超融合! 次元を越えたベジータ 作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)
エイジ795──宇宙は、消滅の危機に瀕していた。
「むぅ……これは……」
界王神界。あの世も含めた宇宙の秩序を保つ神の聖域では、未だかつてない光景を映した水晶玉を神妙な顔で見つめている老界王神とキビト神の姿があった。
「宇宙が……萎んでいる……?」
水晶玉が映しているのは、遠く離れた銀河の一部分だ。
本来ならばそこで無数の星々が煌いている限りなく広い筈の宇宙は今、光を超える速さで消滅に向かっていた。
それは創造を司る二人の界王神がここに居る限り決して起こり得ない現象であり、キビト神は信じられない光景だと激しく狼狽える。
しかし、信じがたくともれっきとした事実であった。今しがた水晶玉が映している宇宙は現在、端から端に向かって急速で萎み続けている。このペースで萎み続ければあと数か月……一か月もすれば宇宙の全てが消え去るだろう。
自然発生では起こり得ないその現象は、明らかに外的な要因が隠されていると見て間違いない光景であり、何が何でも迅速に手を打たなければならない案件だった。
「な、なんということだ……!」
「嘆いている暇があったら原因をさがせい! むう、わしにもさっぱりわからん……」
宇宙が消滅に向かっているこの状況は、ドラゴンボールから七体の邪悪龍が誕生した五年前の出来事とも似ている。しかし、原因すらもわからないのはかつての事件よりも質が悪かった。
老界王神に叱咤されたキビト神は、不審な点を探るべく目を凝らして水晶玉の映像を見つめる。
それは一見無駄な行動に見えるかもしれないが、この時、彼は確かに気づいた。
「!? あれは……!」
急速で消滅に向かっている銀河の一端──太陽系から遥かに離れた遠い宇宙から、彗星のように疾走していく一筋の光が見えた。
同様にそれに気づいた老界王神が水晶玉の映像を拡大し、光の正体に焦点を当てて探る。
その瞬間、キビト神と老界王神の喉から二人同時に息を呑む音が聴こえた。
──光の正体は彗星ではなく、銀河を泳ぐ青色の龍だったのだ。
それも、二人にとって見覚えのある
色こそ違うが、その姿も形も彼らの記憶にある「あの龍」と完全に一致していた。それは間違いなく、五年前に七つの玉と共にこの宇宙から消えた筈の存在だった。
「
宇宙の海の中で青い龍は咆哮を上げ、瞬間移動の如き速さで北の銀河へと消えていく。
宇宙の消滅と龍の出現──それが二つの「次元」を巻き込んだ、神の世界さえも揺るがす大事件の幕開けだった。
【 ドラゴンボール
VS
ドラゴンボール
~ 超融合! 次元を越えた
五年──という年月は、振り返ってみるとパンにとっては長い時間だったと思う。
孫悟空……誰よりも強く、尊敬していた祖父の戦いによってこの宇宙が救われたのが、今から丁度五年前の出来事だ。
彼が戦いの後、神龍に乗ってどこかへ飛び去っていったあの時のことは、今でも忘れてはいない。
……忘れることなど、出来る筈が無かった。
彼の消失以来パンの心にぽっかりと空いた穴は、五年程度の時間で埋められるものではなかったのだから。
自身の部屋に飾ってある、パンがまだ幼い頃、海水浴場で撮ってもらった一枚の集合写真に目を映す。それはパンが今でも大切に保管している大切な宝物の一つであり、彼女にとって最も楽しかった過去の象徴でもあった。
「パンちゃん、そろそろ出掛けるわよ」
「はーい」
部屋の外から母のビーデルに呼び掛けられたパンはその写真から目を離すと返事を返し、真新しい上着に腕を通して外出の準備をする。露出の少ない春物のトップスと落ち着き払った膝丈のスカートを身に纏う姿は、腰まで下ろした黒髪も相まって清楚な様相を呈しており、我ながらへそ出しルックで活発だった五年前の自分とは随分変わったものだと鏡を見て思う。
……尤もパン自身、あえて意識して変えているという節もあったが、今の自分が別段無理をしているつもりは無かった。
「行ってきます、悟空おじいちゃん」
鏡を見ながら身支度を整えたパンは、再び宝物の写真に目を移して微笑みを浮かべる。外出する時はこの世界に居ない祖父を想いながら一声掛けるのは、彼女の中では自然と習慣になっていた。
今のパンは十五歳だ。来月からはかつて両親が通学していたオレンジスターハイスクールに入学する高校生になり、過ぎた年月の分だけ身も心も相応に成長していた。その過程でかかつて我が儘だった性格も幾分か丸みを帯び、無断で宇宙船に乗り込むような無茶な行動はなりを潜めている。
しかし今は思春期の真っ只中ということもあり、幼い頃の彼女とは別の意味で両親──特に父悟飯を困らせることがあった。
「あれ、今日はパパも来てたんだ」
「あ、うん。今日は僕も休みだったからね」
「ふーん……」
十五の少女が暮らしている家庭なら、割とよくある父親との微妙な距離感である。
別段パンは父の悟飯のことは嫌ってはいないし、寧ろ尊敬していると言ってもいいだろう。ただ最近は、パンは受験勉強、悟飯は仕事とでお互いに忙しく、思うようにスキンシップが取れていなかったのだ。今日はそんな父娘を気遣ってか、母のビーデルが家族三人で揃って買い物や外食にでも出掛けようと提案したのである。その際には祖母のチチも誘ったようだが、「今日は親子水入らずで行ってくるといいだ」と気を遣ってくれたらしい。夫が居なくなっても尚、パンの祖母は変わらず強い人間だった。
そうしてパン達親子は、三人の標準装備である舞空術でパオズ山の自宅から飛び立つ。向かう先は山から離れた都会の町、サタンシティのショッピング街だった。
そこで久しぶりに行った買い物や親子水入らずの外食は、パンにとっても楽しい時間だった。
父から学者の仕事のことを聞くのも、パン自身が内に抱えていた高校生活への思いを語るのも、思いの外有意義なものだったと思う。
会話の中で両親に「そう言えば二人はどんな高校生だったの?」と二人の高校生活のことを聞けば父母の馴初めやのろけ話などに発展し少々鬱陶しくもあったが……それはともかくとして高校は色々な人との出会いの場でもあるから学ぶことだけじゃなく、色々楽しんできなさいというありがたいお言葉も貰えた。
実際、二人は自分達の高校生活のことを楽しそうに語っていた為、パンも割と高校での生活が楽しみにしていたのだ。
幾分か会話が落ち着いた頃だろうか。そんなパンに向かって、悟飯からこんな言葉を掛けられた。
「……あのさ、無理に変わることはないんじゃないかって思うんだ、パパは」
その切り出し方は唐突で、第三者からしてみれば要領を得ないもので。
しかしそれだけでも、当事者であるパンには父が何のことを話しているのかはすぐに伝わる話だった。
それでも白を切るように、パンは彼に聞き返した。
「……何のこと?」
「最近のパンのことは、僕も気になっててね」
「何か悪いことした?」
「いや、そういうことじゃないんだ。最近のパンは本当にいい子にしているし、ママからも助かってるって聞いてるよ。だけど、そのことなんだ」
パンは何も悪いことをしていないし、幼い頃ほど二人に迷惑を掛けたことはない。
近頃のパンの落ち着きぶりは見た目の変化からしてもすぐにわかることだと続けて、悟飯は娘の成長を喜ぶ。だがそれと同時に、少しだけ違和感を感じるのだと言った。
「お爺ちゃんが居なくなってから、パンが色々頑張っているのはよくわかってる。たくさん勉強して、試験も良い点数だったみたいだしね」
薄く笑みながら語る悟飯の表情は、娘のことを気遣う様子が見て取れる。そんな彼は、真っ直ぐ娘の目を見据えて質問を投げかけた。
「パンは、勉強は好きかい?」
「……うん、思っていたより嫌いじゃないわ」
「じゃあ、武道は好き?」
「…………」
本題はやはりそのことかと、パンはどう答えるべきか考えながら、しばし目を閉じる。
父が心の底から、自分のことを想ってくれているのははっきりとわかる。
今の自分が変わろうとしている様子は最近仕事で忙しい父の方とてよく見ていたようで、気に掛けてもらえること自体は非常に嬉しいのだが、同時に今のパンにはほんの少しだけ煩わしかった。
悟飯はそんなパンの胸中を察したのか、あえて答えを待たず、苦笑を浮かべながら言った。
「うん、いいんだ。答えられなくても。パンが武道をやめた理由は前にも聞いたし、僕も納得してるから。ただ本当はやめたくなかったんなら、無理をしなくていいんだって言いたかったんだ。やっぱり若い頃は、一番好きなことを頑張るのが一番だから」
五年──この時間の中でパンの心境に起こった変化は、決して小さなものではない。
その一つが、虚空に対してでさえ自らの拳を振るうことを一切しなくなったことであろう。
──パンは、武道をやめていた。
そうなったのは、今から四年前のことだ。祖父の孫悟空が神龍に乗って何処かへと消えてから丁度一年が過ぎたある日、パンはそれまで真剣に打ち込んでいた修行を──武道をしなくなった。
元々頻繁に町に出掛けたりと、地球人寄りの感性を持ちどこか普通の少女を目指していた節もあったパンだが、その日を境に完全に武道への興味を失ったかのように振舞い始めたのだ。
優れた戦士の子供とは言え、武道を嗜んでいないマーロンやブラなどという例もある。女子であることを鑑みれば、その方が自然なぐらいであろう。故にパンもまた彼女らのように戦わなくなることは十分に考えられることではあったが──いかんせん、そんなパンの様子が周りには不自然に見えたようだ。
孫悟空が居なくなってから間もない頃のパンは、「今度は私が地球を守る!」と誰よりも真剣に、本気で修行に励んでいたのだから。
しかしパンからしてみれば、熱心に修行していたその時間こそが武道をやめる決め手だった。
「……
自分がお爺ちゃんの代わりに──そう思い、当時は必死に強くなろうと励んだ。
しかしそれだけに気づいてしまったのだ。クオーターでサイヤ人の血が薄い自分には、祖父や父のような黄金の戦士になれないことに。
叔父の悟天や、隙を見てトランクスにコツを教わろうとしたこともある。それでも駄目だった時は、あのベジータにも教わりに行ったほどだ。
それでも変身することが出来ず、いつまでも変身出来ない自分自身への怒りもまた本来なら変身へのトリガーになる筈の激しいものであったが……それでも、パンの髪は光の色に染まらなかった。
十分な戦闘力を持っていて、無益な戦いを望まない穏やかな心を持ち、激しい怒りを抱いた。それだけの条件を揃えていながらも変身が出来ないということは、つまりそういうことなのだ。
クオーターである自分には魔人以外の地球人を超える戦闘力はあっても、父悟飯や祖父悟空のようなサイヤ人としての特別な力は無い。あまりにも無情な現実に、パンは気づいてしまった。
それが事実だとしても、修行を続けること自体は間違いではなかったのだろう。超サイヤ人ほどではなくとも、少しずつ強くなっていけばそれ自体に間違いなく意味はあるのだから。
しかし、パンは祖父が守ってくれたこの星を守ることに、妥協をしたくなかったのだ。
故にパンは、自分自身で「中途半端」だと思い知った自らの力に満足することが出来なかった。
ならばと、パンは身近に居る天才科学者の存在を脳裏に浮かべて考えた。悲嘆に暮れている時間すら惜しかったパンは、地球を守る優秀な戦士になれないのなら、他の方向から地球を守っていこうと──そう切り替えたのだ。
パンにとっては自分自身が強くなることよりも、祖父が守った地球の平和を守ることが大事だったのである。
「もしまた地球が大変なことになっても、地球には私よりずっと強い悟天おじさんやウーブが居る。だったら私は、修行なんかしているよりもブルマさんやトランクスみたいな科学者を目指した方がいいって思ったのよ」
平和を守る戦いに役立つのは、修行で鍛えた身体だけではない。なまじパンは幼い頃から学者の父親や大企業の社長をやっている友人らの姿を見て育ってきただけに、その視野は歳不相応に広かった。戦うだけが平和を守る全てではないということを、本人が意図せずとも父親である悟飯の背中から教わっていたのだ。
「パン……」
「大丈夫よ。勉強も、思っていたよりずっと楽しいし」
自分がそんなキャラじゃない、というのはパン自身、決意した時からわかっていることだ。
それでも五年の間に諸々の変化があったパンだが、目標に対してどこまでも貪欲だという性根の部分は何ら変わっていない。元々好きではなかったが勉強も、未来のためにとやり続けていく内にそうでもなくなっていったし、勉強の中で新しい発見を見つけることはかつて祖父やトランクスと共に宇宙を旅回っていた時のそれに通ずるものがあり、楽しいと思えるようになっていたのだ。
「……わかった。本格的に科学者を目指すなら、僕の方からも詳しい人に相談してみるよ」
パンの浮かべた笑みが苦渋の中で無理して作ったものではないことを悟り、悟飯が微笑を浮かべる。
娘が自分と似たような道を歩むことに対しては、彼もまた素直に喜ばしいことだったのだ。
「余計なこと聞いて悪かったね。でも僕もママも、どんな時もパンの夢を応援してるから。もちろんいけないことは駄目だけど、パンはその辺りちゃんとわかってるもんね」
「……ありがとう、パパ」
「ただ、無理はしないで。なんていうか最近のパンは、少し生き急いでいるように見えたから」
娘が思いのほか将来のことについて深く考えていたことは、彼女の成長を実感出来て嬉しくも寂しくもある。
しかし煮詰めすぎるのは良くないが、武道家になるにせよ科学者を目指すにせよ、悟飯はパンの背中を本気で後押しするつもりだった。
武道も科学も、身近にその道の最強が居るのはパンにとって宇宙一恵まれた環境とも言えるだろう。これでその気になれば言わずと知れたミスター・サタンのコネも使えるという、改めて考えてみると物凄い家だなと悟飯は思った。
「でも科学者を目指すなんて、意外よねぇ。パンは私似だと思ってたけど、寧ろパパの方が似てたのかしら」
「どっちもなんだよ。パンがそういう道を選ぶのも僕は嬉しいかな。もうドラゴンボールは無いし、実を言うと僕もパンには無茶してほしくなかったから」
武道家の家系に生まれたからと、武道家にならなければならない義務はパンには無い。母ビーデルもまた悟飯とほぼ同じ考えであり、武道をやめてしまったことは当然寂しいが、両親ともそれで娘が幸せになれるならば反対する理由は無かった。
……ただ少し、引っ掛かるものがないと言えば嘘になるが。
何にせよ、悟飯もビーデルも今この場においてはこれ以上踏み込んでいく気は無かった。何事も経験が大事だと言うし、十代半ばの娘は今、存分に迷ってもいい時期に居る。両親が茶々を入れるのは、もう少し後でも遅くはないだろう。
「あっ、そう言えば、前ブルマさんから聞いたことなんだけど……」
目を合わせてそう判断した父母は話題を変える。
それからしばし続いた談笑は家族水入らずの憩いの時間であった。
──この星に異変が訪れたのは、その時間が過ぎ去った後のことだった。