立香side
僕達はレイシフトしてすぐに人の叫び声が聞こえた場所に向かっていた。
そして向かった先で見たのはとてつもないこうけいだった。
赤いドレスの様な服を着たアルトリア顔の人が恐らくサーヴァントと思われる男の人相手に一人で戦っていたのだ。しかも、アルトリア顔の人はそのサーヴァント相手に明らかに優位に立ち回っていた。
思わず彼女の美しい戦いに見惚れていたらサーヴァントがフェイントを仕掛けてそこから剣の内側に入ったのでヒヤッとしたが、華麗に舞う事で回避し、同時に攻撃もしていた。
そしてそこから一気に勝負は決まり、いままで会話しているのは解っていたが、何を言ってるのか聞こえなかったが、最後に男性サーヴァントがネロと叫んだのと、アルトリア顔の人がローマと叫んだのが聞こえた。
「先輩、どうやら私達が加勢する迄もなく戦闘終了したみたいですが、どうしますか?」
「えっと…………とりあえず話してみない事には何も解らないし近付いて話してみよう。」
いや、実際は何となく解る。
あの男性サーヴァントは感覚的に多分バーサーカーだ。そのバーサーカーがネロと呼び、それに対しローマと返したのだ。
恐らく、あのアルトリア顔の人は、レイシフト前にドクターから教えられた情報なども考慮すれば、この時代のローマ皇帝、ネロ・クラウディウスその人だろう。
どうやらネロ(仮)さんは先程の戦闘中にこちらに気付いていた様で、こちらの事を真っ直ぐに見据えていた。
そして、お互いに10m程離れた位置で立ち止まり、僕達の挨拶が始まった。
「『初めまして、私達はカルデアと言う組織の物です。そして私がその組織の所長であるオルガマリー・アニムスフィアです。』で、俺がその所長の肉体代理のジャンヌだ。あ、俺ら別に怪しい者じゃ無いぜ」
「……………肉体代理云々の意味がいまいち解らぬがジャンヌとやらがそなた達の代表であるという認識で良いのだな?」
「まぁ、そうだな。」
そう、現在カルデアでは所長の魂は赤ジャンヌの中に居るため、役職的所長代理はドクターで、実務的所長代理は赤ジャンヌなのだ。なのでスタッフ達に指示を出すのはドクターで、特異点で現地の人物と交渉したり、マスターである僕を引率する役目は赤ジャンヌなのだ。
でも前回のフランスでは赤ジャンヌがそんなことは一切しなかったが。
まぁそれらは全て所長の肉体が出来る迄で、所長の肉体が出来たら、ドクターは副所長代理となる。
「ふむ、では怪しい者ではないと申すなら何かしらの証拠が有るのであろう?」
「証拠……証拠かぁ………」
確かに証拠と言われると特に何も無い。
それに改めて僕達を見れば、服装やら顔立ちに統一性が無い。
いや、三人のジャンヌは外見はほぼ一緒なので姉妹か何かだとは思われるだろう。だがそれ以外だと全身タイツの美女に白い全身鎧の男、地味に肌露出の多い鎧と大きな盾を持った美少女、髭の生えた汚いおっさん、ここら辺では見ないだろうアジア系の顔をした青年、と全く統一感がない。
これでは怪しい者では無いと言っても信じてもらえないのは当たり前だろう。
男性サーヴァントと戦っていた時に助太刀に入れば少し位は信じてもらえたなぁと後悔していたら、赤ジャンヌがとんでもない事を言い出した
「考えてもこれと言った証拠がないし、ここは俺の腕一本切り飛ばせば信じてくれるか?」
「えっ!?」
「はぁ!?」
「ジャンヌさん!?」
「ジャンヌ!?」
僕だけじゃなく二人のジャンヌとマシュも驚いていた。
いくらなんでも腕を切り飛ばすのはやり過ぎだ!別にそこまでして信用を勝ち取るメリットは今のところ無い筈だ、むしろスカサハの次に強くて、拳での接近戦主体であるジャンヌの片腕が無くなるデメリットが大きすぎる。
そう口から出かけた時
「………ふっ、よい。そなたらを信じよう。」
「…………えっ?」
「良いのか?一応ああ言ったが自分達でも怪しいのは自覚してるが」
何故か直ぐに信用してもらえたのだ。
確かにジャンヌが腕を切り飛ばすなんて言ってたがまだ本当に切り飛ばしたわけでも無いのに何故信用してもらえたのだろう?
見れば先程ジャンヌの腕を切り飛ばす発言に対し苦い顔をするだけだったランスロットとあまり驚いてなかった黒髭も今回は驚いている。
「何を言っておる?そなた達がもし敵であるなら先程余が戦っている時に乱入すれば容易く余を殺せたであろう?いや、そなた達ならばそれこそ今ここで余に襲いかかっても、後ろにいる余の兵士達ごと殺し尽くせるであろう。」
確かに彼女の言う通りだ。言っては悪いが恐らくこのメンバーなら後ろに居る兵士達を含めて殺せるだろう。
「……………………自慢の兵士達なんだろ?それなのに目の前で『お前達では自分を守れない』なんて宣言に等しい事言って大丈夫なのか?」
言われてみれば確かにそうだ。もし仮に彼女がネロ皇帝で無いとしても兵達よりはそれなりに身分が高い筈である。少なくとも将軍であろう。
であれば、その様な事を言えば兵達の士気に大きく関わるだろう。
「口惜しくはあるが、そなた達程の相手との実力差位解らぬ愚者ではない。なにせ余はローマ皇帝なるぞ。実力差が開いている相手に無策に挑むなど愚策もいいところである。その様な事をすればたちまち滅びるであろう?まぁ、実力差の開いてる相手からこちらを滅ぼすつもりの喧嘩を売られれば立ち向かうしか無いがの。」
成る程、ローマ帝国という大国の上に立つなら先を見据えた戦略や戦術、更には敵との実力差を加味した戦力差を見抜いたり、考えたりするのは当然か。
「他にも理由は有るぞ。そもそもお主達の様な奇抜な格好の人物を既に複数客将として招き入れたのだ、今更見た目ごときであれこれ言わぬ。
それに、もしお主達が敵だとしてもそれを見抜けなかった余の責任だ。
余が死ぬ時、それは余の人を見る目、民衆の声を聞く耳が曇った時である。
故に、もし余がお主達に殺されたら、その時は余の死が決まっていたのだろう。叔父上の様に陰謀によって暗殺されるか、民衆によって殺されるか、お主達に殺されるかだけの違いであろう。」
「………………凄い」
最早僕にはその言葉しか出なかった。
これが、ローマ帝国の皇帝なのか。
これほどの覚悟を持った人物がローマ皇帝なのか。
「では、入るがよい、余のローマへ」
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今僕達が居るのは、宮殿の応接間みたいな所だ。
ここに来るまでに、ローマの町並みを見たが、とても活気に満ち溢れていた。
商店街でも住宅街っぽい所でも、ネロ皇帝を見かけた人は口々に笑顔でネロ皇帝の事を称えていた。
だからこそ、ネロ皇帝の最期が信じられなかった。
歴史では、ネロ皇帝は民衆によって殺されるのだ。それは、暴君として君臨した故の民衆の爆発とされている。それが僕には信じられない。
いったい何が、民衆の怒りに触れたのだろう。いったい何が、あれほどの笑顔を見せていた民衆が、ネロ皇帝に刃を向ける事にはなったのだろう。
解らない。解らないが、少なくとも今は、歴史には無かった、ネロ皇帝は名君として存在していたのを、僕は目撃しているのだ。
「して、そなた達の詳しい話を聞こう。それゆえに先程していなかった自己紹介をしよう。
余は、ローマ皇帝ネロ・クラウディウスである。」
「ではこちらも改めて『人理継承保証機関カルデアの所長、オルガマリー・アニムスフィアです』で、俺が所長の肉体代理のジャンヌ・ダルクだ。まぁ適当に赤ジャンヌかジャンス、もしくはジョンスとでも呼んでくれ」
「僕はカルデアの唯一のマスター、藤丸立香です」
「私は先輩のデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトです」
「拙者は立香氏のサーヴァントの一人、エドワード・ティーチでござる。拙者の事は黒髭と呼んでくださればけっこうですぞ。デュフフフフフフフ」
「同じくサーヴァントのジャンヌ・ダルクです」
「同じくサーヴァントである、ランスロットです。」
「スカサハだ。」
「同じくサーヴァントのジャンヌ・ダルクよ。」
「うむ。……………………うむ?」
ネロ皇帝が笑顔で固まってる。しょうがないよね、だって肉体代理とかジャンヌ・ダルクという同じ顔で同じ名前の人が同時に3人居るとか普通理解できないよね。
「あ、俺ら三人は鎧の色で赤ジャンヌ、白ジャンヌ、黒ジャンヌって認識してくれりゃぁ大丈夫だから。そして肉体代理云々は説明が非常に複雑なのでパス。
とりあえず俺達の目的を簡単に言うとネロ皇帝の敵をボコって聖杯を回収する事。」
「ふむ、そなたら三人を色で区別すれば良いのは解った。だが目的の部分がさっぱりである。」
「ここ最近ネロ皇帝の回りて常識では考えられない事が起きてない?」
「……………それはもしや死んだ筈の者が生き返っている事か?」
「そう、それ。俺らはその死者が甦ってる原因である聖杯を回収しに来たの。」
その後もお互いの情報を交換しあって、利害が一致している事がハッキリしたため、俺達は客将という扱いになった。
最初の方に比べると文字数が増えていってるな。
因みに作者は歴史とか教科書に書いてある最低限の事しか知らないのでローマ帝国については殆ど解りません。具体的に言うとそもそも歴代ローマ皇帝全部言えないレベルです。
なのでもし何か違うところがあれば指摘して貰えると嬉しいです。