「吸血鬼異変・動き出す厄災」
「兎の娘は流し雛で厄神で妖怪の山の姫」
でございます
また五千字超えました……三千五百を目安にしているはずなんですが……
「あーもうっ!! 次から次へと!」
現在地点は霧の湖。
現状は、幻想郷へ攻め込んできた吸血鬼一味と交戦中。
「射命丸様! 右翼が押されています!」
「見れば分かりますよ、ええ!
鴉天狗隊の1から3班は支援に行って! 持ちこたえなさい!」
私、絶賛大忙しの真っ最中です。
「射命丸様! 左翼が!」
「射命丸様!」
「射命丸様!」
「射命丸様ぁっ!! 中央が破られましたぁっ!!」
「中央に河童砲撃隊の攻撃を集中! 白狼天狗隊は態勢を立て直して! 早く!
鴉天狗隊の4、5班は左翼に!
残る鴉天狗は全班、中央に向かいます!
もう少し踏ん張りなさい! 私も行きます!
1から3班も戻り次第、中央の援護!
副官! 指揮を引き継ぎなさい! すぐに戻ります!」
本当にもう、大忙しですよ、ええ本当に。
どいつもこいつも……いい加減にしてほしいです。
侵攻してきた吸血鬼達は、迷惑極まりないことに、妖怪の山を第一目標に定めたようです。
住み着いていた妖精達を凪ぎ払い、霧の湖に陣取った軍勢。
首魁である吸血鬼と、極めて強力な魔法使い。
それに付き従う、無数の悪魔。
吸血鬼と魔法使いに対するのは、八雲主従。
そして、悪魔の群れと戦う役割は、私達天狗を始めとする、妖怪連合が請け負うこととなりました。
更に言えば、その連合の指揮を執るのは、私、清く正しい射命丸。
何でですか本当に何でこんなことになったんですか責任者出てきなさい代われ今すぐ。
幸い、と言うべきか、悪魔1体1体はそこまで強力ではありません。
平均的な白狼天狗と同じくらいか、それ以下。
多少容姿の差はあっても、どれも赤髪の女性型であることから、分裂か増殖した同一個体と思われます。
つまり、十数体が束になったところで、私の敵じゃありませんね。
こう見えても、単純な力では鴉天狗有数にして、幻想郷最速ですから。
結構強いんですよ、私。
上空で凄まじい弾幕戦をしている八雲主従と吸血鬼、魔法使いなんて見えません。
黒兎様のことなんて覚えていません。考えません。
あんな規格外と争うのが間違っているのです。
とにかく、今は私の戦場の話。
悪魔は個々の能力は驚異ではありませんが、数が多すぎます。
前線の白狼天狗と八雲紫が集めた妖怪、遊撃の鴉天狗、砲撃支援の河童を合わせたよりも多いです。
更に、倒しても倒しても、何らかの魔術によるものなのか、数分で再構築されています。
一気に倒そうにも、流石にそこまで弱くはありません。
要するに、こちらが一方的に不利な消耗戦。悪夢ですね。
しかしながら、今回の戦で八雲紫に受けたのは、「黒兎様が動くまで持ちこたえる」こと。
消耗戦でも持久戦でも、どうにかして耐えれば良いのです。
あの方の怖さは、天狗の中でも多分、私が最も知っています。
黒兎様が動くというのが、はたして何を意味するのかは伝えられていません。
ですが、この戦いに彼女が参戦するのであれば、敵が大打撃を受けるのは確実。
私達は唯、その機に乗じて敵を叩き潰せば良いのです。
何時間指揮を執り、押された味方の援護に行ったか。
太陽の傾きを見ようにも、生憎、空は一面の曇天。
敵の首魁は吸血鬼ですから、きっと、魔法使いに天候を操らせたのでしょう。
それはともかく、漸く、待ちに待った好機が訪れました。
地響き、遠い轟音、この距離でも感じられる禍々しい妖気は、敵本陣である紅い館から。
数分の間が空き、再度の妖気。先程よりも更に濃密な、背筋が凍える不吉。
直感的に、館を覆うように妖気を広げているのだと推察します。
つまり、この離れた位置で感じる禍々しさと不吉さは、あくまで余波。
爆心地である館は、まるで地獄のような有り様に違いありません。
そのことを、敵も理解したのでしょう。
動揺した隙に、吸血鬼と魔法使いを八雲主従が攻め立てます。
悪魔達に至っては、黒兎様の妖気にあてられて、増殖の術式が崩れたのでしょうか。
倒すまでもなく、紅い霞と化し、たった1体の小悪魔に成り果ててしまいました。
言わずもがな、即包囲、確保です。
こうして、後に吸血鬼異変と呼ばれる戦は、幕を閉じました。
戦勝指揮官の功績とやらで、私の権威が強まりました。
地位とか肩書きとかはお断りしたのに、何故か発言権が大きくなってしまいました。
何故に。
そんなの要りません。要りませんってば!
時は流れて。
黒兎様に、御子様ができました。
訳が分かりません。
誰の子です?
まさか、八雲紫ですか!?
あんな胡散臭い女を選んだんですか黒兎様っ!?!
え!? 産んだの!? 産ませたの!? どっち!?
どうやら幼い少女に「母様」と呼ばれていること以外は、全くの不明。
黒兎様も外見は幼い少女なんですけどね。
こういうの、外の世界ではシュールって言うんでしたっけ? 違いました?
そしてついうっかり、最速でその情報を入手した私は、天魔様から直々に調査を命じられました。
娘と思われる者に対して、黒兎様がどの程度の情を注いでいるか。
これにより、天狗社会が妖怪の山の新参であるその娘に、どう関わるかが決まります。
要するに、今後の天狗を左右する、超重要任務です。
…………もうやだぁ……。
「射命丸様」
「……はぁ……何です、椛?」
問いかけたものの、答えは既に知っています。
私が指示したことですから。
「コクト様とご息女と思われる者が、ご自宅に帰られました」
「そうですか……」
千里先まで見通す程度の能力で監視させた結果を報告する表情は、どこまでも生真面目な堅物。
なのですが、尻尾はビクビクと、足の間に巻き込まれています。
気持ちは分かります。凄く分かります。
覗き見で黒兎様が気分を損ねたら、間違いなく殺されますし。
このくらいでお怒りになる方では無い、と知ってはいても、怖いものは怖いのですよ。
そもそも、見ているだけで寒気がするほどの妖気です。
本気になった時の不吉さは、普段の比ではありませんが。
もしかしたら、吸血鬼異変で感じた妖気も、まだまだ本気ではないかもしれませんけど。
本当の本気になったら、あれ以上の力を発揮されるのかもしれませんけど。
あ、考えれば考えるほど、胃が……。
これから私、そんな方のお宅を訪ねて、質問しないといけないんですよね……。
時間を短縮するために、開口一番「その子誰の子」と単刀直入に…………駄目だ殺される。
「はぁぁぁぁぁぁ……」
「……射命丸様」
はいはーい、清く正しい射命丸ですよー。
なんですかいったい。
正直、貴女の相手をする余裕は無いんですけど。精神的に。
「私も同行させていただけませんか」
は?
「何のために?
まさか、護衛だなんて、寝ぼけたことは言わないでしょうね?」
「万が一の際には、命を以て」
「却下です」
馬鹿真面目な仕事馬鹿だと思っていましたが、文字通り死ぬほどとは。
「貴女では時間稼ぎにもなりません。
それよりも、万が一を考えるのであれば、私が逃げ損ねた時に、上に報告するのが貴女の役割でしょう」
「しかし……」
「くどいですよ」
周囲の大気が渦巻き、私の支配下に。
風を操る私にとっては、その全てが武器。
「犬死にどころか足手まといです。身の程を弁えなさい、犬走椛」
哨戒天狗風情に格の違いを見せ付けるように、冷えた声を突き刺す。
「千里眼で状況を確認し、もしも私が失敗した時は、代わりに報告する。
貴女がすべきことは、それだけです。
分かりましたか?」
私がその気になった瞬間に、椛を風で切り裂き押し潰すことも容易。
それだけの力の差があるのです。
私よりも弱い彼女が、黒兎様に対してできることは、何もありません。
椛も、そのくらい理解しているでしょうに、何を世迷い言を垂れているのか。
或いは、私が指示した以上の仕事がこなせると、本心から思っているのか。
舐められたものです。まったく。
「それでは、行ってきます。
くれぐれも、コクト様から『眼』を離さないようにしなさい」
「…………了解しました」
顔を伏せた椛の歯軋りの音が、風を通じて私に届きます。
まだ納得していないのでしょうか。
大体、仕事馬鹿のくせに、私の指示に反発するとはどういう了見ですか。
堅物の考えることは摩訶不思議ですね。訳が分かりませんよ。
「ご幸運を。射命丸様」
深々と礼をする椛を置いて、私は黒兎様のご住居に向けて飛び立ちました。
幸運も何も、これから行く先は、不運の元締めみたいなお方ですよ。
「ああ、さっきから視線を感じると思ったら、お前の部下か」
玄関前に降り立った直後、庭先から黒兎様の声。
やはり、と言うべきか、椛の千里眼はお見通しだったようです。
大して気になさっていない様子なので、即座に無礼討ちにされる心配は無いでしょうか。
「ご不快であれば、すぐに止めさせますが」
「構わんよ。それにどうやら、今はお前の方に『眼』が移っているらしいしな」
「そうですか」
椛の奴、黒兎様から『眼』を離すなと言っておいたのに、また勝手なことを……。
いえ、ですが、今回は妥当な判断です。
監視を続けながら、黒兎様のご機嫌を損ねる可能性も下げられる、良策と言えるでしょう。
ところで、本当に今、私に千里眼が向いているのですか?
全く何も感じないのですが……これ、隠れて見られていても気付けないのでは……。
まさかとは思いますが、私が知らない間に椛から覗き見されているなんて、そんなことは……。
「かあさまの、おきゃくさん?」
おっと。当初の目的を忘れるところでした。
今回のお目当ては、黒兎様の背中に隠れていた、こちらのお嬢さんでした。
遠目に眺めたり情報を集めたりはしましたが、改めて見ると、本当に小さな子供です。
容姿だけは幼い黒兎様よりも、更に頭1つ分は小さいでしょうか。
前に出てきたものの、すがるように黒兎様の腕に掴まる様子は、姉妹にも見えます。
最も、見た目は、ですが。
「初めまして。鴉天狗の射命丸文と申します」
「しゃめーまる、あや……」
「ほら。雛もご挨拶しなさい」
「……うん」
黒兎様の腕に掴まり、その濃密な妖気に触れて平然としている。
それどころか、穢れを受け取り身にため込んでいる。
そんな者が、唯の少女なはずが、ありません。
「かぎやま、ひな、です。ながしびなの、やくじん、です」
「良し。ちゃんと教えた通りに挨拶できたな」
ええっとですね。
名字は因幡じゃないんですね、とか。
流し雛からいきなり厄神って何ですか、とか。
厄神だから黒兎様の妖気も厄として取り込めるんですか、とか。
聞きたいことは山ほどあります、が。
取り敢えず、挨拶できた娘の頭を撫でる黒兎様の顔を見て、理解したことがあります。
まかり間違っても、天狗がこの娘を害することは、絶対にあってはなりません。
天狗社会そのものが、黒兎様に、塵も残さず滅せられます、確実に。
黒兎様、この娘を、明らかに溺愛しています。
最低限必要な情報は手に入れましたし、さっさと退散させていただきましょう。
長居は無用です。心労で死んでしまいます。
「そうだ射命丸。ちょうど飲み頃の酒があるんだが、付き合わないか?」
「はい喜んで」
これを頂いたら帰りましょう。
ちなみに、黒兎様が熟成具合を見極めた蒸留酒は、かつて飲んだどのお酒より美味しかったです。
巷ではこれが「鬼の酒」として秘宝扱いされているらしい、と笑っておられました。
え、あの、これ飲んで良かったんですか? 私。
八雲紫にも滅多に出さない酒!?
天魔様も飲んだことが無い!?
いやいやいやいや駄目でしょう!?
そんな品、一介の鴉天狗に過ぎない私に出しますか普通!?
雛の話を誰かにするのは初めてだ、って、要するに、娘自慢で気分が乗った勢いですか!?
うわぁ……。
この件で、八雲紫に目をつけられたり、しませんよね……。
勘弁してくださいよ……本当に……。
…………お酒は美味しいですけど……凄く……。
余談ですが、私が黒兎様にお酒を頂いたことは、椛には口止めしておきました。
黒兎様と親しくなった、なんて噂が流れたら、どんな厄介ごとに巻き込まれるか、想像したくもありません。
既に手遅れな気はしますが、それでもです。
翌日。
一晩で書き上げた、黒兎様の娘、流し雛の厄神、鍵山雛の調査結果を、天魔様に提出しました。
要点を1枚に纏めた物と、随分と分厚くなった詳細資料。
山に住む野良の神や、河童等に聞き込みした内容も盛り込んだら、1冊の本みたいになりましたね。
1文にすると、『あの娘を傷付けたら天狗が滅ぶ』なのですが。
天魔様もそれに賛成して下さったのか、天狗社会の掟に、新たな項目が増えました。
損得利害を勘定し、天狗が取った選択肢は即ち、不干渉です。
何を契機に爆発するか、どうすれば防げるかも分からないならば、静観するのが正解でしょう。
まさしく、触らぬ神に祟り無し、です。
しかし、ここで意外な動きを見せたのは、八雲紫。
私としては、黒兎様の娘について新聞記事にするつもりはありませんでした。
と言うか、どんな噂好きな天狗でも、黒兎様に関する記事を書くことはありません。
貶す度胸がある命知らずは居ませんし、誉めたつもりが逆鱗に触れることだって考えられます。
おまけに、黒兎様の情報を人間に伝えることは、八雲紫との取り決めで禁じられています。
そんな訳で、娘の方についても、情報が規制されると思っていました。
ですが、蓋を開けてみれば、なんと向こうから「新たな神として人里に周知してほしい」との依頼です。
どういうことでしょう?
厄神として信仰を集めさせて、八雲紫に何の得があるのでしょうか。
……娘と人間の結び付きを強めることで、黒兎様が暴れる確率を低くする、とかですかね?
他にも色々と理由はありそうな気がしますが、下手に首を突っ込むと斬り落とされる案件ですね、これは。
問題は、人里に撒く記事を書くのが、私の担当になったことですよ。
分かっていましたけどね、ええ。
どうせこうなると、依頼の話を聞いた時にはもう、分かっていましたとも。
あやもみの関係性は学会でも諸説ありますが、ダブルスポイラーにおける
・顔を合わせると喧嘩になりやすい
・鴉天狗を見下している節がある
・文が苦手としているみたい byはたて
以上を独自解釈した末、こんなんになりました
あと、あややに、「好意に鈍感」なんて主人公属性が追加です、ヤッタゼ
本編とは無関係ですが、『オーバーロード』と『蜘蛛ですが、なにか?』のクロスオーバーで『ワールドエネミーですが、なにか?』なんてのが湧きました
誰か書いてくれないかなー、などと思う今日この頃