どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
4.
反乱軍……政府軍からはそう呼ばれている『正統軍』虎の子の機甲師団をありったけ動員して編制された機甲軍団を見て、胸が高鳴る男が――1人、砂漠の丘陵に仁王立ちしている。
「中将お時間です」
配下の幕僚の声。
「あいわかった」
タンクトランスポーター MAZ-537改造型指揮車両。
軍団総司令部はこの車両2台集まって形作る様にしている。走る司令部――であることを求めた結果だ。
当然戦車引っ張りながら移動する。本当は山岳用MRAPがほしかったのだが、市街地のほうにMRAPと名がつくものは全部持って行かれた。
そもそも、戦車の戦略移動というのはキャタピラきゅらきゅら音を鳴らせて走らせればいいというようなものではない。
燃料や走る際の部品の摩耗など、そういった複合的な要素から、戦車の戦略的な長距離移動の際には必ず専門の大馬力トラックでもって運ぶのだ。
ぶっちゃけ、走れば走るほど勝手に足回りがぼろぼろになっていく。それが戦車という車両である。だからこそ専門の運び屋が必要になる。
こうしたことを専門とする大馬力トラック、それをこう呼ぶ『戦車運搬車(タンクトランスポーター)』と。
タンクトランスポーターから次々と戦車が下されるがすべての戦車が下されるわけではない。
アラフジーク山岳。そこを根城にしている独立派とそんな民兵たちを指揮する名だたる大将軍。
『砂漠のナポレオン』とその領域。
そこを圧倒的な火力と鋼鉄の津波で叩き潰す。それが反乱軍――いや、正統軍第2師団、第4師団、第9師団の3個機甲師団と第17独立火力連隊戦闘団に第23独立任務大隊戦闘群の混成部隊、それが正統軍機甲軍団に与えられた任務にして使命である。
「独立派など、基本一部のカリスマがいなければただの雑魚、たかが貧乏民兵集団です。戦車に甲冑! 大砲と爆撃機。最新鋭のIRSに支えられ、あらゆる火力がそろって攻撃を仕掛ければ簡単に倒れます!」
幕僚の一人がそう息巻く中、タンクトランスポーターの1台が大きな砂煙をあげ峡谷へと侵入を開始する。
「あれは何をやっているんだ?」
中将はそう咎めた。反乱軍という軍隊はいろいろといびつだ。今回みたいに戦術的に無理のある作戦すら時に強行したがる妙な癖がある。
山岳部に戦車を突っ込ませる……それがいかに大変な事か。
戦場で活躍する部隊や兵科を強引に3つに分け、単純化して考えるとするならば、すべては『近接』『機動』『砲撃』の3つのユニットに分類することが出来るだろう。
さらにそれらにじゃんけんの様な三すくみの構図で表すとすれば『近接』 → 『砲撃』 → 『機動』となる。
でもって、現代の兵器などに表現すると『近接』=歩兵 『砲撃』=砲兵 『機動』=戦車・ヘリなどになる。
つまり歩兵は砲兵に強く砲兵は戦車に強く、戦車は歩兵に強いという構図を描けるわけだ。
しかし、現実はそう簡単ではない。地形や天候などその他さまざまな事柄が影響しあい、そう単純な相関図どうりに動いてはくれないのだ。
長距離フルマラソンしながらじゃんけんする風景をイメージしてほしい。
走るだけで大変なのに、まず相手と並走しなくてはじゃんけんが出来ない。そればかりかもしも雨でも降れば頭の働きが鈍るかもしれない。視界が悪くて相手の出した手が見えにくいかもしれない。
そう、要するに戦場とはそういう空間なのだ。
それでも言ってみれば経験則でそうすると負けるという「ジンクス」は見つかってくる。
それが山岳部に戦車を山の様に突っ込むという事。なにせ、戦車には弱点がある。戦車の自慢の装甲版は良くも悪くも前面が一番なのだ。
天井部分、そして地上と接する部分はそうではない。
山岳部はそう言う意味で高さがあるので、それこそ好きなように天板を狙えるし、地雷で足元を吹っ飛ばすこともあるいは岩陰に隠れて側面攻撃とそういう行動をとりまくれるのだ。
だが、だからといって山岳部に戦車を持ってきてはならないという事ではない。
歩兵をじゃんけんのグーであると見たとき、山岳部のゲリラもまたグーである。グーで山岳部のグーを倒すという事は要するに至近距離での殴り合いという事だ。
必然的に泥沼化しやすく消耗も激しくなるのだ。
だからやっぱり、グーにはパーを出したくなる。
つまりは歩兵に対抗するための戦車を。
これはジレンマだ。山岳部は戦車にとって苦手なフィールドであり危険地帯だ。
かといって歩兵単体で攻略するには膨大な資源と時間を浪費する。どれだけの人命や弾薬が消費され、成果を拡大できるであろうか。
だから戦車を必要とする。けれども山岳地帯は戦車にとって…………。
結局のところ、時間と兵力の損耗を惜しんで戦車を浪費するか、時間と兵力の損耗を覚悟の上でやるか……という事でしかない。
つまり、山岳部に戦車を突っ込ませるのは馬鹿の所業。
だが、山岳部に戦車を用意しないのもまた馬鹿の所業。
一番いいのは周辺を封鎖して兵糧攻め、基本的にはシカトするのが一番なのだ。
けれども、困ったことにそうはならない。いびつな軍隊……中将がそう思うのも無理はない。
正統軍はさらなる戦火の拡大を欲している。成果の拡大を求めている。
いずれあるであろう政府軍の反攻作戦に対抗するためにも、一気に拡大することを上は望んでいる。
そればかりかスポンサーへの配慮や御威光とやらを無視できない。
……それどころか、正統軍内部の権力・派閥抗争すら大きな影響を各種作戦に与えている。
それらの結果、さらなる大攻勢を正統軍上層部は望んでいる。
だからこそ、これからの大攻勢に対し、重要な後方連絡線であるゲノポスの町、リスティアの町、すなわちゲノポス・リスティアの間に位置するアラフジークを攻略せねばその安全を確保できないと考えている。
最も政府軍は無視する方針であったようだ。無視できるだけの政府軍兵力の多さには驚かざる得ない。
と同時に、政府軍がそんな悠長な姿勢を見せていたから独立派のカリスマ、砂漠のナポレオンが陣取るアラフジーク山岳地帯を攻略する羽目になったとも……中将は内心毒ずくのだ。
「中将……すこしよろしいでしょうか?」 「何かね?」
「周辺の平定と探索、そして先行偵察に任せていた第3戦闘群より、敵民兵……おそらくは政府軍傭兵と思わしき連中と市街戦に陥った小隊があるようです。また、小隊が政府軍の機密と思わしき条約違反国民生産施設を確認したという報告も……」
「なに?」 「いかがいたしましょうか?」
部下の報告。それに対し、返答は一つ。「馬鹿か?」という簡明なセリフ。
何故一々現場の細かな状況にそのエリア、軍部隊の最高指揮官が判断を求められるのか。
「適切に処理せよ。そのためのマニュアル、設備はとっくに整っているはずだ。条約違反施設が見つかったというのならプロパガンダに使えるのだからな、ちゃんと証拠を回収せよ」
中将はそれだけ語ると、すぐさま戦況予想図を見る。各種戦略分析A.I.によって推測される戦況の未来予測の図表には、戦車の被害数が表示される。
やはり山岳部は危険だ。だがしかし、アラフジーク山岳地帯を早急に攻略しなくてはならない事情があることは事実。
中将は、作戦の開始を宣言した。