どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
12.
少女の敵傭兵、すなわちパツキンテールなるよくわからない呼び名で呼ばれてる少女は愕然とした。
これまで相対してきた重装歩兵たち……甲冑兵士たち。
彼らは良くも悪くも『歩兵』の範疇で戦おうとしていた。
だが、こいつは違う。いくらなんでもこいつの戦い方は――――
(――喧嘩殺法すぎるッ!!)
燃料が、轟々と燃え広がっていく。サーモニックボム……燃料気化爆弾の燃料が周囲にふりまかれ、火炎放射器のそれが、次々と点火していく。
火炎放射兵装とドローンが振りまいた、燃料帰化爆弾にナパーム弾。
あの猛攻と劫火の中、生き残るのはさすがの彼女と言えども骨を折った。
戦術支援A.I.は即時撤退を推奨し、飛翔装甲可動部の致命的な破損を報告してくる。
そして、何より致命的なのは、温度だ。
燃え広がるのは戦場。セグメンタタの弱点。
『――即時撤退を進言。……最もソルジャーはそのつもりないですね』 「とう、ぜん。やっと追い詰めた」
アレスと翔の会話。低すぎるドミナートゥスの融点。そして、エネルギー効率の悪さ。
そこをついた兵器ともいえる火炎放射兵装に燃料帰化爆弾。
何しろ、マニュピレート・セグメンタタは陸戦無双兵器などとたたえられてはいるが、あくまで『歩兵兵器』の範疇に属するのだ。
むき出しの肉体を鎧の中に隠そうと、鎧は金属でしかない――! 金属の熱伝導率は……生体よりもはるかに高い!
轟々と燃える……〝それ〟。
業炎に苛まれる……大地。
劫火に炙る……〝なにもかも〟。
「音声認識、メッセージ『少し遅れる。爆撃に巻き込まれてる。遅くとも300秒でそちらに向かうので安心されたし』 送信」
翔が、すべてを焼き尽くす覚悟の中、パツキンテール呼ばわりされている、彼女のメッセージは正統軍(反乱軍)の所属部隊上官に伝わるだろう。
彼女としては本気を出していたつもりだった。けど、所詮つもりだった。そのことに気づかされた。だから
「ここで、殺す」
肉の焼けるにおい……コンクリートが焼ける咽るにおい……油が燃えて湧き上がる黒煙。
目に見えるすべてが鮮血すら何処が赤いのかと笑い飛ばしたくなるほどの光り輝く赤色!
どんな決意をしようと、一つだけ明確な事実だけは変えられない。
パツキンテールは一つだけ、苦悩していた。
このままでは脱出が大変になる。いつまで自分のセグメンタタが、クラカジールが持つかわからない。
冷却装置や放熱装置をフル回転させたところで、次から次へと大量の熱量が周囲から伝わってくれば意味はない。
そもそも冷却装置だって、動けば動くほど熱がこもるものだ。結局のところ、堂々巡り。
「――。――」
一呼吸で結論は出る。当然の結論――殺す。逃げる。合流する。簡単だ。
カスタム・クラカジールは、ロシア製第3世代セグメンタタ、クラカジールの改造型であり、搭載者たるパツキンテールに合わせて調整されたセグメンタタである。
そして、彼女の戦闘スタイルに合わせ、比較的白兵戦に偏った兵装バランスをしている。最も白兵戦を想定していないセグメンタタなどこの世に存在しない。彼女の場合、その比重がちょっと普通のそれより多いといったレベル。
そして、その〝ちょっと多い〟の部分において、白兵戦に移行した際、確実に撃破することを前提に動いている。
それが、――たとえば、足に仕込まれた高振動ブレードをはじめとする――各種ギミック。
ラリーサ・カーロリに戦いはそういった各種ギミックを使って倒す戦い方。ただ、銃剣で、銃口で、あるいは刀剣で、ただ手でもって戦うなんてことはしない。
故に、ラリーサはエーゴル・カラシニコフに銃剣をつけるだけ。
彼女にとってはそれだけで十分な白兵戦の用意である。今までは何だったのかという人はいるだろう。だが、彼女なりに反省した結果でもある。少々、ギミック頼み過ぎた。本来兵士がするべき戦い方をするべきだと。
「フラワーアレンジメント、モデル・ガーランドカウント30!」
音声認識。30秒後に自動稼働予約。
彼女が決意を固めている間に少しだけ、少しだけ、状況が変化していた。火炎放射兵装をまるで、炎の剣のように構えているバカがいた。
だからこそ、やるべきことは決まった。まずは、あの厄介な火炎放射器の噴射ノズルを撃破する。彼女はそのために飛び出しては――行かない。
何故、ノズルを見せびらかす必要がある? こっちへ来いという意思表示にしてあれは餌だ。私が食いつくと思っているからの行動だ。そう判断する。
何故ならば――彼女は一度戦った際、近接戦闘を積極的に行ったから。
彼女は、FCSを作動させる。狙いはただ一つ、奴を殺せるもの――――燃料タンク。火炎放射兵装のそれ。
むろん、相手も――翔も――そこが狙われることはセンサーが教えてくれる!
「アレス! 爆撃要請追加!」
翔は叫びながら、炎剣を振り下ろす。
ナフサ燃料をただ燃やしてるだけの単なる発火持続の火が空に軌跡を残しながら円を描き、そして本来の燃焼性能を発揮する。
一気にプラズマ化、ナパーム燃料と磁気流体力学的作用を反映させた磁気フィールドによって瞬間的な燃焼効率を極限にまで引き上げ、そこにフッ化重水素レーザーが照射された結果、大気と燃焼中の燃料そのものが高温を超えた熱量物質状態へと変化。
プラズマの軌跡をあたりにばらまきながら十数メートルの炎剣が空気ごと大地を切り裂くように振り下ろされた。
しかし、所詮は十数メートル。伸ばそうと思えば伸ばせるが、プラズマ化した熱量そのものはこれ以上伸ばせない。磁気フィールドの形成が続かない。
だから、これに重ねる。空飛ぶ政府軍作戦機とドローンは低空飛行と大量のミサイルと重砲の砲弾を伴って、いやそれらを盾に飛んできた。
それらの中の数機が空対地ミサイルや新たなる誘導爆弾を落下し始める。
『――投下(ドロップ・ナウ)』
こんな無様な航空作戦があってたまるか。学院傭兵軍第3軍団所属の作戦飛行隊に属する、TACネーム、ライダーはそう思った。
敵の大型戦術防空ドローンにおびえて、極低空飛行。しかも大量のミサイルや砲弾に紛れて飛ぶ。こんな無様な航空作戦はない。
政府軍が電子戦で敵を上回れば話は違うのだろうが、反乱軍の方がその方面は少し上手という事もあって、こんな無様な真似をするしかない。だが、もう少しでちょっとは改善されるだろう。
政府軍は圧倒的な物量と火力でこれを粉砕することを選んだ。その第1弾がまもなく機能する。いや、起爆する。
空中起爆型制空突撃用ナパーム複合大型クラスター弾。空で起爆して大量の子弾をばらまき、その子弾一つ一つが大型のナパーム弾であえて空中で爆発して空間ごと熱波で汚染することで、敵の対空射撃を妨害する。
力技だった。おまけに電子戦そのものを叩き潰すわけではないから、もって30秒程度の安全時間。されど30秒。
その間に作戦機と各種ミサイルと砲弾が突撃していく。
「「「がっ!」」」 『『『 な、なんだ!?』』』
わかっているはずの地上の面々も敵味方ともに圧倒的な爆轟と熱波と轟音に思わず身をすくめる。
最も、火力バカと白兵戦の鬼娘は違う。天空で生じるそんなものなど相手にしている暇はない。
「フラワーアレンジメント! リターン!」
無駄うちはしていられない。あのくそったれ火炎放射器、邪魔だ! ワイヤーは所詮ワイヤーだ。ワイヤーアクションという白兵戦における裏技を操る彼女と言えど、ワイヤーが燃えてしまうのを防げることは出来ない。
戦場での蛮用に耐えられる物として作られているし、だからこそ短い間であれば、カスタム・クラカジールの全重量を支えることが出来るような代物でもあるが、それだけだ。プラズマをところかまわずバラまくような異常な状況は想定されていない。
モデル・ガーランドと呼ばれる形態への発動時間のタイマーは止まっていない。あれは、白兵戦を得意とする彼女にとって、よくできたサポートシステムであったが、このような状況には似つかわしくない。
だが、あと十数秒で起動することを考えるとタイマーを止めるか、タイマー発動後も踏まえて1分以内にすべて片づける。彼女は2つの選択肢を前に少しだけ悩んでいた。体は動いている。どちらでもいい様に。
天空に無数の太陽が輝く戦場で、飛び回るようにEK-65の13.1mmの銃弾を向ける。それとは別に使い捨ての爆裂ダガーを投げる。
刺さったら爆発する使い捨ての投げナイフだ。
翔は、そのダガーを空気ごと燃焼させる勢いで、炎剣を振り回す。
『――燃焼効率が規定限度以下に下がっています。本来アサルト・ロケットアーセナル付属兵装であり、強引な運用であることをご理解願います』
爆発するよりも前にダガーがプラズマによって蒸発していく。そして、気が付く。ダガーの行先は全部――――
「 ――燃料タンクか」
仮に刺さらなかったとしても近くで近接信管で起爆、その勢いでタンクが破壊されれば終わり。恐ろしいくそったれのパツキンテールだ。
徐々に、パツキンテールが接近している。あたり一面火の海に変えてもどんどん距離が短くなる。
アレスのあれこれと言った警告なんて相手してられない。このままでは結局こっちが死ぬ。
だから――彼は躊躇しなかった――燃料の噴射ノズルを一切迷わず自分自身のそれ、燃料タンクへと向けた。
そして噴き出る炎。
「――馬鹿なッ!?」
理解不能。理解不能理解不可能理解不可能!!
直後、もう一つのノズルを取り出す――アークラム。ARAは翼を広げるように2本の火炎放射兵装を使用していた。
つまり、元々2つある。燃焼持続用のナフサ燃料がアークラムという鎧にまとわりつき、アークラムその物が燃え上がるように。
火炎放射器の噴射ノズル、その二刀流。業炎が、劫火がアークラム全体にまとわりつくように……!
「自分自身……火、纏う!?」
白かった、どこまでも白いカラーリングだったはずのアークラムが今、まさに灼熱の業炎の色に包まれる。
アークラムは火炎の魔神、イフリートを思い浮かばせるほど――全身が火に包まれていた。
そして、2本のノズルがまるで翼を思い浮かべるきれいな双翼の炎を吹き出す。
そして、ブースト。
小型の据え置きロケットモーターとジェットエンジンが稼働し、一気にクラカジールに接近してきた――――!
(――な、何を考えてッ!)
(俺様は、はっきり言って白兵戦何ぞ不得意だ! 〝『火力』で蹂躙出来ねえなら〟…………)
「よりでかい『大火力』でテメェが〝つぶれるまで〟ぶっ放し続けるだけだ――――」
――2本のノズルより噴き出る炎。いつそれがプラズマとなるか誰にも分からない。
銃剣の付いたライフルでは無く、つい、しまい込んだはずのフリントロックソードに持ち帰る。ライフルより、こっちの方がダメになったときのダメージが無い!
けれども持ち帰ると言う作業は光の速さで行えるわけでは無い。せいぜい1秒以下の世界。
「この、クレイジーモンキーっ!!」
パツキンテールは叫びながら、けれども自分からは距離をとらない。火に包まれている? 知ったことか、勝手に火だるまになってる馬鹿が居るだけだ。放射ノズルから出てくる炎ならいざ知らず単なる自爆だ。
驚いている。驚いてはいるが、その驚きに何時までも支配されている訳にはいかない。
けれども、驚愕して理解不能の世界に飛び込んでしまった事は事実。フリントロック・ソードに持ち替える時間をとってしまった。
翔にしてみれば、単純明快な話で、どうせナフサ燃料ごときの火焔など、すぐにでも爆撃やらなんやらの衝撃できれいに飛んでいく。
砲弾を扱うセグメンタタ分隊砲兵である彼からすれば知ってて当たり前の事だ。つまり、火だるまになったのは単純に相手を一瞬で構わないので接近阻止するため、タダそれだけの行動。
そして、それは、確かに結果を出した。持ち替える時間という名の。
『――今(ナウ)』
アレスがタイミングを報告。翔のアークラムの頭上に、アークラムめがけて出した爆撃要請の誘導爆弾が落ちながら起爆してきた。
起爆しながらもいくつかの子弾がアークラムから放出される誘導用レーザーによって、彼の頭上へとそれらは向かってくる!
そして、爆発。ただし、その爆発は制御された爆発で、一方向へと向かう先はただ一つ、カスタム・クラカジール。
ほぼ同時刻。2本の噴射ノズルからはき出される火焔がプラズマへと変貌し一気に大火力をたたき出す。向かう方向はクラカジール。
「うっそだろ。おい」
翔は、折れた1本のノズルから素早く離れる。と、同時に燃料の供給を強制停止させる。
二重の攻撃を回避された挙句、突き刺さったフリントロック・ソード。
それによって、折れたノズル。
むろん相手も無傷ではない。双方ともにぼろぼろだ。生命維持装置がさっきからうるさく警報をかき鳴らしている。
たぶんだが、全身やけどが少しずつ進行中だ。それにしても
「……燃え尽きるワイヤーなんて代物で、今のを回避するだと……?」
化け物にもほどがあるだろと。アレスは警告してくれなかったと、翔は唖然としながらも、右足を軸足として、回るように残る左手のノズルを剣として振り回す。
あれを回避する。その伏線というか、仮にアレスが気が付いていたとしてもその意味を理解していなかったのだろう。
地面に這うように伸びたワイヤー。その大部分は焼け溶けてダメになってしまっているが、いくつかは土がかぶせられてかろうじて生きている。
それを高速回転で巻き戻しながらの戦闘高速機動。ところどころ、摩擦やアンカーがちゃんと機能し、引っかかり、適度な減速や時に急激な方向転換を引き起こす。
それをもって瞬間的に回避し、そのままアークラムを切りつけた。とはいえ、さすがにパツキンテールも一撃で一刀両断するだけの余裕はなかったようで、ノズルを切りつけただけで限界。
使用した、フリントロック・ソードも失われた。ある意味で、翔はパツキンテールを追い詰めた。その代り翔はさらに追い詰められた。
「アレス! クラスター弾の誘導! 場所はこの場s――」
――おしゃべりしている余裕あるの?
そんな幻聴が聞こえる。果たして幻聴か。アレスの電子攻撃により、カスタム・クラカジールの無線系から彼女のつぶやき声を時折拾う事がある。最も彼女の側も支援ツールを動かして、こちらに電子攻撃を仕掛けているのだろうが。
そして、新たにクラスター爆弾が起爆し大空より降り注ぐ。
そんな中、2人は大勝負に出る。炎剣、すなわちノズルから噴き出るプラズマの刀身を構えるもの。無数のワイヤーアンカーをばらまきながら、大量のブースターが推進剤をばらまきながらフェンシングのような突きの動きでもって突撃するもの。
翔の勝負はただ一つ、プラズマの刀身を大地に突き立て、そのままマグマのようにドロドロに溶けた大地を斥力砲で始める水溜まりのように、吹き付ける!
そして、防御斥力をまとってそのまま突撃し、それをかまわず突破するカスタム・クラカジールと銃剣の装着されたEK-65 エーゴル・カラシニコフ。
パツキンテールはそのまま――
『――「閃光音響手榴弾(スタングレネード)」起爆、チャフ及びフレア、ECM最大出力』
閃光と専用の特殊な轟音、そして電子的攪乱攻撃を真正面から受けた。それだけじゃない。地面がドロドロに溶けるほどの熱量! 赤外線センサー系は使い物にならない!!
「いまだ! ありったけ落としやがれ!!」
翔の言葉がきっかけというわけではない。けれども、かなり強引な低空飛行でやってきた爆撃ドローンが次々と誘導爆弾を落とし始めた。
「クソッ――! 音響センサー! とにかく少しでもましな視覚、聴覚、を回復させないと!」
感覚の復旧。
しかし、熱量が、大量の熱量が――!
響き渡るブザー。まだ生きてるいくつかのレーダーセンサーが接近するものを感知する。
それは――大空より!
ドローンがそれを投下する。それはナパームとクラスター爆弾。
この時、投下された空中投下型自由落下クラスター ――CBU-24――に搭載された子弾は対人のBLU-26が640~740といった大量搭載された対人殺傷を目的としたもの――!
「音声認識! 『シェル・シェルター』!」
しかし、カスタム・クラカジールを操る彼女にはそれがわからない! 彼女がわかるのは身に迫る空からの刺客の存在のみ。
彼女はすぐさま、少しでも被弾面積を減らすべくわずかに残る瓦礫の壁に身を隠し、さらには背を低くしてから防御斥力を上部と弱点部位たる脇腹を守るべく横方面に展開する。
それとは別に発動する防御システム。使い捨ての流動体装甲を展開する。
そして――起爆。
約20万発にも及ぶ鋼鉄弾が飛び散り、防御斥力へと一瞬の圧力!
だが、
投下されたクラスター爆弾はそれ一発では無かった――!
―― 警告。危険地帯。脱出を ――
CBU-24が3発。約20万発が×3。
60万発の対人鋼鉄弾。
殺戮。虐殺。絶対に人がいる場所で使っちゃいけない惨状を引き起こすもの。
しかし、マニュピレート・セグメンタタは違う。防御斥力と装甲版が確実にそれから身を守る。
カスタム・クラカジールはそんなマニュピレート・セグメンタタの一つ。第3世代。
けれども、
「――おわっ――――」
――――終わっていない。3発で、終わり。所詮は対人クラスター。
でも、次がないわけじゃない。次は対物クラスター。
CBU-97――自己鋳造弾を大量発射するそれ。
センサーがクラカジールの赤外線パターンを感知し、それを撃破するべく空中でどんどん炸裂し、勢いを増して降り注ぐ!
そして――クラカジールの防御斥力は、丸い形、球体の形をしている――半球が軋みを上げる。
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-24
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-97
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-24
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-97
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-24
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-97
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-24
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-97
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-24
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-97
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-24
新たな対空目標の接近を検知。
それは、
CBU-97
「――たった一人を相手に!」
彼女の悲鳴のような叫び。
ただ一つ、助かったといえばいいのか、それとも……いくつかのクラスター爆弾はパラシュートが付けられ、あえて『低速』で落とされているようだ。
そして、浮かび上がる『脱出経路』。
しかし
(こんな時に浮き上がる脱出路なんて――――)
罠に決まっている。
だったら――――
(――食い破ってやる)
どうせ、現状では秒読みの命だ。クラカジールの全性能、そして自らの全技能のすべてをつぎ込んで罠を食い破る!
走り出す。残り少ない燃料をぶち込み、ブースターが稼働する。
ジェット燃料が燃焼し、噴進の炎が噴き出る。もともとは衝撃吸収用のスプリング――バネ――が躍動し、大地を蹴り飛ばす!
赤く燃え始めるいくつかの部位。熱量に……装甲が――解け始めている――――ッ!
そして、脱出先――と言っても十数メートル離れた程度にて。
「――に……も……なかった?」
何もない。そして――――
自分の逃げてきた方向から飛んでくる……12.7mmの50口径ライフル弾。
「馬鹿かよ、テメェ一人にいくらなんでもぶち込みすぎだ。コスパ悪くて、正規軍が取れる戦術かよ」
そして、落ちる……CBU-24やCBU-97だった……がらんどうの金属樽。いや、それに形を似せただけだ。
中には、ドラム缶さえある。弾薬不足の苦肉の策。翔がかつて口走ったそれ。
12.7mmの無数の銃弾が、クラカジールの弱弱しい防御斥力を貫いた。
被弾。
――被弾。
――――被弾!!
50口径というものは、たいていの安い装甲版なら問題なく貫けるし、場合によっては大戦期の戦車の撃破も可能なものだ。
セグメンタタの装甲版は人間にかぶせる以上、その性能には限界ラインがある。
至近距離から装甲の薄い個所に、大量の数の小銃弾をぶつければ貫通しないこともない。
ライフル弾を確実にどんな状況下でも防ぎ、セグメンタタの戦闘駆動・戦場機動を邪魔しない軽量素材。1発どころか10発、そして100発確実に防ぐ軽量素材で安く大量生産できる。
そんな都合のいい素材、簡単には開発出来ないし、まだない。
故に――セグメンタタとはその程度の兵器である。斥力とその激しい瞬間機動力でもって陸戦無双兵器と呼ばれているだけで、それだけの存在でしかない。
50口径を1発程度ならいざ知らず何発も防ぐ能力はない。
(――装甲が熔けている)
あたりかまわず大量のプラズマをばらまき、それだけには飽き足らず無数のナパーム弾やクラスター弾などが降り注ぐ場所で、アルミより沸点の低いドミナートゥスという素材を混ぜ込んだ装甲版が持つはずがなかった。
―― フラワーアレンジメント、モジュール2号機に問題発生。熱暴走を感知 ――――
つまるところ、今なら、貫通する。穴あきチーズにされる。穴あきチーズに出来る! 好き放題!
50口径を1発耐えることは出来た。2度目はない。
ぐつぐつ煮えた鍋のジャガイモ。ちゃんと素材に……料理の食材に熱が通ったかどうか、くしで刺して確かめるがごとく! いとも簡単に! 穴だらけの、ハチの巣に出来る――!
そして、死亡確認がなされる!
(冗談じゃ無い!)
心理の世界で、逆転は発生していた。追い詰めていたはずの、少女が、格下の少年に追い詰められている。
一瞬の判断ミス。彼女は次の罠を警戒するべきだった。しかし、これ以上時間をかけてはならないと、焦ってしまった。
弾丸を回避する為の最小の動き以外は、一直線の動き。アークラムを確実に殺すための突撃。
――――銃撃しろよ馬鹿。
翔はそう思った。ノズルから吹き出る炎が収束していき、プラズマへと変貌していく。当然、火炎放射器を炎の剣に見立てた斬撃での迎撃。
尤も対応は間に合わないだろ。この近接バカには。故に翔の本命は別。
けれども、本命が別なのは近接バカも同じだ。
『――対応、迎撃』
アレスの自動対応。翔は気づいていないが、無数のワイヤーアンカーがアークラムめがけて動いていた。スラスターを吹きながらうごめくアンカーの数は8本。
灼熱の中、それでもワイヤーをもって攻撃してくるのは、ある意味で、追い詰められているから。それでも効果ありと判断しただけの事はあり、アレスはそちらの対応で翔へのサポートが一瞬薄くなる。
演算資源の問題では無い。単純な手数の問題。
けれども、翔にしてみれば知ったことか。ここで、終わらせてやる。プラズマ化した火焔。これで、決着が付くのなら――――――
――ノズルから吹き出る炎がプラズマへと収束され、だが、パツキンテールをこの世から消滅させるより、早くに彼女が懐に入って、そして彼女の本命第2弾と翔の本命が同時に炸裂する。
彼女の本命は、『赤外線併用高周波方式大型閃光音響手榴弾(フィルタリングブレイク・スタングレネード)』。マニュピレート・セグメンタタの保護フィルターを貫通して中の人間、或いはセンサー系統に問題を生じさせる事を狙いとしている電子兵装。
それは、一撃の下に翔を一刀両断するという選択肢に固執せず、何が何でも殺すのだと言う彼女の殺意権化。
「――――」
センサー系統に異常発生、網膜が焼けて視界がろくに通じなくなる。体内の金属骨格部分より再生処理用薬剤が散布開始。
アークラムの最新のセキュリティシステムが作動して、次が内容に学習を開始して、ループ状態に陥る。テスト段階の最新兵器にありがちなバグ。
しかし、それとは別にカスタム・クラカジールのセンサー系が突如、異音をかき鳴らし、フィルタリングが視界を奪う!
双方の電子攻撃! 双方の視界は奪われる!
そして、天空からの衝撃波。翔の本命。それは、巨大なおもり。爆弾と言うより重量による物。誘導爆弾だが、最低限の誘導機能だけのコンクリの塊。
そして、横からの無数の刺突。彼女の本命。アンカー。
そして、そして、そして。
「げっぼ」 『――呼吸器に血が侵入しています。薬剤D7を投与します』
アンカーのいくつかは火炎放射器のプラズマでそのまま消し炭に変えた。だが、それは片側でもう片側は、ライフルとタダでさえボロボロだった飛翔装甲を完全に犠牲にして何とか生き残った。
パツキンテールもまた、生き残った。彼女はとっさにメインシステムを手動で強制終了するレバーを引いて、サブシステムに切り替えた。
サブシステムは警告する。コレは緊急時のシステムであり、正しい物では無い。即時撤退を推奨すると。
とはいえ、慣性の法則までは殺せない。彼女の体はちゃんと動いて、翔のアークラムを土台に高く飛び上がって衝撃波をギリギリで回避した。
事実上目が見えないのに。そうやって浮き上がった体を、目が見えないままに着地するわけにはいかない。
ワイヤーアンカーを新たに射出して、アークラムの背面部位に突き刺さる。アークラムのセンサー系統が金切り声を上げる。
そして、タダでさえ、溶けただれていたアークラムの背面装甲板が破損していく。
―― エラー。直ちに撤退を推奨 ――
カスタム・クラカジールの戦術支援A.I.は警告文を次々と表示していく。うるさい、邪魔だ。
彼女は最後の行動に移る。足の隠された高振動ブレードをもって最後の攻撃、これで決着だ。
そして、頭上で新たな爆轟。クラスター爆弾とナパーム弾が降り注ごうと天空の空気を汚しながら迫る。
火炎放射器のプラズマの出力が上がり、空気ごと、辺り一面を灼熱の業炎の空間に作り上げていく。炎熱地獄の現出。
ついには普通の7.62mmライフル弾の1発が勝手に暴発し始める。今は1発で済んでいるが、長引くとどうなるか。
だが、2人には関係ない。彼らは暴発し始めた弾薬に気づいていない。次の一撃で決めようとお互い動いているが、いかんせん攻撃しようとした場所がずれていた!
双方ともに空振り!
「「センサーが!」」 『――センサー系統、オーバーヒート。異常状況、放熱冷却不能』
―― 危険。直ちに脱出を ――
そして、EK-65 エーゴル=カラシニコフの銃剣が突き刺さる。アークラムの正面装甲版に!
ただし、翔は、その装甲版を厳密には身にまとっていない。あの時と同じだ。正面装甲版を開いて、その装甲版を盾とする。
ゆえに、人間はむき出しになる。銃剣が突き刺さったのは盾となった装甲版だけ。
肌が焼ける。おそらく今、息をしたら肺が焼ける。そんな環境で、翔はむき出しの世界を生きていた。そして手を伸ばす。
目の前に落ちてくるように地面に足をつけるカスタム・クラカジールへ。彼の動きをトレースするように本来は、装備品をストックする補助椀がクラカジールの緊急強制除装レバーが納められたボックスをぶん殴り壊す。
すぐさま、彼女は行動しようとして、後頭部に打撃。クラカジールが関節調整作業を開始し始める。
「な、に、が?」
アークラムの電子攻撃。クラカジールのサブシステムは無理矢理再起動プロセスへ。
そして、翔は銃剣を投げるように抜いて再び装甲版を閉めた。降り注ぐのはナパームとクラスター爆弾を模したがらんどうやドラム缶の直撃。
数えれば、せいぜい長くても2秒程度。パツキンテールは、動けない。がらんどうの中には水が、注がれている物もあって!
小さな水蒸気爆発を次々と! それだけじゃない。装甲板が急激な温度変化で割れようと! 金属が奇妙な音を立てて!
そして、緊急強制除装レバーが引かれ、カスタム・クラカジールの正面装甲版が開かれた。
「……」 「……」
お互い語るようなことはない。アークラムの鋼鉄の腕が彼女をつまみあげるようにつかむ。
肉が焼けただれる匂いが周囲に充満するが、アークラムのフィルターが匂いを通さないから翔は気づかない。彼女は彼女で、肺を焼くと分かっている空気を不用意に吸い込んだりしない。
彼女はなぜこうなったのかを考える。火炎放射器がすべての元凶か、それとも爆撃か。いや違う。
(全部――本命だったのか)
火炎放射器も、爆撃も、電子攻撃も、白兵戦も、衝撃波も、熱波も、ありとあらゆる攻撃が
「やっと通った」
全部、囮。次を通すための。
全部、本命。確実に仕留めるため。
「名前、なんていうんだ?」
翔はやっと、無力化した少女に聞く。彼女は小さな声で答える。
「ラリーサ、ラリーサ・カーロリ」
死闘を繰り広げた者たちだから思わず通じてしまう何かがある。
「森野・J・翔。ヤポーシュカだ。どれが名前かわかるな? というわけで、ラリーサ、頑張って生きろ」
そして、火炎放射器が作り上げた地獄の業火のど真ん中で、アークラムはその両手に掴む細い体の少女をまるで砲丸投げの様にぶん投げた――。
投げ終わった、アークラムはその瞬間いくつかの機能が停止していく。
そもそも
「……騙し騙しだったからな」
クラカジールを蝕んだ火炎放射器の大熱量。それはそれを扱うアークラムにこそ大打撃を与えていた。
それでもなお、クラカジールのようにはならなかったのは、理由が二つ。
一つは、扱う側だったからだ。だから受け流すためにあれこれ考える材料が多かった。
二つ目は、単純にアークラムのほうが最新鋭のハイテク兵器だった……というだけの話。
もとより大熱量を扱う癖に大熱量に弱いマニュピレート・セグメンタタというハイテク兵器。冷却や放熱の仕組みは常に新しく、そして強力なものが常に考えられている。
それでも、電子回路など、熱に弱い部分はダメージを食らう。
直接火炎を扱う側なのだから。
……それ以前に、あの白兵戦の鬼女相手にそれだけで通じる相手ではない。
いくら鉄量をぶつけようとしてもぶつける前の段階で撃破されてしまえばどうすることも出来ない。だから……
「近づく――」 『――了承しました』
アレスの声。
アークラムはクラカジールに近づいて――――