どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
9.
ブレイク・ファイア申請受理。
キルボックスH17タイル9にて活動中の全作戦機へ通達。
ブレイク・ファイアを発動。残存爆弾をすべて投下せよ。
第71砲兵連隊隷下第55砲兵大隊へ通達。ブレイクファイア。
キルボックスH17タイル9へ全力砲撃要請。
陣地転換はプランJ51にしたがって実施するように。ブレイクファイアの発令開始まで残り時間……
『――コピー』
小さな音が無線機に鳴り響く。操縦桿の引き金を引くことで自らが了解したことを編隊の全パイロットたちがそのカチカチ音で教えてくる。
握る操縦桿。編隊長の指示で4機の飛行小隊は移動を開始する。戦爆連合を組んだ飛行中隊は目の前の空対地目標に向かって次々と対レーダーミサイルを解き放つ。解き放たれた長距離空対地対レーダーミサイルはレーダー波を検知した方向へと飛んでいく。
政府軍作戦機の特選部隊にして、ワイルド・ヴォーゼルの任務を持つその機体群。
特別製のシャトルブースターパッケージユニットを外装にまとい、連結大型航空機出撃用飛行船プラットフォームを出撃した中隊は成層圏の限界高度まで飛び上がり、さらに言えば大出力のECMを常時展開し、半球を一周、人体が耐えうる限界ギリギリ速度で一気に反乱軍制圧領域上空の敵航空基地へ。
『――ナウ』
次に解放されたのはバンカーバスター。
ミサイルにせよバンカーバスターにせよ、うまくいくとは思っていない。本命は急降下攻撃。だが、ココは1カ所目。
嫌がらせとしてはミサイルもバンカーバスターも友好。本命は2カ所目への急降下攻撃。
本命を叩き込むのはあと46秒後。警報。さすがに対レーダーミサイルやバンカーバスターを打ち込まれれば反乱軍のアホも気がつく。
高高度地対空ミサイルの警報が鳴り響く。
高出力のECMと事前に放たれた対レーダーミサイルを信じて何もしない。急降下からの攻撃の途中で進路を変更させたらそれこそ危険な事になる。
そして――――
――バンカーや防空レーダー、そして滑走路に向けて叩き込まれていく空対地ミサイルの乱舞に最終自爆型アーセナル・ドローン。
パージされていくシャトルブースターパッケージユニット。ユニットに付属していた追加の燃料タンク、増槽の加護はない。ここからは自分たちの実力のみでこの敵地の期間空域を脱出しなければ。
航空撃滅戦を完了した飛行中隊。いや、今や飛行小隊と化したソレ。最終自爆型アーセナル・ドローンを含めて中隊編成をとっていた。
ドローンの誘導は終了し、たたき込めるだけの爆弾を敵の航空設備その全部にたたき込んだ。
小隊の4機の機体はコレより自力でこの場を脱出する。
最も脱出は安易だろうとも思う。何故なら、ここから数百キロほど離れた地域で反乱軍は2度目の猛攻撃を受けることになるからだ――――
――クラスター爆弾が降り注ぐ。ナパームの灼熱の化学触媒が大地を染める。衝撃波があらゆるモノを攪拌し、世界が終わるのではないかと人間たちの脳を誤認させる。轟音と灼熱と衝撃。
世界は其れ一色に染まっている。
その中で、騎兵が2本足で立っている。尋常じゃない。まるで自分だけは絶対安全であると心の底から思い込んだ狂人。
翔は身を隠したい。が、出来ない。飛翔装甲は右はもう影も形も存在せず、左の方はかろうじて形が残っている状態。
ナパームの燃える燃料が装甲板に降りかかり火だるまとかしている。
だが、それに対して、退治する騎兵は泥やすすで汚れている以外、何一つ傷がない。
「……こんななぶる真似をしてすまない。だが、許してくれ」
敵騎兵の声。どこかで聞いた事が――――
「――子供の傭兵。少年兵を運用している我らが言うことではないが、このような有様が次は無いように願いたい。すまないな身内の争いに巻き込んで」
ジャッカル。
そう呼ばれていた尉官の男。
翔の脳内で男の声の主が……。
くる。
騎兵がその右手を――――
――翔はすかさずライフルの引き金を引く。
天空で新たな爆轟。
防御斥力。騎兵はそれで50口径ライフル弾を防ぎ、一気に距離を詰める。2足歩行だろうが、無傷のブースターが瞬時加速を実現する。
衝撃波が大地を叩く。生きるモノなど普通は無い。
そして、ワイヤーアンカーが射出された。それはGN-11Bの右脚部を拘束。
翔がそれを振り切ろうと動く前に、アンカーのワイヤーを回収しにモーターが全力回転する。
そして、騎兵の飛翔装甲が広げられ、高出力の力場が形成される。
衝撃波 熱波 榴弾の爆轟!
その力場の中で、アラクレという名前の敵騎兵はその大腕を使ってワイヤーをつかみ、振り回す。
抵抗しようとするが、翔は重心を失い、それを何とかカバーしようとするジャイロモーターが無理矢理姿勢制御を図って帰って混乱する。
次第に砲弾投げのように円形に振り回され加速していく。
抵抗しようと無理矢理ブースターをふかし、回転の勢いを止めようとする。が、うまくいかない! 右足のブースターはワイヤーにふさがれ開かない!
衝撃波と熱波と榴弾の爆轟が天より大地に降り注ぐ。アラクレの斥力ドームにハンマーで叩くようにそれはやってきて、大地に亀裂が入る。
大きな音が鳴り響く。小さなクレーターのようなそれが――。
アラクレの大腕では無い両手が天に向けて伸びた。引力と斥力の複雑な制御計算式。基本的に電子的な処理能力が違う!
回転の速度が速くなり、そして、ワイヤーが切断された。同時にアラクレは渦巻いていた引力と斥力の目には見えない球体を投げつける。
力場が複雑に影響し合った球体、斥力砲だ。
解放された斥力の……弾く力の砲弾。空気の抵抗を切り裂いて飛んでいく。
弾く力によって重力のくびきより解放されてしまった一人の人間。
それは空を飛びたいと願ってグライダーを作ったリリエンタール。そんなリリエンタールを追い求め、飽くなき探究心でもって大空へと挑んだライト兄弟。
そんな太古の昔より翼を夢見てきた人々には素晴らしい一場面なのかもしれない。少なくとも夢見た風景であることは断じて間違いない。
だが、現にいま飛んでいる者は――――どうなのだろうか?
鎧の装甲板はひしゃげ、人口筋肉はあまりに強力な弾く力で何本も筋が断絶する。時速なんて単位で速度を示す暇なんて無い。気づいたら目の前に大地があった。
そして、バウンド。1回、2回、3回と何度となくバウンドを繰り返す。バウンドするたびにヒビの入っていた鎧の装甲板が壊されていく。人口筋肉がどんどん切れて、オイルがまるで血のように吹き出て、垂れ流される。
衝撃拡散用ジェルが大量にもれ出て、バウンドの衝撃がそのまま翔へと伝わる。口から今朝食べたものが吹き出ながら翔は酸素を求める。衝撃で吸い込んでも吸い込んでも次々と肺から空気が外に押し出される。
そして、建物の壁を突き破りそのままその建物の柱を崩して、別の柱に激突したところで止まった。GN-11B各部の『損害報告(ダメージレポート)』が表示される。もう、動かない。
いや、動きはする。
でも戦うことは出来ない。最後にGN-11Bの生命維持装置が外の状況のデータを表示して指示をしてもいないのに前面装甲板が開いた。
自動的に除装が行われたのだ。GN-11B砲兵型は完全にその役目を終えた。
後はナリウスを解放するだけ。システムはそれに従った。それだけに過ぎない。
翔はパーソナルデータの詰まったステックを抜き取り、P90を1つ手に取ってふらふらした足取りで鎧から出て、そのまま倒れこんだ。三半規管が強化されているといっても完全にやっちまったと彼は考える。
現状はどう考えても、まともに動くことは出来ない。
それほどまでに振り回わされてしまったことは明白だ。
目の前の風景が暗転する。彼はその状態で、這いずる様にGN-11B砲兵型より離れる。そして、一度だけ振り返る。
装甲はひしゃげ、ジェルが大量にばら撒かれ、さらには機械油が周囲に広がるそれ。
翔は再び這いずりまわる様に動き出す。頭が痛い。目から涙かそれとも血涙か……わからないが何かがこぼれている。
口からは逆流した胃液と思われる液体がこぼれ、喉が焼けるように熱い。
胃液の高濃度酸性溶液が食道を、喉を溶かしている……。
「翔さん!」
声が聞こえる。
建物の外からだ。走ってくるのはシルビア。あの女。
「な……ん、d……?」 「ここは第3何たらの後方ですよ! もう、前線になっちゃってるけど!」
肩を借りて、階段を一段一段降りていく。どうやら2階部分らしい。あの丘陵地帯の空間にも建物がありあの無差別爆撃の中、奇跡的に残っていたようだ。
最も建物の至る所が崩れてむき出しになっており、また高低差もあってか1階と2階の違いが判らなくなりつつあるが。いずれ、ただの瓦礫の山になるだろう。
ARM……対レーダーミサイルの攻撃を受けて吹き飛んだと思われる防空レーダー車両に動体検知装置。
車両は輸送機でパラシュートを着けて空挺されたモノで、虎の子だ。
何しろ、翔たち第3軍団はセグメンタタの部隊が中心になってここまで来たのだから。
最も破壊されてるので虎の子もクソも無い。
シルビアに肩を貸してもらい何とか歩みを進める。
「どうして、こ、こ……に?」 「スカウトです! なんか私達全員皆さんの所に引き取られる方向で話が進んでるみたいです」
世界中から孤児を集め、戦闘が出来る人材として売りさばく。世界的企業連合の学院傭兵軍。学生傭兵たち。
「なら、なんで3ってはな、しに、な、るんだ……。おまえ……な、ら第1軍だ、、ん、でも、2でも、4でも……」
「さぁ? と言うか4個もあるんです?」 「ぜ、んぶで5個、地上兵力16個大隊って、ところだ」
シルビアはどうやら確固たる目的を持って彼を支えているようだ。目的地はまだ先らしい。
だが、事は総単純では無い。気がついたら翔は宙を舞い、泥の中へ落下する。未だ爆撃は実行中。
灰の中の酸素がすべてはき出され、呼吸すらおぼつかない。
けれども、五体満足でいる時点で正直な所奇跡の状況だ。
引きずられる。シルビアが自分を引きずっている。
「あっちに、司・部壕が、あるんです! そこなら、今よりは――――で!」
爆轟。
何を言っているのか聞き取りにくい。
翔は引きずられながら首を回し、周囲を見る。ああ、いる。どうやったかは知らないが、敵兵が。2人組が。歩兵が。
震える手で取りだしたのは拳銃。当たることは無いだろう。でも――――
――引き金が引かれ、銃弾が飛び出す。
相手には当たらず、見事に明後日の方向へ。その代わり敵がこちらに気がついて身を隠した。
2回、4回、6、8、10、と引き金が次々と引かれていき、ついにスライダーが止まる。弾切れ。
塹壕の中に墜ちていくように入る。バランスが崩れ、足より頭のほうが下の方になる。
「ほら! 立って!」
肩を借りて、何とか動く。目の前に広がるのは塹壕とたこつぼ。そして大きめの穴にコンテナを埋めて軽く土をかぶせた偽装陣地もどきの建設物が並ぶ風景。
補給中隊がせっせと頑張ってくれたおかげだ。
目の前に並ぶコンテナの中にそれをみた
「あーく、らむ……?」
ダクトテープでコンテナの入り口にそう書かれた奇妙なコンテナを……。