どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
4.
最後の晩餐という言葉がある。元は宗教的な言葉だ。
唯一神に愛されたと称される男が率いた集団に、1人裏切り者がいて、翌日男は処刑とわかっている裁判を無理矢理受けさせられる。
唯一神に愛された男は知らないはずのそれを夕食の晩餐会で淡々と指摘した。
その時より、その晩餐会は、最後の晩餐と呼ばれる。
それ以来かはわからないが、死を前に振る舞われる夕食を何時しか人は「最後の晩餐」と呼ぶ。
では、コレは最後の晩餐か。
翔は、チョコレートをかじりながら、お茶を飲む。お茶と言ってもセグメンタタ内部に備えられていたコップ1杯分水の中に入れるとお茶になるとか言う錠剤を溶かした奴だ。
チョコレートだって、非常食として常備されてる奴がなんか消費期限がヤバイので慌ててみんなで食べている真っ最中という代物だ。
まもなく、太陽が昇る。
つまり、その時がくる。夜間攻勢を考えた参謀もいたようだが、最終的に日の出とともに作戦決行となったらしい。
もう隠しても意味は無いという判断だ。政府軍の攻勢作戦は規模が大きいが故にとっくにばれているというわけである。
もちろん各種欺瞞工作などを行ってはいるが、もはやとっくに攻勢作戦の実施は察知されていると。
ならば、色々と面倒になる夜間での攻勢発起は考えない事にした。
けれども、真っ昼間に始めるのも芸が無い。
だから、日の出とともに攻勢が開始されることになった。やり方はきわめてオーソドックスな方法。まずは航空優勢の確保から。
ワイルドヴィーゼル部隊が後方に待機していると聞いている。その時に向けて。最もその動きを反乱軍側も感知しているので、ワイルドヴーゼルを迎え撃つ体制も整いつつあるだろう。
だからこそ、政府軍は徹底的にそれすら食い破るつもりだ。
可能ならそのまま敵の航空戦力をすべて壊走させる……航空撃滅戦による確実な航空優勢の絶対的確保を目指そうとしている。
航空撃滅戦において最も重要な点は敵の空軍基地を可能な限りすべて破壊する。わかりやすく言うならありとあらゆる滑走路に爆弾をたたきつけることで飛行機が飛んだり降りたり出来なくさせて追い詰めていくという事だ。
最も敵側もわかっているので、いつでも滑走路を復旧できるように様々な準備をしていたり、爆撃された時に作戦機が破壊されぬようにバンカーと呼ばれる空間に作戦機(軍事飛行機)を隠していたりしている。
だから、現代の航空撃滅戦において、最優先で破壊する対象はレーダー施設だ。飛ぼうと思っても後方のレーダー基地の支援を元に現代の飛行機は空を飛んでいる。
次に破壊する対象がバンカーであり、3番手が滑走路だ。最もレーダーやバンカーの破壊に失敗するくらいなら何が何でも滑走路だけでも爆撃して破壊しようとするのが基本であるが。
「挺身兵(空挺部隊)を使ってでも何が何でも『S.E.A.D.(敵防空網制圧)』を完遂するって聞いた時はびっくりした……」
『――そうね』
ただの独り言。返事が返ってくるとは思ってもみなかったので、驚く。だが、中隊無線がONになっている事をすぐに思い出した。
『――政府軍の偵察衛星がいやなモノをとらえたそうよ。厳密にはレンタル品だそうだけど』
政府軍の偵察衛星はもちろんの事、反乱軍や独立派の運用していたハズのそれらは全部レンタル品か、とっくの昔に壊されているかのどっちかだ。
大国に高いカネか戦後利権を引き替えに打ち上げてもらう、もしくは借りる。
政府軍は自前で衛星を作り打ち上げてもらった奴とレンタルした奴がある。そして、自前の奴はこれまた自前で作られたと思われる反乱軍のキラー衛星による攻撃で撃破されているのだ。
反乱軍は偵察衛星は一切打ち上げず、代わりに自前で用意した衛星は
『――政府軍の調査を全部信じるとしたら、キラー衛星しか打ち上げてないって話』
反乱軍は偵察衛星の類いを一切持たず、レンタルでまかなう方針らしい。最もソレでは――――
「――――戦争が終わったら、大国の傀儡か」 『――何のための決勝戦プログラムかしらね。たぶん終わったら反乱軍内部の内ゲバでまた戦争よ』
「……で、いやなモノってのは?」 『――「艦艇」』
奴らは――――
『――――「ゲノポスの核の水溜り」で使う「軍艦」を用意してきやがった』
かつての大戦で人類は核兵器の飽和攻撃を何度となく行った。それは最も効果的な一撃であったからだ。
その結果生じたのは無数の大地の亀裂だ。そして、そこ中に雨水や地下水などがたまり込む。
結果出来上がったのが放射性物質に汚染された水が流れる河川や湖だ。今の時代、珍しくも無い。
とはいえ、特に汚染が酷い河川では放射性物質除去技術を用いた浄化が行われているのが普通でもあるが。
政府軍は水溜りとそこから伸びる河川を利用した水運と陸路の交通ネットワークを形成した。わざわざ水運にしたのは地形障害物としての側面を利用したかったのと、船舶さえ確保すれば鉄道でも持ってこない限り、大質量を最高速で運ぶ最高の手段となると同時に、船舶を用意する手間からその他勢力による活用が限定的になってしまう点を重視したためだ。
だが、政府軍と違って、どこぞの大国様が明らかにスペシャルなスポンサーをやりまくってる反乱軍は政府軍が万が一に備えて用意してた2隻のミサイル艇を超える河川水上戦力をわざわざ用意していたらしい。
確認された戦力だけで
ガリレイ・エドヴィッチ級防空用河川砲艦2隻
1204号型河川砲艦10隻
河川用簡易分割型航空運用艦7隻。
全部で19隻の河川用小型軍艦の艦隊。
さらに、大型の輸送艦が2隻、後方からやってきている。この輸送艦が奴らの本命で、戦車でも大量に乗っけているのかもしれない。
「連中、1個増強飛行小隊を展開出来る能力を有してますぜ」
紅に敵の戦力情報の再確認として口頭で再報告をする参謀役の紅蓮。
「主力はネイビーパクファが2機にフランカーD、4機ですか。河川分割空母で運用出来るようになっているようです」
たった6機だが、されど6機の航空戦力。増強1個飛行小隊を運用することが可能な空母もどきまで浮かんでいる。
もどきという単語を使うのは、1隻では空母としての運用は全く出来ない程度の代物であるため。
最低でも3隻合わさって、連結後初めてまともに軽空母らしきものを名乗れるようになる。それが河川用簡易分割型航空運用艦。
提唱国のヴィンランド連邦でさえ、最後はコスパから断念した第1次制海艦構想のなれの果ての一つ。
政府軍の衛星相手に全力でたたき壊すことに反乱軍が注力したのはこの『想定外の敵戦力』を隠し通すためかもしれない。半分は。
「2機のネイビーパクファが面倒ね。艦載型のSu-57なんてみょーな物をどうやって調達したかはこの際、どうでも良いとしてステルス機がいるのは面倒」
どうせわかりきった答えは無視して、それが存在することに目を向ける紅は最終的に一つの命令を出した。
そして、日の出までのカウントダウンが始まる。天空ではすでに多重に鳴り響く金属の轟音がこれから何が起きるのかを世界に対して教えている。
GN-11Bキャットファイト砲兵型学院傭兵軍第3軍団仕様の内部にて、『内部装甲(ロリカ)』に包まれた1人の少年兵は小さな電気刺激を受けて仮眠から目が覚めた。
網膜に投影される映像によると、あと5分としないうちに作戦が決行される。
接続されていたネットワークからの指示に従って、自らが操る兵器・兵装のメインシステムは起動済み、アイドリングが始まっている。
そして、カウント10秒前。
『――【9】』 『【8】――』
『――――【7】』 『【6】――――【5】――――【4】――――』
さぁ、始めよう。シリンダーが回転し、砲弾の装填が終了する。
FCSが完全に稼働、攻撃ポイントを算出終了。ターゲット、ロック、オン
【3】
小さく息を吸って――――
【2】
――指先に小さく力を入れ
【1】
ぴったしちょうど、日の光が大地に現れて
【0】
この戦場にいた、全政府軍兵士達や政府軍所属傭兵が一斉に引き金を引いた。