どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
5.
上空を政府軍の戦闘爆撃機が飛んでいく。その状況下で戦いは繰り広げられる。
「逆襲――!」
誰かの叫び声。
そのさなか、翔は砲弾を軽榴弾砲の3発回転弾倉に装填する。
セグメンタタ砲兵用牽引式軽榴弾砲。105mmの砲身。
3発の回転弾倉。それごと交換することで。3発の砲弾を次々と絶え間なく撃つ。
翔の操るGN-11B砲兵型キャットファイトの右腕が牽引式のその軽榴弾砲の奇妙なパネル状のそれにその手のひらを乗せられている。リモート接続は問題なし。
さらにはGN-11B砲兵型の特徴である、右肩の折りたたまれた重迫撃砲とその反動軽減用の三脚が展開されており、さらには左肩に後付で搭載された携帯式多連装ロケットシステムのロケット砲門が見える。
GN-11Bキャットファイト砲兵型。『設置型接続式兵装』『砲撃軽陣地』。
「「「3……2……1……ファイア!」」」
叫ぶ。
中隊無線を通じて、翔の声で、その場にいるたくさんの砲兵達の声で、撃ったことが示される。たとえネットワークのリンクの方が正しかったとしても、人の声と伝わる緊張感からこっちの方が味方には何をしているのか伝わりやすい。
3発全弾打ち込んで、ロケットモーターがはき出した噴煙、4発の地対地ミサイルが空を飛ぶ。
作戦開始から、すでに31分33秒。
ブースターウィングを用いての空挺強襲は成功を収め、確保した野戦陣地に設営した砲兵陣地。とはいえ、すぐに敵の反撃が来るので、規定量打ち込んだらこの陣地を放棄し新たな砲兵陣地を設営、以降、DS(ダイレクト・サポート)砲兵として、味方が砲撃を要請した時に打ち込む係に専念する。
今は、軍全体の攻勢支援の為、突破と対砲兵砲撃戦闘を実施している。本来ならGS(ジェネラル・サポート)が主に行う事だが、今はまさに全面初期攻勢のまっただ中、軍団砲兵はもとよりあらゆる特科戦力の大盤振る舞いが行われている。
想定されている規定量は軽榴弾砲弾12発、地対地ミサイル10発。
シリンダーごと、交換し、再び次の3発を連射していく。本当に最初の1発目だけはみな一緒に、どうせ、使ってる兵器兵装や電子システムは全部同じなので、トラブルが起きたとしても1人遅れる位だろう。
遅れた1人は規定量に達していなくてもそこそこで切り上げて、さっさと陣地転換。それが彼らがこの後にやること。
少なくとも、敵砲兵による対抗砲撃戦――対砲兵戦闘――の矛先がココに向かない限りはそういう事ですむ。
規定量終了。すぐさま、移動準備。出来れば1分以内に必要な準備を終えて、ココを急いで離れたい。敵だって好きを見て、すぐさまココに砲弾をぶち込んでくる。
警報ブザー音が突如鳴り響く。
敵の放った砲弾を対砲兵レーダーが感知した。すぐさま、レーダーとそれに連動した各種電子兵装が敵砲兵の位置を特定し、表示する。
だが、それで反撃している暇は無い。
全自動のアクティブ防御システムが稼働する。
対空レーザーの群れが大空を緑の色に染める。逆にレーザーの光のせいで陣地何処にあるのか、よくわかるのではないかと思うほど。
実際、コレで対空レーザー砲台の居場所は完全にばれた。だが、その迎撃レーザー網によって砲弾のいくつかは空中で起爆し、正常に起爆する前にこれまた正常とは違った形で起爆した事で、完全に無力化されていく。
居場所のばれた砲台に構ってる余裕は正直ないが、だからといって放置もまずい。なんだかんだで重要な滞空手段であり、貴重な戦力だ。
放置すれば、破壊される。鎧を着込んだ戦闘工兵たちが、その倍力された脚力と腕力を持って、レーザー砲台を10秒で分解、1分で運ぼうとして、固定用の足場を無理矢理壊してでも砲台を移動させる。
だが、それが、翔たちセグメンタタ分隊砲兵たちの足を止める。
『火力指揮所(F.D.C.)』:指令―― 一部兵装を破棄、即時陣地転換! ――
「くそっ!」
翔はまとめていた弾薬箱を放り投げ、必死に走る。彼の必死な動作は、マニュピレーターを動かし、倍の動きに変換――倍力――され、またソレを各種支援する稼働能力を発揮――駆動――しすぐさま、時速20キロの動きを超えた歩みになる。
手伝ってくれる戦闘工兵たちがいない分だけ、自分たちでやるしか無い。
そして、自分たちでやると言うことは戦闘工兵たちのサポート無しで予定された秒数ですべてのタスクを終了させなければならない。
結論:無茶苦茶。
アクティブ防御機構が自動稼働を始めるが、動きの邪魔になるので強制キャンセル。
2秒後、再び動きだそうとしたので、強制キャンセル。
2度キャンセルしたため、自動持続キャンセル10秒が自動設定。勝手に動き出すアクティブ防御機構をシステムが自動的に10秒間キャンセルし続ける。
そして、空中爆轟。頭上より敵砲弾のインパクト。
爆轟の衝撃波で大地と叩いて、敵兵を潰し殺す技。
防御斥力ごとセグメンタタが文字通り地面に押しつぶされるようにたたかれる。いま2本足で突っ立っていたら、脚部マニュピレーターが文字通りいかれていただろう。
関節部分が破壊され、動けなくなってしまったかもしれない。
這いつくばる姿勢で移動を余儀なくされる。時間がまた流れていく。
急がなくてはいけない。すぐさま、仲間のものと思われる砲撃の合図がネットワーク上に記されていく。おそらく、今の敵の砲撃への対抗戦、敵砲兵制圧攻撃。
まるで、昆虫のようにカサカサとした動きをしなきゃいけない。普段なら気にも留めないのに、今はなぜか頭の中にその風景が浮かんできた。なぜだろ。
こうした戦いが各所で、そして何度となく繰り返される。
予定された移動先に到着後、翔はこれまた事前の計画通りにDS砲兵として、学院傭兵軍第3軍団所属の砲兵部隊として味方への火力支援を実施する。
もしくは対空目標に対する牽制を実施する。
そして、しばらくの時間が過ぎて、入ってきた一報は。
『拠点確保』 『敵軍第1派反転攻勢』 『第1派、防衛成功』。
その知らせが第3軍団司令部より、学院傭兵軍第3軍団各部隊の学生傭兵たちに知らせられる。
だが、同時に思う。
これは、断じて終わりなどではないと。
第1派は戦車中隊と大隊規模の随伴歩兵が面制圧砲撃の支援を受けたうえでの襲来だった。
容赦なく、翔たちに敵の反撃砲撃戦が襲いかかったのはソレだ。とはいえ、こっちからの強襲、そして拠点確保からのすぐさま反撃戦力がくることから事前に予測していたのだろう。
とはいえ、少し少ない。
政府軍の主力への対処に忙しかったのと浸透戦術の実施を目指したための小兵力だったのかもしれない。
だが、だとするならやってくる第2派は現時点では二つのパターンが考えられる。
こちらを足止めし、政府軍主力への合流を防ぐための戦略的第2派攻勢。
そして、政府軍主力と共に、我が第3軍団を何が何でも撃滅しなければならないと考えたうえで撃滅を至上目的とする戦略的そして戦術的第2攻勢か。
……どちらにせよ、矢面に立たされる第3軍団の学生傭兵たちにとって、次に来る相手は相当厄介な――精鋭であることは目に見えている。
『――今のうちに万全に補給しとけよ。これから先補給できるかわからない』
通信。連絡。第3軍団司令部より命令とも要請とも取れぬ言葉が通信機より飛び出したのはそんなときだった。
「なぁにが、万全に補給しとけっだ」
翔が思わず毒ずく。
「だったら、さっさと補給の要員をよこせよ!」
そうだ、政府軍は莫大な兵力を投入したが、それが悪い方向に機能している。そう――渋滞だ。
巨大なイベントが開かれ、そこに人が集まってる風景を想像して欲しい。
その近くのコンビニがソレによる特需で大喜びしていた。が、在庫がすごい勢いで減ってしまい、このままでは通常の営業すら支障しかねない。
なので、急ぎ商品を敗走してもらおうとする。だが、そもそもヒトが一カ所に集まったことで生じる混乱には交通網の一時的な麻痺も存在する。
同じ事だ。渋滞が発生してしまえば、どれだけ兵力を投入したところで前線はどんどんその圧力を喪失し、戦闘力を維持できなくなっていく。
それを完全に解消するには、事前に膨大な計画と、計画を遂行するための管理の人員と、そして、物事は絶対に計画通りには進まない。
故に、計画を常に修正し続け、最悪の場合は、即座に計画を破棄する修正力と決断力が必要とされる。
そして、それを行えるだけの適切な人手が必要でもある。
困ったことに、どうもその手の人手が不足しているようなのだ。出なければ、政府軍虎の子の大攻勢にして反攻作戦であるその初期段階において、砲弾不足に悩むはずがない。
だが、現実に砲弾不足が少しずつはっきりとし始めている。
仕方ない側面もある。初期攻勢にはありったけの火力が投入される。ましてや激戦区にセグメンタタというある種、この手に関するエンゲル係数の悪い兵器が投入されたのだ。
消費量は必然的に巨大なものとなる。
おまけにいまだ、政府軍は各所で敵軍に穴をあけるための波状攻撃中である。
と、そこに響き渡るは地響き。敵味方の爆撃音? 機甲連隊同士がぶつかり合う音か?
それとも――――?
――――音響センサーが、 ネットワーク・リンク
戦況補正AIを通じて 情報を統合・補正・分析
――戦況統制官の声が響き渡る。 対処・報告・要求
『――敵軍の「騎兵型鎧中隊規模」接近中。これより、迎撃のロケットクラスターを放つ。3、2、1、ファイア。着弾を知らせたし』
ネットワークを通じて、敵軍の動向とそれに対する対抗措置、そしてその効果を求める報告請求といった情報の羅列が一気に押し寄せてくる。
敵側の迎撃作戦はもはや迎撃作戦の枠を超えて完全な反攻作戦に切り替わっているようにも見えた。
いや、そもそも敵軍だって、迎え撃つ準備をしていたのだから、敵を受け止めて撃退させようとする迎撃では無く、そのままやってきた敵をすべて粉砕して逆侵攻を×反攻作戦を主軸にしていたのかもしれない。
最初から、想定が甘かったのか。それとも、反乱軍(正統軍)側もかなり無理して、それでも今が最重要と力を入れているのか。
何にせよ、翔にとっては着弾予定時間の表示と、敵軍からの攻撃に身を伏せること、そして、ちゃんと銃撃や砲撃で反撃することに忙しい。
騎兵が突撃してくる。タンパク質と脂質、糖質に水分。それらで構成される足では無く、合金やセラミック、車輪に人造素材を活用した騎馬。
機動力とそこからくる突破衝撃力を最重要視する事で、復活した文字通りの重装騎兵。
21世紀に復活した重装歩兵たる、セグメンタタを戦術機動ユニットにする方策がこのユニットとしての騎兵ではなく兵科としての騎兵。
多連装ロケットによるクラスター爆弾が頭上で炸裂。望遠レンズで翔のGN-11B砲兵型キャットファイトがとらえた敵の騎兵へと火力が降り注ぐ。
いや、まだだ……。
騎兵を止めることが出来ても歩兵を止める事にはならない。砲撃に最も耐える兵科は歩兵、すなわち最も根源的な戦力。
そもそも現代の騎兵、すなわち機甲戦力は味方歩兵の盾であり、敵歩兵の天敵。
騎兵型セグメンタタに守られていたと思わしき、突撃用ドローンが次々と飛び出してくる。まるでケンタウロスという伝説の怪物を思い浮かべる形状をしたそのドローンはグレネードマシンガンを撃ち込みながら、その4本の足で大地を踏みしめ駆け込んでくる。
突撃地点で自爆する気か、それとも橋頭堡の確保か。
どちらにせよ、ここで阻止しなければならない。味方の戦闘工兵たちが仕掛けた対物地雷が次々と起爆する。
きちんと設置したような物では無く、ただ、指定場所にばらまいただけのそれだが、少なくとも敵の突破阻止に多少の効力はある。
そして、レーダーやセンサー、そしてネットワークが教えてくれる。次の第2派と言うべき騎兵セグメンタタの群れを。
こちらの敵の突破を粉砕する目的の砲撃に対抗したと思われる迫撃砲弾の群れを。
もはや、敵の抵抗は事実上、こちらの対応能力を超えていると言わざる得ない。抵抗では無く完全な反攻だ。
「3,2,1,ファイア!」
次の砲弾が放たれていく。空中で炸裂し、その衝撃波でドローンの突撃を阻止しようと翔を含めた分隊砲兵たちがぶちかました攻撃だ。
第2派でもいい、とにかく敵の突破を何としても阻止しないといけないと。
だが、小隊長はおろか分隊長のジェニファーは違う考えの持ち主だった。阻止不可能。
それが、指揮官たちの結論。
『――総員! 着剣! 近接戦闘用意!』
無線を通じて小隊全体に伝わる命令。
塹壕でのもつれ合いなんて、最悪だ。おまけにこの塹壕や陣地の多くが、セグメンタタを基準にしている。身長2メートル以上が基準の塹壕ってただの土塁といって良いだろう。
最悪な形で崩れたらどうなるか? 生き埋めだ。如何にセグメンタタの倍力といえど、どうしようも無い場面というのは出てきてしまう。
「クソが!」 「叫ぶな! うるさいのよ!」
戦闘工兵として、翔の護衛として、忙しく陣地設営と砲弾の供給に走り回るひよりが翔の悪態よりでかい声で注意してくる。
ちょっと理不尽。
そして、爆轟。敵の迫撃砲弾が着弾、もしくは迎撃された音と衝撃だ。
セグメンタタの装甲板と重量が無ければ今頃吹っ飛ばされていたかもしれない。直撃を受ければまず生きていない。
「あんたは、弾幕をはって。あんた自身は私が守る」
「くそっ、そうしてくれよ。だがな、そんときがきたら俺様はただでやられるつもりはねぇ、おまえごと俺様自身の手で助かってやる」
「はいはい、乙」
次の瞬間だった。突撃ドローンによる同時着弾、同時爆発の連鎖衝撃波が襲いかかってくる。
そして、その2~3秒の隙間。その後に突撃によって塹壕や陣地内部に入り込もうとする敵の騎兵セグメンタタ。
7.62mmミニガンの3連装、すなわちトライミニガンの暴風と弾幕が次の瞬間、騎兵の顔に叩き込まれる。
トライミニガンを左腕に装備し、右腕に20mm機関砲を装備。本来は両手で構えるものなので、かなり面倒であるが、仕方がない。
反動によりほとんど狙いは外れるが、それでも最初の1発撃つ前の照準くらいは出来る。
騎兵――といっても鋼鉄の――の顔部分に当たる上部部位を守る斥力が展開され、弾丸シャワーが周辺に広がっていくが、すぐに破綻。シャワーはただの跳弾となり周辺の土埃を無駄に吹き上がらせ、上部部位はきれいに吹き飛んでいく。
GN-11Bキャットファイト砲兵型セグメンタタの腕部関節保護材がトライミニガンの反動の大きさと乱暴な扱いで破損が始まる。
そのことを知らせるアラート。邪魔なのですぐさま消させる。どうせ本当に危なくなったら新たに警告が出る。
反動のせいでとんでもない方向に銃身や砲身が向く前に射撃をやめ、再び敵に向けて。これを1~3秒単位で繰り返す。
中途半端で無茶苦茶だが、バースト射撃っぽい動きだ。
「おい、2人とも大丈夫か!」
砲兵陣地であるここより少し最前列に近いところから撤収してきたのか、分隊のメンバーたちがやってくる。
騎兵型セグメンタタ、アラクレの腕部が翔の頭、すなわち機械と装甲の顔に向かって振り下ろされ――――る直前 ――騎兵に高振動ブレードがそのわき腹に突き刺さる。
戦友の一瞬のアシスト。間に合った。
そして、翔はそのまま目の前の騎兵を右足で蹴り上げる。その反動のせいか、あるいは左右に重量物を持ってることもあってか、バランスを一瞬崩しかけるが姿勢制御システムにより、何とかなる。
高振動ブレードを突き立てた仲間たちが叫ぶ
「来るぞ! 第2派本命!」
そして、ネットワークや中隊無線が金切り声を上げるようにアラートと指示の叫び声を同時に入れてくる。
どれも、これ以上は持たないという悲鳴、そして――――――
――――学院傭兵軍第3軍団、第3打撃大隊に属するテミドール中隊、中隊長テミドールは決断の遅かった自分に喝を入れるべく、右手で自らの頬を叩く。
だが、その左手は送信ボタンを押し、立派に仕事を果たしていた。
軍団司令部に入る通知。戦況統制官たちがその通知に叫び声を上げるが、すでにその通知が来た時点で、総司令官である紅が1分以内に拒否しない限りそれは政府軍にも伝わり、軍団と政府軍が持つ事前の準備及び戦力が計画通りに動くことになる。
すなわち、オペレーションコード『ブレイク・ファイア』
内容は単純。味方ごと、エリア全域を5分間無条件絨毯砲爆撃して、最悪を防ぐ。
各中隊長のみが、発令の権限を持っており、それは大隊長を飛び越えて、司令官、そして航空作戦部隊並びに火力司令所と砲兵部隊に直接届く。
司令官が1分以内に拒絶しない限りそれは速やかに行われる。
逆に言えば、身を隠す時間はあまりない――――――――
――――ブレイク・ファイア発令、爆撃実行中。
その文字が、投影され、分隊全員が、よりにもよって味方の爆撃で死んでなるものかと、目の前の邪魔者たちを叩き潰し、そのまま蛸壺へ避難しようと
爆音と轟音、そして爆轟と黒煙。金属音と衝撃波。
重砲が、野砲が、ロケット砲が、ナパームが、クラスターが、誘導爆弾に無誘導爆弾、燃焼帰化爆弾に地中貫通爆弾。
あらゆる火力が広域で叩き込まれていく。
黒煙と業炎。地獄の業火と煉獄の黒霧が支配する世界が広がっていく。