超融合! 次元を越えたベジータ 作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)
邪神メタフィクス──その名を知る者は、既に限られた神々の一部しか存在しない。
邪神とは単に邪悪な神のことを意味するのではなく、本来の神とは全く異なる誕生経緯を経て世に生まれ落ちてしまった神のことを広くそう定義している。
即ち邪神とは、正道から外れた邪道の神のことを呼ぶのだ。そしてメタフィクスの誕生経緯は、邪神の中でも際立って邪道な誕生経緯を経て生まれた「神」であった。
──次元の狭間。
龍姫神の次元移動によって訪れたその場所は想像以上に静寂に包まれており、広々とした空間でありながらもその場には邪神の本体以外のものは何も無かった。
星々の姿が散りばめられた宇宙の闇とは対照的な、文字通り「真っ白」な空間。
その光景を初めて目にしたベジータの感想としては、「精神と時の部屋」に似ている、というものだった。
「アイツか」
「はい。貴方がたの宇宙を喰らっている張本人、邪神メタフィクスの本体です」
その次元の狭間──何もない真っ白な空間の中で、一際大きな「黒」を滲ませている存在を彼らは目に映す。
彼らが今眺めている歪な形状をした巨大な玉こそが、ベジータ達の宇宙を喰らっている邪神の本体であった。
その大きさはおそらく、ざっと見ても地球の体積の二倍はあるだろう。球形状の姿をした邪神の本体はその身にベジータ達の宇宙そのものをブラックホールのように取り込んでおり、ベジータ達の世界を滅亡に向けて着々と進めていた。
それはあまりにも禍々しく、凄まじい光景と言えよう。
「あんなもの……」
しかしその光景を見ても、ベジータの表情に揺らぎはない。宇宙を喰らい尽くすほど強大な存在ならば、惑星程度の大きさがあるということもある程度想像ついていたからだ。
そして、邪神の本体を確認した彼の対応は迅速だった。
超サイヤ人4となった彼の身体から黄金色の炎のような光が噴き出すと、即座に身に宿す「気」の全てが解放されていく。
「消えやがれええっっ!!」
そしてベジータは、その両手から己の全力を込めた一撃の光を邪神の本体へと放った。
ファイナルフラッシュ──この次元の狭間の空間を大きく歪めるほどの力を秘めた閃光は光の速さを超えて直進し、瞬く間に邪神の本体を貫いていく。
太陽系全てを破壊し尽くした上で、なお有り余るほどの威力を込めた一撃である。彼の閃光の前には惑星サイズの球体とてただでは済まされず、正確な狙いで中心部から撃ち抜かれた邪神の本体は貫通部から徐々に亀裂が広がっていき──最後はビッグバンの如き爆発を上げて砕け散っていった。
「案外と呆気ないもんだな……」
呆気なく崩壊していく邪神の本体の姿を、爆発の影響を受けない遠くから眺めながら、ベジータが両腕を組みながらつまらなそうに呟く。
以前分身が言っていた意味深な発言もあってか、この次元の狭間では前よりも手応えのある戦いを期待していたのだが、そんな彼としては何とも拍子抜けな結末である。
しかし、彼の隣で邪神の本体の爆発を眺めている龍姫神の表情は依然神妙なまま何も解れてはおらず、緊張に包まれた頬の動きも変わっていなかった。
「いいえ、邪神はまだ生きています。これからが、本格的な戦いになることでしょう」
「ほう」
「……どうか、お気をつけて」
「誰に向かって言ってやがる」
警戒心の宿った目でじっと爆発を眺めている彼女の言葉に、ベジータは組んだ腕を振りほどきながら喜悦の笑みを浮かべる。
邪神などと大層な名前を持っているのだ。このまま期待に応えてもらわなければ名前負けもいいところである。
しかしどうやらその心配は要らないようだと、彼は爆煙の中から出てきた黒い人影の姿を見て闘気の笑みを浮かべる。
──そして次の瞬間、その黒い人影がベジータの目の前に出現した。
「瞬間移動か」
元々ゴクウブラックの姿を模した彼の分身が使っていた技だ。それを本体である彼が使えても、何ら不思議ではない。
一瞬にして目の前に現れた黒い人影に対して一切動じることなく、ベジータは戦闘の構えに入って彼の姿を注視する。
彼の姿には、黒以外の色が無かった。しかし惑星の大きさほどあった先ほどの球体の姿とは違い、今の彼の姿は至って人間と変わりない大きさをしていた。
その成り形もまた、まさに人間そのもの。しかし肌の色も服の色も全てが黒子のように闇のような「黒」に染まっている為、ベジータにはそれ以上詳細に彼の姿を判別することが出来なかった。
その時である。
「……やはり来ましたか。私の眠る「タマゴ」を破壊したことで無事に「GT次元」の滅亡を阻止した貴方がたに、まずはおめでとうと言っておきましょうか」
黒い人影の姿をした邪神が、ノイズやエコーが入ったような低い声でそう言い放った。
まるで機械音声のように、聴く者によっては不気味とも思われる声音である。これまでは分身の声を通して放っていた声だが、今のこれこそが邪神の本来の声なのだろうとベジータは察する。
「しかし、貴方がたの到着はあまりに遅すぎた。既に私は大命を果たす為の力を手に入れ、邪神として蘇ることが出来ました」
「メタフィクス……」
ベジータの横合いから前に出てきた龍姫神が、邪神の名を呼びながら彼と向かい合う。その際に見えた彼女の顔色は、どこか気分が悪そうに見えた。
それでも平静を取り繕った様子で、彼女が彼に問い掛ける。それは戦闘民族であるベジータからすれば、最も無意味に思える質問だった。
「貴方はその力を使って、何をするつもりですか?」
敵の目的──宇宙一つを喰らい尽くそうとした邪神が相手であれば、もはや訊く必要も無い質問だろう。
そもそも宇宙を喰らうこと自体が目的なのかもしれないし、仮に他の目的が彼にあったのだとしても、ベジータが彼を許さないことに変わりはない。
ベジータからしてみれば無意味としか言いようのない龍姫神の質問に対する邪神の答えは、やはり分身の時と同じで妙に回りくどい言い回しだった。
「何でも、と言いたいところですが当面はとある世界の破壊と再生が目的です。悲しみに染まった「物語」をあるべき形に戻し、悲しみに染めた元凶を滅ぼしに行く」
「……なんですって?」
ノイズとエコーが入ったような、邪神の声音。
しかしその言葉にはどこか、何かを悲しんでいるような響きがあった。
聞き返す龍姫神に顔を向けながら、邪神が続ける。
「龍姫神、龍の世界に住まう貴方ならばご存知でしょう。「超次元」で起こった一つの悲劇……未来世界滅亡の話を」
「まさか……!」
「そう。私の目的はあの世界の再生と、神々への復讐です。特に全王だけは、この手で滅ぼさなければ彼らの無念を晴らせそうにない」
彼の語りの意味を理解したように、龍姫神が驚きに目を見開く。
一方ですぐ傍で二人の会話を聞いていたベジータには、全くと言ってもいいほどにその話の流れが伝わっていなかった。
「おい貴様ら! 俺を無視して話を進めるな!」
苛立ちを募らせたベジータが、拳を握りながら叫ぶ。
この自分が、宇宙最強の戦士がわざわざ次元を越えて殺しに来てやったというのに、ここまで龍姫神の方を優先しているような邪神の態度である。まるで目に入らなかったかとでも言うような邪神の不遜な態度にベジータの怒りは膨れ上がり、今にでも飛び掛かろうとする勢いだった。
黒い人影の邪神はそんな彼の方にようやく顔を向けると、氷のように冷めた口調で言い捨てた。
「ベジータ、貴方が邪神のタマゴを破壊してくれたおかげで、貴方がたの世界は私による滅亡から逃れることが出来ました。貴方の役目は、これで終わりました。私としてもこれ以上「GT次元」に用はありません。すぐにここから消えなさい」
「ふざけるな! 散々好き放題やっておいて勝手なことを言いやがって! 俺様がぶっ殺してやる!」
まるで彼にはベジータと戦う理由がないと言っているような口ぶりだが、ベジータの方は大違いだ。
自分の世界を危機に陥れたこと、分身とはいえカカロットの姿で目の前に現れたこと、その全てが既に、ベジータの中では彼を殺す立派な理由になっていた。
ただでさえ、超サイヤ人4の状態は凶暴性が増すのだ。これ以上ベジータには、目の前に明確な敵が居るというこの状況を我慢出来そうになかった。
そんなベジータに対して、黒い人影の邪神はしばしの沈黙を返す。
そして何かを決心したような息遣いを持って、彼は言った。
「どうしても私と戦うと言うのですか? 貴方には何の憎しみもありませんが、仕方ありません。ならば私も、
その瞬間──黒い人影を映していた彼の姿は変わった。
身体の全体を闇が覆っていた黒子のような姿に亀裂が走ると、全身から鱗が剥がれ落ちるようにその「膜」が外れていったのである。
そう、黒子のような彼の姿は、真の姿ではなかったのだ。
禍々しい闇色の「気」を放ちながらその黒い膜を外し、中から現れた彼の本当の肌は、地球人やサイヤ人と同じ色をしており、やはり人間と同じ姿をしていた。
──しかしその姿を目にした時、ベジータは動揺を隠せなかった。
邪神メタフィクスが見せた、彼の真の姿──それは彼にとって数少ない「特別な存在」の一人であり、ベジータの人生を語る上では決して外すことの出来ない存在だったからだ。
その自分によく似た鋭い眼光も。
母親のそれを受け継いだ青み掛かった髪も。
宇宙の帝王すら一刀両断に切り伏せた剣もまた、あの時出会った
「……っ、貴様! その姿は!?」
「貴方には、よくご存知でしょう」
その彼が──
ベジータの表情を憐れむような目で見つめながら、まさに英雄であった筈の姿からは考えられない、この世全ての絶望をその身に飲み込んだような禍々しい「気」を放ちながら。
「私は貴方の未来の息子、トランクスの成れの果てでもあるのですよ」
おそらくそれは彼らの──「両次元」のベジータにとって、史上最狂にして、最悪の敵だった。
宇宙は、全部で十二個ある。それはかつて、超サイヤ人ゴッドになった孫悟空が破壊神ビルスとの戦いの中で知った新たな事実であった。
別の宇宙には自分の知らない強敵達がこの世に存在しており、第六宇宙最強の殺し屋ヒットとの戦いもまたビルスとの戦いと同じぐらい心が躍ったものだ。
この宇宙は思っていたよりもずっと広くて、強い奴がたくさん居る。それはつい最近まで自分が宇宙で最強になったものとばかり思っていた悟空にとって、心から嬉しいと思える事実だった。
強い相手が多ければ多いほど、ライバルが多ければ多いほど強くなる。孫悟空とは、大概の次元で共通してそんな風変わりな男なのだ。
そしてこの時、十二の宇宙とは別に「五つの次元」があることを知った今もまた、悟空はその心にワクワクを感じていた。
「別の次元のベジータかぁ……他の世界には、色んな超サイヤ人が居るんだなぁ」
破壊神ビルスの拠点に、主君であるビルスと共に帰還してきたウイスから、悟空は新たな事実を知らされることとなった。
それはまたしても彼のライバルが増えたという事実でもあり──悟空からしてみれば、また修行に精を出す切っ掛けにもなる。
「世で最初に生まれた「オリジナル次元」に、二番目に生まれた「Z次元」、龍世界に現れた偉大な旅人が住んでいたという「GT次元」に、そしてこの「超次元」。あとはこの次元によく似た「ゼノバース次元」なんていうのもありましたね。誰が名付けたのかは存じませんが、この世には十二の宇宙とは別に、五つの次元があるというマルチバース説が伝えられています。はい、地球土産の仙豆です」
「サンキューウイスさん。ふう……生き返ったぞ~」
ほとんどが崩壊状態にある破壊神の星で、傷だらけの姿で横たわっていた悟空の口に仙豆を放り込みながら、そう説明するのが破壊神ビルスの天使ウイスだ。
そんな彼は地球土産の味噌カツ弁当の箱を開けるよりも先に、先の戦いによって深刻な有様となっているこの星の様子を見渡しては「これは酷い」と天を仰いでいた。
「僕も最初は眉唾物の神話だとばかり思っていたけどね、そんな話は。超サイヤ人ゴッドといい、伝説っていうのはことごとく現実にあるもんだ」
一方で破壊神たるビルスは、自分の星が破壊されることなど極めて日常的なものだとして特に気に素振りもなく、手近な岩に腰を下ろすなり弁当の中身にありついていた。
尤も内心では破壊神の自分の星をよくもここまで破壊してくれたもんだと少なくない苛立ちはあったが、そんな苛立ちよりも持ち帰った地球産の弁当に対する興味の方が遥かに大きかった為、そこまで機嫌を損ねるようなことはなかった。外見の通り、破壊神ビルスは猫並に気分の振れ幅が大きい生き物なのだ。
「ん~、これは中々、なんだか妙に懐かしい味がするねぇ~」
「あれ、もしかしてビルス様のとこにも来たのか? あのベジータ」
「ああ、来たよこの前。君達が未来に行っている時にちょっとだけね。アイツなら僕も久しぶりに全力が出せそうだった……だけど途中で時間切れとか言って帰っちゃったんだよね。この星もこんなに無茶苦茶にされたし、こうなったらこの世界のベジータでも破壊しにいこうかなぁ」
「いや、それはちょっとあんまりなんじゃねぇか?」
しかし元々気分屋な破壊神であるが、悟空の目には今の破壊神ビルスは最初に出会った頃ほど凶暴ではなくなっているような気がしていた。
おそらくは彼もまたベジータ達と同じように、何度も地球を訪れている内に穏やかな性格になっているのだろう。ならばこのままずっと、いっそ美味しいものでも食べて星の破壊活動も全部やめてくれたらいいのになぁというのが悟空の本音であったが、破壊神には破壊神の役目があるのだと言うのだから難しい話だ。
それ以外にも単に、悟空は破壊神であることを抜きにしても純粋にフェアな戦士でもある彼のことは武道家として尊敬している為、友好的に接することに対しては何の抵抗も無かった。
……尤も、また彼が地球を破壊しようとするのならば悟空も黙っているつもりはない。今はまだ難しいかもしれないが、いずれはビルスを止められるだけの力を身に着けるつもりだった。
自分もベジータも、その手応えは着々と掴んでいる。その手応えこそが、超サイヤ人ゴッドの力を持ったサイヤ人の超サイヤ人ブルーなのだから。
……しかし、その超サイヤ人ブルーの力でも歯が立たなかったのが、「別の次元のベジータ」が見せた超サイヤ人4だ。
スピードはまだわからないが、パワーはあの変身の方が完全に上だろう。荒々しい赤い姿には一瞬だけ大猿の姿が見えた気がしたが、その強さを抜きにしても悟空にはあの姿の方がゴッドの変身よりもサイヤ人らしいものだなぁと思っていた。
だがだからと言って、ゴッドの変身があれに劣るとは思っていない。先の敗北の原因は変身の差にはなく、悟空はそもそも変身以前に基礎能力の時点で大きな差があったからだと判断していた。
「鍛え直さなくちゃな、オラも。次はやられねぇぞ」
これからの修行はゴッドの特性である「神の気」を伸ばすことはもちろんだが、通常の状態での修行もより力を入れようと方針を決める。そうして一度の敗北を即座にプラスへ持っていけるところが、孫悟空の孫悟空たる所以だった。
そんな彼が早速修行に取り組もうとした時、悟空はもう一人のサイヤ人戦士の存在がこの場に居ないことに気付いた。
「あれ? そう言えばベジータはどうしたんだ? ビルス様達と一緒に居ると思ってたんだけど」
「ああ、アイツなら地球に居るよ」
「ブルマさんと一緒に、ドラゴンボールを探している最中ですね。叶えたい願い事があるそうで」
「全王様に消された未来を元に戻したいんだとさ。地球の神龍にそんなことできるわけないってわかっているだろうに、人間の親子の情っていうのはわからないものだね」
「ああ……あのことか……」
この次元の悟空が慣れ親しんだベジータが今地球に居る理由に、悟空はいつになく気まずそうな苦い表情を浮かべる。
孫悟空は傍から見れば飄々とした人間にも見えようが、その実人一倍責任感が強く、正義感のある男だ。
だからこそ数日前の──ザマスとの戦いの結末には、他の人間以上に悔やんでいた。
全王様によって鉄槌が下され、宇宙ごとザマスを葬る──そんな筈ではなかったのだ。悟空が望んでいたのは、そんな決着ではなかった。
──あれだけ頑張っていたトランクスが、何故誰よりも報われない結末になってしまったのか。
自分にもっと力があれば、もっと正しい判断が出来ていればと──悟空自身もまた強い当事者意識を持っていた。
らしくない表情をする悟空に何か感じるものがあったのか、ビルスが弁当を完食した後、彼に釘を刺すように言った。
「散々やらかした以上わかっているとは思うけど、これ以上別の時間に干渉することは見過ごしてやれないね。全王様が動くような案件になる時点で、どの道アイツの世界は始めからそうなる運命だったんだと諦めた方が良い」
「あらあら、ビルス様は気遣いが下手ですねぇ」
「やかましい!」
別の世界で起こったことなどあまり気にするなと、聞きようによっては励ましているようにも聞こえるビルスの言葉だった。
その自由気ままな性格からあまり神様らしくないとは思っているが、彼もまた物事を大局的に見ることが出来る「神」なのだ。その言葉は間違いなく、下界の人間にとって有難味のあるものだった。
しかし、悟空自身が納得出来るかはまた別の話である。
「運命か……オラにはそういうの、よくわかんねぇな」
たとえ元々滅びる運命にあったのだとしても、それまでの戦士の戦いが全て無駄になるなどとは思いたくない。
トランクスは絶望の未来の中で決して諦めず、たった一人で戦い抜いてきた誰よりも立派な戦士だった。そんな彼の頑張りさえ、何もかもが無に還ることなど悟空は認めたくなかったのだ。
別段、全王のことを憎む気は無い。悪いのは全てザマスだと思っている。ただ悟空は、自分にとって命の恩人である彼に頼ってもらえたにも拘わらず、彼の世界を最後まで救うことが出来なかった自分の無力さが悔しかった。
「ふんっ!!」
内なる「気」を引き上げ、修行を始める。仙豆によって体力を回復した以上、この身体に不備はない。
もっと強く──悟空の夢は、やはりどこまでも大きかった。
──そんな彼らの元に全王宮崩壊の報せが届いたのは、数十分後のことだった。