どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
エピローグ
カランド紛争決勝戦プログラム 暫定報告書
(中略)
本プラグラムにおいて、鹵獲されたいくつかの新兵器の取り扱いは、世界的企業連合最高経営理事会の判断に任せるものとする。
ただし、保管については今しばらく学院傭兵軍第3軍団が所持する事とする。
なお、新兵器の運用当事者については、新たに調整方式の変更を行い、新兵器運用研究個体として使用する事を前提に取り扱う者とする。
(中略)
政府軍は最終的に勝利を収めたので、依頼を完遂したと見なす。
最も独立派が国土の3割を占領するという事態は想定外であり、これより国際和平調停委員会の元、勝利者である政府軍によるこれからのカランドが決まる物と判断される。
同時に、反乱軍の中核戦力となる7個師団が隣国に脱出するという事態は新たな紛争の火種になると考えられており、隣国の5つ巴の紛争に新たな勢力が加わるのかそれともカランドを虎視眈々と狙う危険な隣国が成立するのかはこれからの経過観察次第の判断となる。
省略。
日本列島から200キロほど離れた洋上の太平洋沖人工島にて。
ティルトローター航空機が駐機している。そこに向かって歩く1人の少年。
その少年は所々包帯らしき物がまかれ、足には明らかに補助用の外部義足と思われる物が付いている。
負傷兵……ではない。ココは戦闘地域では無いから。とはいえ傷病兵の一種という表現なら適切かもしれない。少年の背中にはライフルが背負われているからだ。
少年兵はしきりに周りを気にしている。警戒している。
「ま、まだか?」 「まぁ、待てよ。手続きが遅れてるみたいなんだ。これを抜かして飛び上がってみろ、とたんにSAM祭だぞ」
少年――翔――は焦っていた。
まずい。このままでは、急ぎ逃亡を図らなくてはならない。なぁに、カランド紛争の激戦開けで1週間ほど訓練や授業は休みとなっている。
2泊3日の旅行という何の逃亡生活に出ても誰も困らない。そう、困るはずが無い。
とりあえず温泉にでも行こうかとか、新しい物を仕入れるか、とか色々と考えていたら、何故か聞こえてくるのはサイレンの音。
『――森野・J・翔! 出てきなさい!! 何故、弾丸の消費料金が相場より2%も上なのか話が聞きたい!! そして、何故冷凍コンテナの一つが巨大なアイスクリーム兼ラムネ製造器になっているのか聞きたい!! そして、それで昨日大変大変儲けたという話を周りにしていたとか言う話について!』
紅の叫び声だ。
「あの馬鹿はどこだぁぁああああ!!」
次に戦闘工兵ひよりの声がする。彼女には後でおごってやると称して手伝ってもらったが、状況が状況だ。悪いが今は彼女への感謝の行動より逃亡を優先させてもらおう。まぁ、そのうち彼女にも捜査の手がくるだろうが、その辺は大丈夫。たぶん、メイビー。
だというのに、手続きがどうたらで、なかなかこの学院傭兵軍第3軍団の本拠地である、太平洋沖の人工島から脱出出来ない。
「おし、手続き終了だ! 5分後に出るぞ! 乗れ!」 「5分後言わずに、今すぐ出ろや!」
そう叫びつつ、荷物を運び込む。ナップザック1つにキャスターバッグ1つ。
ライフルは自衛用だ。自衛のためにライフルを持ち歩くのが時代と世界の平和という言葉のなさを表している。
そして、当然、今にも飛び立とうとしているティルトローター航空機は、すっごく目立つわけで。
「「「みつけたぁっぁああああああ!!」」」 「げっ! 早く出せ! 俺様があいつらに捕まっても良いのか!?」
「あん? ……女の子が多めじゃ無いか。おまえさんモテモテだなぁ」 「いいからでろぉおおおお!」
「はい? よく知らないが、見送りだろ? 別に」
翔が捕まるまで残り十数秒。
全世界の86%が泥沼化した紛争地帯。残った14%も大国が軍事力で押さえつけているだけ。
倫理のタガはとっくに外れ、人類は戦後処理に失敗した。
そんな世界でも、人は案外たくましく、そしてバカバカしい事を繰り広げながら生きている。
雑魚にはイキるが、強敵相手には普通に苦戦するくせに、無駄にナルシストに一人称俺様という単語を使う火力馬鹿な少年傭兵ももまた。
どこまでも、俺様を名乗って、自分の人生の主義に従って生きている。どこまでも俺様主義で生きている。