超融合! 次元を越えたベジータ   作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)

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邪神メタフィクスの涙!! ベジータ死す

 父を失い、師を失い、共に戦ってきた仲間さえも失いながら、彼はただ一人、未来への希望を信じて人造人間と戦い続けた。

 

『トランクス……君が、最後の希望だ……』

 

 そんな孫悟飯のことはトランクスにとって師匠であると同時に兄でもあり、かつては行動原理の礎を築いた存在でもあった。

 

『俺は死なない! たとえこの肉体が滅んでも、俺の意志を受け継ぎ、立ち上がる者が現れる! そして、お前たち人造人間を倒す!』

 

 まだ力の足りないトランクスをみすみす死なせてしまうことを恐れた彼は、トランクスを気絶させてまで希望を守り通し、単身で決戦へと挑んだ。

 しかし力及ばず、いつの日か愛弟子が未来を救うことを信じて、彼はその生涯に幕を下ろしたのである。

 

 

 ──そして数年後、亡き英雄の祈りは届き、かつての何倍にも強くなったトランクスが人造人間を倒し、その後に続くセルやバビディと言った脅威をも打ち砕いたことで、遂に未来に平和が訪れたのだ。

 

 ……しかし。

 

『こんな世界……消えちゃえ』

 

 ──積み重ねてきたものは、全て奪われた。

 

 神ザマスの蛮行と全王の一斉消去。あまりにも理不尽な悲劇の果てに……孫悟飯達が託していった希望までも跡形なく消え失せたのだ。

 

 

 

 そんな未来の世界で息子が辿った生涯と、その果てに潰えた希望を同時に見せつけられ、孫悟空が悔しげに表情を歪めながら言った。

 

「……おめえが神様を憎むのは、よくわかるさ」

 

 固く握った拳は自身の無力感から来る怒りに震わせられ、彼も激しい後悔を抱いていることが見てもわかる。それは形として、メタフィクスの内面へと踏み込むことになった。

 

 ──こんな不幸を辿った世界の者が、神を憎んで時間の巻き戻しを願うのも道理だと。

 

 しかしそうだとしても……孫悟空は自らの意志を押し通し、自分達にも譲れないものがあると言い切った。

 

「だけどおめえがやろうとしているのは、ここであったこともあそこであったことも、全部無かったことにしてやり直そうって言うんだろ? それはちょっと、やめてくんねぇかな?」

「…………」

 

 悟空は今見た未来での出来事を全て振り返った上で、彼なりに先人達が抱いていたであろう思いを想像しながら、懇願するようにそう言った。

 悟空とて人の親であり、かつては次代の成長を促す為に自らの命を絶つ判断をしたこともある男である。

 そんな「孫悟空」であるからこそ、トランクスを育て、希望を胸に散っていった未来の孫悟飯の気持ちがなんとなくわかったのだ。

 

「未来を元通りにしようってんなら、オラもベジータも協力するさ。だけど何もかも全部無かったことにしたら、それこそ悟飯達のやってきたことが無駄になっちまうんじゃねぇかな……?」

「…………」

「それと……悪かったな、トランクス。おめえから見たら、あの時のオラの態度、腹立ったんじゃねぇか? 真剣に頑張ってたおめえのこと、馬鹿にしてたわけじゃねぇんだ。……すまねぇ」

 

 孫悟空は純粋なサイヤ人戦士であり、穏やかではあるものの確かに戦闘狂だ。

 しかし戦闘狂だからと言って、自分が楽しんで戦えれば何をしても良いと言う考えの持ち主では断じて無い。

 彼とて自分に非があれば素直に過ちを認めるし、頭を下げて詫びることが出来る。だからこそ彼は、今一度自分自身を客観的に見つめた後でメタフィクスの中に居るトランクスの魂へと頭を下げたのだ。

 そしてその上で、自分の思いを伝えた。それを無言で聞き届けたメタフィクスは、感情の見えない表情で浮かび上がるビジョンを静かに眺めていた。

 

 そしてメタフィクスが、しばしの沈黙を置いて言い放った。

 

「……孫悟飯は未来への希望をトランクスへとつなぎ、その命を散らせていった。しかしその未来は神によって滅ぼされた。これは貴方がいくら悔やもうと、揺るぎのない事実です」

 

 未来の為に命を散らせていった英雄達の思いは、心無い絶対者の手によって握り潰された。

 トランクスの居た世界とは、悲劇に始まり悲劇に終わった救いようの無い未来なのである。

 

 そして次の瞬間、彼らの見つめるビジョンはトランクスの過ごした未来の世界ではなく、「この世界の未来」へと切り替わっていった。

 

「そして……あれが貴方がたが辿る筈だった「本来の未来」です」

「っ!」

 

 それは、トランクスがマイと共にゴクウブラックが現れる前のパラレルワールドへ旅立った後日のこと。

 

 孫悟空は界王を生き返らせる為に地球のドラゴンボールを集め、神龍を呼び出した。

 そこへぞろぞろと集まって来るブルマや亀仙人などの仲間達──彼らは各々に、自分自身の願いを叶える為に神龍へと殺到してきたのである。

 

「おい、みんな……そんなことしてる場合じゃねぇだろ。トランクスの未来を、そのままにしていいのか?」

「馬鹿な……! あんなことがあった後で、何くだらないことをしてやがる!?」

 

 この世界でのブルマ達は無駄だと思いつつも諦めきれず、今はトランクスの未来を取り戻す為にドラゴンボールを集めている最中である。

 しかしメタフィクスが「本来の未来」だと語ったあの世界では、ブルマが願いを叶えたがっているのはただ「知的好奇心の為に」タイムマシンを作ることであり、他の者達は切実な思惑はあれど神龍に頼らなくても問題ない程度には些細な願いであった。

 

 ──とても、未来世界消滅の直後とは思えない様子である。

 

 結果的に神龍への願いは高熱を出したパンの病気を治すという極めて真っ当な使い方に終わったが……悟空達にはそこに至るまでの経緯が解せなかった。

 あれではまるで、皆トランクスの世界などどうでもいいと感じているように見えたのだ。

 

「正史での貴方がたにとって……所詮、自分達に関わりのない世界の消滅などどうでも良かったのですよ。誰一人として過去を顧みることもなく……極め付けが、これです」

 

 「正史」の未来のビジョンはさらに進み、二人の全王が見ている下で戦士達が戦っている光景へと移り変わっていく。

 

 孫悟空の進言の元に行われた、人間レベルが高い宇宙以外の全てを巻き込んだサバイバルトーナメント。

 

 そしてその取り決めは、敗者となった宇宙は全て全王の手によって「間引き」されるというものだった。

 

「全王め……! ふざけたことを考えやがって!」

「負けた方の宇宙を消す大会だって!? いくらオラでも、そんな戦いは出来ねぇよ!」

 

 何をしでかすかわかったものではない全王がそんなことを企てたのだとしても、十分に納得することは出来る。

 しかし納得出来ないのは、あれが「正史」という孫悟空の在り方だ。

 彼には一切悪気が無かったのだとしても、彼が自分の満足の為に全王に取り入り、関係のない宇宙を滅亡の危機に立たせたのは紛れも無い事実である。他の宇宙の者達がそんな彼のことを「悪魔」と呼ぶのもまた客観的な正論であり、正当な怒りに見えた。

 

 まさしく孫悟空は、全宇宙にとって共通の大敵になったのだ。

 しかし四方八方からの敵意に晒されても、彼は何の悪びれもなくこう言った。

 

『一人残らずぶちのめしてやっかんなー!』

 

 戦闘狂──の度合いを超している、あまりにも極まり過ぎた戦闘民族の姿であった。

 そんな彼も、裏では何らかのフォローを入れるつもりなのかもしれない。強い相手と戦う為に、あえて自分を憎ませるようにそう挑発したのかもしれない。

 

 しかしいずれにしても、彼が理不尽に巻き込まれた弱者に対して何の配慮もしていないことは明らかであった。

 

 楽しければそれでいい。

 強い奴と戦えればそれでいい。

 ただ自分が満足出来ればそれでいいとでも言うように……自分のやりたいことだけを押し通す、フリーザやセル達と同じ傲慢さがそこにあった。

 

「あれが……あれがオラだって言うんか!? そんなことが……!」

「あったのだ! 私とて、信じたくはなかった……! これが私の絶望……心優しきトランクスが、悪しき界王神と手を組むまでに至った最大の理由だ。あの孫悟空でさえ世界を裏切り、人の心を……優しさを忘れた。そんな世界の何を信じろと言う? どこに希望があると言う!?」

 

 正史と語られた自らの未来の姿を見て言葉を失う悟空だが、あそこに居るのが自分であることを否定することも出来ない。

 今ここにある世界も、あそこに見える世界も共に一つの可能性の物語なのだ。

 もしも邪神メタフィクスなどという存在が現れなければ、自分がそうなっていたという世界に……悟空は強く否定することが出来ず、行き場の無い怒りを抱いた。

 

「優しさを失った世界をゼロに戻したその時こそ、新たな可能性が生まれる。初めて、孫悟飯から託された希望をつなげることが出来る! そう考えたからこそ、トランクスは立ち上がったのです」

 

 メタフィクス──トランクスの絶望の深さ。そして、未来改変に対する思いの強さ。

 散っていった英雄達の命に見合うだけの希望を、彼らは後世に見出すことが出来なかったのである。

 だからこそ、彼はこの世界を憎む。だがそれでも──孫悟空は彼らの言葉を肯定しなかった。

 

「そんなことはねぇ! 悟飯だって、そんなことは望んでねぇ筈だ! おめえにだってわかるだろ!?」

「よせカカロット。これ以上、貴様が何を言っても無駄だ」

 

 悟空が続けようとした説得の言葉を、GT次元のベジータが遮り、超次元のベジータが前に出る。

 後はアイツに任せておけと言うようなGT次元のベジータの眼差しを受けて、悟空は言葉を押し留めて超次元のベジータの姿を見つめた。

 

 

「トランクス……ブルマが待っている」

「…………」

 

 そしてこの次元のベジータが自身の息子に向かって言い放った言葉に、メタフィクスがほんの僅かに表情を変える。

 

「神が死んで今ここにお前が居る時点で、あの未来が来ることは無い。未来が変わったんなら、俺がお前に教えてやる。本当の希望って奴をな」

「…………」

「こんなところから見ているだけじゃ、わからんこともあるだろう。だから、地球に来い」

 

 戦うべき敵としてではなく、はっきりと自分の息子と認識した上で、ベジータが手を差し伸べるようにそう言った。

 父親としてはあまりにも不器用で、自分にも息子にも厳しい男であったが……そんな彼が、一歩、また一歩と踏み出したのである。

 

「コイツがあんな馬鹿をやるようなら、俺がぶっ飛ばしてやる。俺は誇り高きサイヤ人の王子だ。そして、お前は俺達のガキだ……戻ってこい、トランクス」

 

 そしてメタフィクスの近くまで歩み寄ったところで、彼が正面から見つめ、そう言った。

 先ほど悟空が「正史」における自分自身の行動を批難したように、本来の歴史から外れたこの世界では彼らの考え方も変わってきている。

 

 ──ならば、「それこそが希望なのではないか」とベジータは問い掛けたのである。

 

 過ちを認め、二度と悲劇を繰り返さないことを誓った今、まだ見ぬ未来に新たな可能性が生まれた。

 メタフィクス自身が神を滅ぼしたことによる成果も含まれているが、未来は常に不確定なのだ。

 その可能性がある限り、まだ希望は残っている。

 まだ全てに絶望しなくても良いのだと──沈黙するメタフィクスの表情を見つめながら言うベジータに対して、トランクス(・・・・・)が重く口を開いた。

 

「……希望なんて、この世界には無いんだと思っていました。あんなに優しかった悟空さんさえも、弱い人達への思いやりを忘れた世界なんて……」

 

 そして、沈黙する。

 自分自身の中で自らが抱いている思いをまとめるように、彼は瞳を閉じて長考に入った。

 

 しばらくしてゆっくりとその瞳を開き、彼は切実な表情でベジータに問うた。

 

「……もう一度、貴方を信じてもいいですか?」

 

 父の言葉を、父の変化に新たな希望を見出したように、彼の虚無的な瞳に光が戻る。

 力だけではない、父の強さを信じたいと願った彼の言葉に……ベジータは普段と同じ尊大な態度で応じた。

 

「俺に着いてこい。お前の絶望など、この俺がぶっ壊してやる」

 

 戦闘民族の王子という枠を超えて、彼は「父親」の表情でそう言ったのである。

 その瞬間、今までずっと溜め込んできたもの全てが決壊していくように、トランクスの目からとめどなく大粒の涙が溢れていった。

 そしてトランクスが一歩ずつ、ベジータの元へと歩み寄りながら言った。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 涙に震えた声で、心から感謝の気持ちを伝える。

 戦意を失った表情で、彼は──その剣で、ベジータの胸を突き刺した。

 

 

 滴り落ちていく息子の涙を肩に当てながら、一人の英雄の父親は命が消えていく激痛の中で薄く微笑んだ。

 

 自分の息子に殺されるとは、つくづくサイヤ人らしい最期だと……自嘲の笑みだった。

 

 

 

 

 弾け飛ぶように、一瞬にして一同を取り巻く世界が次元の狭間から全王宮の領域へと移り変わっていく。

 まるで今まで見ていたものが夢だったかのように、戻って来た世界ではゴジータとメタフィクスが戦った直後の光景が広がっていた。

 ビッグバンかめはめ波と邪神魔閃光の衝突によって、既に名も無き惑星は塵一つ残らず消滅しており、かつて全王宮が存在していた宇宙空間のような景色が彼らを取り巻いていた。

 

「ベジータ!」

 

 しかし先ほど起こったことは、全て偽りの無い現実である。

 メタフィクスが剣を引き抜いたと同時に血を噴き出して崩れ落ちたベジータの身体を受け止めながら、悟空が必死に彼の名を呼び掛ける。

 

 しかし、既に彼の息は無かった。

 

 悟空もベジータも、フュージョンをした上で100倍界王拳の負担を一身に受けていたのだ。表面上こそ取り繕ってはいてもその肉体は既に限界を迎えており、少しの衝撃で力尽きてもおかしくない状態だったのだ。

 

 そんな彼がメタフィクスの剣に貫かれた今、彼の並外れた生命力を以てしてもその命をつなぎ合わせることは不可能だった。

 

 息絶え、既に魂がこの世に無い彼の身体を自身から離しながら、悟空が怒りの形相でメタフィクスを睨む。

 

「おめえ! ベジータは本気でトランクスを救おうとしていたんだぞ!」

「……言った筈です。今更、その男に父親の資格は無いと。この世界に希望など無いのだと」

「やっぱ、おめえは許せねぇ!」

 

 悟空が気を解放し、無謀にも通常の状態でメタフィクスへと挑み掛かる。

 しかし既に内なる気を使い切ってしまった彼の拳など、彼に僅かなダメージすら与えることが出来なかった。 

 

「っ……!」

「それでいい。極悪人に正当な怒りをぶつけてこそ、私が望んでいた孫悟空だ。目を覚ますのがあまりにも……あまりにも、遅すぎた……」

 

 一ミリも動かないままその拳を防御をしていない胸に叩き込まれたメタフィクスだが、その身体は微動だにしない。

 そしてその手に携えていた剣を、今度は悟空に向かって迷いなく振り下ろした。

 

「てやああああっ!」

「む……」

 

 ベジータと同様に一瞬で悟空の命を絶とうとした攻撃は、背中から回り込んできたGT次元のベジータの気弾によって阻止される。

 

 だがそれは、もはやほんの少しの時間稼ぎにもならなかった。

 

「サイヤパワーを使い切った貴方がたが、今更何をしようと無駄です」

「くっ……!」

「ぐああっ!」

 

 メタフィクスが体内から全方位へと撃ち放った気合い砲が、悟空とベジータの身体をいとも簡単に吹き飛ばしていく。

 そしてメタフィクスはすぐさま悟空に向かって右手をかざし、とどめの一撃を繰り出した。

 

「これで……貴方の物語は終わりだ」

 

 一条の光の弾が発射される。

 メタフィクスとてこれまでの戦いで確実に消耗していたが、今の悟空の肉体を消し去るには十分すぎる威力であった。

 もはやこれまでかと……成す術も無く迫ってくる気功波を前に、悟空が無力感に苛まれた薄れゆく意識の中で自らの死を──敗北を悟る。

 

 

「馬鹿野郎……!」

 

 だが、その凶弾が悟空の命を絶つことはなかった。

 

「カカロットなら……俺以外の奴に、何度もやられてんじゃねぇ!」

 

 またしても彼が──ベジータが救ってみせたのである。

 

 メタフィクスの気功波から、我が身を盾にして──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全王宮跡地の虚空に浮かぶ黒い宝玉──アルファボール。

 

 二人の全王から根こそぎエネルギーを吸収し尽くした邪神の宝玉は、遂に完成の時が訪れていた。

 並大抵の者では近づくだけで消滅してしまうほどの凄まじい圧力を放っている宝玉を前に、戦いを終えたメタフィクスが瞬間移動で舞い戻ってきた。

 

「エネルギーが、ようやく集まりましたか……流石は全王。想定していた以上に、長い時間を掛けました」

 

 既にこの闇の宝玉には、十二の宇宙を一瞬で消滅させて尚余りあるエネルギーが内包されている。

 二人の全王の力を余すことなく取り込んだのだ。まさにそれは、比類なき究極を超えた力であった。

 

「しかしそれも、これで終わる」

 

 そのアルファボールの力を、メタフィクスは宇宙の破壊には使わない。

 彼の目的は過去未来全ての時間をやり直すことにあり、寧ろ破壊とは対極の再生に当たる。しかしそれは、多くの者達からしてみれば決して受け入れることの出来ない悪行であろう。

 

 だがそれでも、少なくとも自分はこの力の提供者達よりは正しい行いをしている筈だとメタフィクスは確信していた。

 

 メタフィクスがそのアルファボールの力の提供者──既に意識が失われ、エネルギーの抜け殻になっている二人の全王の姿を見つめると、右手に携えた血塗れの剣のグリップを強く握り締めた。

 

「身に宿る全ての力が奪われた今、放っておいても直に死ぬでしょうが……けじめはつけさせてもらうぞ」

 

 そしてメタフィクスは──二人の全王の首を撥ね飛ばした。

 

 まるで豆腐を斬るようにあっさりと、無敵であった筈の二人の全王を叩き斬ったのである。

 両断した彼らの肉体を念入りに細切れに裂いた後、メタフィクスは左手から放った気功波によって彼らの身を破片一つ残さず滅ぼしていった。

 あれほど憎んでいたのに、と心の中で苦笑する。

 いざ終えてみると、復讐を果たしたところで何の感慨も湧かなかった。

 

「みんな……仇は討ったぞ……」

 

 かつて英雄トランクスがフリーザを仕留めた光景と同じように、呆気の無い全王の最期である。

 これによって彼は未来世界と第十八宇宙を始めとする、多くの民の仇を討ち果たしたのである。

 しかしその憎しみは敵討ちを成し遂げても尚おさまることはなく、彼の浮かべる虚無的な表情に変化は無かった。

 

「ここからは、私の役目だ……」

 

 二人の全王を殺した後、メタフィクスは剣を鞘に収め、その手を自らの胸へと押し当てる。

 

「後は、頼みます」

 

 メタフィクスが機械のように冷淡な表情を、人間的な温かみのある表情へと変える。

 それは紛れも無く、かつて未来世界に生きていた英雄、トランクスの表情だった。

 そして彼がそう口を開いた瞬間、彼は胸に押し当てた手を離し、体内から抜き取るように煙のような白い物体を取り出していった。

 

 煙はメタフィクスの前で渦を描くように広がっていくと、人影のような姿へと形を変えていく。

 その人影がメタフィクスの脳内に直接、重く響き渡るような声で言葉を発した。

 

『予定通り、アルファボールの制御は私が行います。トランクス……貴方は私の良き理解者であり、良き友でした』

 

 人影──それは邪神メタフィクスの中でトランクスと共存していた、名も無き界王神の魂であった。

 厳格さの中に確かな愛情の篭った声で、彼は俯くメタフィクスに対して呼び掛ける。

 

「界王神様……俺は……」

『ベジータのことは、申し訳ありません。貴方の父を殺めたのは私です。貴方が父親殺しの罪を背負う必要はありませんよ』

 

 罪悪感を拭うような献身的な口調で、名も無き界王神がそう語る。

 メタフィクスは実の父親を……ベジータを殺してしまった。

 それは、始めから覚悟していたことだ。しかし彼の心臓を貫いた時の感触は、メタフィクスの手には鮮明に残っていた。

 

 歩み寄ってくれた父の思いを……良心の呵責という光の誘惑を自らの手で断ち切ったのだ。

 

『ふっ……』

 

 名も無き界王神の魂が、自嘲の笑みを溢す。

 それは、トランクスに対する本心からの気遣いだった。

 

『世界の平和だなどと言っても、結局のところ私はこういう神です。永き時を虚無に囚われ続け、この心に呪いを孕み続けてしまった……』

 

 しかし……と続けながら白い人影がメタフィクスの肩を叩く。

 まるで人間同士の友情を示すような仕草で、彼は言った。

 

『貴方は私とは違う。どこまで行っても貴方は……優しい人間だ』

「……界王神様……」

 

 父を殺め、全王さえも殺した今、もはや後に引くことは出来ない。

 それこそがメタフィクスの未来改変への覚悟であり、生涯背負っていくと誓った悪行の筈だった。

 そんなメタフィクス──分離したトランクスの魂に向かって、名も無き界王神の魂が言った。

 

『トランクス、貴方は生きなさい。生きて、幸福になりなさい』

 

 まるで救世の女神のような、淀みの無い慈愛の篭った言葉であった。

 その声にほんの僅かだけ、俯いたメタフィクスの瞳が感情に震える。

 

『この次元に生きた最後の神として、貴方の存在を許します。そしてこれは、神でも邪神としてでもなく、一人の友として祈ります。いつの日か貴方自身に、本当の救いが訪れることを……』

 

 煙のような人影の姿が崩れ、小さな玉の形になった名も無き界王神の魂が、メタフィクスの周囲を旋回しながらアルファボールの中へと吸い込まれていく。

 

 アルファボールの完成──今までメタフィクスと共にあった彼の魂こそが、それを成し遂げる最後の1ピースだったのだ。

 

「全王の力を取り込んだ宝玉に、名も無き界王神の魂を捧げる……これでやっと、俺達のアルファボールが完成した」

 

 名も無き界王神の魂と分離する形になったメタフィクスが、感慨に浸るように小さく独語する。

 彼の魂が最後に取り込まれた瞬間、目の前に浮かぶ黒い宝玉から放たれる波動が一気に強まっていく。

 遂に完成したアルファボールを前に、メタフィクスが最後の役割を遂行した。

 

「いでよ、邪神龍」

 

 一言、メタフィクスが地球のドラゴンボールと同じ合言葉を唱えた瞬間──アルファボールの中から唸りを上げて放たれていくおびただしい闇と共に、それは顕現した。

 

 

 ──この全王の領域を覆い尽くすほどに巨大な、黒龍の姿が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孫悟空は、死んだ筈だった。

 メタフィクスの一撃によって、遂にその肉体は滅びようとしていた筈だった。

 

 だがそれを、身を挺して守ろうとした男が居たのだ。

 

 GT次元のベジータ──彼の思いを受けて、孫悟空は辛うじて死を免れたのである。

 

 そしてその時、どこからともなく広がって来た優しい光が彼の姿を包み込み、夢心地のようなまどろみの中で彼は見た。

 

「おめえは……」

 

 自分と同じ顔。

 

 自分と同じ姿。

 

 それで居て、どこか自分よりも年上そうな貫録を持つ、薄藍色の道着を着た一人の男の姿だった。

 

「おめえは……オラか?」

 

 悟空の質問に対して、男は微笑みを浮かべながら一度だけ敬礼すると、何も言わずにその拳を悟空の胸へと押し当てる。

 

 そして次の瞬間、悟空の身体の中へ恐ろしいほどによく馴染む、凄まじい力が注ぎ込まれていった。

 

 

 ──それはアルファボールの完成と同時刻にして……地球のドラゴンボールによって、異界の神龍が解き放たれた時のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

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