どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争   作:ホエール

42 / 63
第8章
1.-2.


 

 どこまでも俺様主義  Re-meke

 Episode.1:砂漠の国の紛争  第8章 「大隊戦闘団――The roar of artillery echoes in the night sky」

 

 1.

 政府軍が運用している偵察衛星は一つの大きな動きを見つけた。

 

「解囲作戦か」

政府軍の参謀たちは敵軍の戦力の分布図などを見て――そういうしかない。

だが、同時にそれ以外の言葉を放つ参謀もいた。「好機だ」と。

アラフジーク山岳に閉じ込められた虎の子の機甲軍団。

それの奪還と救出。そして、あわよくば――という思いで始まった反乱軍による再攻勢。

政府軍と独立派相手に大暴れしてた反乱軍だったが、実態はすぐさま息切れした……といったところだ。

資金力がそのまま突撃力になる……というある意味きわめて残酷な現実を反乱軍の現状は示している……。

政府軍にとどめを刺せず、独立派相手に右往左往している点や、結局のところ政府軍が万が一に備えて強固な守りを強いていた緊急時の防御ラインを初期の大攻勢において最後の最後まで貫けなかったことが一つの証拠。

つまりは、攻勢限界。その攻勢限界に達した反乱軍だが、猛烈な勢いで現状を打破するために、リスティアに補給拠点を設けている。

 

「……好機だ」

参謀たちの声はそんな現実を冷静に見た結果でもあった。

攻勢限界に達した反乱軍は戦力の再編と補給ラインの再編を行い、そのためにも貴重な機構戦力を奪還するために動いている。つまり、いやがらせをする最高のタイミングだ。

いや、どうせならただの嫌がらせでは終わらせやしない。一気に叩きつぶす。戦力と占領地の大きさのバランスを取り戻す。

 

「攻勢だ」

将官の一人がそうつぶやき、すでに幕僚たちが動き出していた。

 

  2.

 空を飛びまわるFA-18E。

マルチロール戦闘機が空を縦横無尽に飛び回ることでそこが己が支配領域であることを大地の民に教えんとエンジンの轟音をかき鳴らす。

 

「うるせぇぞーー!」  

……肝心の地上組の声が台無しにしてるが。

 

「ホーネットとか、エンジン音がうるさい機体ランキングトップクラスの旧式ポンコツのうるせぇ奴じゃネーか! 何考えて飛ばしてんだ! ステルス性だってよえーのに!」

「そうそう、あれの騒音は本当にうっさいからいややわぁ~」  「音響ロックセンサーとかが発達して、音の大きさも重要視されるようになってきたからねーそういやぁ……」

「鎧の駆動音、ちょっと響かせただけで、場所が暴かれてロックオンされる現状、まじ何とかしてほしいよねー」

マニュピレート・セグメンタタの設備点検で聴診器を構えていた整備要員たちの怒鳴り声の方がうるせーなとか翔は思っていたがそれは口にしない。

ともあれ、学院傭兵軍第3軍団の人員は政府軍の攻勢準備に向けて、追い込み作業に入っていた。

PDAを構えた司令部要員たちが走り回り、補給弾列の書類が正しいかを一つ一つ確かめていく。

 

「あっ……規格違い!? おい、これどーすんだよ!? ほちゅー2番(補給中隊第2小隊)だれか、よんできてー!」

司令部要員の1人、紅蓮が叫び声を上げる中、陸戦司令部要員の最上級、つまり指揮官を務める紅はPDA片手に政府軍将校との話し合いをしながら、歩いていた。

目標は移動式レーダー車両によるレーダーサイト陣地。 

 

「このように扇状地からの攻勢になります。縦深同時攻撃を主軸においた波状攻撃を仕掛けるので――――」  「――古典的なPU-44系ドクトリンの実施というわけですか」

紅の持つPDAの画面に表示される地形と政府軍の攻勢作戦計画の大まかな戦力配置図。

軍隊には戦列と呼ばれるモノがある。下手に知識があると戦列と聞くと、戦列歩兵を思い浮かべるかもしれない。

要するに行儀良く並んでいるのだ。ただし、人間一人一人の単位では無く部隊一つ一つの単位できれいに一列に並んでいる。

それは縦に、そして横に並んでいる。まぁ、現実には地形などもあるので所々、乱れているのだが、その乱れを前提にした上で1本の縦線、横線が引けるようになっている。

かつて、とある国家の軍隊がこんなことを考えた。横一列、第1列、第2列、第3列、全部同時に攻撃出来たら強くね?

そして、それで大混乱している敵を全方位から波状攻撃、途切れない物量で押しつぶしたら敵軍は何も出来ずに殲滅出来るんじゃね?

普通に考えればそんな無茶なと考えられるソレを膨大な数の大砲と爆撃機を用意することでマジでやってのける戦術理論を構築して彼らは気がついた。  

 

『コレ、カネかかる』。

そして、この芸術的なレベルを上げて物理で殴る理論に対向しようと考えた別の国の軍隊はこういう結論を出さざる終えなくなった。

 

『対向、カネかかる』。 

まぁ、とにかくPU-44ドクトリンと呼ばれる、縦深大攻勢への対抗手段の模索が行われ、出てきたのがいわゆる『エアランド・バトル』ドクトリンだ。

原型はPU-44ドクトリンへの対向ドクトリンとして開発されていたモノである。

ココで理解しなくてはいけないのが、『エアランド・バトル』そのものは別にPU-44へのアンチとして考えられた訳では無く、『アンチ理論』の一部スピンオフで出来上がった副産物に過ぎない。

エアランド・バトル単体では、PU-44ドクトリンを文字通り真っ正面から粉砕することは出来ない。あくまでも副産物であり本命は別であるからだ。

とはいえ、PU-44系統ドクトリンはとにかく大砲の数と航空優勢の確保を前提においている。そして大軍を動かす事もまた前提にしている。

そして、物事をスムーズに動かすには事前の大きな準備と通信が鍵となっている。

PU-44ほどの規模の攻勢作戦計画になると、事前準備と通信料は凄まじく膨大で、逆に言えばソレを突けば敵の攻勢は少しでも頓挫するのでは無いか?

エアランドバトルドクトリンは厳密にはPU-44系統ドクトリンへの対向戦術では無い。対向戦術として研究されていたモノを流用して作った物であり、いわば派生商品と呼ぶのがふさわしい。

しかし、派生商品だからといって、基本、すなわち最初の根本まで消えて無くなるわけでは無い。

エアランド・バトルドクトリンは文字通り、政府軍が採用したPU-44系統の縦深大攻勢ドクトリンの天敵のようなモノだ。

だからこそ、政府軍もそれ相応の対抗措置を執る。いや、とらねばならない。出なければ死ぬだけだ。

 

「では、ECCMはアップデートプログラムで何とか対処すると」  「現状ソレしか無い。それに反乱軍もすでにこっちの動きをつかんでいるはずだ」

政府軍の攻勢の動きはすでにばれている。いや、PU-44系統ドクトリンをとっている政府軍の動きがばれないはずが無い。当然反乱軍もまたそれに対向できるだけの何かを準備しようとしている状況下で、政府軍としては最も最善の手段を執るしか無い。

すなわち、兵は拙速を尊ぶ。そして鉄と火によってのみ達成できる事がある。反乱軍が対応出来るより早く突貫する。機動戦だ。運動戦だ。火力戦だ。持久はしない。

 

「前回よりさらに巨大な規模で行います。最も目的と戦域を絞っての行動なので、前回より1個軍団のやる事の拡張が出来たとも言えるのですが。いやはや、かつて我らに作戦術を享受してくれた軍事顧問殿が何というか」

連絡将校の自虐のような台詞だが、同時に確かな自信の感じられる口調。

 

「政府軍の欠点は、ハードの数をそろえることに注視しすぎて、いささか細かいところをおろそかにしてしまったことです。逆に言えばそこを対策してしまえば良い。反乱軍の強いところは我が政府軍を打ち破る、その一点にかけて研究を重ね、エアランド・バトルドクトリンを確実に完遂するために『選択と集中』をうまく用意できたという事です」

「逆に言えば、選択されなかった不十分な部分を圧倒的な力で徹底的にへし折る、そう言いたいわけですね」

紅の返答に対する答えは、戦況図に突いたいくつかの矢印で帰ってくる。

 

「ゲノポスの町、そしてリスティアですか……」  

「ゲノポス・リスティアルートライン。ここは元々は政府軍が整備した補給の大動脈であり、リスティアには大規模な物資集積所があります。反乱軍がココに向けて特に力を入れて動いたのは結局そういう事でしょう。

だから、彼らは一気に政府軍最大の後方司令所のあるゲイル17を狙うのでは無くこのエリアに大戦力を突っ込んできた。そして、虎の子の機甲軍団が独立派のクソ民兵どもの手でアラフジーク山岳地帯に閉じ込められてしまった。

その救助のために反乱軍は動かざる得ない。時間的に彼らが集積所の物資をすべて持って行ったという展開はまだ無いでしょう。つまりココの物資はまだ我々政府軍が使えると言うこと、そして補給ルートとして整備した以上、進撃路としても有意義に使えます。

そもそも現在我々が陣取っている場所は丘陵地帯。高度の差では我が軍が優位にあると言えるでしょう」

 

「つまりは――ここがウィークポイントという事になります」

似たような説明を受ける一人の小太りの男。

 

「なるほど……それでおまえ達は……この俺に弱点はココです。この一言を説明するために勢揃いしているわけではあるまい?」

その小太りの男は周りを見渡す。

調度品によって気品溢れる空間として整備された2メートルほどのオーク材のテーブル周りから1歩足を踏み出せば、そこは特別な防空壕である事がよくわかる空間だ。

至る所にモニターや情報端末が溢れ、多数のオペレーターと将官たちが常に画面と受話器片手ににらめっこしている。

と、唐突に音が聞こえてきた。受話器の向こうからだ。

将官たちが慌て始める。

 

「振る舞い酒が届いたか」

小太りの男――敵からは「子豚」と称される政府軍の現指導者――は小さく笑い出す。

笑い声が響く。

笑い声が響き渡る。戦場の笑い声。爆笑から失笑まで、様々な笑う声が砂漠に響き渡る。

政府軍の正規兵たちも傭兵たちも、皆が笑っている。たった1杯。しかも大量の水分で普段ならぼったくりだと喧嘩が始まりそうなくらい、薄めているとはいえ、アルコールとちょっとしたお菓子がふるまわれているのだ。

それだけでもテンションが上がる。つまりみな和気あいあいとしていて、次の戦闘の時の士気向上につながる。

これから政府軍の一大反攻作戦が始まらんとみな準備しなければいけないのにのんきなものである。

しかし、だからこそ、皆笑っている。

 

「人間の集中力など、あてに出来ないものなんだよ」

一つの事にずーと集中し続ける……それはたいそう強いストレスだ。人間は息抜きもたまには必要なのだ。

ましてや、戦場の緊張感の中で――どこまで普段通りでいられる?

普段通りを喪失した人間など――――この地上で最も弱い弱者に過ぎない。例え、どんな銃を持とうが、最強の兵器の発射ボタンを握ろうが、普段通りを喪失した人間などただの弱者だ。

平和な……街中に落ちてる銃。

普段通りの人間ならこう感じる。『おかしい』と。

けれど、普段通りを喪失した人間は何も感じないだろう。だって『ふつう』の状態が維持できないほど弱っているのだから。

『ふつう』を忘れてしまったのだから。

……平和な街中に……何故いきなり銃が落ちている!?

…………それは、世界の86%が泥沼化した紛争地帯であろうとも普遍的な考え。

誰が、家族の晩餐に! 家庭の食卓に! 火のついたダイナマイトを持って食事に現れるだろうか! 

誰が、安全装置の外れた銃の引き金に指をかけて! 友人との馬鹿話に興じるだろうか!

誰が、誰が、誰がっ!!

『普段通り』を『喪失』した人間ほど哀れな弱者はいない。

殺戮マシーンとしての兵士であっても、普段通りを保ってほしい。それだけの余力を持ってもらいたい。

カランド紛争最盛期から、決勝戦プログラム実施の為の軍事介入と、それによって得た数年だけの妥協的平和。それをすべて経験してきたからこそ、偉大なる父より祖国を与えられた小さな子男は知っている。

『子豚』などと揶揄される太った青年は笑い声が響く政府軍兵士たちに頼もしさを感じていた。

 

(――しかめっ面をされるよりよっぽどいい……頼もしいじゃないか、わが兵たちは)

もし、その言葉を口に出していたら、きっと政府軍の将官たちは目をひん剥くだろう。何しろ、子豚のいうしかめっ面を一番している軍人たちはまさにかれらなのだから。

偉大なる父。反乱軍や独立派に言わせれば特定民族優遇が過ぎた独裁者。

しかし、息子である彼は知っている。父がどれだけ民族・部族対立解消に紛争してきたかを。そして独裁はあくまで非常時の全権委譲でしかないと常に言っていた父の言葉を。

ローマ独裁官。かの独裁者という単語の始まりはそれからだ。

頑強なまでに権力の一致を嫌ったローマ共和制。しかしそれでも戦争をはじめとする緊急時において、権力が分散され、指揮系統が分裂しているのは極めて非効率であり非合理的であり時に危機対処が出来ないものだった。

故に非常時において、あくまで一時的な処理として、独裁官と呼ばれる官職がおかれた。

……ある政治学者は独裁者という単語の始まりをもとに独裁政治というのを次のように定義した。そして、彼の偉大な父親はその定義を次のような言葉にした。

 

『「独裁者」というのはあくまで緊急時において多数の同意の元、生まれる役職であり、緊急時とその同意が失われれば独裁は終了する。そしてこの「緊急時」と「同意」とは何かによって独裁制は分類することが出来る。そして緊急時と同意が終わってもなお続く独裁はもはや独裁ではなく「専制」である』と。

『「専制政治」こそが、この世で最も恐れるべきおぞましき政治体制である。何故ならばそこには終わりもなく同意も存在しない。誰も責任を持たずただ、どこまでもわがままに多勢の人々を…………』

「父上……」

政敵や敵軍、さらには一部の不良兵士からも『子豚』などと揶揄される太った青年はつぶやく。

 

(――私の総帥就任は戦争が終わるまでだ。戦争が終わり筋道が立てば私はこの身分を捨てます。父上がそう願ったように)

政府の権力を持って贅沢三昧と罵られればそうであるとしか言えない。この身の脂肪はまさにその象徴だ。

だが、考えてほしい。国を率いるものとは国の顔でもある。

もし、その国の顔がみすぼらしい餓死しかけた男の顔だったら? 随分と都合のいい言い訳のように聞こえるかもしれない。

だが、それが、人を率いるものとそうではないものの究極の違いだ。たとえどんなに中身が素晴らしい人物であったとしても、みすぼらしい人物に人はまずついていこうとはしない。

困った事に、ほとんどの人間は、結局外見があって初めて中身を見ようと思うからだ。

むろん、そうじゃない人もいるだろう。だが、そういう人たちだけを統率して……国という多種多様な価値観を内包する超集団を率いることが出来るだろうか?

外見がだめであれば、その時点で人は興味を失う。興味を失った人間の内面なんぞ知るつもりは欠片もない。

古代エジプトにおいて、肥った男は裕福でモテル男だった。色男だった。

様々な古代世界において、肥った人物は餓死の恐れがない極めて甲斐性がある人物だった。

今更古代エジプト云々いうつもりはさすがに子豚には無い。けれども

 

(俺の事を豚呼ばわりするするつもりなら、いくらでもやってろ――――お前たちが豚をなめてる間に、俺はお前らにとっての『大猪(カリュドーン)』になるだけだ)

神々を動員しなければ打ち取ることが出来なかった伝説の大猪。

『子豚』は総帥として、そして独裁者として……覚悟をすでに決めていた。

 

「諸君――勝ってくれよ。我らが国父様とそして、明日の未来のために」

子豚は……政府軍の将官たちにそう命令する。

 

「つまりは、ココが弱点。機動力と対処力が求められる。扇状地の側面。丘陵側より駆け下りる攻勢」

紅は戦況図を見ながらつぶやく。それに同意する政府軍の将校。

 

「ですから、あなた方にやっていただきたいのです。お恥ずかしい話ですが、ここは皆様のような経験豊富な重装歩兵による機動戦と短期持久戦を実施してもらう必要があります、ですが我が軍のソレはそれを確実にやってのける水準にあるとは言いがたい。敵の全縦深への攻勢と進撃、その瞬間におけるウィークポイントとなり得るこの扇状地丘陵側面に」

大砲の砲身がいくつも並び、ロケット砲の砲弾が運ばれる。

さて、始めよう。政府軍が今度こそ、勝利をおさめ、この愚かな争いを終わらせる戦いを。

やり方は簡単。一度失敗したやり方をもう一度やるだけだ。そう…………

 

「縦深大攻勢……か」

エアランド・バトルのドクトリン。政府軍よりもはるかに高度化されたC4I。それらの統合。まさに先進大国だけが許される軍事戦略にして戦い方。

何故? なぜ反乱軍ごときがあれほどの事が出来たのか……。

決まっている。巨人どもが手を貸したからだ。

 

「五大国……そして、七大国……あるいはネクスト11」

紅は思わずそうつぶやく。世界を管理する五つつの超大国と世界に影響を与える七つの大国。

そして、時間と確かな機会さえあれば七つの大国に並ぶ可能性が指摘されている11の新興国。

世界は嫌な話だが、そうした12の国と11か国によって動かされている。そして、この12の国と11の国がその国力の粋を尽くしても争いは終わらないのだ。

世界は……たかだが、23か国の手にはあまるほど広くそして深かった。

だからこそ、争いの時代は続いている。いつまでも……いつまでも。

カランド紛争もその一つ。86%の世界。

 

「――もちろん。やり遂げて見せましょう」

学院傭兵軍第3軍団の次の戦場は激戦だ。いや、何時だって激戦だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。