超融合! 次元を越えたベジータ 作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)
地球という星はベジータにとって、今や第二の故郷だった。自らを指して「サイヤの誇りを持った地球人だ」と叫ぶほどに、彼は居心地の良い地球を愛していたのだ。
しかしその地球に訪れた平和の中で、彼は居心地が良いからこその居心地の悪さを感じていた。
それは彼がこの世で唯一ライバル意識を抱いていた男と──
それは魔人ブウとの戦いの中で、吹っ切れた筈の感情だった。
カカロットをナンバーワンだと認めて以降は彼の後を追うのはやめ、純粋に自分の限界を知る為に修行に励んできた筈だった。
しかし今のベジータの心を支配していたのは、どうしようもないほどの飢えと渇きだった。
敵も居ないのに最強になってどうする? というのはかつて魔人ブウが孫悟飯に言った言葉だが、今のベジータにはまさにその状態が当てはまった。
宇宙最強──かつて病的なまでに焦がれていた筈のその座についた筈のベジータは今、戦士としては誰よりも孤独だったのだ。
「おめえ……本当に
ジーンズにタンクトップと、サイヤ人の正装から外れた地球人的な装いのベジータの前に立っているのは、左胸に妙なマークが描かれている山吹色の道着の男だ。
左右に跳ねた下級戦士特有のヘアースタイルと言い、田舎者のような喋り方と言い……その姿はまさしく、ベジータが五年間追い続けてきた男のそれと同じだ。しかしその男が身に纏っている雰囲気は、
「貴様こそ、本当に
これが、生きてきた次元の違いから来る差異という奴だろうか。彼と別人だということは最初からわかっていたが、彼が孫悟空──
「しょうがねぇ……オラも全力でいくぜ!」
そんなベジータの前で、悟空が内なる力の全てを解放する。
瞬間、彼の身を覆うオーラの色が海のような青へと変わり、逆立った髪の毛もまた美しい青へと染まっていった。
「ほう、それが貴様の新しい超サイヤ人か。さっきまでとは「気」の種類が変わってやがる……前までの俺には、読み取ることが出来なかった「気」だ」
「? なんだおめえ? これが超サイヤ人ブルーだって自慢してたのはおめえじゃねーか」
「……ということは、こっちじゃその変身が主流ってことか」
超サイヤ人ブル──―超サイヤ人ゴッドの力を持ったサイヤ人の超サイヤ人のことを、この「次元」の彼らはそう呼んでいた。
通常の超サイヤ人とは比較にならない力の飛躍であり、おそらくこれがこの「次元」の孫悟空の最強形態なのだろう。
興味はそそられる。
しかし。
「はああっ!」
最強の変身と呼べるほど、期待していたほどのものではなかった。
そう感じながらベジータは通常の超サイヤ人から超サイヤ人2へと変身すると、見慣れない青髪となった彼と相対する。
「……おめえ、一体何があったんだ?」
そんなベジータが内包している「気」を持ち前の嗅覚から感じ取ったのか、悟空が今までのちゃらけた雰囲気から一転して真剣な表情で訊ねる。
彼視点からすれば、それは予想外などという生易しい表現すら当てはまらないのだ。
ベジータの戦闘力が──超サイヤ人2の時点で超サイヤ人ブルーの自分に匹敵するなどということは。
「貴様もカカロットなら、精々俺を楽しませてみろ」
悟空の問いに、ベジータは答えない。
と言うよりも、答えてはいけなかったのだ。それが彼がこの「次元」に跳躍する際に課せられた息子との制約であり、約束だったからだ。
「はっ!」
「でりゃあ!」
二人の超戦士が激突し、その余波だけで大地が裂けて星が悲鳴を上げる。
この星が地球ではないことをいいことに、二人は自らの力を思う存分にぶつけ合っていた。
「おめえ、ビルス様の星でそんな無茶苦茶すんなよ! 二人とも留守なんだからさ!」
「うるさい! 奴だって散々他人の星を壊してきただろうが!」
「どうなっても知らねぇぞ!」
光の如き速さで繰り出される、鍛え上げられた技と技の応酬。
軽口を叩きながらベジータと打ち合う悟空だが、実のところ既に限界に近い力を出していた。
この形態での戦いは、単純なパワーに関してはやや悟空の超サイヤ人ブルーの方が上だった。しかし、戦局はややベジータが優勢に進んでいる。
老練としたベジータの戦いの技巧が、悟空のそれを上回っていたのだ。
「くっ……! ベジータがなんかベジータじゃねぇぞ! 変わってんのは、髪型だけじゃねぇ……!」
どちらかと言うと、ベジータの得意とする戦い方は気弾を駆使した空中での中長距離戦だ。対して悟空は地上での肉弾戦を一番の得意としており、この状況ならば悟空の方に分がある筈だった。
しかし今、悟空は自分の土俵でベジータに押されていた。それも、超サイヤ人ブルーですらない超サイヤ人2にだ。それは単にベジータの成長の一言では片づけられない異常事態だった。
コイツは、まるで別人になったみたいだと──彼はそのように、直感で事の真実に迫っていた。
「どうした! 貴様が手に入れた力はその程度か!?」
「っ……!」
「この俺を相手に全力を出し惜しんでいる場合か! カカロットなら、もっと俺を驚かせてみろ!」
そんな悟空に対して、ベジータの攻撃には何の容赦もない。
まるで最初に地球で戦った時と同じように、彼の攻撃には明確な殺気が込められており、悟空を本気で殺すつもりで叩き込んでいた。
それも全て、悟空の全力を引き出す為だ。ここまで打ち合ってみてわかったことだが、どうにもこの「次元」の彼は戦闘開始から力を出し惜しむ傾向があるらしい。
元々、というかベジータの「次元」の悟空にもそう言った無意識な手加減癖はあったが、どうにもこの「次元」の悟空はそれが際立っているように見える。
それだけこの「次元」の悟空は自分の力に自信を持っているということなのだろう。ならばベジータは、その力を最後まで引き出した上で見ておきたかった。
相手を必要以上に強くしてしまうことは、ベジータの得意技である。
「界王拳っ!!」
「!?」
そして目論見通り、追い詰められた悟空はその力を引き出した。
超サイヤ人ブルーの変身の上に、さらに界王拳のパワーアップを上書きした限界突破の力。
懐かしい技を使いやがるぜ……と、ベジータはかつて辛酸を舐めさせられたその技を前に、闘気の笑みを浮かべた。
「だありゃあっっ!」
「ぐぉ……っ!」
青いオーラの周りを赤く染めた悟空の拳が、先ほどの何倍ものスピードとパワーを持ってベジータに突き刺さる。
まるであの時と同じだと……殴打の嵐を喰らいながらもその感覚にベジータは喜んでいた。
そうでなければ、わざわざこの世界に来た意味がないからだ。
「ちゃあああっ!」
地面に叩き付けられたベジータは咆哮を上げて上空へと飛び上がり、一瞬にして悟空を見下ろす位置へと移動した。
そのベジータは上半身を捻り、両手に「気」を集中させて構えを取る。
ベジータの必殺技の一つ──ギャリック砲の構えだ。
「おもしれぇ……そっちがその気なら、オラだって!」
その構えを取ったベジータの意図を察したのか、悟空が地上に降りて構えを取る。
身体の前で両手首を合わせて手を開き、その両手を腰付近に持っていきながら体内の気を集中させ、上体を捻り両手を後ろに持っていく。
孫悟空の得意技にして師匠である武天老師の奥義。体内の潜在エネルギーを凝縮させて一気に放出させる──かめはめ波。その技を今、悟空は超サイヤ人ブルーの界王拳状態で放とうとしていた。
「喰らえええっっ!!」
「波ああああっっ!!」
そして二人は、お互いの技を同時に放つ。
ギャリック砲対かめはめ波。増大するエネルギーはこの「次元」の宇宙を揺らし、遥か彼方で仕事に当たっていた破壊神と付き人が異変に気づいてこの場へ急行しているが、決着がつくまでには到底間に合わないだろう。
この撃ち合いを制した者がこの戦いの勝利者になると、そう確信させるだけの力が二人の技に込められていたのだ。
「二十倍だあああ!」
拮抗する一気に勝負をつけるべく、悟空が界王拳の力をさらに引き出す。
その瞬間、悟空のかめはめ波はベジータのギャリック砲を一気に押し返し、ベジータの身体を諸共飲み込もうとする。
──しかしそれは、かつての再現とはならなかった。
追い込まれたベジータが不敵な笑みを浮かべた次の瞬間、彼の姿が大猿の咆哮を上げて光り輝き、赤く変化したのだ。
「なに……!?」
撃ち合いの最中に見せたベジータの変化に、悟空が驚愕する。
髪は赤みの入った黒髪になり。
身体には猿のような赤い体毛が生え。
そして、気の嵐に揺らめく「尻尾」──その全てが、この「次元」の悟空が知らない姿だった。
「これが神を超えた最強の戦士!
落ち着いた容貌の超サイヤ人ゴッドとは対照的な、荒々しい容貌の超サイヤ人4。
そして劇的に変わったのは姿だけではなく、その力もだ。
彼がその姿に変身した瞬間、悟空が最大の威力で叩き込んだ筈の二十倍界王拳のかめはめ波はいとも簡単に押し返され、悟空の身を飲み込んでいった──。
カプセルコーポレーション、研究室。
厳重な警備と有数の科学者達に囲まれたその部屋の中で、人ひとり分収容出来る大きさのカプセルの蓋がおもむろに開いた。
凄まじい放熱によりおびただしい量の湯気が立ち上がり、その中から一人の男が姿を現す。
その男の名はベジータ──このカプセルコーポレーションの社長、トランクスの父だった。
「父さん、無事でしたか!」
それまで科学者達の中で緊張の表情を浮かべていたトランクスが、父の姿が見えたことで安堵の表情を浮かべる。
何せ、人類史上初の発明だ。実験はこれが初めてではないが、やはり彼がこの「次元」に帰ってくるまでは、何度やっても安心出来るものではなかった。
「あのぉ、お身体の検査は……」
「必要ない」
無言でカプセルの中から出てきたベジータを気遣うように前に出る社員に、彼は冷たく突き返す。その表情には、明らかに不機嫌さがにじみ出ていた。
「ど、どうしたんですか? まさか移動が失敗したとか……」
「……ああ、これの実験は成功だ。お前が考えたおもちゃは、ブルマの発明品にも匹敵するだろう。だが……」
──次元移動装置。
それは、トランクスがタイムマシンの原理を利用して基礎理論を固め、この世に生み出したカプセルコーポレーションの新たな発明品だ。
その機能は、文字通り次元の壁を越えてありとあらゆる世界へと飛び立てるというもの。具体的にはこの世界とは異なった別の可能性の世界──パラレルワールドに移動することが出来るという、実現すれば世紀の大発明となるオーバーテクノロジーだった。
今ベジータが入っていたカプセルのような機械は、その実験機だ。
幾度も研究と改良を重ねたことによって遂に当初の目標通り別の「次元」へ渡る機能を再現することが出来たのだが、それでもまだ多くの欠陥が残っていた。
その一つが、「ベジータほどの強靭な肉体でなければ次元移動の際に生じるエネルギーに装置内の人間が耐えられない」という致命的な欠陥であったが、当のベジータ自身からすればそれ以上の欠陥があったのだ。
「このマシンで行ける「次元」は、あの世界だけか」
ありとあらゆる世界へ飛び立てる装置を作る──というのがトランクスの最終目標であったが、その点に関して言えばこの実験機はまるで届いていなかった。
今現時点で行くことが出来る別の「次元」はたった一つだけ、十二の宇宙が存在し、「全王」という神が治めている世界だけだったのだ。
この次元以上に人を超越した存在が多く闊歩するその世界を、彼らは「超次元」と呼んでいた。
だがそんなことは、今のベジータからしてみればどうでも良かった。
かつて「全然仕事をしないのよこの人」とまで妻に愚痴られていたベジータが、こうして息子の研究を手伝っているのは義理でも趣味でもない。
ベジータにはこの装置を使うことで、自分自身が抱いている野望を成し遂げたかったのだ。
──勝手にこの世界からいなくなりやがった馬鹿野郎を、この手で倒しにいくという野望が。
「……これからまた改良を重ねれば、すぐに行けるようになりますよ。悟空さんの居場所へ」
ベジータの全盛期は、おそらく今この時だ。
年齢が六十を過ぎた今、若い期間の長いサイヤ人と言えど、いつ老化による衰えが始まるかわからない。特にベジータは、老界王神に寿命が縮まると言われていた超サイヤ人に躊躇いなく何度も変身している身だ。通常のサイヤ人以上に老化が早くなる可能性は十分にあった。
故にこそ、ベジータは急いでいた。自らの修練の果てに到達したこの全盛期が過ぎる前に、過去の清算を──
「そっちの世界で、悟空さんと戦ったんですか?」
「あの世界でも、あの野郎は昔のままだった。時間の流れが違うのかもしれんがな……」
今回行ったのは装置の起動実験に過ぎず、トランクスからしてみれば現地の人間に会って戦うまでする必要は無かったのだろうが、当然と言うべきかベジータは次元を越えるだけで満足はしていなかった。
何分こちらの世界には今の彼とまともに戦うことが出来るのはウーブぐらいなもので、そのウーブすらもベジータを満足させるには程遠い現状なのだ。
せっかく別の次元に来たのなら、そこにしか居ない強者を求めるのは当然だった。
「少し若かったが、奴は確かにカカロットだった。戦い方も、俺を驚かせる変身も、いちいち癇に障るツラも……間違いなくあの野郎だ」
別の次元、「超次元」で戦った宿敵の姿を思い出しながら、ベジータは舌打ちを入れて吐き捨てる。
あの次元の悟空と戦っている間、ベジータの心が五年ぶりに高揚感を覚えていたのは確かな事実だ。
強敵に出会うほど血が騒ぐようになったのは、彼がこの地球で悟空と会ってから変わったことの一つである。正直な感想を言えば、あの次元の悟空はこの次元のベジータ以外の誰よりも強く、超サイヤ人4にならなければまず勝てないほどの実力者だった。
だが、それだけだった。
彼は確かにカカロットであったが、ベジータが追い求めていたあの
その心に抱いたのは、不完全燃焼な落胆の感情か。
尤も、あちらで会ったカカロットが自分よりも強かったとしても、ベジータは今と同じ感情を抱いていただろうが。
最初から、わかりきっていたことである。
「……別人をぶっ倒しても、何の感慨も湧かんな」
そう呟きながら研究室を後にするベジータの姿は、息子であるトランクスにすら推し量れない哀愁が立ち篭っていた。
「父さん……」
五年前、悟空が居なくなったことで悲しんだ人間は数多く、チチやパンなどがその筆頭だろう。彼に多大な恩があるトランクスもまた、大きな悲しみを負った者の一人だ。だからこそ彼は次元移動装置などという前例の無い研究を行い、手掛かりを掴もうとしていた。
しかし父ベジータは……表面上にこそ出さないが、彼が居なくなったことを誰よりも悲しんでいたのかもしれない。この世に残った唯一の宿敵を──ライバルを失ったのだから。