邂逅の物語
あの日から、おおよそ1年。
私は大和学院を1学期で転校、特例としてイギリスで小学校卒業資格は取得した。
そうして迎えた、9月1日。
ホグワーツに向かうため、キングス・クロス駅で両親との挨拶をする。母さんは東洋魔法とはいえ魔法使いだから9と3/4番線に入ることができるが、マグルの父さんは違う。それならみんな揃っての時間を過ごしたい、と思ったので、まだここはマグルの世界だ。
「いってきます、父さん、母さん。」
「いってらっしゃい。あちらに着いたら、手紙を頂戴ね。身体には、気をつけるのよ。」
「いろんなことを学んでおいで。クリスマスには、日本に帰ってきなさい。土産話を楽しみにして待っている。」
「ありがとう。じゃあ、またクリスマスに。」
そして、私は9と3/4番線への入り口である柱を、一思いに駆け抜けた。
蒸気の白い煙が晴れると、真紅の蒸気機関車、ホグワーツ特急が私を出迎えてくれた。
初めての場所だから、と早めにきたが、どうやらだいぶ早かったらしい。まばらにしか人がいないプラットホームを、日本では見たこともなかった蒸気機関車を見ながら歩く。流石はヨーロッパといったところか、洗練されたデザインでかつ、落ち着いた色合いだ。
カートを押しながら歩いていると、いつの間にか車両の最後尾まで来てしまっていた。空いているし、ここの車両の席を探そうと列車に乗り込んで、一番後ろのコンパートメントを陣取った。まずは、着替えてしまおう。幸いにして、ほとんど人はいない。
ホグワーツの制服は、日本のいわゆる制服、というものとほぼ同じで安心した。白いカッターシャツに黒のスカート、黒のソックス。ソックスはグレーであったり、タイツであったりしてもいいらしいけれど、まずは黒にしてみた。そして、黒いローブ。こちらは初めてお目にかかった。かっこいい!けれど、あまりにも邪魔で早々に脱いだ。いかにも魔法使いといった感じの帽子と一緒に、列車を降りるときに着ればいいだろう。
一息ついたところで、カバンの中から本を取り出す。この頃は学用品の買い出しのときにダイアゴン横丁で買った、呪文の理論書を読み進めていた。大和学院で教わった知識と実践経験、理解しておいた今年の教科書の知識に照らし合わせながら、夢中になって読み進めていた。
「あの、ここに座ってもいいかしら?」
そんな声が聞こえて顔を上げると、ふわふわの栗色の髪の少女が外にいた。
「どうぞ。空いてるから。私はマヤ・バーネット。新入生だ。あなたは?」
「私はハーマイオニー・グレンジャー。同じく、新入生よ。ねえ、ところで、あなたは魔法使いの家に生まれたの?私、手紙が来るまで魔法使いが存在するなんて知らなかったの。自分が魔法使いだって知ったとき、驚いたけれどとても嬉しかったわ。ホグワーツは最高の魔法学校と聞いたもの。教科書はもちろん、全部暗記したわ。それで足りるといいのだけれど。」
まあ、すごい。これだけのことを一気に言ってのけるなんて。肺活量を測ってみたい。そして、実は列車に乗ってからかなり時間が経っていたらしく、景色が流れ出していた。
「…マヤ?どうしたの、ぼーっとして。大丈夫?」
「ああ、うん。大丈夫。君があまりにもいろんなことを一息に言うから、感心しただけだ。さて、聞かれたことには答えないとね。」
そこまで言って、私の声は軽いノックに遮られた。
「あの、ここに座ってもいいですか?もう他に空いていなくて。」
全体的に薄い色素の、背の高い少女が問いかけてきた。
「どうぞ。もう他の人はコンパートメントを見つけただろうから、今日はこの3人で行くことになるだろうね。さて、と。私はマヤ・バーネット。新入生だ。母が魔法使いだけれど、使っているのはほとんど見たことがないな。教科書を暗記しているなら、当分勉強で困ることはないと思うよ。というか、素晴らしいと思う。」
「そうなの、よかった!私はハーマイオニー・グレンジャー、新入生よ。魔法使いはうちには誰もいなかったから、すごく驚いたの。あなたはどう?」
「あ、私、エレノア・ステュワートっていいます。同じく、新入生です。私も、家族には魔法使いがいなくて。でも、自分が魔法使いになんだって言われて、すごく嬉しいです。」
自己紹介を済ませるのを見計らったかのように、車内販売が回ってきた。色々なお菓子があったので、少しずつたくさんの種類を買った。そして、それを食べながら色々な話をした。
友だちとそんなに話すのは久しぶりで、いつの間にか忘れていたおしゃべりの楽しさを、ようやく思い出すことができた、と笑いながら思えた。
ハーマイオニーとエレノアもさっくりと着替えてくつろいでいると、
こん、こん
小さめのノックの音とともに、ほんの少しだけ扉が開けられた。
「あの、僕のカエルを見ていない?いなくなっちゃって。」
「見ていないわ。ごめんなさい。」
「そっか。そうだよね、ごめんね。」
「待って。私も一緒に探すわ。ハーマイオニー・グレンジャーよ。あなたは?」
「ぼ、僕、ネビル。ネビル・ロングボトム。あの、ありがとう。」
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ。」
「「行ってらっしゃい。」」
しばらくして戻ってきたハーマイオニーは、驚くべき報告をしてくれた。
「ねえ、私、ハリー・ポッターに会ったわ。ネビルのカエルを探している途中だったから、あまり話せなかったけれど。彼とももっと話してみたいわね。」
「ああ、そういえば同い年だったか。私も興味はあるな。」
「ハリー・ポッターと言う人は、有名なのですか?私、知らないのですけれど。」
「ハリー・ポッターは、『生き残った男の子』と魔法界では言われている。10年前まで魔法界を恐怖に陥れていた男の放った死の呪文を受けて生き残ったばかりか、わずか1歳の身でその男を消したのだから。」
「大人の魔法使いが何人束になっても敵わなかったのに彼が男を消したものだから、魔法界では英雄になっているわ。そして、呪文を跳ね返した代償が、額の稲妻型の傷よ。そして、その襲撃でご両親を亡くしたそうなの。」
「そうだったのですか。魔法界は、いえ、魔法は恐ろしいものですね。科学技術がそうであるように。」
「そうね。あら、そろそろ着くみたいよ。まずは組み分けね。もし寮がわかれてしまっても友だち、よね?」
「もちろん。」
「当然ですよ。さあ、降りましょう。」
ホグワーツ特急を降りた私たちの頬を、きんと冷えた空気がなでた。