オルレアンの覇王   作:球磨川べネット

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久々の三人称


血の雨が降る

 まず最初に攻撃を仕掛けたのは、理性の残っていないゆえに、敵を見付けたら直ぐに動くバーサーク・アーチャーとバーサーク・バーサーカーだった。

 バーサーク・アーチャーは、最も近かった敵である二人のジャンヌに自身の高い敏捷値を生かした高速移動しながらの射撃を、バーサーク・バーサーカーは、漆黒の剣をとりだし接近戦を仕掛けた。

 しかし、バーサーク・アーチャーの射った矢は、その悉くを射出された深紅の槍にて撃ち落とされ、バーサーク・バーサーカーの前にはランスロットが立ち塞がった。

 

「自分と戦うとは、不思議な気分です。」

「■■■■■■■■■■■!!」

「そこの小娘、貴様の敏捷性は誉めてやろう。しかし弓の技術がなっておらぬ。どれ、私が手解きしてやろう。」

「■■■、■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 それを見て、黒いジャンヌは理解した。あの深紅の槍を持った女が、敵の中での最強戦力であると。そして、恐らく彼女に勝てるサーヴァントが此方には居ないことも。だからこそ、黒いジャンヌはすぐさま切り札を切った。

 

「ファヴニール、こいつらを焼き払いなさい!」

 

 彼女達が乗っていた巨大な竜、それこそが最大の切り札たる、ファヴニール。かつてジークフリートに倒された逸話を持ち、ゆえにジークフリート以外では倒せぬ様になっている。

 しかし、何事にも例外は存在するのだ。

 

「死が、俺の前に立つな!」

 

 赤ジャンヌのしたことは、風の魔術に波紋を練り込み手刀とともに撃ち出しただけである。サーヴァント相手にならそこそこの威力だが、ファヴニールに対する攻撃としては、本来なら全く驚異にもならぬものだった。仮にジークフリートが同じ攻撃をしても微かな切り傷を生み出すだけの弱々しい攻撃。

 その筈なのに、産み出された結果は、ファヴニールの首を両断という物だった。

 

「…………え?」

 

 黒いジャンヌは信じられなかった。ファヴニールはジャンヌの自信の象徴であった。ファヴニールはジャンヌの復讐心の代弁者だった。ファヴニールはジャンヌが竜の魔女と呼ばれる要因だった。

 そんなファヴニールの首が、地面に横たわっていた。

 

「嘘………嘘よこんな、こんな簡単にファヴニールがやられる訳がない!!そうでしょジル!!そう、これは夢、きっと夢なのね。」

 

 黒いジャンヌの慟哭は虚しく響いた。そして、直ぐにそれが現実である事を知らしめる様に、頭の無くなったファヴニールの首から、血の雨が降った。その雨は、火傷しそうな程熱かった。いや、実際咄嗟にマシュが傘のように盾をマスターの頭上で掲げなければ、間違いなくまだ一般人であるマスターは火傷を負っていただろう。

 黒いジャンヌは、憎しみと怯えの混じった視線を赤ジャンヌに向けた。そして気が付いた。赤ジャンヌの瞳が、まるで自分の様に金色に変化していることに。

 

 もしも、黒いジャンヌ達の中に、魔術に詳しい者があれば、気付いたかも知れない。赤ジャンヌの持つその魔眼(・・)。スカサハをも殺しえる可能性を秘めた赤ジャンヌの切り札の1つ、『直死の魔眼』に。

 

 

 

 たとえ■■■■の記憶の中に無くても、■■■■は一度死に、ジャンヌとして二度目の生を得た。そして、二度目の生では、戦場にて多くの死を視た。そして、二度目の死を迎え、受肉という形で、三度目の生を得たのだ。故に、受肉した時に死を観測する魔眼を得たとしても、不思議では無かった。

 

「ジークフリート以外には殺せない。だがジークフリートなら殺せる。つまり明確に死を持っていた。なら殺せない道理など何処にも無い。」

 

 突然召喚されたジル・ド・レェには何故ジャンヌが自分の召喚した以外に二人も居るのか解らなかった。だが、間違いなく自分達が今ピンチである事は直ぐ様理解した。

 

「ジャンヌ、ここは退きましょう、ファヴニールを殺された今私達は勝てません。一度体勢を建て直す必要が有ります。」

「嫌よ!あいつは、あいつだけは許せない!だって、だって!!」

「ジャンヌ。」

 

 ジルは、ただ黒いジャンヌに微笑みかけただけだ。しかし、黒いジャンヌには彼が言わんとしていることなど手に取る様に解った。そして、今の彼女はもはや、ジルしか頼れる相手が居なかった。

 

「ーーーっ!解ったわ、ここは退きます。バーサーク・ライダー、バーサーク・セイバー、あいつらを足止めしなさい。」

 

 黒いジャンヌ達との全面衝突は、一瞬にして黒いジャンヌの撤退戦へと移り変わった。




なお、中に居る所長に優しいON、OFF切り替え機能付き。更に所長が発狂しない様に直死の魔眼発動中は視覚だけ所長とのラインを切ってる模様

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