超融合! 次元を越えたベジータ 作:無敵のカイロ・レン(シス見習い)
──……ジータさ……!
どれくらい、時間が過ぎただろうか。
──ベ…………タさん……!
どれくらい、眠っていたのだろうか。
──…………い……さま……!
ぼんやりとした意識の外側から聴こえてくる、少女の声。
今日出会ったばかりである人物の声は、彼にとってそれほど馴染みのあるものではない筈だった。
──おじ………………………!
しかしそれは何故だか、聴いていて悪い気はしない声だった。
──おじいさま………!!
彼が……ベジータが目を開けたのは、その声がはっきりと鼓膜に響いた時のことだった。
「俺は……」
「……大丈夫ですか? ベジータさん」
ベジータが目を開けた時、彼の姿は何も無い真っ白な世界──「次元の狭間」の中にあった。そんなベジータの傍らには彼の手を両手で握っていた龍姫神の姿があったが、彼女はベジータが覚醒した途端にその手を引っ込めて彼の体調を窺った。
そこでベジータは現在の自分の身体を見下ろし、その体調を確認する。
外傷は無い。疲労も無い。
超サイヤ人4の変身は解けているが、サイヤパワーの消耗は軽微。すぐにでも再変身出来る。
つまるところ、ベジータの身体は何の問題も無かった。
「どれぐらい時間が経った?」
「……地球の時間で言えば、まだ一分も経っていません。しかしこの空間では時間の流れが歪な為、外ではどれほどの時間が過ぎているのか……」
「そうか」
「一旦、私達も外に出ましょう」
どうやら自分は、ほんの少しの間気絶していたようだ。
超サイヤ人4の自分が気を失うなどいつぶりのことかと思ったが、改まって振り返ることもなく彼は気絶前までの出来事を思い出した。
──そう、あの時。
邪神メタフィクス──自分は未来のトランクスの成れの果てだと言った彼の言葉にベジータは一瞬の動揺を突かれ、ある技を放たれた。
その技を彼は「邪神魔封波」と呼んでいたか。その技を受けたベジータは一定時間拘束され、その隙に彼はこの次元の狭間から外の世界へと逃亡していったのだと、龍姫神が状況を補足して付け加えた。
長年会っていなかった未来の息子の顔を見て、ガラにもなく感傷に浸ったのがまずかったのだろう。
つくづく己の甘さを自覚する次第だが、同じ手を二度と喰うつもりは無い。寧ろベジータとしては邪神に対する殺意が程良く高まったぐらいだ。
しかしそれはそれとしても、彼があのようなふざけた姿をしている理由は気に掛かった。
「どういうことか、知っているか?」
邪神メタフィクスの本体が自身の息子の姿そのものである理由──そのことを訊ねるベジータに、龍姫神は憂いの表情を伏せて小さく頷いた。
「……邪神メタフィクスの身体には、二つの魂が宿っているのです……」
彼らの元の世界である「GT次元」へと進路を取りながら、彼女は邪神の真実を語った。
ウイス達が界王神のカイカイで到着した頃には既に、全王宮は変わり果てた姿に朽ちていた。
宮殿は崩れ、周囲に浮かぶ星々の光は悉く消滅している。
そして何より大きな異変は、宮殿の中から誰一人として「神の気」を感じられないことであった。
そこでは大神官の気さえも感じることが出来ず、二人の全王の気配もまたどこにも無かった。
しかしただ一人だけ、この世の物とは思えない禍々しい「気」がこの世界に充満していたのだ。
「では、行きましょう」
「界王神、お前は帰れ」
「は、はい……」
全王宮を襲った事態の想像以上の深刻さを悟り、神妙な表情で一同は宮殿内に入っていく。その際に、界王神が死ぬことで自身の存在が消えることを恐れたビルスが彼を速やかに離脱させたが、元々彼を戦力として計算していたわけではない為問題は無い。第七宇宙最強の四人をこうして最短時間で送り届けてくれただけで、彼は既にその役割を十分に果たしたと言えた。
「この気は……神様のもんじゃねぇな」
「どうですか悟空さん、ワクワクしてきましたか?」
「いや、流石に全ちゃんを倒しちまうような相手じゃそうもいかねぇかもな……」
「馬鹿、全王様がやられることはあり得ん」
「ええ、正面から全王様と戦うことなどどんな戦士でも不可能でしょう。あのお方だけは、存在そのものの次元が違うのです」
「…………」
荒れ果てた宮殿の中は、不気味なまでにもぬけの殻だった。本来あるべき筈の神官達の姿がそこには無く、禍々しい冷たい気配だけがこの宮殿を支配している。
そしてその気配は、ウイスやビルスにとってこの上ないほどに不愉快な感覚だった。
「しっかし暗ぇなここ。前がよく見えねぇぞ」
「妙な空気に包まれているね、ここは。何かの結界か?」
街灯の無い夜道の如く、辺りは暗闇に覆われている。
警戒しつつ歩みを進めていく先で、彼らはほんのりと輝いている光を見つけた。
崩壊した扉の中から射し込んできているその光は、本来全王が居る筈の玉座の間だった。
「ようこそ我が全王宮へ。超次元の英雄達よ」
そして彼らがその中へ辿り着いた時、出迎えたのは全王の声ではなく──妙に聞き馴染みのある青年の声だった。
「コイツか……」
この宮殿に充満している纏わりつくような不愉快な気配は、その人物から発せられていた。
そんな彼はウイス達に背を向けながら、全王の玉座をそのまま等身大にしたような椅子の上に腰掛けていた。
「なっ……! 貴様、その席が全王様のものと知ってっ!」
この玉座の間にも、大神官や他の神官達の姿は見当たらない。
本来ならば二人の全王が居るべき筈の場所には彼だけが存在しており、この宮殿を我が物のように陣取っていた。
無礼を通り越した彼の姿に破壊神ビルスが声を荒げ、天使ウイスが訝しむような目で睨みつける。
そしてウイスが一歩前に出て、彼に訊ねた。
「ここに居た筈の全王様と神官達は、どちらへ行かれたのです?」
「全王なら、あそこに居ますよ。尤も、既に抜け殻のようなものですが」
「──!」
宮殿の主たる全王の居場所を問えば、彼がウイス達に背を向けたまま天井を指差す。
言われた通りにウイス達が顔を上げれば、そこにはこの闇の世界を淡く照らしている、二つの灯かりの姿があった。
「全ちゃん……!」
その灯かりの正体は、二人の全王だった。
二人の全王が死んだように目を瞑りながら、ゆらゆらと虚空を漂っている。
そして円を描くように漂っている二人の間には、ボーリング玉ほどの大きさの一つの黒い球体が浮かんでいた。
「二人の全王の力は、易々と消してしまうには惜しいものです。故に、こちらで有効に活用させていただいています」
二人の全王から放たれている「気」の光が、渦を巻きながら黒い球体の元へと集まっている。
それは彼らが身に宿す膨大な力を、少しずつ玉の中へと取り込んでいる光景だった。
「まさか、全王様の力を吸収しているのですか……?」
ウイス自身が先ほど悟空達に語った通り、全王だけは次元の違う存在だ。そんな彼を力で破ることなど、到底考えられるものではない。
しかし今、虚空に漂っている全王は完全に無力化されていた。
あり得ない光景に内心では言葉も出ないウイスだが、そんな心情を悟られないように努めて彼は冷静に問い質す。
この全王宮を陥れた以上、目の前の男が神に仇なす敵であることはもはや疑いようにない。念の為の確認にと思考を一旦落ち着ける意味があっての質問だったが、彼はそんなウイスを嘲るように返した。
「ええ、しかし私が欲しいのは全王の力だけです。彼の力を絞り尽した後は……適当な星にでも放り捨てて、鳥の餌にでもしましょうか。力の全てを奪ってしまえば、アレはただの頭の足りない子供に過ぎません。これまで無数の命を葬って来た彼には、過ぎた死に様でしょう」
全王を、鳥の餌にする。
全宇宙の王に対して信じがたい、そして許しがたい侮辱の言葉に、ウイスは眉を顰める。この時点でもウイスの心は常の冷静さを投げ捨て掛けていたが、追撃とばかりに彼は言った。
「ああそう……大神官や他の天使達も、そうやって消してやりましたね」
宮殿に居た他の者達は既に──自分が殺したのだと。
「ウイス!」
纏わりつく不愉快な空気も後押ししたウイスは、既に行動に出ていた。
思考と反射の同時行動──破壊神ビルスや悟空達ですら完全にマスターしていないその境地を持って、ウイスは玉座に座る彼の背中に飛び掛かったのである。
──この男を破壊しろ。
宇宙を守る天使であるが故に、彼が言葉を発する度にウイスの思考はそう訴えかけていた。
その時こそ、彼は初めて理解する。
これまでこの身に纏わりついてきた不愉快な空気──それは彼が作り出した結界であると同時に、久しく感じたことの無かった自身の「命の危機」であることに。
「意外と血の気が多いのですね、天使ウイス。貴方ともあろうものが、随分と余裕が無い。信じられませんか? 私に陥れられた同胞達の死が」
「黙りなさい」
「安心しなさい。大神官は適当に始末しましたが、全王だけは私の手で殺します。家畜の胃袋にすら渡しませんよ」
ウイスの放った超光速の拳は、しかし彼の半径五メートルほど前に近づいた時点で急激に速度を落とすと、彼が後ろ向きのまま突き出した手のひらによって呆気なく受け止められた。
彼の手から伝わる死人のような冷たい感触がウイスの拳を掴むと、ウイスの身体を無造作に投げ飛ばした。
「そう、相手にされて嫌なことはしてはいけない。地球の人間ならば、子供の頃からそう教わるものです。おめでとうございます。今この瞬間、貴方は人間の子供に匹敵する知性を身につけました」
「っ──!」
その言葉通り子供の絡みをあしらうようにしてウイスの攻撃を対処した彼の姿にビルス達が驚愕し、ウイスは片膝と杖をつきながら、苦悶の表情で彼を睨んだ。
突如としてウイスの身に、かつてない脱力感が圧し掛かってきたのである。
「ぐっ……!? 貴様……っ、何をした!?」
「この世界に張り巡らせた神封じの結界が、貴方がたの力を削いでいるのですよ」
「なるほど……これが、お父様の言っていた……!」
「この宮殿を覆っている神封じの結界は、神の力の純度が高い者にとって特に影響が強いものです。生粋の天使である貴方には、よく効くでしょう」
「……悟空さん達を連れてきたのは、正解でした」
神封じの結界。
その名の通り、彼がこの世界に張り巡らせた結界は絶大な威力を発揮し、天使ウイスの力を封じ込めた。
ウイスは自身の体内から急激に力が抜けていくことを知覚し、霞んでいく視界の中で意識を周囲の者へと向けた。
孫悟空とベジータは……問題なさそうだ。突然苦しみ出したビルスとウイスの異変に慌てている様子だが、人間である彼らには作用しないようだった。
「ええい、汚い技を使いおって……こんなもの、破壊してやる!」
「賢明な判断です。元々この結界は対全王用の力……破壊神の権能であれば、対処することができるかもしれません。しかし……」
ウイス同様結界に力を封じられ、思うように動けないでいるビルスの姿にウイスは初めて悔しげな表情を浮かべる。
この結界さえ無ければ、あのような相手はすぐに破壊出来る筈なのにと……そう考えるが故の悔しさだった。
しかし次の瞬間、一瞬にして玉座から姿を消した彼の動きを見て、その考えを即座に改めた。
「かはっ……!?」
──結界の影響が無くても、今の一撃は避けられなかったかもしれない。
そう思えるほどの速さで接近した彼が、ビルスの腹に拳を叩き込んだのである。
「貴方が私を破壊するよりも、私が貴方を破壊する方が遥かに早い」
「……っ!」
「この世界で最も愚かな存在を破壊出来ない貴方に、私を破壊する資格はありませんよ」
ビルスがその痛みに反応するよりも速く、二撃目の回し蹴りが彼の身体をウイスの傍らへと蹴り飛ばす。
玉座から立ち上がり、二本の足で地に立った彼の姿は、虚空に漂う全王の淡い光に照らされたことによって初めてその全貌が露わになった。
「さて、では名乗らせていただきましょうか」
ビルスを蹴り飛ばした足を地に着け、彼が正面を振り向く。
一同の目に留まった青み掛かった灰色の髪と鋭い眼光を持つ男の姿は、数日前に別の時間軸へ別れて以来の青年の姿だった。
「おめえは……!?」
「っ、貴様……!」
──その姿はどう見ても、
「私の名は、メタフィクス。報われぬ魂が、神を殺す為に生み出した邪神」
トランクスと同じ姿を持つ男が、自らの存在を指してそう名乗る。
不気味なまでに冷淡ではあるものの、その声もまたトランクスと同じものだった。
「トランクス……? いや、ちげぇ……」
「ちっ……今度はアイツの顔か……なんだ? 神の間では、人の顔を真似するのが流行っているのか?」
姿形は完全に同じ。しかし、纏う気配はまるで別物である。
故に別人と判断したのが悟空とベジータであるが、ウイスにはまだ判断しかねていた。
気配は一致しないし、感じ取れる能力も違う。しかし、彼を完全な別人と断定するのは少々違うと感じるのだ。
「私はザマスとは違って、双方合意の上なのですがね。気になるようですから、一つ昔話をしましょうか」
ベジータの皮肉に反応した彼が、唐突に語り始めた。
その様子は素人目には隙だらけに見えようが、その実全く隙が無い。尤もウイスは動きたくとも結界の影響で思うように動けないのだが、今が万全の状態だと仮定しても、手を出すことが躊躇われるほどに隙の無い佇まいだったのだ。
同じように隙を窺っている悟空とベジータもまた、戦闘態勢に身構えたまま迂闊に動けずにいるようだった。
「かつて、この世界には十八個の宇宙がありました。しかしその内の六つは、既に全王の手によって消滅させられているのです」
冷淡な口調で、彼は過去を懐かしむように語る。
今では宇宙の数は十二個しか無いが、かつては加えて六つの宇宙があったことは神の間では周知の事実である。
そしてその宇宙がいずれも一瞬で消滅した事実もまた、全王の強大さを表す意味でも有名な話だった。
「消された理由の大半は、私から見れば理不尽なものでした。そうですね……宇宙の代表者同士で陣取りゲームを行い、負けた方の宇宙を消すという行事もありましたね」
「それは……ひでぇな全ちゃん」
機嫌一つで一瞬にして宇宙を消滅させることが出来るのが、この世界に君臨する全王の力だ。
故に神々は彼に忠誠を誓い、恐れるようになった。
「貴方がたの知る通り、全王はこの世界で最も絶対的な存在でした。誰も彼に逆らうことは出来ず、多くの神々がそこの破壊神のようにひれ伏すことしか出来なかった……」
言いながら見下しきった目で眺める彼に、ビルスが額に青筋を浮かべながらよろよろと立ち上がる。既にかの破壊神は太陽の三つや四つばかり破壊しても収まりそうにないほど激昂している様子であったが、そんな彼でさえも満足に動けないほどに神封じの結界は強力だった。
故に彼は、誰に憚れることなく語りを続ける。
「そんなある日、全王の元に異議を唱えた界王神が居ました。今は亡き、第十八宇宙の界王神です」
その名に聞き覚えのあるウイスとビルスが息を呑み、悟空とベジータが構えを保ちつつも話を聞く。
消滅した世界を担当していた一人の界王神──名も無き界王神の存在は、ウイス達にとっては触れてはならない不文律として扱われているものだった。
「およそ理解できない思考回路を持つ全王に、彼は尋ねました。全王様ほどのお方ならば、気に入らない宇宙を消すのではなく正しく導くことも出来たのではないのかと……界王神は消滅させられた世界の救済を求めて、精神的に幼い全王を説得しようとしたのです」
「貴方は、まさか……」
全王に説得を試みた勇敢な──無謀な界王神。
第十八宇宙の界王神は当時の界王神の中で最も強く、最も人間を愛していた変わり者ということで神々の間では有名だった。
しかし。
「しかしそんな彼の言葉は届かず、機嫌を損ねた全王の手によって無念にも消滅させられてしまいました」
「……越権行為だ。当然だろう」
全王がよく付き人に向ける「消しちゃうよ?」等の言葉は、脅しでも彼なりのコミュニケーションでも何でもない。
彼は本当に、何の躊躇も慈悲も無く神や宇宙をも消してしまえる存在なのだ。そのことは実際に宇宙の消滅を見てきた孫悟空達も知るところであろう。
ここまでは神々の間では極めて一般的な、有名な話である。
しかしそこから続く彼の話を、ウイス達は知らなかった。
「全王に消された存在は、あの世ではなく完全な無に帰る。しかし何らかのイレギュラーが発生したのか、彼の魂だけは消滅を受けても無に帰ることがなく、魂だけの状態であの世でもこの世でもない、どの宇宙にも属さない不思議な空間へと放逐されました。
……彼がたどり着いたのは、「次元の狭間」と呼ばれる異空間でした。神々の間では眉唾物の神話として伝えられていた五つの次元……それぞれの世界を観測することが出来る世界だったのです」
「次元」と「次元」の間を繋ぐ狭間の世界──それは神話として伝えられており、ウイスとて先日別次元から来たベジータと出会わなければ確かなものとして認識出来なかった世界に、名も無き界王神の魂は居たのだ。
ウイスやビルスだけではなく別の「次元」の存在を知っている悟空にもまた、ここまでの話は理解出来たようである。
「別の次元の世界っちゅう、ウイスさんが教えてくれた奴か……」
「その次元の狭間を漂いながら、界王神の魂は色々な世界を観測しました。誰よりも純粋で優しい戦士、孫悟空が多くの悪人を下し、自分がより強くなる為にまだ見ぬ未来へと邁進していく世界。他の歴史には存在しない、伝説の超サイヤ人や帝王の兄のような者が存在する世界。あらゆる歴史をトキトキ都と呼ばれる都で管理している世界。そして七つのドラゴンボールと共に、偉大なる英雄が龍世界へと旅立っていった世界……四つの世界は皆、いずれも希望に満ちた美しい世界でした」
それは彼の冷淡な口調に、初めて感情が宿ったような声だった。
こことは違う四つの次元──それぞれ「オリジナル次元」「Z次元」「ゼノバース次元」「GT次元」と呼ぶそれらはどれも時間軸の違いなどとは別の意味で、この世界とは「次元」が異なる世界である。
それぞれの世界に共通している次元の狭間に居たからこそ、名も無き界王神の魂は五つ全ての「次元」に起こった出来事を観測することが出来たのだと言う。
「界王神の魂は四つの次元外世界と、貴方がたの住むこの世界を見比べて考えました。一体どの世界が正しい在り方なのか……それとも全てが正しくて、自分だけが間違っていたのかと。アレを宇宙の摂理として受け入れることが、本当に正しいことなのかと……」
数拍の間を空きながら、彼は視線を移動させる。
そうして彼の冷たい眼光が立ち止まったのは、孫悟空の姿を見据えた時だった。
「次元の狭間からこの「次元」の行く末を眺めていた彼は、他の「次元」において数々の絶望を覆してきた存在を見つけました。それが孫悟空、貴方です」
「ん、オラか?」
「この世界とは似て非なる四つの「次元」において、特異点的な存在だったのが貴方の存在です。孫悟空が誰と出会い、誰と戦ってきたか……それによって、それぞれの未来が分かれていったのです」
この場に居る孫悟空という地球育ちのサイヤ人こそが、各次元において特異点のように見えたと彼が語る。
確かに孫悟空の周りでは騒動が絶えず、神の視点で見ても中々に飽きない。つくづく不思議な魅力がある男だとは、ウイスもビルスも思っていた。
そしてそんな魅力を──いや、それ以上の魅力を彼は、第十八宇宙の界王神は「孫悟空」に感じていたようだった。
「この「次元」にも、彼らと同じ「孫悟空」が居るのなら……これまで数々の悪人達の心を動かしてきた孫悟空と出会いさえすれば、全王や多くの神々も変わるのではないかと──そんな希望に、界王神の魂は縋っていたのです」
さっきまで殺し合っていた筈が、不思議と仲間が増えていく。全王とすらコミュニケーションを成立させるのが孫悟空という男だ。
彼を見て第七宇宙が羨ましいと言っていた父の言葉を思い出しながら、ウイスは名も無き界王神の心情を推し量る。
しかしそこから先は、ウイスや大神宮が抱いたものとは全く違うものだった。
「失望しました。神々の傲慢さは、貴方との出会いを経ても何も変わらなかった」
何もかもを諦め果てたような、絶望の眼差しで彼は悟空を見据える。
その瞬間から、ウイスは彼の中で蠢いている禍々しい「気」が静かに高ぶっていくのを察知した。
「そこに居る破壊神も同じです。公平な判断をしていると口では言っていますが、結局行っていることは自分の機嫌一つで星を破壊しているだけだ。星を壊され、命を奪われた者達からしてみれば……その行為はザマスと何ら変わりない」
「何だと?」
「それを脇から見ているだけで正そうともせず、寧ろ推奨しているそこの天使も同じです。いえ、自らの手を汚さない辺り、破壊神よりも性質が悪い」
「…………」
己らに向けられた糾弾の言葉を、ウイスは聞き流すように目を閉じる。
破壊神という存在が多くの民から恨みを買うことぐらいは、遥か昔からわかっていることだ。今まで直接そんな言葉を聞く機会が無かったのは、単に破壊神の絶対的な強さとウイス自身の力があったればこそである。
その「力」という絶対性が失われた今、彼ら以上の力を持つ彼の言葉が止まる理由は無かった。
「そして全王……彼は部下の蛮行で滅びゆく宇宙が手遅れな状態になるまで気づかず、あまつさえそこに存在していた世界を諸共消し去った!」
虚空に浮かぶ二人の全王の姿を見上げ、彼が憤怒の色を込めて語る。
しかし二秒後にはそんな表情もすぐに冷たく変わり、視線を悟空の方へ戻して言った。
「人の上に立つ資格も無い醜悪な神々の存在に、名も無き第十八宇宙の界王神の魂は深い憎悪に染まりました。そしてそれは孫悟空、貴方に対する失望でもあるのです」
「……どういうことだ?」
「五つの「次元」を見比べてわかりました。貴方は、他の次元の孫悟空とは決定的に違います。貴方には友情も愛情も無い。奥方に対してキスの一つもしてあげたことがないのが良い例です。貴方にあるのはただサイヤ人としての闘争本能と、純粋に戦いを楽しもうとする気高い心だけだ。それは戦士としては正しい在り方なのかもしれません。しかし……」
トランクスと同じ顔で、孫悟空に対して冷めた目を向ける。
その光景は付き合いの長くないウイスからしても、異様に見えるものだった。
彼は悟空に対して語る。貴方はどうしようもないほどに──期待外れであったと。
「貴方では何も救えない。特にそこに居る、「罪も無い者を次から次へと殺していく」破壊神と仲良くつるんでいる貴方では……優秀な戦士であっても、真に世界を救う英雄ではなかった」
失望の眼差しを一方的に向けられた悟空の方は、彼に怒りを抱いている様子はない。
その表情から読み取れる感情の多くは、「困惑」だった。
「悟飯じゃあるめぇし、オラは正義の味方になったことはねえよ」
名も無き界王神の魂から英雄だと思われていたらしい悟空だが、彼自身からしてみれば勝手極まりない言い分である。
勝手に期待されて、勝手に失望される。その理不尽さには彼が怒るほどのものでは無いにしろ、困惑している様子だった。
ただそれでも、孫悟空は孫悟空の言い分を通した。
「そりゃあ、ビルス様達がやってきたこともどうかとは思ってるさ。宇宙に破壊が必要だって言うのは界王様から聞いたけど、その為に罪もねぇ人間が殺されるのは間違ってるもんな」
「ならば何故破壊神と敵対しない? 他の「次元」の貴方なら、破壊神など「絶対に許さない」筈です」
「他の次元のオラのことを言われても、オラにはさっぱりだ。オラはオラだし、オラがビルス様と居んのも、いつかビルス様やウイスさんよりも強くなりてぇと思ったからだ」
「誰よりも強くなりたかったのは、かつて貴方が敵対していたセルや魔人ブウ、フリーザも同じです。彼らを打ち破っておきながら、何故破壊神だけは許すのです? ……話になりませんね。結局強い者が正義なのですか。貴方の考えは支離滅裂だ」
「しりめつ? ……なんかオラ、さっきからおめえの言ってることさっぱりわかんねぇぞ」
「この次元の孫悟空は、知能も極端に低いらしい。魔封波の札を忘れてくるような人間に、「他の次元の孫悟空」を期待していたのが間違いだったようです」
「……いてぇとこ突くなぁ、おめえ」
決してブレず、純粋に強さを求める武人。
それがこの「次元」の孫悟空という男の在り方なのだろうし、少なくともウイスはそう認識していた。
良く言えば超常的で、悪く言えば一般的な人情味が薄い。だからこそ神の適性があり、次期破壊神にもなれる器であるとウイスは考えていた。
逆に言えば、全王に消滅させられた第十八宇宙の界王神は神にしては人間に近すぎる精神性と言えた。
「昔話を続けましょう。傲慢な神々が治める世界に憎悪を抱いた界王神の魂でしたが、いつしか彼に協力者が生まれました」
一旦孫悟空への語りを打ち切った彼が、話の方向を戻す。
彼があのような姿をしている理由についてでも話すのかと考えていたウイスであったが、答えはその通りだった。
「協力者の名はトランクス……ベジータ、貴方の未来の息子です」
今度はベジータの方を向きながら、彼が言った。
しかしその眼差しは──
「どういうことだ? 何故、そこでアイツが出てくる?」
「では聞きますが、彼が貴方がたと別れた後、貴方はご自分の息子が幸せになれると思っていたのですか?」
「……そんなこと、俺が知るか」
──その眼差しには孫悟空に向けたもの以上に深く、「絶望」の色が滲んでいた。
「彼はあの後、一年と経たずに病気を患い、息を引き取りました」