どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
3.
熱波が砂漠を支配する。この地域の天気図を見ればわかると思うが熱帯性高気圧が珍しくやってきていた。
亜熱帯大陸性気候のカランド。乾燥帯……いわゆるステップ気候に位置するこの地域は常に乾燥した晴天。
そこにあつぃーい熱波を含んだ高気圧がやってきたのだ。
砂漠の昼夜の寒暖差は非常に激しい。故に太陽が沈みかけた戦地――非常に……
「まだ暑い!」
「ひよりん……熱いって言ったら余計熱くなるでしょ」
女性陣がぐったりするその横で何やら大がかりなクーラーボックスをいくつも運んでくる男どもが……
「……何してんの?」
男どもの中心人物たる森野・J・翔に何やらいやーな予感を感じたひよりはそう問うと、すぐに答えが返ってきた。曰く
「あーアイスクリームいらんかー? アイスうるぞー」 「「「何やっとんじゃ! しばくぞっ!」」」
暑さでイライラしたひより含む女性陣の物騒な声。
「ふっ……安心しろ、ひより、お前の一番大好きなバニラミルクも用意しているぞ。当然ジェンの好きなチョコチップも、えーとほわいと……」 「へっ!?」
予想外の返事に思わず驚愕の表情が出たところで、翔の言葉が終わりに差し掛かる。
「――以下、特別予約料金1800円になりまーす」
直後、そのあまりの響きのよさに思わく、快感を感じてしまいそうな音が周囲に響き渡った。
何事かと音源を探す人々の視線の先には、白い紙を蛇腹状に束ねた特殊な道具。
そう――――
――『ハリセン』である。
…………。
………………………………………………。
「ふぁぁぁあっっ――――くっ!!」 「おい、待てやっ! いつ森野相手に予約した!? 今、特別料金とろうとしたよな!」
スパンスパンと周囲に鳴り響く音、いつしかお経が聞こえてきそうなくらいリズミカルにハリセンが唸っている――翔の頭めがけて。
「……試してみよう。うん」
トトはスマートフォンを取り出し、その中に記録されてるお経を流し始める。
パッンッ!
仏説 まかはんにゃはらみったしんぎょう
「おい、ちょっと待て、いい加減にたたくのをやm――」 「はい、いくら?」
「特別サービス、事前予約料金込みd――」
バンバンバン(ハリセンがリズミカルに翔のそのうるせぇ口をブッ飛ばす音)
かんじざいぼさつ ぎょうじんはんにゃはらみたじ しょうけんごうおんかいくう どいっさいくやく
「はい、いくら?」 「ここ、砂漠で入荷がすげぇやばくて、つか、そろそろ断食祭りがちかくt――」
バンバンバン(やっぱりハリセンがリズミカルに翔のそのうるせぇ口をブッ飛ばす音)
しゃりし しきふいく くうふいしき しきそくぜくう くうそくぜしき じゅうそうぎょうしきやくぶにょうぜ
「いっそ、ただで売れ」 「それは、絶対ないな」
「なら、100円で売れ」 「いや、原価込、消費税込で――」
「この国に日本の消費税が効力を発揮するかァ――――!」
スパァァァ~~~ンぉぉぉ
しゃりし ぜしょうほうくそう ふしょうふめつ ふくふじょう ふぞうふげん
「ジェン! 小隊長助けてくだs――」 「あっ、翔さん……! えっと、痴話喧嘩ですか?」
「「違います」」
バンバンパァン(さすがにちょっとくたびれてきたハリセンがリズミカルに翔の頭蓋骨を楽器にする音)
ぜこくうちゅう むしき むじゅそうぎょうしき むげんにびぜつしんい むしきしょうこうみそくほう
――以下略。そして、閑話休題。
「……原価割れ…………」
ずーんと重たい空気を背負う翔に対し
「あぁ……生き返るぅ~」
シャーベットから、メーカー物のバニラクリームアイス。
超簡単なシロップをかけただけの簡素なかき氷まで、多種多様な氷菓が並ぶ。
口から今にも魂が出そうなくらい白く燃え尽きた感を周囲にふりまく翔は――誰からも相手にされてない。まるでそこにいないものであるかのように略奪同然の魔の手は翔が必死こいてしいれてきたアイスクリームなどの氷菓類を食いまくってる。
とはいえ、そろそろ太陽が落ちようとしている頃である。砂漠というのは気化冷却による寒冷化がなかなか大変な地域だ。
つまり、一瞬で南国から北国に変わっていくのである。
「……さすがに寒くなってきた」
そんな声が出た瞬間である。重い空気を背負っていた翔の目が怪しく輝き始める。
「ふふふふふふふふうふふふふふふふふふううふふふふふふふふふふ…………みなさん、冷えましたか? 冷えましたよね? おい、冷えたよなぁ!? 俺様はやっぱ完璧だよ……リスクヘッジ万歳だぜ……」
「おい、あいつまだ何か企んでいるぜ」
トトがまたかといった口調で翔を皮肉りながらパイナップル味のそれを口に運ぶ。彼にはこの後の展開が読めていた。
きっと――
「――寒いやつに朗報! 使い捨てカイロにひもを引くだけの過熱容器のアツアツ牛すき弁当! こっちは限定30食! 早い者勝ちだぁ! 買った買ったァ!!」
そして、わざとらしく一つの牛すき弁当を取り出し、ひもを引っ張る。加熱容器のそれは見事に機能し、あったかぁ~い、そしていいにおいの弁当が……
「はえぇもんがちだぞぉ!!」
「「「……いくらだ?」」」 「使い捨てカイロは、1つ300円、お弁当のほうは1つ1万6千円になります!」
そして、ハリセンが再び唸った。
ハリセン『もう、勘弁してください、ヘタレてきました』
などという声が聞こえてきそうな程度には持ち手部分がへにゃへにゃになっているが、ハリセンは相も変わらず翔の頭をたたいていた。
「たけぇわあほ! つか、この使い捨てカイロは100円均一で袋売りされてるやつじゃねーか! ぼったくりすぎだろ! 弁当も1つ1万6千円っ!?」
「げ、限定商品として」 「あんたの都合の限定商品だろぉぉぉぉ!」
「やっぱりな……」
もはや天丼となりつつある、翔と商売と突っ込みネタ。がんばれ、未来の大商人(笑)森野・J・翔!
――結局使い捨てカイロも弁当も6割引きで売る羽目になったそうな。
「どうせ、アイス以外は全部、日本で出発前に仕入れてきた奴なんでしょ。いくらなんでもあの価格設定はぼったくりだろ……」
「うるせぇよ……少しでも送料を浮かそうと、装備品類に隠すだけじゃたりねぇ、部品発注の書類にこっそりと書き足したりと」
「……へぇ、そんなことしてたんですか」
「おうよ、学院傭兵軍第3軍団の戦闘軽食コンテナの数をごまかして、そこに紛れさせて、アイスだの弁当だのはやっぱ少しでも鮮度を保たせるためにあれやこれやの冷凍コンテナやらなんやらの手配をやって」
「なるほどなるほど、あの書類地獄……はそれが結果?」
「チャウチャウ、あれはみんなして紅に仕事をおしつけ……て……?」
(そういや、今、俺様、誰と会話を――?)
何やら猛烈に嫌な予感に襲われて仕方がない翔は後ろへとその目線を向けて――――
「おしつけ……なんでしょうか?」
目が全く笑っていない紅がその場に――――
「……あー……俺様、まだ調整中だったよー、並ぶの嫌いだからここにいたわー」
翔は体の調整が終わってないので、調整設備の列に戻ろーと棒読みでその場を早足で立ち去ろうとして――――
「――ちょっとお話良いです?」