超融合! 次元を越えたベジータ   作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)

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オラとオラで超融合! 復活のヒーロー孫悟空

 

 

 集められた七つのドラゴンボールが、輝きを放つ。

 

 それは、突然の顕現だった。

 

 ブルマ達一同が祈りを込めて見守る中で、それまで一向に召喚に応じる気配が無かった神龍が、まばゆい閃光と共に遂に姿を現したのである。

 緑色の鱗に、赤い双眸。圧倒的な威容を誇る龍の神は勢い良く天へ昇っていくと、青い空をゆっくりと旋回していく。

 神龍──それは紛れも無く、幾度となく人々の願いを叶えてきたかのドラゴンの召喚であったが、これまでブルマ達が見てきた龍とは明らかに雰囲気が違っていた。

 その上、本来ならば夜のように暗くなる筈の空もまた、神龍が現れても尚青空のままだった。

 

「神龍……!」

 

 七つのドラゴンボールによって召喚された神龍だが、いつものように一同の願いを聞くことはせず、ただ遠く離れた宇宙を眺めるように彼は空の彼方を見据えていた。

 そして、数秒後。

 神龍の赤い双眸が輝きを放ったその瞬間──彼の見つめる先で戦う一人の戦士の元に、異界の勇者の力が授けられていった。

 

 

 

 

 

 

 

「この気は……?」

「温かい……」

 

 超次元で起こったその異変に気付いたのは、GT次元に居る戦士達もそうであった。

 ふわっと、彼らの周りをある男の気が包み込んだ気がした。

 それは絶対的な芯を持った、温かくて強い気配で……一瞬のそよ風のように彼らの元を通り過ぎていったが、その場に居る誰もが逃さず感知することが出来た──懐かしくも馴染み深い気配だった。

 

「おじいちゃん?」

 

 それは確かに、五年前に神龍に乗って龍神界へと消えた筈の孫悟空の気だった。

 彼らに感知することが出来たのはほんの一瞬の間だったが、彼らは一様に確信を抱いた。

 

 彼──孫悟空が別の次元の世界を、助けに向かったのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の中に現れたもう一人の自分(・・)が、この次元の孫悟空に対して言葉を交わすことは最後まで無かった。

 しかし言葉に表さずとも、彼が今抱いている思いは不思議なほど自然に伝わっていた。

 おめえに、オラの元気を分けてやる。

 メタフィクスを倒し、世界の平和を守ってくれ──と。

 希望をこちらに託そうとする、彼の熱い思いが。

 

「すげぇ……どんどん力が沸き上がってくる……!」

 

 彼が何者なのか……その力を授かったと同時に、この次元の孫悟空は彼の素性をはっきりと理解する。

 

 彼は、あの別の次元から来たベジータと同じ存在なのだと。

 

「……ありがとな。これなら、オラもまだやれそうだ」

 

 薄藍色の道着を着た彼が悟空に向かって親指を立てると、それをエールとして受け取った悟空が返す眼差しで礼を言う。

 するとほどなくして、彼の姿は役目を終えたとばかりに朧のように消え去っていった。

 

 それと同時に彼らを包み込んでいたまばゆい光は掻き消え、悟空の姿は全王宮の領域へと戻った。

 意識が現実に返ったような心地の中で悟空が最初に見つけたのは、自らの目の前に瀕死体で浮かんでいる、別の次元のベジータの姿だった。

 

「ベジータ……」

 

 彼は、メタフィクスの攻撃から自分を庇ってくれたのだ。

 あのベジータが、孫悟空を助けた──それがどれほど異常なことか、「彼」の力を授かった悟空にはよくわかっている。

 彼がそんな行動をとってまで自分を助けてくれたこと──この次元の者に未来を託してくれたことに、悟空は多大な感謝と悔しさを抱いた。

 

「おめえの言う通りだ……何度も何度も負けてらんねぇ。おかげで、ちっとは目が覚めたぜ」

 

 メタフィクスの剣に貫かれたこの次元のベジータは既に手遅れの状態であったが、別の次元のベジータの方は意識こそ失っているがまだ息は残っている。

 死んではいない。しかし、この戦闘に復帰することはもう無理だろう。

 即ち孫悟空は、ただ一人世界の命運を託されたのだ。

 別の次元のベジータと──他ならぬ自分自身の選択によって。

 

「はああっ……!」

 

 その身に沸き上がるパワーの一片を解放すると、悟空の身体が金色に輝く。

 左右に伸びた黒い髪は逆立ち、瞬く間に光の色へと染まっていく。

 

 黄金の戦士、超サイヤ人。

 

 別の次元の自分から力を授かった今の自分には、超サイヤ人ゴッドという神の力ではなく、オーソドックスなサイヤパワーを持つこの形態の方が十全に力を発揮出来る気がしたのだ。

 そしてその感覚は、こうして実際に変身したことによって確かなものとなる。

 

「おめえの力……受け取ったぞ!」

 

 勝利を胸に誓うと悟空は黄金色のオーラを放ち、倒すべき敵の元へと飛翔していく。

 時間を賭けた邪神と人間のラストバトルが、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルファボールによりおびただしい闇と共に召喚された黒い(ドラゴン)──その龍の名を、メタフィクスは「邪神龍」と呼んだ。

 その姿はまさしく、悪の神龍と呼ぶのが相応しい禍々しい外見だった。

 

「邪神龍……気分はどうですか?」

 

 アルファボールと名も無き界王神の魂によって誕生した、黒い神龍。

 そんな彼の正体は、先ほどまでメタフィクスの中でトランクスの魂と溶け合っていた名も無き界王神の魂を宿した、新たな器であった。

 

『負荷はありますが、想定の範囲です。数分もすれば馴染むでしょうし、この姿なら予定通り全ての時間を巻き戻すことが出来るでしょう』

 

 巨大な龍になっても変わらない礼儀正しい口調で、名も無き界王神──邪神龍のテレパシーがメタフィクスの脳内に響いてくる。

 メタフィクスが作った願い玉であるアルファボールがドラゴンボールの存在を基にしているように、この邪神龍は神龍を基にして創造された存在である。

 当然、人の願いを叶える力も邪神龍には備わっていた。

 

『では……貴方の願いを言いなさい、トランクス』

 

 そして神龍という存在がこれまでずっとそうしてきたように、邪神龍がメタフィクスに向かって願いを訊ねる。

 何も守ることが出来なかった理不尽な未来に絶望した彼が、悪しき界王神と手を組んでまで成し遂げたかった思いを。

 

 

「全ての世界に、平和をください」

 

 

 その願いを、メタフィクス──トランクスが打ち明けた。

 過去も未来も現在も──この超次元における全ての時間軸の世界を、完全な平和へと導く願い。

 失った世界も今ここにあるものも全て纏めてゼロに戻し、何もかもを無かったことにするのだ。

 行くところまで行ってしまったこの世界を望んだ形にする為には、ここにある今では全て手遅れだと絶望していた。だからこそ、彼らにはこれ以外の救済策が見つからなかったのである。

 

『巻き戻しの範囲が全域に渡るまで、少々時間が掛かります。しかし貴方の願いは必ずや、この邪神龍が叶えてみせましょう』

 

 彼の願いを受諾した邪神龍が、龍の咆哮を上げて虹色の光を放つ。

 願いの規模が大きな為、一瞬で全てを終わらせることまでは出来ない。

 しかしこの瞬間から、超次元における全ての時間がこの全王の領域を中心に虚無へと戻り始めていった。

 

 

「これで、良かったんだ……」

 

 この場所からではわからないが、外の宇宙では邪神龍によって巻き戻しが始まっていることであろう。

 これまで掛けてきた苦労を思い感慨に浸りながら、メタフィクスがぼそりと呟く。

 

 何もかもを捨てる覚悟でこの道を選んだ。

 父親さえも殺して、世界の悪になることを望んだ。

 しかしその筈でも、彼の表情は心の奥から滲み出る良心の呵責から逃れられていなかったのだ。

 

 そんなメタフィクスの様子を見かねたように、邪神龍が時間の巻き戻しの片手間に彼の頭脳へテレパシーを送る。

 

『トランクス、貴方の役目は終わりました。地球にまだ影響が及んでいない今、貴方が望むのならこの次元の仲間達に別れを告げるのも良いでしょう』

 

 戦いが終わり、名も無き界王神の魂を邪神龍に変えた今、英雄トランクスにそれ以上のことは求める気は無いと。

 貴方は既に名も無き界王神の意志に従う必要が無くなった自由の身だと告げた上で、邪神龍が一つの道を彼に指し示したのである。

 しかしその言葉に対して、メタフィクスは静かに首を振った。

 

「……別れならあの日、ちゃんと済ませました。それに……」

 

 この次元の時間全てが巻き戻されれば、かつての仲間達と再び会うことももう無い。

 それを寂しいことだとは思わない。メタフィクスにとってそんな感情はこの道を選んだ時点でとうに切り捨てていたものであり、何も感じていない筈だった。

 

 ……感じていないと、思いたかったのだ。

 

 そんなメタフィクスが目の前のものから目を背けるように邪神龍から視線を外すと、こちらに向かって尋常でない速度で向かってくる一人の男の気配へと目を向けた。

 

「俺の役目はまだ、終わっていないみたいだ」

 

 光の速さで流れてくる、黄金色の軌跡。

 戦闘に上半身部分が破けた山吹色の道着を纏った最強のサイヤ人が今、彼らの居場所へと迫り来た。

 

 多くの次元にとって特異点的な存在である──孫悟空の姿が。

 

『孫悟空……まだ生きていましたか。しかし、あの力は一体……』

 

 我が身を盾に立ち塞がった別次元のベジータ諸共、気功波で吹き飛ばしたと思っていたが、彼はまだ五体満足で生きていたようだ。

 しかし解せないのは、その身から迸る凄まじいエネルギーだ。

 既にサイヤパワーを使い果たし、死に体であった筈の彼は今……これまでには考えられないほどの力をその身に宿っていた。

 名も無き界王神の魂が宿る邪神龍がそんな彼の姿に驚愕し、トランクスの魂が宿るメタフィクスがぎり、と奥歯を鳴らして彼の姿を睨んだ。

 

「……どんなに絶望的な状況でも、限界を超えて強くなる。孫悟空とは、そういう人です」

 

 だからこそ周りの人間は、彼が居ればなんとかなると思ってしまう。

 彼が居ればどんな困難でも、その強さと優しさで未来を切り開いてくれると甘美な幻想に浸っていられる。

 

 ──そんな希望など、どこにも無いと言うのに。

 

 

「見つけたぜ、メタフィクス! それに……そこに居るのは黒い神龍か?」

 

 再びメタフィクスの前に舞い戻った悟空が、青い双眸で邪神龍を見据える。

 油断なく引き締まったその表情は、メタフィクスが良く知る孫悟空そのものであった。

 

「彼の名前は邪神龍──アルファボールと界王神様の魂によって生み出された、邪神の神龍です。……彼が、俺の願いを叶えてくれる」

 

 ただならぬ威容を誇る邪神龍に対し警戒心を抱く悟空に対して、メタフィクスがその存在を簡潔に説明する。

 邪神龍は彼らの計画において最も重要な役割を持ち、目的の為には命に代えても守り抜かなければならない存在だ。

 たとえこの身が滅びようと、邪神龍さえ居れば願いは叶い、世界の時間を巻き戻すことが出来る。

 多くの犠牲を払って、邪魔になる者を殺し尽くして、ようやくここまで来たのだ。

 だから、絶対に──

 

「邪魔はさせないぞ、孫悟空」

「トランクス……おめえ、界王神の魂と別れたのか?」

「そうだ。俺の魂はここに残り、界王神様の魂はそこに居る邪神龍になった。……だが、俺はトランクスじゃない」

 

 トランクスの魂だけを宿している筈のメタフィクスが、内なる禍々しい気を放出しながら悟空と対峙する。

 度重なる死闘の連続に加えて、ゴジータのビッグバンかめはめ波によって受けたダメージは大きい。

 表には出していないだけでメタフィクスの消耗は既にピークを迎えており、フルパワーを発揮出来る状態ではなかったが……それでも、邪神の身から放たれる力は依然強大だった。

 

 俺はまだ戦える。

 だからこの戦いに、全てを懸ける。

 

 何もかもを捨て去った決意の瞳で悟空を睨み、メタフィクスが叫んだ。

 

「トランクスもベジータも俺が殺した……俺は、邪神メタフィクスだ!」

 

 闇色のオーラを纏い、猛スピードで接近していくメタフィクス。

 黄金色のオーラを纏う悟空が亀仙流の構えを取り、それを迎え撃つ。

 つくづく思う。味方だった頃はあんなにも頼もしかった彼が、敵に回すと嫌になるほどしぶとい男だと。

 傷つく度に強くなる英雄の拳が、メタフィクスには嫉妬するほど憎々しかった。

 だが、勝つのは俺達だ。

 一瞬の間に数十発ほど拳を打ち合った二人はもつれ合うように上昇していくと、メタフィクスが悟空の突き出した拳を掴みながら唱えた。

 

「カイカイ!」

「なっ……!?」

 

 カイカイ──界王神やその付き人にのみ備わっている、瞬間移動能力である。

 メタフィクスはその能力を使って悟空の存在を、我が身と共に邪神龍の居るこの領域から連れ去ったのである。

 

 ──自分が敗れても確実に邪神龍を守り抜き、目的を果たす為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 メタフィクスのカイカイによって全王の領域から一瞬で転移した彼らの姿は、北の銀河で最も美しい青の星の荒野にあった。

 

 快適な重力に、透き通った空気。

 そこは彼らにとって、他のどの星よりも住み慣れた環境であった。

 

「ここは……地球か!」

「そうだ……ここは地球。俺と貴方達過去の人間が、初めて会った場所だ」

 

 周囲に広がる見慣れた景色を横目に、悟空がこの場所の正体を即座に把握する。

 彼らは今、全王の領域から一気に第七宇宙の地球へと転移してきたのだ。

 密着した体勢からメタフィクスと悟空が同時に距離を取りながら、その足を踏み慣れた大地に着ける。

 

「貴方の瞬間移動では、単独であの場所に行くことは出来ない。これでもし貴方が俺に勝ったとしても、邪神龍を止めることは永遠に出来ないということだ」

「っ、そういうことか……考えやがったな……!」

 

 わざわざ戦場を地球に移した理由を語るメタフィクスに、悟空が苦虫を噛み潰す。

 万全に万全を期したと言うところか。カイカイとは違い、事前に移動先の生物の気を探知する必要があるヤードラット星人式の瞬間移動では、宇宙を越えた彼方にある邪神龍の居場所へ戻ることは不可能だ。

 仮にメタフィクスを倒しても、邪神龍を倒さなければ時間の巻き戻しを阻止することが出来ない以上、悟空からしてみれば完全な手詰まりを意味していた。

 理性的に下されたメタフィクスの判断は、彼の計画を確実に成功へと近づけたのである。

 

「だが貴方がその心配をする必要は無い。貴方は俺に倒され、ここで死ぬ。そして、世界は生まれ変わる!」

「どうかな? 簡単にはいかねぇぞ!!」

 

 しかし絶望がより深まったこの状況でも、孫悟空の戦意は揺るがなかった。

 互いに譲れない思いがあり、守りたいものがある。

 正義の戦士と悪の邪神──その決着が、遂に訪れようとしていた。

 

「勝負だ! 孫悟空っ!!」

「おりゃあああっっ!!」

 

 気を解放した二人が、彼らの愛したこの地球で激突する。

 

 ──それは正真正銘の、ラストバトルの幕開けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場を地球に移した二人の最終決戦を、龍姫神の水晶玉からGT次元の一同が固唾を飲んで見守る。

 ベジータが倒れた今、メタフィクスと戦えるのはもはや超次元の悟空一人だ。

 そうなった時点で敗北は必至──と思われた当初の戦力差であったが、今この時の悟空は通常の超サイヤ人の状態でありながら、メタフィクスと対等に渡り合っていた。

 

「あっちの悟空さんが、とんでもなく強くなっている……!?」

「一体、何があったんだ……?」

 

 100倍界王拳の反動で一時は変身が出来なくなるまで体力が消耗していた筈が、身に宿る気が回復しているどころか爆発的に戦闘力が上昇している。

 今の孫悟空が彼らに見せている力は、サイヤ人の特性を鑑みても説明がつかない飛躍であった。

 嬉しい誤算の半面、唐突な事態に首を傾げる一同に、自らの役目を終え、超サイヤ人フォレストの状態を解除した龍姫神が説明する。

 

「貴方がたの良く知る孫悟空が、超次元に居る自分自身に自らの力を貸し与えたのです。元気玉の応用のようなものだと、彼は言っていましたが……ここまでのパワーアップは、確かに予想外ですね。同一人物であるが故に、何か相性の良さのようなものがあったのかもしれません」

「……やっぱり、さっき感じたのは父さんの気だったんだね」

 

 力を貸す、と言っていたようだが、まさに文字通りのことを彼はしてくれたようだ。

 加勢に入るのではなく、あくまで自らの力を貸し与える。龍神界の者が直接的に力を行使することは禁止されていると龍姫神は前に言っていたが、その抜け道を通ったかのような対応である。

 

 だが、それが最善なのかもしれない。

 

 あちらの世界の問題は、出来るならあちらの世界の住民が解決した方が良い。それも、彼らが当初思っていた以上に深刻な内容だった今回の件に関しては尚更だ。

 

 しかし、それにしても悟空のパワーアップには異常すぎるものがある。

 ベジータの超サイヤ人4と同等近い戦闘力であり……明らかに、彼の限界を超えた強さであった。

 

「まるで、フュージョンみたいだ……いや、それ以上かも」

超融合(スーパーフュージョン)って言ったところか……」

 

 次元を越えた二つの力が超融合し、孫悟空はメタフィクスを倒しうる最後の希望になったのである。

 二人の気を一身に集め、飛躍的に戦闘力を上昇させる点ではフュージョンに似ていると思うトランクスと悟天だが、何にせよ頼もしい力であることに変わりはない。

 そして悟空とメタフィクスの実力が近くなればなるほど、これまでこの次元のベジータ達が戦ってきた成果が明るみになっていた。

 

「メタフィクスも、度重なる戦いで大きく消耗しているようです……これが、彼らの最後の戦いになるでしょう」

「おじいちゃん……頑張って」

 

 多くの者達がつないでいった希望のバトンは、彼に託された。

 世界は違えど、やはりあそこに居るのは紛れも無く孫悟空だ。

 彼の雄姿を自身の目の奥に焼き付けるように見つめながら、一同は彼の勝利を願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽の光が照らし出す、地球の荒野。

 

 黄金色の戦士が拳を突き出すのと同時に闇色の戦士が拳を突き出し、互いの拳をぶつけ合った両者は爆風の煽りを喰らったように左右へと弾き飛ばされる。

 

「だりゃああああああっっ!」

 

 そこから体勢を立て直すのが一歩早かった黄金色の戦士孫悟空が雄叫びを上げて猛進し、闇色の戦士メタフィクスの胸へと突っ込んでいく。

 持てる力の全てを振り絞った全力の体当たりを避けることは出来ないと判断したメタフィクスが、咄嗟に両腕を交差して防御の構えを取る。

 が、悟空の勢いを殺し切ることは叶わず、防御の上から彼の身が弾き飛ばされ、勢い良く背後の岩場へと叩き付けられていった。

 

「くっ……そおおおオオッ!!」

 

 沈んでいく地盤から間も無くして復帰し、闇色のオーラを爆発的に解放させていくメタフィクス。

 名も無き界王神が表に出ていた時とは違う熱情の籠った目で、メタフィクスはその右手を背中の柄に添えて言う。

 

「孫悟空……俺は未来を変える。そう、決めたんだ……!」

 

 剣を抜き放ち、刀身がおびただしい闇を放って刃となる。

 それと同時に、メタフィクスの青み掛かった灰色の髪が紅蓮に染まった。

 超サイヤ人アンチゴッド。超サイヤ人ゴッドの神々しさと邪神の禍々しさを併せ持ったその姿は、メタフィクスという存在の混沌さと不安定さを物語っているかのようだった。

 

「だから……邪魔をするなあああッ!」

 

 つんざくような叫びを上げながら、漆黒と紅蓮の混じった光が吹き荒れていく。

 最初に見た時は、その姿が不気味に見えた。だから悟空は彼との戦いにワクワクを感じず、それどころか恐怖すら感じていた。

 

 だが……彼の正体を、そしてその想いを知った今、悟空の心に恐怖は無かった。

 

「わりぃな……邪魔をするぜぇ!」

 

 黄金色の光が荒々しく変わり、そしてその全身を青白い稲妻が駆け抜けていく。

 さらに一段階強化されたその姿の名は、超サイヤ人2。

 逆立った前髪の下で双眸を尖らせ、悟空がメタフィクスを睨み返す。

 斬り掛かってくるメタフィクスの剣戟を黄金のオーラを纏った拳で捌きながら、一心不乱に応戦した。

 打ち付け合いながら、悟空が彼に問い掛ける。

 

「本当にいいのかトランクス! 全部巻き戻したら、本当に何もかも無かったことになるんだぞ!?」

「何も無かったことにした方が救われる世界がある! 過去を見つめ直して、界王神様と出会って! 俺はそのことを知った!」

 

 そう叫ぶメタフィクスの顔からは、何の戸惑いも感じられなかった。

 揺るぎない闘志で悟空と対峙するその姿には、洗脳されている様子も無い。

 彼は本気なのだ。どこまでも本気で……しかしその眼差しは、どこか矛盾を孕んでいた。

 

「だったらなんで辛そうな顔しているんだ!?」

「ッ!」

 

 蹴り上げ、回り込みながら右肘を振り下ろす。

 よろめきながらも体勢を立て直したメタフィクスが、左腕で防ぎつつカウンターの容量で右手に携えた剣の切っ先を悟空の首元へと突き出してきた。

 その剣先を紙一重でかわした瞬間、一筋の擦過傷が頬に刻まれ鮮血が滴る。

 慣れた痛みに臆することなく密着した悟空が、両脇で挟むようにメタフィクスの右腕を押さえ込んだ。

 

「ぜってぇ後悔するぞ……おめえは、ベジータの言葉だって伝わった筈だ!」

「父さんは……っ」

 

 GT次元の孫悟空の力と同調した今の悟空の超サイヤ人2は、超サイヤ人ゴッドの力を持つ超サイヤ人ブルーの能力を遙かに超えていた。

 ベジータとフュージョンしてようやく着いていくことが出来たメタフィクスの力に、ようやく拮抗することが出来たのだ。

 しかし、今の悟空には自身のパワーアップに喜ぶ気もメタフィクスとの死闘を楽しむ気も無い。

 あるのはただ、ベジータの為、ブルマの為、そして誰よりトランクス自身の為にも絶対に負けられないという極限の思いだった。

 

「なあ、帰ろうぜトランクス? たくさんつれぇ思いしてきたんだからさ……もう、無理すんなよ」

 

 こちらの指摘に一瞬だけ眉を動かしたメタフィクスに向かって、畳み掛けるように呼び掛ける。

 自分でも、慣れねぇことをしているのはわかっている。だが自分の息子であり、彼の師匠だったあの悟飯なら、今の彼をきっと止めてくれる筈だと思ったのだ。

 

「……まれ……」

 

 拘束から逃れようとするメタフィクスの右腕が、絞り出された声と共に震える、

 そして次の瞬間、彼の左手から痛烈な連撃が襲った。

 

「黙れ! 黙れッ! 黙れ黙れ黙れぇっ!!」

「っ、ぐっ! うわあ……!?」

「黙れぇぇっ!!」

 

 狂乱の叫びと共に繰り出された拳が、悟空の頬を乱打しその威力が一発ごとに増していく。

 癇癪を起こしたような叫びは父ちゃんそっくりだなと感じながら、悟空の身体は荒野の地面へと叩き落とされていった。

 

「もう……たくさんなんだ! 救いの無い世界で、犠牲になる誰かを見送るのは!」

 

 泣いているように喚いて、聞いているこっちが辛くなる。

 空から響き渡る彼の叫びを仰向けの体勢で聴きながら、悟空は身体中の激痛以上に胸を刺す痛みを知覚した。

 

「神を倒して、生まれ変わった世界を邪神龍が治めればみんなが幸せになれる筈なんだ……! この次元を救う為にはそれ以外もう手は無くて……! どうしようもない犠牲が多すぎたんだ!」

 

 饒舌になるのは、心の中で彼が苦しんでいる何よりの証拠だろう。

 彼はずっと隠してきた。辛いことも悲しいことも我慢し続けて、耐えて戦い抜けばきっと乗り越えられると信じていたから。

 

「だから頼む……! もうこれ以上、俺達から奪わないでくれ!」

 

 未来を信じた結果、誰も居なくなった。

 

 託された想いも、何一つ守ることが出来なかったと……そう、自分を責めているのだろう。

 だから、彼は選んだのだ。この道を。

 

「トランクス……」

 

 彼に掛けてやれる言葉が、悟空には見つからなかった。

 彼と比べればきっと、自分は幸福な時代に生きていたからである。

 いや、違う。

 違うのだ、それは。

 そもそもこの時代が、彼の居た時代よりも幸福になれたのは──

 

「おめえのやってきたことは、無駄なんかじゃねぇ……」

 

 彼が託された想いは、まだ繋がっている。

 彼の手にもまだ、希望は残っている筈だと悟空は信じた。

 そんな悟空に向かって、いや、自分自身に言い聞かせるような言葉でメタフィクスが叫んだ。

 

「全てを終わらせた先にしか未来が無いのなら、俺はっ!!」

 

 仰向けに倒れた悟空の心臓にとどめを刺す為に、トランクスが両手に剣を構え、黒く滲んだオーラを光の翼のように広げる。

 澄み渡る蒼穹を背にした輝きを放つ姿は、まさしく新たな世界の神様に相応しい神々しさだった。

 だが、それでも。

 

 負けるわけにはいかねぇんだ!

 

「諦めんな!」

「っ!?」

 

 瞬間移動──これまで幾度となく悟空の窮地を救ってきた、ヤードラット星人の秘技だ。

 

「そうやって見切りつけちまったら、おめえがやってきたことが本当に台無しになっちまうんだぞ!」

 

 メタフィクスの背後へと回り込み、両足から繰り出した蹴りで逆に彼を地面へと叩き落としていった。

 その先に両手からの気功波で追撃しながら、悟空が問い掛ける。

 

「それでみんなが生まれ変わっても、おめえは救われるのか!? やり直した後で、おめえはどうすんだ!?」

 

 メタフィクスが空中で回転しながら着地し、間髪入れず降り注いでくる悟空の気功波を両手から放つ邪神の気のバリアで消失させていく。

 悟空の姿を見上げるメタフィクスは、その問い掛けを受けて深くまばたきした後、冷静さを取り戻した表情で返した。

 

 それは狂乱の渦にあった心の中で、自分自身の役割を思い出したかのように。

 

「……邪神龍が世界を巻き戻したら、今と同じことをするだけだ」

 

 ふっと、初めて笑みを浮かべる。

 しかしその表情は、あらゆる感情を投げ捨てたような笑みだった。

 

 

「邪神龍の使徒として、平和を脅かす者達と戦い続けよう。たとえそれが……数千億年に及ぼうとも」

 

 

 それが、この世界を終わらせた自分への罰とでも言うように。

 邪神メタフィクスは言い捨て、爆ぜた。

 

「おおおおお……! はあああああああっっ!!」

 

 内なる力をさらに引き出し、荒野に恒星を爆誕させながら真の力を解放させる。

 彼をここまで追い詰めた絶望の全てを彩るような、おぞましい叫び声を上げ──呼応するように、禍々しい気が爆発的に膨れ上がっていく。

 

 その瞬間、紅蓮の髪が白く染まって逆立ち、瞳の色は金色へと変わった。

 

(スーパー)サイヤ人(ゼロ)……!」

 

 虹色の神々しいオーラを撒き散らせる。

 再び見せたその変身に、悟空が震えを催す。底冷えするような肌寒さと恐怖を感じた瞬間である。

 たとえ自分が倒れようとも、邪神龍を倒さない限り世界のリセットは止められない。

 超融合した悟空とメタフィクスの戦況は互角だが、状況は圧倒的にメタフィクス側が優位だ。しかしそのような立場にありながらも、彼の頭には時間稼ぎなどという考えは一切無かった。

 本気で戦い、全力を尽くして己に挑んでくる彼の姿に、悟空もまた戦意を昂らせて対抗した。

 

「はあああ……! だあああああああっっ!!」

 

 悟空が叫び、最後の変身を行う。

 光の色をした前髪が逆立つと、後ろ髪が稲妻を放ちながら一気に伸び上がっていく。

 数段と力を増したその変身形態の名は(スーパー)サイヤ人(スリー)──かつての孫悟空最強の形態であり、別の次元の悟空と超融合を果たした今の悟空にとっての最強形態でもあった。

 

 ──ゴッドの力を持たずして、ゴッドを超えた力。

 

 神の力に頼らずとも人は神を超えて強くなれるのだと……ベジータの超サイヤ人4と同様に、世界にそんな希望を示すような姿だった。

 

「──!」

「──!」

 

 超サイヤ人0対超サイヤ人3。

 互いに最強の姿になった二人は同時に天空へと飛び上がり、一瞬の間にこの地球を何百周もしながら打撃の応酬を繰り返していく。

 黄金と虹色──二つの輝きを放つ二人が螺旋を描く姿は、まさに地球の青空を疾走していく彗星そのものだった。

 

「邪神龍のところで、ずっと戦い続けるっちゅうんか!? たった一人で……!」

「そうだ!」

「それじゃ何も……救われてねぇじゃねぇかよォ!!」

 

 激突する二人の力は空間を歪め、時間の法則さえもねじ曲げていく。

 拳と拳が弾き合う度に、宇宙のどこかが砕け、飛び散っていく。

 犠牲が生じる度に陰りが生じるメタフィクスの表情には、孫悟空と戦いながらも高揚は無かった。

 

 

 ──そんな彗星達の姿は、地上から見上げる多くの人々の目にも映っていた。

 

「あ、あれは……!」

「悟空とトランクス……か? あいつらが、戦っているのか……?」

「二人とも、なんて力だ……!」

 

 西の都のブルマの庭から戦闘の様子を見上げる一同が、彗星の正体が二人の戦士であることに気付いて驚愕の声を上げる。

 悟空とトランクスが戦っている。しかしそれは、いつか行っていた腕試しのような軽い雰囲気ではない。

 互いが互いを叩きのめす為に全力でぶつかり合い、一撃一撃に必殺の威力と殺意が込められた壮絶な死闘である。

 

「いくらなんでも、おめえは背負いすぎだ!」

「散々地球を救ってきた貴方がそれを言うな!」

 

 叫び、唸り、砕け飛び散った光が何度も集束し破裂していく。

 二人の死闘にはもはや迸る余波だけで気が狂ってしまいそうになるほどの、誰にも近寄らせまいとする凄まじさだった。

 

 

「トランクス……? どうして……」

 

 彼らの緊迫した戦いの空気を読み取ったブルマが、変わり果てた息子の姿に困惑の表情を浮かべる。

 何故あの二人があんな戦いを──殺し合いをしているのか。

 人知を遥かに超越した二人の戦いの様子が、一般人であるブルマの目に読み取れたわけではない。

 しかしその光景を見ていると何故か胸が締め付けられるように苦しく、抑えきれないほどに無性な虚しさを感じた。

 

『覚えておくのだ、お前達』

 

 そんなブルマに、ブルマ達の耳に低い声が響き渡る。

 それは上空に浮かぶ一体の龍──一同と同じように二人の戦いを見上げていた、神龍の声だった。

 

『今お前達が見ているものを、夢や幻だと思うのも良いだろう。だが、覚えておけ……罪の無い者の幸せを奪ってまで、自分の願いを押し通すことの残酷さを』

「神龍……」

 

 神龍のその言葉が何を意味していたのかは定かではない。

 ただブルマ達は今後何があっても、この光景を忘れてはならないと思った。

 

 ──誰一人として幸せになれない、その戦いの光景を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連戦に次ぐ連戦で消耗しても尚、力では超サイヤ人0が勝っていた。

 それでも悟空が食い下がることが出来たのは、メタフィクスの心の消耗度合いが肉体の比にならないほどに大きかったからであろう。

 

 しかし二人の戦意は最後まで、衰えることは無かった。

 

 それはどちらにも守りたいものがあり、どちらにも背負うものがあったからである。

 

 

 交えた拳の間から飛び散る凄まじいスパークが、二つ目の太陽の如く地球の空へ射し込んでいく。その光の中に、二人の戦士の姿を浮かび上がらせていた。

 メタフィクスが渾身の力で悟空を弾き飛ばし、背中に背負った鞘から一本の剣を抜き放つ。

 

「はあああああっっ!!」

 

 その刃を、メタフィクスは悟空の頭部から縦一文字に振り下ろした。

 もし敵が何も出来なければ、メタフィクスの剣は狙い違わず悟空の身体に食い込み、頭の先から顎下に至るまで一刀のもとに両断していたことだろう。

 

 だが、悟空は動いた。

 

「ふんっ!!」

 

 咄嗟に両腕を動かし、今まさに頭部へ叩きつけようとしていたメタフィクスの剣を両手で挟み込んだのである。

 血塗れの剣の刀身を、悟空が白刃取りの形で受け止めたのだ。

 もはや言葉すら交わさなくなった二人は互いに咆哮を上げながら、どちらも譲らず光のオーラを拡大させてその腕に力を込めていく。

 その果てに屈したのはメタフィクスでも悟空でもなく、押さえつけられたメタフィクスの剣であった。

 

「だあああっ!」

「──ッ!? チィィッ!」

 

 事態が膠着したかに思えた一瞬は過ぎ去り、悟空が身体ごと手首を捻り、メタフィクスが己の気を込めた剣の刀身を真っ二つに圧し折ったのである。

 無防備な体勢になったメタフィクスの隙を逃す筈も無く、悟空がその足で敵を蹴り飛ばした。

 

「くっ……! はあああああああ!!」

 

 即座に身を回転させながら体勢を整えたメタフィクスはそれ以上の追撃を悟空に許さず、雲の上の戦場からさらに上昇すると、折れた剣を鞘に収めながら一気に成層圏へと飛び出していった。

 それを追って、悟空も同じ領域へと躍り出る。

 

「今度こそ……最後だ!」

「ああ……行くぞっ!!」

 

 澄み渡る地球の青を眼下に、互いに呼吸を荒げた二人が勝負を決める最後の一撃へと打って出る。

 自身の最強の一撃を決めるべく、彼らは互いに師から譲り受けた大技の構えを取った。

 

「邪神魔閃光ッッ!!」

 

 印を結んだ両手にありったけのエネルギーを集束させ、虹色の光としてメタフィクスが解放する。

 邪神魔閃光──度重なる戦いに体力が消耗している今、その威力はゴジータに放った時よりも下がってはいたが、飲み込まれれば今の悟空の肉体を塵一つ残さず消し飛ばすには十分なパワーが込められていた。

 

「力、借りるぜ……」

 

 それと、同時。

 孫悟空もまた譲り受けた力の全てを注ぎ込み、赤い光として両手から放出した。

 

「10(べぇ)! かめはめ波あああああっっ!!」

 

 別次元の孫悟空の力を持った、孫悟空の超サイヤ人3。

 その力の中で本能で編み出したように、彼はかめはめ波の枠を超えた究極の一撃を完成させたのである。

 

 虹色の光と赤い光は唸りを上げてぶつかり合い、一つの恒星が誕生したような爆発が成層圏に広がっていく。

 この時、地球で召喚された神龍が咄嗟に防壁を張っていなければ、力の無い地球の民はその熱量によって蒸発し、たちまち消滅していたことだろう。

 神を超えた二人の戦いは、とうに地球という惑星の許容量をはみ出していたのだ。

 

 

「ぐっっ……! ぐうう……!」

 

 巨大な爆発の中で、その爆風の煽りを受けながら、孫悟空は朦朧とした意識の中で必死に耐える。  

 10倍かめはめ波──その一撃で、今度こそこの戦いを終わらせる筈だった。

 しかしそんな悟空の目論見は外れ、膨れ上がった爆炎を突き破りながら、光の剣を両手に携えた一人の戦士の姿が視界に飛び込んできた。

 

「おおおおおおおっ!!」

「何ッ!?」

 

 ファイナルホープスラッシュ──かつてザマスを葬りかけた一撃と同じ波動を纏いながら、白髪のメタフィクスが凄まじい速度で突っ込んでくる。

 悟空同様に、彼もまた今の一撃の反動を受けていた筈だ。

 とっくにその肉体は限界を迎えている筈だと言うのに、その執念は微塵も衰えていなかった。

 

「消え去れ! 孫悟空っ!!」

 

 折れた切っ先から伸びた光の剣。

 その切っ先を悟空の心臓に向けて突き出しながら、メタフィクスは最後の一撃を繰り出す。

 それは彼にとっては、未来を切り拓く希望の一撃だったのかもしれない。

 

 

「……!」

 

 まばたきする間も無い。

 あと数瞬もしないうちに、彼の携えた光の剣が悟空の心臓を貫き通すだろう。

 その事実を悟りながらも、不思議と悟空には敗北の悔しさも死の恐怖も感じていなかった。

 ただ、悟空は心の隅で微かに思った。

 今のメタフィクスの中に名も無き界王神の魂は無く、混じりっ気の無いトランクスの魂だけだというのはわかっていた。

 そんな彼が、他の誰でもない自分の意志で自分を倒し、世界を変えようとしていることも。

 しかし、それを止められなかった時。

 彼の母親である未来のブルマや師匠の悟飯、彼が守って来た人達が悲しむんじゃないかと──ただ、そう思った。

 

 故に、悟空は自らに迫る死の気配の中で気づけた。

 

「悟飯……さん……?」

 

 ほんの僅かだけ、彼が自分にとどめを刺すことを躊躇ったことに。

 ほんの一瞬だけ、彼が自分の姿に自らの師の姿を重ねてしまったことに。

 

「あああああ!! うあああああああっっ!!」

「……っ!? おおおおおっ!!」

 

 半瞬に満たないその隙を、悟空は見逃さなかった。

 超サイヤ人3の状態を維持していた力とこの領域に散布されていた気の力を右腕一つに集めると、なけなしの力を込めてその拳をメタフィクスの胸へと突き刺した。

 

 その直後、メタフィクスの剣の狙いが心臓を逸れて悟空の左肩に突き刺さった。

 

 瞬間──二人の戦士の変身がお互いに解除され、二人の身体は地球の重力に従いながら、もつれ合うように辺境の高山へと落ちていった。

 

 

 

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