

 

小さな子供が、自分の背丈よりはすこし小さい程度のサブマシンガンを握って引き金を引く。

指が、1本では引き金の重さが……引けず人差し指だけじゃなく、親指以外のほとんどの指がそれを引けるような体勢になっていた。

当然そんな状態で引かれる銃身から一直線に銃弾が飛ぶことはなく……。

隣では、同じくらいの年齢の裸の少女が、ねばねばとジェル状の物質を全身から垂れ流しながら単発式グレネードランチャーの引き金を引く。

涙ではなく、眼球より垂れ流されるジェルが口に入り、時折せき込むようにジェルが口から噴き出ながら、少女は1発放った単発式グレネードランチャーに新たなグレネードを装填する。

しかし、少女が新たに装填されたグレネードを放つより前に銃弾が彼女の体を切り裂く。ジェルを吹き出していた頭骨は吹き飛び、トマトケチャップが暴発したかのように大量の『具』をまき散らしていく。ジェルの代わりに空気に触れて黒くなっていく液体が床を汚していく。

けれども、少女の体は後ろに倒れかけて、倒れずそのまま肉の盾となり、その後ろのまた別の少女をほんのわずかな防弾の可能性として残る。

後ろの少女は肉の盾とかしたそれの首筋を掴み、肉盾が使っていた単発式グレネードランチャーを手に取り、引き金を引いた。

幼児の兵隊の数はその犠牲と引き換えであるが、ほんのわずかな安全地帯を手に入れて、徐々にその数を増やしていく。

後ろで新たな『素体』が搬入され、『行動意思(プログラム)』が脳にインストールされていく。

 

「っ!」

敵軍の兵士が、それに気が付いた。

 

「――!! ――!」

敵兵の銃口が『素体』搬入口へと向けられる。

ダメだ、7.62mmだけじゃ砕けない。

誰かがそう思ったのか、次の瞬間無反動砲が飛んできた。

その衝撃波と爆風が、幼児の兵隊をなぎ倒す。けれども、それでも幼児の兵隊は銃を手放さず、戦闘を続行する。

そういう指示だから。そういう『出荷要請』だから。

即時に戦闘行動を開始せよ。そういう『出荷要請』だから。

無反動砲の爆風と熱波が幼児の兵隊の数を減らす。

『素材』搬入口はこれできれいに吹き飛んだ。

そこに光り輝く閃光と音響、煙幕が広がっていくが、いくつもの機材や機械の壁に阻まれ、それは中途半端な広がりしか見せない。

それでも、隙はできた。

伸びるワイヤーアンカー。ふってくるように現れる少年。

着地、直後、投函、手榴弾――――。

――起爆。

そして、引き金が引かれ、翔の持つカービンライフルから降り注ぐ銃弾。

1回のバースト射撃。それは牽制。

 

(2人、クソッタレ!)

カービンライフルを背負い、走り出す。

まだ、戦える程度には負傷していない幼児と幼女の2人。

その子供たちを掴んでわきに抱えて走り出す。

 

(クソ、クソッ、クソッ! 自分でやっといて! 自分で助けて! 自分でピンチに! 馬鹿か馬鹿なのか!)

 

「俺様は、何をやってんだよ! 畜生っ!」

背中に走る、熱い何かの衝撃。

焼けるような痛みが全身に駆け巡る。撃たれた。だが、それがなんだ。

走れ、走れ、走れ! 止まるな!

目の前で、幼児の兵隊が一人、敵のショットガンの散弾を受けて、まるで溶け出した肉汁の様にはじけた。

ああ、自分は何をやっているのだろう。

コンクリートがむき出しの通用門へとたどり着く。自動で開く開閉扉。そして、翔はその足で走って、門が閉じていく。

反響する銃声。直後、衝撃波と爆風が吹き荒れる。

無反動砲だ。熱波と空気の流れが翔の体を持ち上げる。気が付けば、翔はとっさにわきに抱える2人の幼児をまるで守る様に胸の中に抱えていた。

熱風が彼の体を焼くように熱い。けれども、それでも、丸裸同然の幼児たちよりは……。

天井に崩落の気配。翔は再び走り出す。

熱波と衝撃波に転げまわったが、中に抱える2人の幼児たちは目を回しているところを除けば一切問題がなさそうだった。とくに頭をかばうように守ったことが結果を生んだのかもしれない。

走って走って、階段を上って――――目指すのは地上。

 

(ああ、俺様って、何をしてんだろうなぁ……)

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