どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
6.
ブレイク・ファイア。
無条件で行われる爆撃、そして砲撃。5分間もの間続いたそれ。大量のナパームにクラスター爆弾が投下された後で――――
誰かが、人の形をした何かが這い出してくる。
冷却機構が著しくイカレテいるせいか、それとも各種冷却用の装置や放熱用のそれらを使ってもなお、対処不能なのか。
周囲はナパームやクラスター弾のせいでクレーターだらけで蜃気楼が発生するほど無駄に熱量によって空気や大地が汚染されている。
轟々と燃える何か。
だが、それでもなお、感じるのはただ一つの思い。
「……助かった」
死ななかった。それだけで……いい。
翔は胸が張り裂けそうだ。自らの生存と――そして生存が不明な仲間たちの事で。
だが、それでも……
動体センサーが何かを検知する。
敵が……生きてた。あの、猛砲爆撃を。
何故か、敵ではなく味方とは思わなかった。自軍の兵士たちが自分以外に生きているという選択肢をその瞬間、何故か思い浮かばなかった。
――なぜだろうか?
(……ああ、そうだな。うん、そうだ)
答えが……出てしまった。
何しろ検知した何かはこちらに向けて容赦なく50口径の銃口を向け撃ってきたのだから――!
斥力の自動発生による自動斥力防御が起動する。
だが、空中で斥力に弾かれるはずの銃弾は弾かれずそのまま空中で起爆する。
「――クッ! HESH(粘着榴弾)!」
足場が悪すぎる! いくつものHESHの12.7mmが自動防御の斥力場発生とそのコントロールに負荷をかける! 砲兵用のあれやこれやといったごつごつとした兵装が重いのは仕方ないし、それ用に訓練だってしてきた。
そもそも一応それ対処用のあれやこれやといった対策――たとえば特殊なジャイロモーターの増設――などもやっているが、これほどまでに足場が悪い大地で単独戦闘は考慮外だ! 本来は! 何しろ砲兵は敵より早くぶちかまして、敵を制圧。敵の反撃より早くすたこらさっさと逃げ出す兵科だ。
陣地設営手伝い&護衛役の戦闘工兵やらがそばにいるのが普通だし、重装歩兵として歩兵分隊を組んで動くときも分隊支援火器をぶっ放す、つまり正面火力支援の存在だ。
場合によっては単身近接戦をしないわけでは無いが――――
(――状況が悪すぎるッ!!)
それでも、やらねばならない。曲射弾道軌道を描く〝それ〟。すなわち、軽榴弾砲や軽迫撃砲。
攻撃目標、ゼロ距離射撃に設定、FCSカノンモード。
弾種、鉄鋼―― ! 敵が一気に距離を詰めて! ――――ッ! 間に合え!
敵に向かって打ち込む砲弾と敵の砲弾を迎撃する迎撃短針。
敵が取り出すのは、突撃支援ようの盾の形状を持つ装甲板。いや、取り出すのではなく、最初から装備していたというべきか。
敵へと打ち込んだ砲弾は、敵の迎撃短針によって迎撃、空中で起爆し、衝撃と散弾のように広がる砲弾の破片を装甲板で守り、そのまま騎兵は肉薄へ――――
――と、なる前に足下より爆算する。対物地雷の起爆。
翔の目に映るのは、味方の工兵たちがばらまいた地雷原の大まかな散布図とIRマーカーによる対物地雷の設置位置のポイントが描かれた簡素な映像。
今回は、それがあったから向かい撃てた。でも次もうまくいくかどうかは分からない。
対物地雷によって吹き飛んだ敵のセグメンタタだが、どうやら、死ぬほどの一撃ではなかったらしい。
そいつは這いずり回るように動き出す。なので、50口径の銃弾をこれでもかと撃ち込む。斥力防御をしていても、限度はある。何よりも――
――空中炸裂の榴弾によって衝撃が大地を叩く。
ブレイク・ファイアが終わったからといって、味方の支援、ダイレクトサポート砲撃はなくならない。
さすがに、分隊砲兵である翔が砲撃手になってないことが示すように、学院傭兵軍第3軍団、打撃大隊の収めている防衛ラインは完全に壊乱状態にある。
ブレイク・ファイアで敵と突撃を粉砕したはずだが、同時に味方もまた多くの損傷をくらっている。
今この時点で敵が統制を取り返し、個体ではなく部隊として新たな突撃を敢行されたらどう頑張っても持ちそうにない。
「くそ……」 『――翔! そっちはどうだ!? 敵は盛り返しているか!?』
唐突に入る無線。小隊無線。学院傭兵軍におけるセグメンタタ中隊編成は3個小隊に1個小隊あたり3個分隊。
1個分隊の編成は6人。4人のライフルマンに戦闘工兵と分隊砲兵。
護衛役兼陣地設営で出ている戦闘工兵とDS砲兵としての仕事を与えられていたはずの分隊砲兵を除く4人のライフルマンはもう少し前方で戦っていたはずのなのにこうして、翔は目の前の騎兵相手に50口径をぶっ放している。
ブレイク・ファイアは確かに敵軍を粉砕できた。でも、味方も粉砕した。
残るのは双方の残党の泥沼の白兵戦。
防衛戦を維持できないが故に、ブレイク・ファイアは実施された。逆説的に言えば、そういう話。もはや距離は味方ではない。
「――!」
答える暇はない。次々と引き金を引く。残弾警報。
電子音の警報音がうるさい。だが、それがそのままネットワークを通じて小隊に、そして中隊に共有されていく。
森野・J・翔はただいま戦闘中ですと、共有情報にされていく。翔以外の面々の戦闘状況も共有されていく。
翔がそれどころじゃないと、見てないだけで、全分隊員が戦闘中であり、残弾警報が鳴り響いている事が表示されていく。
翔は、マーカーのスイッチを入れる。出すのは砲撃誘導。
多連装ロケット、M26ロケットクラスターの発射要請。
政府軍の多連装ロケットに期待して、翔自らをターゲットポイントに設定する。
正確にはマーカーに向かって突っ込むので、マーカーを手放さない以上そうなる。
いや、もっと正確に言うと、マーカーのない場所を狙うのが正常。ただし、現状では敵味方混戦状態で邪魔になるのでマーカーを狙わせる。
―― ……M ………… ――
「っ!? 融通が利かない!」
マーカーを狙うマニュアルがなくてそれは出来ない。
クソが、融通が利かない。
当てにしていたものが使えない失望感。
だが、それでも要請は続ける。同時に、別の要請を出す。航空爆撃要請。
対象はマーカーポイント。何でもイイので今すぐにでも落とせ。
警告のメッセージ。爆撃の警告。クソみたいな後方の砲兵隊より航空部隊は素直に聞いてくれたらしい。自由落下の誘導爆弾がここに向かっている。
セグメンタタが使用するマルチアサルトライフルに使われるサイズの電熱式の銃剣を投げて牽制する。
落ちてくるまで残り――――
――牽制の銃剣は回避された。
ゼロコンマ。
衝撃と熱波。業炎と暴風。クラスター弾が上空で炸裂し、物の見事に大地にうごめく虫けらどもを全部まとめてハエ叩きの如く叩いたらしい。
翔はあらかじめ知っていたから心構えが出来ていた。敵にはその暇が無かった。
だから、防御姿勢という違いが生まれる。
自動防御の斥力が機能して……そのまま2発目のガソリンを詰め込んだだけのドラム缶による爆発的炎上の渦に閉じ込められていく。
航空即席爆弾(IED)の類いだ。
敵の生命維持装置が機能していれば、空気口を閉鎖して循環酸素に変更するだろうが、もしも十分に機能してなければ循環せず酸欠になるだろう。
翔にとっての理想のシナリオはそれ。くたばってくれ。
「……補給は?」
音声認識、AIが一番近くの補給所、および補給物資の移動状況についての簡素な報告文を表示する。
それらが示すのは、もはや自分で取りに行くしかないという簡素な事実。
注文がデリバリーされる環境ではない。
宅配のピザは届く前に道路ごときれいさっぱり消えてなくなり、預金口座の残高だけが減っていくだろう。
新たな接近警報。ついでに戦況の情報。
残弾警報の高鳴りはさらに大きくなり、近接兵装の使用が推奨されていく。
ただし、その近接兵装の使用も限定的であれという警告付き。エネルギーや循環用の酸素量などそういったもろもろに関しては警報が出るほど減ってはいない。
が、武装の方が問題あり。
「プラズマバッテリーより直接供給。熱量攻撃システムを稼働」
障害物除去用の簡易火炎放射器と鎧の動力に使われているプラズマ電池を直接続、直接プラズマを放出する。裏技であり、自滅技。
2~3秒で放射器自体が壊れる上に大事な動力源であるプラズマバッテリーを一つだめにする。その代り戦車装甲ごと中の乗員を焼いて破壊するような凶悪なものに変貌する。
牽制で一振りしただけで、敵の動きをある程度拘束できると期待できる。
もっとも射程距離も期待できないので、本当に自滅覚悟のあがきだ。
と、悲壮な覚悟を決め始めている翔の目に、映る風景。
無数の白煙が天空に向かってまるで逆に降る雨の絵を思わせるきれいな風景が出来ていた。
不可思議な風景だ。だが、絶望的な風景でもある。おそらく、あれは――――
「――――地対空ミサイルの乱射かよ。くそったれ、ブルジョワども」
それは、機械の巨大な腕を……いやそれは腕というより触腕というのが正しい形状であった。
鋼鉄のタコ足。そういう表現が一番それにあっているかもしれない。
1メートル大を超える太さを持つ鋼鉄と精密機械の触腕。
それはこう呼ばれる兵器だ。
『ラージ・スタンドアローン(大型自立無人機動兵器)』。
ADP-FAAD28E型。 『砂漠地帯用対空兵器ドローンプラットフォーム、サンド・クラーケン』。
全64基の携帯式地対空ミサイルランチャーと同じ数の対空機関砲。中距離地対空ミサイル2基搭載で打ち上げ式防空レーダー派全方位拡散システムを保持している究極の自走式前線近接防空システムだ。
翔が地対空ミサイルの噴進の煙と思ったもののすべてがミサイルというわけではなく、中には打ち上げ式防空レーダー派全方位拡散システムの弾頭構造体であったものも多い。
打ち上げ直後より、弾頭構造体は高出力のECMと防空レーダーの波形をあたりにばらまき、それらの波の反射をこれまたばらまかれた100以上の10センチ大の空中散布型センサー素子基盤が収集し、サンド・クラーケンに送信する。
こうして、高低差を無視して、かつ、レーダー波をとらえる対レーダーミサイルの目を弾道構造体に向けさせることで、あくまでも十数秒程度だが、確実かつ大火力の対空火力網を最前線に構築する。
それがサンドクラーケンの目的。そして、対空機関砲を空ではなく地上に向ければ立派な20mmもしくは35mm機関砲だ。
陸戦兵器としても厄介な存在である。
全長約90メートル。8本のタコの足のような部位と中距離地対空ミサイルや防空レーダーの例のシステムを搭載した頭部型部位。
まさにタコ。クラーケンである。ただし、砂漠環境で活動する、砂のクラーケン。サンド・クラーケン。
当然たこ足があればタコの頭部に当たる部分も存在する。その円筒形の中心には3つのVLSのようなものが三角形の形状をして配置されている。2つは中距離知多空ミサイル。
最後の一つは、いったい何だろうか? 弾頭構造体の発射設備か。
急に警告文とともに送られてきたくる荒い映像を見ながら、翔は苛立つばかり。
政府軍のネットワークはあることを教えてくれている。3機。
3機のサンドクラーケンがこの場に現れたと。んなこと言われてなんの役に立つ? この状況で。