どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争   作:ホエール

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9.

  9.

 思えばこのクソ女のせいで、大変な思いばかりさせられた。

ここで、こいつを――

 

「――火力と大火力で蹂躙しつくしてやる」

本来は滑空してせいぜい数キロほど一気にひとっ飛び程度の能力しか無いブースターウィングに支援ドローンの力とありったけの航空燃料をつぎ込んで無理矢理離陸した後に戦域から離脱するシステム。

だが、そのシステムによってようやく空に浮かび上がったアークラムの左足に絡まったワイヤーを通じて、カスタム・クラカジールも空を飛ぶ。

システムは重量警報をけたたましく鳴らす。

 

(――。――)

まずは30mm航空機関砲アヴェンジャーで排除を試みる。

だが、それよりも早く、敵の方が素早く銃口を向けてきた。

 

「――ッ!」

12.7mmの銃弾は見事にアヴェンジャーの機関部へとぶち当たる。

その瞬間、30mm航空機関砲という火力が封じられた。ただの重量物。置物。アレスのシステムが自動的にそれを排除しようとして――――翔はそれに一瞬だけ待ったをかけた。

そして、パージ。ただし、分離されたそれはただ、重力に沿って落ちるのではなく、クラカジールの方向へと落ちるように、飛んで行って

 

「っ」

「まじかよ、くそ野郎」

身をひねる最小限の動きだけで回避された。最もそれで終わらせるつもりは最初っからない。

分離の瞬間、捻るように横左に回転。くるりと回って、当然左足のワイヤーによってつながった敵クラカジールが振り回される。

翔としてはこの二段構えで叩き落すつもりだったが……

 

「うっ……ぉ」

甲高い金属音。警報のブザーが鳴り響き、頭が痛い。警報音をここ数分間いい加減聞き飽きたし、鼓膜の替えがほしいところだ。

セグメンタタの鋼鉄の左足。いや、左脚部というのがこの場合は正しいか。幸いにも人間の生身の足は入っていない場所に突き刺さる、高振動ブレードのナイフ。

人工筋肉と電磁硬化流体、そして衝撃吸収用スプリングと同じく衝撃吸収用ジェルが破損し、左足のダメージレポートに可能な限り、すぐにでも対処しなければならない問題として表示される。

ナイフを突き立て、自らをアークラムの左足から絶対に叩き落されないように対処された。

 

『――急ぎ、叩き落して! 重量制限オーバー。まもなく落ちます!』

アレスの警告。デジタルで一本線のような抑揚のない声ではなく、まるで人間を思い浮かべるはきはきとした警告音声。

アレスに音源素材を提供した人物はきっと歌手かそういう職業の人間なのだろう。

支援ドローンの90mmで排除を試みる。使い捨ての3連発。最後の1発。アークラムの左足ごと吹き飛ばすつもりで――――

         ――――防御斥力で、強引に耐えきる。

「ふざっ」

空中でそんなことされたら、着弾の反動を受け流せず、1回転してそのまま大地に突っ込む。

相手からすれば、90mmをぶっ放す翔の致命的ミスでしかないだろう。完全に揚力を喪失し、1秒と立たずに地面にたたきつけられた。

そして、相手はその隙を逃さない。頭から落ちる翔。これが鎧じゃなかったら死んでた。そんな鎧に突き立てられる高振動ブレード。

「チッィ!」  『――対応判定』

アレスが対応してくれなかったら、死んでた。背中に衝突し、その勢いや自らの推進力で強引にアークラムを大空へと押し上げていた支援ドローンが身をよじるように動いてかばってくれたのだ。

正直な話、翔は、アレスとかいう謎のシステムを信用できてはいない。何が、どこまでできて何ができないのか、いまだ判別できない上に、万が一があったときリカバリー出来ないという点がその原因だ。

翔にこんなわけのわからないシステムを最低限レベルであったとしても整備出来るスキルは何一つ持っていない。だから、信用できない。でもこの時ばかりは多少は信じてもいいかとぼんやりと思った。

 

ぼんやりしていいはずがない。

 

追撃。

アークラムの右脚部の警報。そのまま逆袈裟斬り。下から胴体へと――――

                                         ――衝撃。着弾の

 

同じころ、残った最後のサンドクラーケンのA.I,システムと管制官は複数の危険目標を感知した。すぐにその複数は2桁、3桁へと迫っていく。

あれは何か。決まっている。敵軍だ。正統軍の敵である政府軍の重装歩兵の滑空強襲だ。援護のために巡航ミサイルもおそらく混じっている。

それとは別に、敵の作戦機の数が増えた。あれだけ打撃を与えてもまだ作戦機を繰り出せる政府軍の体力にはもう驚くこともない。むしろあきれている。とはいえ、これは見過ごせない。

「新たな敵航空戦力が接近中。想定される作戦目標はサンドクラーケン3号機の撃破支援と航空優勢の長期的確保。迎撃プロトコルへ移行します」

「了承した。実行しろ」

管制官たちの下意上達、から始まり、時に上意下達で行われる作戦指示。

そして、サンドクラーケン運用支援用プラットフォーム、デザート・サルガッソーがその機能を開放する。

シエラ・ツー(S2)とシエラ・スリー(S3)。それぞれ、正統軍では3号機と1号機とされているそれ。つまりは破壊しなければならないのはシエラ・ワン(S1)とシエラ・フォー(S4)、それぞれ正統軍から6号機と7号機と呼ばれているもの。

「デザート・サルガッソーのナノマイト散布作業を一時中止。濃淡統御作業中…………。適正濃淡に到達。6号機及び7号機ともに、反応開始しました」

「……敵機の活動が上がってる。推奨反応度より下で構わん。やれ」  「……了解しました。7秒後に照射開始」

4……3……2、と、進むのはカウントダウン。

「1、照射します」

6号機と7号機、つまりS1(シエラ・ワン)とS4(シエラ・フォー)がそれぞれ対空レーザーを作戦機が飛来する方向へと伸ばす。

最も大気減衰がある以上、それらがエネルギー量を保つ限界高度というのはある。距離と高度は対空レーザーに対する最大の防御手段だ。

けれども何か変だ。空気がそれだけで変わっていく。そして――――

 

――――政府軍の作戦機、開発コードのPAK-FA(パクファ)という名前ばかりが有名になったSu-57 フェロンが空中で唐突に自爆した。

 

エンジン部分より出火、噴進ノズルから真っ赤な炎が噴き出し、一気に機体全部に火炎が広がっていく。

そして、一瞬で空中分解。

1機だけではなく、複数機体が次々と。それだけではなく、巡航ミサイルもだんだんとその高度を下げていく。目標に到達する前に落下しそうだ。サンドクラーケンとその運用支援プラットフォーム、デザート・サルガッソーという組み合わせは見事な前線防空コンプレックスの構築に到達した。

 

「翔! 無事か!」

だが、少しだけ遅かった。その前に政府軍はいくらか再展開に成功した。学院傭兵軍第3軍団や政府軍1個重装歩兵中隊が滑空強襲を成功させた。

そして、ロケットクラスターが重装歩兵突撃、滑空強襲成功とほぼ同時にアークラムや味方重装歩兵を含めた領域を無数の子弾が獄炎の暴風雨を作り出す。

パツキンテール……カスタム・クラカジールのアークラムに撃ち込む一撃は、その暴風雨と重装歩兵たちの着地着弾によって阻止される。

 

「ッ、」

獄炎と炎獄、熱波と衝撃波が渦巻く空間。数多くの砲弾やその他攻撃によって作られた月面のような穴ぼこの風景。すなわちクレーターが広がる状態。

パツキンテールと称された女が操るクラカジールは、いったんは、アークラムを葬ることをあきらめたようだった。何故、そうとわかるのか。

翔の目に映る映像は理解を超えていた。天空より降り注ぐ獄炎の暴風雨の中で、味方が自己防衛のために対ショック姿勢として、低姿勢をとる中、一瞬だけカスタム・クラカジールは仁王立ちする。

 

―― そして、獄炎の暴風雨の中で、彼女は鎧用拳銃と高振動ブレード片手に暴れまわった ――――

 

政府軍第9歩兵師団、重装歩兵選抜大隊第2中隊に属する彼の人物は見た。

IMFクラスターによる自己鋳造という敵性に合わせて最適解をオートぶつけてくる投下型小型爆弾。それが空中で制御された自爆を行い、その爆発を推進力として対象へと次々と向かっていく。

にもかかわらず、そのクラカジールは、ある弾の場合、振りかぶった高振動ブレードで叩いて軌道変更。最小限の防御斥力だけで爆撃から身を守り、劫火の槍が何本と突き刺さっていくその中を動き回る。

 

「化け物がぁああああああああ!!」

解き放たれたのは12.7mmの50口径。それはF.C.S.(射撃統制システム)によって補正され、本来ならば敵へと確実に向けられる銃口とスマート銃弾。

けれども、それらはクラカジールに当たらない、なぜならばほとんどパニックといってよい状態で引き金を引かれたからだ。FCSが敵をクラカジールを認識するよりも前に引かれた引き金。

そして、二度とその引き金は引かれることはない。せっかくの対ショック姿勢。それを解けば、味方の誤爆覚悟での突撃強襲とはいえ、限度はある。

 

「――ぁ」

ロケットクラスターのIMFクラスターによる自己鋳造弾は見事にそうやって動き回った味方をぶっ飛ばした。いかにスマート爆弾といえど、IFFを認識するレベルまでは行かなかったと言う事だ。

とはいえ、味方による誤爆覚悟での滑空強襲。万が一に備えて、対空防御の基本的なソフト的対処はしてあった。重装歩兵の防御システムは確かに、装甲板と人工筋肉に守られた内部の人間の命を守った。

一度は。

 

「パツキンテール……テメェはやっぱここで何が何でも……」

翔はつぶやく。それは高振動ブレード。彼女と戦おうとした政府軍の重装歩兵は鎧の一番装甲が薄い、脇腹から見事に一突きに。

劫火の槍で形作られた獄炎の暴風雨を耐え忍ぼうにも、どこの映画のスーパーエージェントだと言いたくなるレベルの近接戦闘能力で戦う金髪ツインテールの女が操るカスタム・クラカジールが襲い掛かってくる。

あちらこちらで上がる獄炎。にもかかわらず、平然と活動する。衝撃波でよく吹き飛んでいかないものだ。

 

「「「化け物め……」」」

誰もがそのワードを一つ、口にする。

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