どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
6.
反乱軍(正統軍)の軍事的指揮系統ははっきりしている。
中央司令部が1つ、ローカルな司令部が2つ、そしてローカルな司令部の下に火力指揮所や突撃管制所といったものがある。
中央直属は第1師団と第1航空艦隊のみ。ほかはそれぞれのローカルな司令部に所属し、中央の指令に優先してローカル司令部にしたがう。
ローカルな司令部に属する部隊がもしもローカルな司令部との接続が切れれば普通に中央の指示に従う。
ローカルな司令部は中央の指示に従って動く。以上だ。
では中央司令部は今どこで、何をしているのか。
答えはゲノポスの水たまりにある。その水たまりに浮かぶ軍艦の一室、O.D.C.(Operation Direction Center)に中央司令部は設置されていた。
政治部門の指揮系統である、評議会、そして最高評議会より出入りしている2人の人物がいる。
その2人の人物は政府軍より『双璧』と呼ばれる人物。
双子の元軍人であり、今では正統軍の主要人物として活動している。元軍人であり、今は軍人ではないはずだが、実質的に正統軍の指揮官としてふるまっており、一部の反主流派の中には正統軍の独裁者たちであると反発を抱かれている。
何故、正統軍の指揮官として君臨できるのかといえば、この2人が今の正統軍の編成の基本を作り上げたからだ。
政府軍の物量縦深攻勢戦略に対する、対抗戦術、戦略としてエアランド・バトルドクトリン。
それを選択、それらに必要なあれこれを大国との交渉で手に入れてきた人物たち。それがこの2人であるからである。
「アラフジーク山岳の機甲軍団の解囲作戦が最後には政府軍を大規模片翼包囲する作戦に切り替わった時点でこの状況はやはり問題が多かった」
「それを言ってはおしまいだぜ、姉さん」 「必要だったけどね。アラフジークに閉じ込めれた機構軍団は虎の子だ。解囲は必要不可欠。……欲張りすぎた」
1人は男性。左頬が焼けただれ、頭皮がむき出しの眼鏡の男。
1人は女性。スカーフで顔半分を隠しているせいか、どのような人物なのかはよくわからない。ただし、彼女も眼鏡をしている。
「全部で7機のサンドクラーケン。うち4機をこの戦域に投入した。……いや、まだ1機、予備という事で投入していない」
「……サンドクラーケン専用運用支援プラットフォームも投入してないよ姉さん。たった2つしかないけど今の状況なら仕方ない。3機のうち2基が撃破された。これ以上は許容できない。4機目のサンドクラーケンと投入する。
サンドクラーケン専用運用支援プラットフォーム『デザート・サルガッソー』も稼働して」
『――新たなシエラ・ターゲットの活性化を確認』 「はぁ!?」
『――政府軍ネットワーク上で、これをシエラ・フォー(S4)と呼称します』
モード:ドラグーン、つまりはアークラム専用のブースターウィングによる滑空弾道飛行を封じられ、敵地に孤立してるアークラムに伝えられたのはそんな知らせ。
『――アークラム機動支援パッケージ到着まであと1分』 「あん?」
『――衛星軌道上から投下された兵装です。突撃援護用のナパーム弾及びクラスター爆弾搭載型簡易弾道弾4発と一緒に来ます。以下の緯度経度から待避して、以下の緯度経度に移動してください。なお、誤差は1メートル以内にお願いします』
いきなり訳の分からない突然のお知らせ。
翔は、ライフルをぶっ放す。残された兵装はマルチ・アサルトライフル1丁にマルチ・ハンドガン、そして日本刀型の高振動ブレードというきわめてオーソドックスな代物。他に使えそうな物は手榴弾詰め合わせくらい。
実のところ、アークラム:ARAとその後のDRにそれらのモード終了後にも大量の武器弾薬を持ってるアークラムが現れるはずであったが、まぁ、無理をしたわけである。おかげで、デフォルトで備えられてるライフル、ハンドガン、高振動ブレード1本という基本装備のみになった。
12.7mmのマルチ・アサルトライフル(AEAR-M4マルチ・カービン)と5.56mmのハンドガン、そして日本刀型の高振動ブレード1本で何をどうしろっていうんだと内心思ってる。
あっ、よく見たらちゃんと銃剣はあるじゃん。よかった。よかねーよ。大砲と山盛りの砲弾と銃弾と重機関銃をよこせ。
センサー系統の鳴り響く警報音。無数の警報音が骨伝導で頭蓋骨が揺さぶられ、うるさすぎる。死ね。
自動防御斥力が発動、正面から数えて3時方向から20mm砲弾が数発。迎撃は不能とシステムは判断。。。
だが、学生傭兵として、人間として、これは悪手だと翔は感じる。だが、センサーの速度と人間の行動を並べるとやはり人間は遅い。
防御斥力に20mmの砲弾が軌道をずらされ、周囲に着弾していく。
おかげで、弾幕の内部に閉じ込められた。防御斥力だっていずれは破綻する。分単位では持たない。
アラクレとかいうロシア製3.5世代セグメンタタの姿が見える。その数4体。分隊行動か。残り2人は迂回して後ろから?
右腕の倍力機構の出力を上げる。右腕にライフル、左腕にハンドガン。
そして、翔の生身の右手が引き金を引く。それはすぐさまライフルに信号で伝わり、射撃開始。12.7mmが銃口より飛び出していく。
そこに新たな警告。分隊じゃない。敵は小隊だ。20体近くの敵アラクレが接近中。
『――着弾まで残り10秒、9、8、7……』
アレスによるアナウンス。左手のハンドガンの射撃開始。
残弾警報。うるさい、うるさい、わかってる! 両腕ともふさがっているのだから、弾丸を装填する暇なんて無い!
『――3……2……着弾』
クラスター爆弾とナパーム弾が無数にアークラム周辺に破壊と業炎を振りまく。
そして、ほぼ同時にアークラムの大地が揺れる。目の前に3つの奇妙なオブジェがそびえ立つ。
いや、奇妙と言ったが一つは保護バンパーに身を包み、バンパーがとれ始めたアークラム専用のブースターウィング、モード:ドラグーンのユニットだ。
衛星軌道上から射出された弾道型なんちゃらとそれ以外の何か。その何かが今到着した。
『――今です。これで離脱を図ります』 「そんな事できるならもっと爆撃しやがれ!」
『――衛星が軌道上にいません。仮にいても次が最後の支援攻撃となるでしょう。敵軍のキラー衛星が展開中です。あと、急いで。ユニットが敵軍に到着前に迎撃されないための支援攻撃でしかありません。後十数秒!』
ブースターウィングは通常、カタパルトで射出された状態で初めて機能する。基本的には、滑空翼にロケットモーターが取り付けられた代物でしか無いが故に自力で大空へと浮上するだけの力を持たない。
それでもブースターウィングを使って空を飛ぼうと思ったら、全燃料をつぎ込んだ上で、全速力で走る動作が必要になる。そうやって速度を稼ぐ。
全速力で走る以上、できればまっすぐな場所が欲しい。だが、ココはそんな物、贅沢品だ。
『――支援用ドローンが援護します。ぶら下がっているワイヤーをつかんで、こちらが指定したタイミングで跳躍してください』
「ワイヤー!?」
どれだよ。そう思いつつ、ブースターウィング、モード:ドラグーンのユニットを装着していく。どうも自分がさっきまで使用していた奴より燃料タンクが増えてる。
ジェットエンジン用みたいだ。
それとは別に落着していた謎のオブジェ2つが稼働を始める。ジェットエンジンの金属の轟音。ソレとは別でロケットモーターノズルと思わしき物から火が吹き出る。
折りたたまれていたローターと思われる物が展開され、回転を始める。
ジェット、ロケット、ローターそれぞれが稼働し、1つは高度2メートルあたりを飛び回り初め、1つはつり革状の物が付いたワイヤーをぶら下げる。
ブースターウィング、ドラグーンユニットのエンジンが稼働。噴煙らしき物が少しずつ。だが、出力が上がったところでそれで空に飛び上がる様子は無い。
当たり前だ。所詮は滑空翼に多少動力が付いた程度なのだから。
『――タイミング、4秒前』
つり革状ワイヤーを手に取る。アレスのカウントに従い、小走りの姿勢で1歩。3歩目で飛び上がる予定での活動。
『――ゼロ』
大地を蹴った。直後、翔にとって想定外の衝撃が背中に走る。
周辺を飛んでいた2機目が後ろから衝突してきたのだ。そして、ワイヤーが伸びきる。
そうやって、アークラム:DRは再び大空へと浮かび上がっていく。
レーダー波を感知、敵のシーカー、チャフとフレアがばらまかれながら衝突エネルギーと牽引のエネルギー、そしてブースターが吹き出す噴煙が急加速を作り上げていく。一気に高度は200メートルへ
最も敵が最も狙いやすい高度でもある。
無数の携帯式地対空ミサイルがこちらを狙ってくる。ばらまかれるのは大量の迎撃短針。
空中で十数発の風情の無い黒煙の花火が広がって言った。
『――危険地帯。急ぎ離脱を。離脱コースを誘導します』
「んな暇ねえよ!」
アヴェンジャーの30mmを振り回す。その反動で、これを搭載した攻撃機の速度が落ちたという伝説のある30mmのリボルバー方式航空機関砲は実際のところ、滑空して突撃するという用途を想定されている重装歩兵のブースターウィングユニットに搭載するには、問題が多い。
伝説が現実となってしまう。
それゆえに、搭載されている実弾の多くが弱装弾となっている。威力が落ちる。
だが、中にはそうじゃないものも搭載されている。速度をあきらめるかそれとも威力をとるか。どっちつかずの中途半端を選んだのだろう設計者は。
アベンジャーの破壊の猛威が敵の重装歩兵へと降り注ぐが、敵も負けじと携帯式地対空ミサイルを次々と発射してくる。
いや、それに混ざって20mm機関砲が入り込んでいる。持たない!
『――機動支援。ワイヤーを放して!』
つり革上のワイヤーをつかんだままだったことに今気が付く。操縦桿を強く握りこんでいた。力を抜く。
その動作で機械の掌が開いていく。
2機の支援ドローンは使い捨ての3発90mmリボルバーカノン機関砲をぶちかましたのはその直後だった――――
――――生身の敵歩兵が1人破裂し空中で地対空ミサイルは迎撃されて爆風と衝撃波を周囲にばらまいた。