ホグワーツの最寄駅、ホグズミード。小さな駅のホームに、何百人もの人が降り立った。ハーマイオニー、エレノアに続いて汽車から降りると、あっという間に人に囲まれてしまって、「前が見えない…」と、ひとりごちた。先に降りた2人すら既に人波の中に消えてしまって、どちらにいけばいいのかもわからない。母さんに似たせいかもうすぐ12歳になるというのに140cmに届かない身長では、西洋の背の高い人たちに揉まれて前が見えなくなる。人波に流されるように歩いていると、
「イッチ年生!イッチ年生はこっちだ!」
夜闇のなかに、遠くから轟く声が聞こえた。その声の方向を頼りに人混みをかき分けながら進んでいくと、トンッと柱のようなものにぶつかった。確かに柱のようだけど、布が巻いてあって、少し斜めになっている上に二股になっている、ということに不思議に思って見上げてみると、そこには心配そうな顔をして私を見ている髭もじゃ男がいた。
「おめえさん、大丈夫か?イッチ年生だろう、俺についてこい。」
「…あ、ありがとう、ございます…」
なんてことだ。世の中にはこんなにも大きなヒトがいるのか。柱だと思ったのは人の足だったなんて。そう思った非礼を詫びようにも、もう集団は動き始めていて話しかけることはできなかった。
「さあ、ここからはボートで行くぞ。4人で一つだ。」
またも人波に流されながら歩くこと数分。髭男さん(名前がわからなかったのでそう呼ぶことにした)が立ち止まったのは、大きな湖のほとりだった。私がいたのは一年生の集団の最後尾だったので、余っているボートに乗り込むとすぐにボートは暗い湖の上を滑りだした。
一緒に乗った男の子たちはみんな顔見知りみたいで、これからの生活を興奮しながら想像している話をなんとはなしに聞いていた。
「ねえ、そう言えば、君の名前を聞いてなかったよね。僕はロン、ロン・ウィーズリーさ。よろしく。」
「よろしく、ロン、そしてお二人も。私はマヤ・バーネットという。」
「挨拶が遅くなってごめんね。僕はハリー・ポッターだよ。よろしくね。」
「僕はシェーマス。シェーマス・フィネガン。こちらこそよろしく。」
4人でお喋りをしていると、夜闇に大きな城が浮かび上がってきた。あちこちから聞こえる感嘆の声を縫って、
「頭、さげぇーー」
という髭男さんの声が聞こえた。
蔦のカーテンをくぐって崖の下に入り、ボートを降りて少し歩くと、城がさっきよりも大きく、ずっと素晴らしく見えた。
そのまま髭男さんに連れられて城に入ると、ひっつめ髪の厳しそうな先生に預けられた(髭男さん、ハグリッドっていうらしい)。
「ホグワーツ入学おめでとう。新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席に着く前にみなさんが入る寮を決めなくてはなりません。寮の組み分けはとても大切な儀式です。ホグワーツにいる間は、寮生があなたたちの家族のようなものなのですから。
ホグワーツには、4つの寮があります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、そしてスリザリンです。どの寮もそれぞれに輝かしい歴史があり、偉大な魔法使いが卒業しました。学校生活でのみなさんの良い行いは寮の得点となり、逆に規則違反は減点になります。学年末には最高得点の寮に名誉ある寮杯が贈られます。どの寮に入ろうと、みなさん一人一人が寮にとって誇りとなるように望みます。」
なるほど、面白い制度だ。日本ではこんなことないからね。確かにそれならやる気も出るだろう。ただ、魔法学校でないと点数の集計が面倒そうではあるが。
そんなことを考えつつさっと身なりを整えていると。
「!?」
冷たいっ!
反射的に杖を構えて後ろを振り返ると。
「ああ、お嬢さん。杖を下ろしてくださいな。私たちはホグワーツに棲むゴーストです。危害を加えなどしませぬよ。私はグリフィンドール寮憑きのゴースト、ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿でございます。」
「私は太った修道士と呼ばれておりますなあ。ハッフルパフに組み分けされたのなら、お会いすることも多いでしょう。」
どうもこちらのゴーストは悪戯でいけない。日本の物の怪たちは人に害を為したり、手助けをすることはあっても人の、それも見知らぬ人を通り抜けたりはしない。こんなところで文化の違いを感じることになるとは思わなかった。
「さあ、大広間の準備が整ったようです。私について、2列で入場なさい。」
さて。私の寮はどこになるだろうか。