オルレアンの覇王   作:球磨川べネット

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時系列としては、『サーヴァント教室』、『ジャンス的な?』の次の日となってます。
なのでまだ赤ジャンヌが比較的おとなしい時の話です。


幕間 クズの目にも涙

立香side

 切っ掛けは些細な事だった。マシュと雑談している時の流れで、僕が日本食を作ってふるまう話になったのだ。

 だから今僕はこうやってカルデアのキッチンに立っている。

 

 

 カルデアのキッチンには、数多くの食糧やらレシピのメニューがある。元々、カルデアでは48人のマスター、更には数多くの職員達の拠点になる予定だったのだ。山奥にあると言う立地もあり、当然食糧庫は非常に大きくなっている。他にも一気に20人分作れそうな大きな鍋や、フライパン等の調理器具等が準備されてある。それに、自炊派の人の為の普通サイズの調理器具もここにはある。それと、多くの国から人材を引き抜いたため、色んな国の家庭料理等のレシピも豊富だ。

 それに、カルデアでは魔術と科学のハイブリッドが基本スタンスとなっており、食糧庫もそのスタンスに漏れず、科学と魔術により、生肉や野菜等の長期保存が難しい物も、軽く1年は鮮度をそのままで保存出来る。

 勿論それらは本来なら常に10人前後のシェフが居る事を想定されていたものだ。だが、今や爆破テロにより腕を奮うべき相手が大幅に減った事、スタッフ達もテロやら、焼却された外に出てしまい帰らぬ人となったりで数が減ってしまい、シェフ達も技術スタッフ達の手伝いをしないと人手が足りなくなっている状態だった。そもそも本来なら医療班のトップでしかなかったロマンが所長代理をしている時点で、人手不足が伺えるだろう。

 そのため、朝、昼、夜の決まった時間に3人、その時間以外は基本的にキッチンには誰も居ないことが多くなっていた。勿論お願いすれば、手の空いてるシェフの人が作ってくれるが。

 兎に角、僕一人で使うには少し広すぎるキッチンだ。少し落ち着かない。

 

 

 さて、僕自身の料理の腕はそこそこだろう。自炊はしていたが、特に趣味でも無かったため、そこまで手の込んだ料理は作れない。しかし今回作るのは朝食だから、白米、焼き鮭、味噌汁、漬物のスタンダードな物で良いだろう。

 米はそもそもシェフの人が朝には炊いてくれているから僕が実質作るのは焼き鮭と味噌汁だけだ。

 

 

「おはようございます藤丸さん。」

「おはようございます。」

「おはようございますっス。」

 

 料理を開始してから直ぐに今日担当のシェフの人達が入ってきた。

 

「おはようございます。昨日話した通り、僕とマシュの分は僕が作りますので、気にしないで下さい。」

「はい、頑張って下さいね。」

「マシュちゃんにアピールするのね!」

「それなら応援するっすよ!!」

「こら、止めなさい。すいません、お邪魔しました」

「あ、ハハハハ………」

 

 そんな事があったが、その後は特に何もなく、数分後に

 

「どうも、おはようございます。いつものお願いします。

ん?あぁ、マスター今日は確かマシュにご馳走するんだったか。頑張れよ。」

 

 軽く修行してきたのか、うっすらと汗をかいたジャンヌが食堂に入ってきて、シェフ達に挨拶をして、その後キッチンの隅に居た僕に気が付いた様で、応援の言葉を貰った。

 そう言えば僕とマシュが食堂に来る頃にはジャンヌはトレーニングルームで修行してるか、シェフ達と会話してるのが殆どで、ジャンヌが普段何を食べているのか見たことが無い。

 少し興味が出た僕はシェフ達に聞いてみる事にした。

 

「さっきジャンヌがいつものって言ってましたけど普段あいつ何食べてるんですか?」

「おや、知らなかったんですか?パンと具沢山コンソメスープと干し肉をそれぞれ大体10人前位ですね。今は朝ですから大体8人前程は食べられますね。」

「8人前!?」

「凄いっすよね!見た目からは想像もつかないっす。」

「私も最初はびっくりしましたよ。」

 

 あいつそんなに食うの!?てかあの体の何処にそんなに入るの!?いや、いくらキチガイじみてる修行してるからってあいつ食い過ぎだろ!?

 …………ん?でも待てよ?

 

「あの、三食全てパンとスープと干し肉なんですか?」

「えぇ、そうですね。本人がそれで良いとおっしゃっているので。」

 

 それは……少し、味気ないんじゃないかな……折角色んな食糧に調味料、レシピまで揃ってるのにずっとそれだけなのは勿体無い。

 そうだ、良いことを思い付いた。

 

「あの、少し良いですか?」

「ん?どうしました?」

「少し、提案があって。えと、ーーーーーーーーーーー」

「それは、大変宜しい事かと。」

 

 よし、シェフの人に許可も貰ったし、早速

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

カタン

 

 

「ありがとう。……って日本食?俺はいつものを頼んだってマスターか」

 

 何やらノートとにらめっこしているジャンヌの前に、僕は新しくジャンヌ用に作った大盛の定食を置いた。

 

「で、これなに?俺はマシュじゃねぇぞ?目が悪くなったか?それとも脳が悪くなったか?」

「はぁ…………僕が作ってあげたのは所長に対してで、ジャンヌにじゃない。結果的に五感を共有してるジャンヌに出すみたいになってるだけさ。」

「だったら所長の体が出来た時にでも作ってあげて、どうぞ。」

「駄目。所長には悪いけどマシュに出す前に所長に味見して貰いたいんだ。良いところのお嬢様だった所長ならきっと色々と食べてきただろうし、所長からOKを貰えればきっとマシュ出しても大丈夫でしょ?」

「…………………………はぁ、解ったよ、心の中でガミガミ言うなよ。あぁすまんすまん、今までパンとスープと干し肉だけ食ってた俺が悪かったよ。ったく。

勘違いすんなよ、所長がたまには別な物が食いたいってうるさいから食うんだ。」

 

 やっぱりこのくらい言わないとジャンヌは食ってくれないと思ったよ。変な所で頑固だからなこいつ。さて、対面に座って煽りまみれの評価でも聞く準備でもするか。

 しかし、ジャンヌは僕の予想外の反応を見せた。

 

 

 

 

 

 あのジャンヌが、泣いていた。

 いつもいつも煽りと共に顔芸をしたり、ゲスい顔したりするジャンヌが、真剣な顔で、涙を流しながら食べていた。

 僕は、どうすれば良いか解らなかった。

 味は問題無いはずである。口では味見役と言ったが、そもそもシェフの人に味見をしてもらっているのだ。

 では何が原因だ?旨すぎて涙が?いや、あり得ない。僕の腕はあくまで自炊ができる奴程度であり、例え質素でも、ジャンヌが食べているのはプロの料理人が作った料理である。味見でも、一般人としてなら十分合格レベルという評価だったのだ。

 何だ?いったいなぜ?僕が混乱している間にどうやらジャンヌが完食したようだった。

 

「何目を白黒させてあわあわしてんだ?」

「え?いや、だって……その……ジャンヌが泣いているから、その………何で泣いてるか解らなくて」

「何だ、そんなことか。気にすんな。別に不味かったとかじゃねぇよ。まぁ素人が作ったんなら十分な出来だろ。」

「じゃあ何で泣いているの?」

「だから気にすんな。お前には関係ない事だから。

ただ、ちょっと懐かしい事を思い出してただけだから。

とりあえずご馳走さま。」

「あれ?足りたの?一応お代わりの準備はしてたけど……」

「いや、もう大丈夫。うん、お腹一杯だよ。」

 

 結局泣いてる詳しい理由を言わずにジャンヌは立ち上がって食器を返却口に置いていった。

 そして、ジャンヌは食堂の出入口で振り返って

 

「マスター。……………ありがとう」

 

 そう言って、ふわりとした笑顔を見せて出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「若いって良いっすね」

「私もあんな青春したかったな~」

「そうですねぇ、眩しいものです。ですがそろそろ時間も押してきましたので仕込みに戻りますよ」

「「はぁ~い」」




マシュ「」

文字数過去最多とかうせやろ?


シェフ三人は名もないモブです。多分もう出ないと思われます

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