どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争   作:ホエール

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10.

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「翔!」

投げられるのは、マルチ・アサルトライフルと弾薬ボックス。

鋼鉄の右腕がそれらを手に取り、それとは別に翔は鎧用手榴弾を左手で投げる。

あんな地雷原で華麗なタップダンスを踊りきるような……それ以上の大惨事の中で華麗なワルツを踊るクソ度胸と豪運とそれを可能とする近接化け物相手に、高々1発の手榴弾が通用するとは思っていない。

それでも投げるのは時間稼ぎ。

劫火の槍が降る暴風雨が一時停止する。飛んできたロケットクラスターが炸裂を終了してきたからだ。似たような行動をとるのは翔だけに限らない。

翔を含めてこの場にいるのは鎧を身に着けた歩兵、つまり重装歩兵が4人。

5人目の政府軍兵士は撃破された。実は6人目がいるが、着地に失敗していまだ活動状態に至っていない。

 

「必要以上に集結するな! 一つに固まれば、動けなくなるぞ!」  「んなことわかってる!」

もっと言えば、少し遠く離れたところにほかにも幾人か着弾しているが、こことは合流していない。空にはカタパルト射出してきた重装歩兵がまだ十数人ほどブースターウィングによる滑空強襲中だ。

篠山という学院傭兵軍第3軍団整備大隊に属する男が叫ぶ。一緒に固まるなと。打撃大隊に属する翔からすれば当たり前だが、整備大隊というどちらかといえば後方であれこれするのが基本の奴らと最前線で真っ先に殴り込む打撃大隊で、反応に違いがあるのは当然で――

 

「――どけ!」

翔が、とっさにライフルを投げる。せっかく受け取ったのに。

ワイヤーアンカーのボルトがライフルに突き刺さる。

 

「!?」  「――BLEN!」

パツキンテールの舌打ちが聞こえてきた。いや、おかしい。なぜ聞こえている。お互い装甲版に全身包まれ、クソうるさい戦争の轟音の中で。

 

『――電子攻撃中。できればレーザー通信機を相手の受信端末にしてください』

アレスの援護による何かか。最も翔は援護と称するお願いに無理だと叫びたい。

手榴弾が起爆。鉄片と衝撃波が襲い来る。だが、関係ない。

 

(――ド素人が。後ろ下がって適当にロケット弾でも山盛りぶっ飛ばしとけ)

パツキンテールと呼ばれた少女は内心そう思う。わざわざ甲冑白兵戦距離にまで出ておいて、やることが全部みみっちい。

21世紀に復活した現代の重装歩兵どうしの戦いというものは山盛りの火力を空陸一体で延々とぶつけてくるか、集団白兵戦によって勝敗を決めるの2つの手段しかないといわれている。

もちろん例外はたくさんあるし、対応する対セグメンタタ戦術も次々と生まれてきているが、基本的には圧倒的な火力でごり押しするか、集団で殴り合うかの2つだ。

そして、彼女は後者の専門家、つまりは殴り合いで敵のセグメンタタを叩き潰す方法を選んだ。

高々、1発程度のロケットクラスターが解き放つ子弾なんぞ、万の数を超えることはない。断じてない。つまりは圧倒的な火力でのごり押しとしては一歩足りない。

ならば、あとは純然たるふるまいと運だけだ。にもかかわらずビビッて対ショック姿勢で亀のように動かない。

弱い。クソすぎる。

「フラワーアレンジメントっ!! マクロワン!」

音声入力。両肩の長方形モジュールが稼働していく。そして、そこから2発、ロケット型の何かが射出される。

それは、円筒形の筒にも見えた。三角形にも見えるように三つの方向へと筒が割れて、それはちょっとした花びらにも見えた。

けれどもそれは花びらでは無い。割れたと言うが、厳密には装甲板が開いたというのが正しいのかもしれない。開いた装甲板から次々と飛び出す無数のワイヤーや導爆線。

全部含めて冒険物語に出てくる人食い花に見える。

無数のワイヤーが作り出す結界。

けれども、翔はどこか見覚えがあった。コレは、このカランドの戦場で、既に経験していて――――

                                 ――――結界の完成なぞ、絶対にさせない。

「全部叩き落せ!」

誰でもない自分に。自分を鼓舞するように。自分で自分自身に命令を下した。

それを聞いた他の連中も出来上がっていく結界を前に、やるべきことを理解した。

ロケットモジュールから吐き出されるワイヤーアンカーは大まかに2種類。1種類は先端がボルトの代物。2種類目は先端はもちろんあちらこちらにスラスターがついている代物。

無数のワイヤーアンカーを一つ一つたたき落とすことは無理がある。けれどもそれらをばらまいているのは2つのロケットモジュールだ。

それを撃破すればいい。

だが、敵もそれが分かっていたらしい。当然それはさせないと言わんばかりに大量のチャフとフレアを打ち上げると同時に2つのロケットモジュールは複雑な機動を描いて簡単には落とされぬように動き回る。

徐々に形成されていくワイヤーアンカーの牢獄。所詮はワイヤーだ。ワイヤーカッターなんか使わなくてもセグメンタタの力なら数本程度いくらでも引きちぎれる。真の問題はこの牢獄が起爆した瞬間である。

(間に合わない――!)

このままでは、いや、脱出に主軸を置くべきか?

『――マクロパターンを検出。迎撃開始』

アークラムのF.C.S.がロケットモジュールをロックオンに成功する。そのままネットワークを通じて今回のパターンの記録データが少しずつ共有されていくが、その前に翔が引き金を引いてロケットモジュールが撃破された。

12.7mmで迎撃に成功した。

そして――――

(――――あっ)

1人、カスタム・クラカジールによって殺されたのはロケットモジュールが落ちたのと同時だった。

ロケットモジュールの動きにばかり、注目しすぎた。殺されたと断言したのは、文字通り、串刺しにされる瞬間を見たからだ。

金属の高音。異音。高振動ブレードといえど、きれいに一瞬で色々断ち切れるわけでは無い。

それでも、1秒あれば鋼鉄の首筋から大地へと縫い付けるように上から薄い装甲板を貫いて人体を左右に寸断すること程度なら出来る。

「フラワーアレンジメントっ、マクロツー!」

さらに2つのロケットモジュールが追加。そして、追加前のロケットモジュールが落とされた。ワイヤーアンカーの結界は完成しなかった。

けれども追加の2機によって、結界とは違う物が形成される。すなわち、拘束。

鋼鉄の腕につかまれたライフルに巻き付くワイヤーと導爆線。慌てて、ライフルを捨てれば今度は鋼鉄の両腕と脚部に絡みついてくる。

そうやって動きを制限していく。ワイヤーを引きちぎろうと力を入れると――――

  ―― 導爆線が起爆。

腕や足が吹っ飛ばされた。胸糞悪いだるまが一つ出来上がり。幸いにも中の人間はかろうじて防御に成功し、吹っ飛ばされた四肢は一本だけ。

生命維持装置が全力で稼働し、命脈をつなぐ。

「ふらわーあれんじめ――」  「――ファイア!」

パツキンテールと翔のそれぞれの音声入力が同時時刻に重なる。

新たなロケットモジュールが2つ追加。同時にアークラム専用支援ドローンが最後の90mmをぶっ放した。

使い捨ての90mm滑腔砲が火を噴いて、ロケットモジュールが空に飛び上がりながらワイヤーアンカーを射出していく。

マクロ・ワン、爆轟鳥籠の作成。マクロ・ツー、対象となる四肢の拘束と殺傷。その2つのパターンしかないのか? その答えがこれだ。

2つのロケットモジュールのうち1つは90mmの砲弾が見事に吹き飛ばしてくれた。しかし残ったモジュールが解き放った無数のワイヤーアンカーと導爆線はまるで蜘蛛の巣のようにそのあたり一面に広がった。

最後の3発目をぶっ放した支援ドローンからすれば、3発使い捨ての滑腔砲は単なる邪魔者だ。

なので、それを分離する機能までついている。

『――ドロップ・ナウ』

蜘蛛の巣の構築を邪魔せんと、分離された滑腔砲のパーツが無数のワイヤーの結び目状の奴へと――――

――――蜘蛛の巣という表現はきわめて正しい。

そして、間違っている。蜘蛛の巣という表現より適切な言葉があった。

『地雷原』。

蜘蛛の巣の広がりを妨害するために落とされた滑腔砲。だが、それがワイヤーに触れたとたん、導爆線が絡みついて爆発した。

「性質は分かった」

良くない。独り言だ。それも強がりの。

けれど、翔の体は頭で考えるより先に動いていた。支援ドローンに司令。敵のロケットモジュールには力場を発揮するような機構は無い。

なら、物理法則を崩してやれ。ネットワークを通じて残る味方セグメンタタ全員が飛翔装甲を展開し引力や斥力と言った様々な力場をランダムに広域に広げた。

 

「……っ!?」

彼女は理解する。 気がつかれた。重力が狂った環境ではロケットは飛び立てない。仮に飛び立てたとしても1メートルが限界だろう。

何しろ、本来、重力を推進力だけで振り切ろうとするロケットはかなりの無茶をやらかしている。重力圏から離脱する宇宙ロケットともなれば、最終的には地球遠心力を利用することで何とか地球重力圏から離脱に成功している。

それを地上10メートル程度であろうと高度が自由自在で変幻自在の動きをさせるなんてかなり、高度な技術を必要とする。

『フラワーアレンジメント』という音声で起動する兵装名『フラワーアレンジメント』はコレで限定的ではあるが封じられ、その機能の大半が使い物にならなくなった。

最も

 

「馬鹿! はなれ――!」  「――ぁ?」

それで、彼女を止める事が出来るかどうかは全くもって別の話である。

飛翔装甲は本来、装甲防御が弱い脇腹を初めとする側面防御を主目標とした上で力場の細かな制御を実行するための設備。それを力場制御のために完全に開いていると言う事は、側面防御がクソだと言う事だ。

もちろん、やられる側もタダでやられるつもりは無かった。ライフルを盾にして敵の高振動ブレードを受け止める。どうせ1秒、長くても3秒でぶった切られるだろうが受け身に成功したという事実は変わらない。

そのまま、反撃しようと――――

――蹴り殺された。足の隠し剣、いや、脚部ユニットに隠されていた高振動ブレードの暗器が見事に右脇腹から中腹にかけて中の人間ごと切り裂いた。

いや、切り裂いたと言うよりたたき割った。

けれども、パツキンテールにとっても想定外は起きた。一つだけ。蹴り殺された。それでも蹴り殺された当人は必死に反応しようとしていた。反撃を。

 

「――あの馬鹿!」

鋼鉄の右腕と本来は対戦車ミサイルや対物ロケットを迎撃するための迎撃短針の左肩発射機が稼働した。

翔は正直に言って罵りたかった。整備大隊の鎌倉だ。あの馬鹿、反撃なんて考えずとにかく生き残る事を優先して逃げれば良かったのに、一瞬立ち向かった。だから出し抜かれた。それでも反撃しやがった。

だから、遺体すら、まともに、残らない。

カスタム・クラカジールの左腕にGN-11Bの鋼鉄の右腕が万力を持って握りしめている。迎撃短針がカスタム・クラカジールの頭部センサーの一つを破壊した。その代わり、12.7mmの弾幕がGN-11Bの上半身を吹っ飛ばした。

 

「アレス!!」  『――行動要求を確認。いかなる行動を?』

「遠ざけろ! 可能な限り、全員!」  『――不能。可能な範囲で実行。不満足結果になりますが』

「しるか、やれ!」

翔が何かやるよりも、アレスというシステムに音声入力で支持を出した方が早い。翔は意味不明な謎システムであるアレスをいつの間にか信じるようになっていた。

そして、まだ動き続けるアークラム支援ドローンが残った政府軍と学院傭兵軍第3軍団整備大隊の面々をぶん殴った。

 

「なっ、て――」  「――!」

そして、挙句の果てにワイヤーでひきづってその場から遠ざけようとする。それとは別に翔の飛翔装甲は引力を制御し、それを引っ張り出した。

アークラム専用ブースターウィングの装備品だったアヴェンジャー航空機関砲。

 

「お前らは邪魔だ! こいつはここで俺様がぶっ潰す!!! 宣言してやる! 俺は俺様だ! 俺様がこいつを火力と大火力で蹂躙しつくしてやる!」

翔という一人の、たった一人の総力戦が始まった。

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