どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争   作:ホエール

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 時は少し遡る。

 

『――紅! 簡易カタパルトの用意できた! が、状況が状況だ。いつ設備が完全にぶっ壊れるか分からない!』

「テミドール中隊長。馬鹿が突貫して作り上げたこの混乱を少しでも長引かせる最高の方法は1個分隊でもいいのでシエラ・ターゲットのクソどもの近くに送り込む事よ。簡易カタパルト整備をやってる工兵どもに言いなさい。

最低でも1個分隊を送り込む前に完全にダメになり次第、私がテメェら全員処刑しいくわ!!」

学院傭兵軍第3軍団、陸戦総司令官、コールサイン『紅』と言う少女はそう告げる。

 

『――紅さん。そちらの要請にこたえて全力出撃いきます。ですがそのあとは……大丈夫ですか?』

『陸上作戦(アーミーオペレーション)』の紅(くれない)。

『海上作戦(ネイビーオペレーション)』の喝(かち)。

『航空作戦(エアフォースオペレーション)』の菫(すみれ)。

『統合作戦(ジョイントオペレーション)』の縹(はなだ)。

この4人が学院傭兵軍第3軍団の将軍、提督たちといってよい。

最も陸戦においては常に紅が優位する仕掛けとなっており、今回陸海空全力を尽くす統合作戦の縹はそもそもこの戦いに参加していない。

第3軍団の本拠地である太平洋上の人工島でお留守番だ。

そうなれば必然的に、紅と菫の2人の共同という事になる。その菫は紅に対して厳しい口調で投げかける

 

『――はっきり言います。作戦機の損耗が激しすぎて、今回の攻勢でおそらく後方整備にすべての機体を預ける羽目になるかと』

航空作戦はこれが最後。あくまでも学院傭兵軍第3軍団が保持する飛行船力に限った話ではあるが、そういう事だ。

 

「……独立航空軍の方は?」  『――同じ学院傭兵軍といえど、あの連中が軍団兵指揮官の指示に聞いてくれると思う?』

「政府軍(クライアント)の方からは第2飛行師団から抽出した選抜飛行中隊を2個も飛ばしてくれるって言うのに、あいつら何もしないのか!!」

紅がいらだった言葉を叫ぶが、自分を落ち着けるために、水を飲み始める。

せっかく温存していた水筒の水を一滴残らず飲み干すと、そこには彼女のほほえみが残された。

紅蓮は……司令部要員の幕僚、紅蓮からみた紅はきれいな女の子だ。同時に自分では持てない重圧の中でも胸を張って仁王立ちする人物に見えている。

彼女の 本名は既に封印されている。紅という色の名前を自らに刻んだと時に自嘲する彼女の前髪は赤く染められている。本来の美しい黒髪はここ数日の戦闘行動や野戦の土埃によって見るかげないくらい薄汚れている。

黒髪の黒い色と、染め上げた赤い色、そして土埃と泥が髪を気色悪いマーブル模様の縮れたそれが、彼女の今の状態を象徴しているようだと、紅蓮には見えていた。

学院傭兵軍の4人の指揮官たちの2人は女で、残る2人は男だ。海戦の褐(かち)と統合の縹(はなだ)の2人が男。

つまり、学院傭兵軍第3軍団の全戦力を指揮するのは2人の女だ。紅(くれない)と菫(すみれ)。

そして、今、この場における指揮官は紅と菫の2人組。2人の女。

画面の向こう側の菫から見た紅は……久しぶりにきれいな女の表情をしていた。

 

「分かった。全部こちらで引き受ける。最後の全力出撃。お願いね」

そして、彼女は後ろに控える幕僚の面々へと向き直る。

 

「……政府軍の砲兵支援をさらに要請して。それから……出し惜しみ無し。私達も突撃するよ。ここで全部出し切れ!」

彼女たち、指揮官たちの鎧は既に準備されている。後はソレを着込むだけ。

 

「おいおい、誰が全部を統制するんだ!?」

幕僚の1人、紅蓮の言葉に――

 

「――――んな、事決まっているでしょ。総員で自分自身を統制する。それができる質を持ったいわゆる将兵が私達だと信じている」

んな無茶な。だが、やらなきゃいけない。そして、たぶんできる。ソレが自分たち。……単なるプライドだ。

折れそうな事実と現実。けれども自信だけはある。そして政府軍の作戦が成功に終われば確かに勝てる。

 

「「「Yes ma’am」」」

故に、はっきりと幕僚たちは答えた。腹をくくった。

 

一方、反乱軍……いや正統軍の方にも特別な動きがあった。

虎の子の兵器が稼働を始めていた。

 

「頼むよぉ……」

防護服を着けた軍人たちがコンソールを弄り、その長方形にエアクッション式推進機関が取り付けられたきわめて簡素なソレ。

サンドクラーケン専用運用支援プラットフォーム、『デザート・サルガッソー』。

正統軍にとって、サンドクラーケンは7機しかない虎の子の兵器。それ専用のある種のオプション兵器であるデザート・サルガッソーはたった2機だ。

正直こんなものに金を使わず、おとなしく王道の防空兵器に力を入れるべきであるという議論が正統軍指導層たちにあったことは事実だ。

だが、費用対効果の話が最終的に7機のサンドクラーケンと2機のデザート・サルガッソーへ行きつかせた。

長距離地対空ミサイル、中距離地対空ミサイル、短距離地対空ミサイルに近接防空システム、そして各種レーダー。

これらの品々を全部豊富に用意し、それらを運用出来る為のソフトシステムも構築し、兵站も整える。

こうした防空コンプレックスを整えた上で、航空戦力も整備する。

無理だ。政府軍なら可能だろう。だが、正統軍の財布には限度がある。航空戦力の整備に全力を注ぎたい。

なら、何かをあきらめるしか無い。けど、防空コンプレックスは欲しい。だって、相手は政府軍だ。

結論が7機のサンドクラーケンと2機のデザート・サルガッソーによる強引な防空コンプレックス構築。

むろんたった1機に集約したら危険なので、常に2~3機セットで稼働させてきた。

ゲノポスという激戦になる事が予想される場所には1機を予備機として、3機のサンドクラーケンを配備し、さらにはデザート・サルガッソー1機を配置した。

 

「そして、サンドクラーケンが残り1機。こいつが落とされたらもう終わり。絶対終わらせちゃいけない。頼むぜ……『砂漠の墓場(デザード・サルガッソー)』とやらよ」

機械はしゃべらない。だが、まるで任せろと言うように、けたたましい稼働音をかき鳴らしながらシステムが起動した。

役者はそろった。単独行動の馬鹿が知らないうちに、次の激闘が始まる。

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