超融合! 次元を越えたベジータ 作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)
──夢を見た。
それは、野望の達成よりも英雄の安寧を選び、自らの死への抵抗をやめた邪神龍が見た生涯の走馬灯である。
界王神になるべくして世に生まれ落ち、宇宙中の生命を守る為に奔走していた頃の無垢なる自分。
昔から破壊神といがみ合い、天使と対立することもあった。名も無き界王神は神として極めて異端であり、人間を愛し、人間と関わりすぎたが故に物の考え方が人間に寄り過ぎてしまったのだ。
その時からきっと、彼は歪な存在だったのだろう。
しかし、それでも……名も無き界王神は己を曲げられなかった。
人間が好きだったから。
身勝手でエゴの塊で、神の領域にまで土足で踏み込もうとする恐れ知らずな生き物──人間。
しかしそのあり様はどんなに不満があろうと絶対者に歯向かうことができない自分たちとは違い、自らの信念を貫き通す為ならば格上たる創造神にすら牙を剥いてみせる気高い心を持っていた。
そんなヒトという存在が、彼は好きだったのだ。
もちろん、全ての人間がそうも強く生きていたわけではない。
人間の多くは弱くて臆病で、それこそ何を間違ったのかどうしようもない悪人が生まれたこともあった。
しかしそれを踏まえた上でも、彼は人間を愛していた。
たとえ悪しき者がいるのだとしても、彼は人を神と対等に見ているつもりだった。
そんな自分を振り返って、名も無き界王神の魂は自嘲の笑みを浮かべる。
(トランクス……私もまた、ヒトの可能性を見下していたのかもしれません……)
彼らの紡ぐ物語を信じられなくなった。彼らの可能性を信じられず、自分が救わねばと見下していた。その結果がこれならば、自分も全王と大した違いはないのだろう。改めて、そう思う。
だから、滅ぶべくして滅びた。
全王も、自分も。
この結末がやがてどのような未来を手繰り寄せることになるのかは、虚無の世界で正史の未来を見てきた名も無き界王神にもわからない。
未来は彼らの手で変わったのだ。数多の時空に存在するパラレルワールドの、どの世界にも似つかない新しき未来へと。
そして、世界は託された。全王でも自分でもなく、この世界に生きる一人一人の手に。
──その希望を、信じてみたい、と思う。
絶望しか見えなかった十二の宇宙の行く末を嘆き、名も無き界王神は邪神となって全てを終わらせようとした。
しかしそれを止めに来てくれた……止めてくれた英雄たちがいたのだ。
神もまた……人格者など一握りもいなかったと彼は振り返るが、あの時の破壊神ビルスはそんな英雄たちに力を貸してくれた。
邪神メタフィクスを倒す為に、人と神は互いに協力し合うことができたのだ。
どちらが高位な存在なのかも関係なく──彼らはただ自分たちの未来を守る為に、お互いの手を取り合った。
消えゆく間際である今だからこそ、名も無き界王神はそれを尊く思った。
もしも世界が再び道を違えることになれば……その時はきっと、第二の邪神メタフィクスが生まれることになるだろう。
もしかしたらこの私自身が……蘇ってしまうかもしれない。
それでも、今は信じたい。
二度と邪神が世に現れないことを、消えゆく神の魂は願った──。
──ここからは、取るに足らない挿話である。
それは、とある一族同士による語らいだった。
一人は生意気そうな目つきをした黒髪の少年。
もう一人は、彼の母親に似た青い髪色をした少女の姿だった。
少年の姿は10歳前後のあどけない見た目であり、対する少女の方はハイスクールぐらいの年齢に見える。
そんな二人は修行の休憩時間中、荒野の高台に隣合って座りながら何気ない会話を行っていた。
「ねぇ、貴方の夢って何ですか?」
不意に掛けてきた少女の唐突な問いかけに、少年が高らかに答える。
「宇宙最強の王だ!」
「王様?」
「そうだ! 先祖は偉大な王子だったみたいだからな。俺はそいつよりも強いキングになってやる!」
少年の語った力強い意気込みの言葉に、青髪の少女が思わず噴き出した。
遠慮なく笑みを溢す少女の姿に、少年が不服そうな顔を返す。
「ぷっ、あははっ」
「な、何がおかしい!?」
「いや、おじいさまそっくりだなって思いまして」
てめえから聞いてきたくせに笑うことはないだろう!と、少年は少女の顔を睨む。しかし彼女の口から偉大なる先祖の話が出てくると、途端に彼の心に沸き上がった怒りが急速に冷えていく。
この時、少女は少年の語った夢を笑ったわけではなく、少年の考え方が彼女の知るご先祖様に似ていることを面白がっていたのだ。
先祖のことを尊敬している少年としてもそのことは、悪くない気分だった。
「ふん……そうか」
「嬉しそうですね」
「当たり前だ。俺の目標は一族最強の戦士だからな!」
「えらいえらい」
「くそったれ……離しやがれ!」
「あ……」
年齢不相応に偉そうに踏ん反り返る少年の姿を微笑ましく思いながら、青髪の少女はギザギザに逆立った彼の頭を撫でようと手を伸ばす。──が、彼はそんな少女の手を嫌い、つんけんした態度で払い除けた。
思春期を迎えたことでこの頃生意気さに磨きがかかってきた少年は、子ども扱いされることを良しとしなかった。
そんな高いプライドを持つ彼は、少女に向かってびしりと指を差した。
「そのうち必ず超えてやるぞ! あんたはもちろん、俺の先祖の強さもな!」
それは幼くも一端の戦士の目をした少年による、少女への戦線布告だった。
男の子の意地というものでもあるのかもしれない。少女にとってついこの間まで可愛らしい赤ん坊だった少年だが、いつの間にか超サイヤ人への変身も習得し、立派になりつつある。
少女にはそんな彼の可愛げのない姿が少しだけ寂しかったが、それ以上に嬉しかった。
「……その意気です。まあ、その前に孫悟空Jr.くんに勝たないといけませんけどね」
「わかっている!」
「ふふ、素直でよろしい」
照れ笑う少女の顔から目を逸らすように、少年がそっぽを向く。
そんな彼は、話題を変えるように今度は少女に問い掛けた。
「……ふん。あんたはどうなんだ?」
「どうって?」
「あんたには何か夢はないのかと聞いているんだ!」
同じ話題を自分に振られるとは思わなかったのか、少女はきょとんとした顔をする。
見た目こそ歳若い青髪の少女だが、実を言えば彼女はとっくに成人している身である。そして、少年の母親よりもずっと年上だったりする。
実年齢は老婆もいいところである彼女には、こうして改まって将来の夢を聞かれると、すぐには思い浮かばなかった。
「……夢を語れる年齢でもないのですが」
「歳を言い訳にするな。悟空のところの婆さんだって、夢はあるらしいぞ」
「パンさんが、ですか……そうですね。夢を語るのに、年齢は関係ありませんか」
困惑する気持ちに対して少年が尤もな指摘を返すと、少女は「うーん……」と人差し指を唇に当てながら長考に入る。
それから数拍の間を置いて、少女は穏やかに微笑みながら言い放った。
「では、ベジータくんが元気に暮らしていけますように、というのは駄目ですか?」
まるで親のようなことを言う彼女の「夢」に、少年は頭を抱えながら嫌そうな顔をした。
「っ、あんたに願われるまでもない!」
「もう、意地悪ですね」
「そんなことより! もっとそれらしい夢は無いのか、夢は!」
未来を担う少年の成長を願い、それを見守ることこそが今の少女にとっての数少ない娯楽であり趣味だった。
それはまるで孫の成長を見守るような心情であったが、当の少年からしてみれば余計なお世話だったのかもしれない。
まったくもって、かわいくない王子である。
「じゃあ……」
ならばこういう夢はどうだろうか、と少女は思い浮かべる。
想像したのは今この世界に居ない英雄たちと共に銀河の旅に飛び出していく、あどけない頃の自分の姿だった。
──もう一度子供に戻って、摩訶不思議な冒険をしてみたいですね。
ベジータの孫であるレギンスがベジータjr.に自らの夢を語った……100年後の一幕だった。