超融合! 次元を越えたベジータ 作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)
神龍。願いを叶える龍の神様。
悟飯もウーブも、その姿を見間違える筈がなかった。
空を覆い尽くす龍の威容を前に、二人は茫然とその姿を見上げる。
青い神龍はそんな彼らを赤い双眸で見下ろすと、太陽の如き眩い光を放った。
「……!」
あまりの眩しさに反射的に目を閉じる悟飯とウーブ。
そんな彼らが次に目を開けた時、その空に青色の龍の姿はなかった。
しかし、龍の居た場所には一人の少女の姿があった。
「あれは……っ」
「女の子……?」
歳の頃は、パンと同じ十代半ばほどであろうか。
身体つきは華奢だが凛々しく整った顔立ちにあどけなさは無く、少女はやや目尻のつり上がった青い眼差しで悟飯の姿を見下ろしていた。
特徴的なのは先の龍の鱗と同じ色をした、鮮やかな青色の髪の毛だろう。癖のないその髪を肩先まで下ろした色白の少女は、馴染みのない民族衣装のような羽織を身に纏ってこそいるが、一見地球人の少女と何ら変わりのない外見だった。
しかし、明らかに地球人とは異なっている点がある。
それは、彼女が内包している「気」の種類だ。悟飯とウーブは彼女の「気」に対して、即座にその異質さを感じ取っていた。
少女はゆっくりと空から降下していくと、悟飯達の前に降り立つ。
ただならぬ気配を身に纏う少女からは敵意こそ感じないが、二人ともどう立ち回れば良いのか判断しかねていた。
そんな二人に対して、少女が初めて口を開く。
「私は
凛とした声で
その瞬間、悟飯とウーブの思考は激しく揺さぶられた。
「っ! 悟空さんが……!?」
「君は……」
五年前にこの世界から消えた悟飯の父、孫悟空。その名前が予想だにしないところから出てきたことで、特にウーブが動揺を見せた。
まるで彼本人と会ったようなことを仄めかす少女に対して、悟飯が訊ねた。
「君は……さっきの青い神龍なのかい?」
「はい。あれは私が変化した龍の姿です」
「警告? それはもしかして、さっき戦ったフリーザのこと?」
「ええ。しかし、あれはゴールデンフリーザではありません。フリーザよりもずっと強大で恐ろしく、哀れな存在……」
ゴールデンフリーザとの戦いの後に起こった彼女の出現は、決して偶然の巡り合わせなどではない。
即座にそのことを悟った悟飯が少女に事情の説明を求めると、彼女は快くそれを引き受けた。
そして彼女は、想像を絶する真実を彼らに語った。
「あれの名は「邪神メタフィクス」。宇宙を喰らい、無限に戦闘力を増していく滅びの邪神です」
少女の口から放たれた「邪神」の存在──それが今回の、五年ぶりにこの宇宙を脅かすことになった新たな敵の名前だった。
西の都。
巨大ドーム並の広さを誇るブルマの家では、家主のブルマが久方ぶりに多くの知人達を集めていた。
そこにはビーデルやパンを含む孫一家の姿はもちろん、クリリン一家、プーアルと共に放浪生活を送っていたヤムチャ、ミスター・サタンにカメハウスの亀仙人やウミガメ、長い間会っていなかった天津飯や餃子までも招集されており、連絡の取れる限り「孫悟空と関わりのある者」はほぼ全員がそこに集結していた。
それには一時間ほど前に悟飯達がこの家を訪れ、彼らを集めてもらうように頼み込んだからである。
ブルマからしてみれば急な話ではあったが悟飯達の必死な声を聞くなりただ事ならぬ事態を察し、こうして迅速に対応したのだ。
尤もまだ事情を知らない者達は、久しぶりに再会したかつての仲間達と気楽に世間話と洒落込んでいた。
「ギルルル! パン、ヒサシブリ!」
「ギル、久しぶりね。元気にしてた?」
「ゲンキ! ゲンキ!」
パンもまたその一人であり、しばらく会っていなかった友との再会を素直に喜んだ。尤も年単位で会っていなかったわけではなく、それほど懐かしむというほどのことではない。
しかしこの場にはまだ姿のない顔ぶれもあり、パンはそのことについてブルマに訊ねた。
「ブルマさん、トランクスは仕事?」
「ええ。あの子は今、ベジータと一緒に手が離せないことをやっているみたいよ。すぐに来ると思うんだけど」
集合場所がブルマの家ならば家族である二人も集まっていると思ったのだが、トランクスとベジータだけはわけあってまだ来ていないようだ。
尤も、自分達が何故この場に集まることになったのかはパンもまだ聞かされていない。
父の悟飯がウーブと共に戦いを終えて帰って来たと思ったら、このように急いでブルマの家に集まるよう指示されたのだ。
そしてほぼ全員がこの場に集まったことを確認したところで、悟飯とウーブが見知らぬ青髪の少女を連れてこの場にやって来た。
「龍姫神様、どうぞ」
「……ありがとうございます」
悟飯が少女に発言を促すと、少女が一同の前に出て言い放った。
「私は龍姫神。孫悟空が封印された世界──「龍神界」を管理する神の一人です」
麗しくも神々しさを放つ眼光で一同を見渡しながら、少女──龍姫神は語る。
彼女が話している間は誰にも割り込むことが出来ないと、その名の通り「神」を名乗るに相応しい様相を呈していた。
「今回は二つ、貴方がたに警告と報告に参りました」
凛と張りつめた声で、彼女は続ける。
「まず報告の方を先にさせていただきましょう。それは孫悟空の行方──ここに居る皆さんは全員、五年前に孫悟空がどこへ行ったのか気に掛かっていることでしょう。
彼は生きて、私達の世界に居ます」
その発言に、一同は大いにざわついた。
孫悟空の行方──それは誰もが気になっていたことであり、妻のチチなどは未だに捜索を諦めていなかった。
そんな中で唐突に明かされた真実に、思わずそれは本当かと龍姫神に掴み掛かろうとするチチを悟天が制止する事態になっても責める者は居ない。
そんな周囲の様子を青い瞳で一瞥した後、気を取り直して龍姫神が語り出す。
「……孫悟空に関する質問は後で受けましょう。そして、次は警告です」
警告──それは、これから良くない事態が起こることに対して注意を促すことだ。龍姫神がその話を後に持ってきたことを考えれば、彼女からしてみればこちらが本題のようだった。
再び静粛に戻った空気の中で、彼女は神妙な表情からはっきりと言い放った。
「今、この宇宙は光の何倍もの速さで萎み続けています。このまま放っておけば、ひと月も持たず宇宙は消滅するでしょう」
それは、宇宙そのものに対する余命の宣告だった。
警告と言うには些か遅い、現在進行形で進んでいる衝撃の事態。
あまりにもスケールが大きすぎる話に、一同の理解が追いつくにはしばしの時間を要するほどだった。
「嘘だろ……そんなの、どうすればいいんだよ! ドラゴンボールもないんだぜ!?」
一同の動揺を代弁するようなヤムチャの叫びが、室内に響く。
荒唐無稽な話でありながら、一同を見据える龍姫神の瞳はそれが事実であることを本能的に彼らに理解させていたのだ。
そんな彼らに対して、彼女は宇宙が萎んでいる原因について詳細を語った。
「この宇宙が消滅に向かっている原因は、次元の狭間に生まれた「邪神メタフィクス」の存在にあります。目的は不明ですが……彼は今この宇宙を喰らい尽くそうとしているのです」
邪神メタフィクス──それが、宇宙の消滅を引き起こしている張本人である。
宇宙が滅びると話を切り出された時点で既に何人かは察していたが、やはりその事態は自然的な現象ではなく、特定人物の仕業だったのだ。
報らされた新たな敵の存在に困惑する一同。そんな彼らの元に、彼女の言葉を裏付けるように「見知った神」が姿を現した。
「その方の……龍姫神様の言っていることは本当です」
「界王神様?」
この宇宙を管理する界王神の一人、キビト神である。
界王神界からこちらの様子を見ていたと言う彼は、得意のカイカイを使ってこの場へ移動してきたのだ。
そしてキビト神は即座に青髪の少女、龍姫神の元へ歩み寄り、言葉を交わした。
「青い神龍の正体は、貴方だったのですね」
「龍神界からこの次元へ移動する為には、龍の姿にならなければならないのです。紛らわしいことをしてしまい、申し訳ありません」
「いえ、とんでもない……」
「畏まる必要はありませんよ、界王神様。貴方はこの宇宙の最高神なのですから」
「は、はい」
龍姫神と界王神。共に神の名を冠する二人は、その名に偽りのない格を備えている。
しかしその人となりをこの場に居る者達は知っている為か、一同の目には界王神の方がどこか頼りないと言うか、格落ちしているように見えていた。
そんな彼に対して、界王神と龍姫神との関係が気になった悟天が質問を掛けた。
「界王神様は、その子のことを知っているんですか?」
「いえ、私も今まで全く知りませんでした。何でもご先祖様によると、龍姫神様は神龍の住む世界を管理している偉い神様のようで……」
「ちょっと待って! 神龍の住む世界ってなによ?」
界王神の話に割り込み、ブルマが訊ねる。
神龍の住む世界と聞けば、長年ドラゴンボールと関わり続けてきた彼女が聞き逃せることではない。
彼女の認識では神龍もドラゴンボールも、元はナメック星だが地球の神様が生み出したものの筈だからだ。
「私達の管理している世界、「龍神界」のことです」
龍神界──彼女の自己紹介にも出てきた固有名詞である。
そして彼女は、ドラゴンボールに隠された知られざる真実を一同に明かした。
「そもそも貴方の知っているドラゴンボールというものは、七つ集めることで私達の世界から神龍を呼び出すことが出来る召喚の媒体であり──神龍とは、私達の世界で暮らす龍の一体なのです」
神龍達の暮らす「龍神界」という世界が遠くに存在し、ドラゴンボールはその世界から神龍を召喚する奇跡のアイテムだったと。そしてそのドラゴンボールを作ることが出来るのは、この宇宙で最も正しい心を持つ優秀な民族であるナメック星人の「龍族」と、理由あって龍神界から離れることになった「龍神」だけなのだと彼女は語った。
平然とした表情のまま衝撃の事実を語る彼女の話は、尚も続く。
「住んでいたのは神龍だけではありません。七体の邪悪龍もまた全員、元々は私達の世界で暮らしていた龍の戦士達でした」
「あー、だから邪悪龍達の力は、神龍よりも強かったのか!」
「あれはドラゴンボールのマイナスエネルギーが神龍を邪悪龍にしたんじゃなくて、ドラゴンボールのマイナスエネルギーが龍の世界に居た邪悪龍達を呼び出したってことなのかな……」
「概ね、正解です」
言うならば、自分達は神龍を「借りていた」ようなものだったのだと、一同は納得できない部分はあれどその事実を受け止める。
しかし、既にこの世に無いドラゴンボールのことを考えていても生産的ではない。
一同──特にパンにとって重要だったのは、それとは別の話だった。
「おじいちゃんは、神龍の世界に行ってたんだ……」
「驚いたわ……トランクスの想像通りね……」
祖父が神龍に乗って消えていった先は、神龍の故郷だった──それが想像の範囲内だったかどうかと言われると、実のところある程度はその通りだった。
何となくだが、そんな気はしていたのだ。と言うよりも、パンにはそうであってほしいという思いがあった。
祖父が消えた。その事実を受け止めることは出来ても、祖父が死んでしまったなどとは考えたくなかったのだ。
「じゃ、じゃあさ! 僕達からそっちに行けば、またお父さんに会えるかもしれないんだよね!?」
「理論上はそうですが……龍ではない純粋な人間である貴方達を、こちらに招くことは容認できません」
生きているのならまた会うことが出来る──同じことを考えていたのであろう悟天が龍姫神に訊くが、彼女は申し訳なさそうに首を横に振った。
だが、それだけで諦める者はおそらく居ないだろう。
何せこの場に居るのは、誰も彼も常識を超越したような戦士や科学者ばかりだ。居場所がわかった以上、これだけの者達が本気を出せばきっとまた会えるだろうと悟飯は思っていた。
「みんな、父さんのことは後でじっくり考えましょう。今は龍姫神様が言っていた邪神メタフィクスって奴のことが大事でしょう」
「そ、そうだな……」
「悟飯、お前その仕切り方ピッコロに似てきたな」
そう、父との再会のことは、後でじっくり考えることが出来る。
当面の問題は、龍姫神の言っていた「邪神」だ。ここまでの話を聞くに、その者が居る限り父のことを考える時間すら無くなってしまう。
「龍姫神様、そのメタフィクスって奴をなんとかすれば、宇宙は助かるんですよね?」
「はい。そしてそれが出来るのは、この宇宙で最強の戦士である貴方達しか居ません」
自分達のすべきことを今一度確認する悟飯に、龍姫神がきっぱりと言い切る。
邪神と戦い、これを打ち破れと。相手は違えど、それは今までも幾度となく繰り返してきたことだった。
大きな違いと言えば、戦士の中に孫悟空が居ないことだが。
「……また宇宙のピンチか。悔しいけど、俺にはとても力になれそうにない」
「それこそ、いつもは悟空の出番だったよな。あいつはいつも美味しいタイミングでやってきてさ……」
ヤムチャやクリリンと、年老いて戦闘から遠ざかっている地球人戦士達がかつてのことを思いながら感慨に浸る。
自分達が戦力になれないことを嘆く彼らだが、彼らは既に十分すぎるほど戦ってくれたと悟飯は思う。
そしてそれは、龍の世界に居るという父孫悟空もだ。
「お父さんに手伝ってもらうことって、出来る?」
「出来ません。私以外の龍世界の住民は、ドラゴンボール無しにこちらの世界と行き来することは不可能です」
悟天が一応の形として聞いてみたが、やはり父は今回のことに関わることは出来ないらしい。新たな強敵と戦えなくて悔しがる姿が目に浮かぶようだが、今度ばかりはその方がいいだろう。
宇宙の、地球の平和を守るのはきっと今を生きる者達でなければならないのだから。
「孫悟空もまた、この事件は貴方がたで対処することを望んでいます」
「そうかー……でも確かに、いつまでも頼ってちゃ駄目だよね」
「その通りだ、悟天。父さんが居ない今、僕達がやらなきゃ……そう言う僕も、あんまり力になれそうにないけど」
「大丈夫ですよ。今度は逃がしません。俺がこの手で倒しますから」
「ウーブ君……」
「ベジータにも言っておくわ。そのメタなんとかってのがどのくらい強くても、今のベジータならちょちょいのちょいよ」
悟飯の力は既に全盛期を過ぎているが、他の者達はそうではない。
この地球には五年前の悔しさをバネにさらに飛躍したウーブに、あれから鍛え直した悟天、トランクス、そしてベジータが居る。特に悟天は学者の悟飯や社長のトランクスよりも暇な分他の戦士達よりもベジータにみっちりと絞られたようで、今では悟飯を超える戦士として立派な強さを身に着けていた。元々、サイヤ人の中では誰よりも才能があったのだ。戦う意欲さえあれば、かつての父に追いつけるほどのものはあった。
……尤も、その「戦う意欲」というものが、気性が穏やかすぎる混血のサイヤ人が強くなる為には何より大きな壁なのかもしれないが。
そういう意味ではやはり、彼らはこの世に残った唯一の純血サイヤ人であるベジータには敵わないのだろう。
「その、ベジータさんは今どちらに?」
今この場に居ない宇宙最強の戦士、ベジータの存在は彼女も予め知っていたのだろうか。龍姫神が彼の姿が見当たらないことを不思議がりながら、ブルマに問うた。
そのブルマは、六十代にもなって相変わらず戦いばかりの夫を脳裏に呆れた苦笑を浮かべながら、彼女の質問に答えた。
「戦っていると思うわ。……違う世界の孫君とね」
「え?」
宇宙最強の戦士、ベジータの姿は今、この次元には無かった。
彼の姿はこの世界とは違う、もう一つの世界──次元の壁を越えた先にあるとある破壊神の聖域にあったのだ。