トウホウ・クロウサギ   作:ダラ毛虫

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烏瑠さん、誤字報告ありがとうございました
実はこの誤字報告感謝コメント、これまで密かに憧れてたり(笑


感想欄で「次は来年」といったなあれはうそだ

中国……もとい本みりん、ではなく、くれないみすず視点で、今回はまったり気味に




トウホウ・アカイスズ

 

 

「近頃、フランに勝てん」

「そうなんですか!?」

「驚き過ぎだ。隙だらけだぞ」

「あいたぁっ!?!」

 懐に滑り込んで来たコクトさんの掌底に、顎をかち上げられる。舌噛んだ……。

 手合わせということで、両手足に妖力を纏って、厄を弾いてくれているものの、代わりに、打撃を受けると体ごと弾き飛ばされる。

 ちょうど、飛行した訳でもないのに打ち上げられている、今の様に。

 何とか空中で体勢を持ち直して着地したが、完全に一本決められてしまった。しかも、自ら隙を晒した挙げ句、だ。

 残心を終えたコクトさんも、無表情ながら呆れた様子で、私を見ている。

「いくら稽古と言えど、気を抜きすぎだ。……初めて会った時も、投げられた後に混乱し隙を見せていたしな」

「えーと……あの時はですね、その、未熟だったと……」

「その未熟を克服できないでどうする」

「はい……」

 ぐうの音も出ませんその通りです。

 でも言い訳させていただきますとですね……。

「私がフランに勝てんと言ったことが、そんなに意外か?」

「驚いて固まるくらいに」

「その程度で動きが鈍るのが……これ以上はくどいな。止そう」

 良かった。説教回避。

「それで、妹様に勝てないっていうのは、弾幕ごっこで、ですか?」

「実戦で勝てなかったら、私は死んでいる」

 ですよね。特に妹様の場合だと。

「要所要所に、非殺傷の弾を交ぜてくる様になってな……小癪な真似を覚えおって……」

「あーなるほど」

 納得した。

「コクトさん、致命傷にならない攻撃だと、察知できないんですね」

「そういうことだ。以前のフランは、一つ残らず殺意の塊だったのだが……」

 要するに、相性の問題だろう。致死性の攻撃であればあるほど、危機察知は鋭敏になる、と。

「全部が致命傷級の場合、どのくらいまで読めるんですか?」

 聞きながら、踏み込みから眉間、と見せかけて喉狙いの突き。

「ほぼ未来予知、かな。読み損ねたことは無い」

 私の攻撃を最小の動きで避け、流れる様に、リーチの差を埋める前蹴りが放たれる。

 辛うじて防御が間に合ったけれど、触れた瞬間に、足先に束ねられた妖力で弾かれ姿勢を崩された。

「まあ、もしも読み損ねていたら、私はとっくに、幾度と無く死んでいる訳だが」

 息つく暇無く、私の防御を弾いた反動で、くるりと回転するコクトさん。

 空間を切り裂く、鋭利な回し蹴りが、私を襲う。

 単に防ぐだけでは、また弾かれて連撃を受けてしまう。じり貧。対抗策。直感。

 咄嗟の閃きに身を委ねる。

「おっと。気功の……硬功か」

「よくご存じで」

「……まあ、色々あったからな」

 気によって体を堅固にし、額で蹴りを受ける強引な防御で凌いだが、相手の動揺は無いも同然。

 本当にやりにくい人。

 人、と呼んだら、毎回律儀に「妖怪だよ」と返されるけれど。きっと、何かこだわりがあるのだろう。

 それはそれとして。

 先ほどの会話で、思い付いたことがある。

 たとえ手合わせでも、当たり所が悪ければ死ぬ可能性のある打撃では無く、動きを封じる関節技ならーー

「急に慣れん技を使おうとするな。初動の隠し方が雑だ」

 あっさり読まれて投げられた。

「弾幕の中に、私の回避する道筋を読み非殺傷の弾を交ぜるならともかく、体術をそれに応用するのは無理がある」

「ですよねー……」

 地面にめり込む勢いで叩き付けられた。

 私も妖怪なので、このくらいで死にはしないが、痛いものは痛い。

「と言いますか、妹様ったら、そんな器用なことなさっていたんですか」

「遊ぶからには勝つ為に工夫する、と。子供らしくはあるな」

 ふっ、と目尻を緩めるコクトさん。外見は幼いのに、おばあちゃんみたいな表情だ。幼女なのに。

「もう一度投げられたい様だな」

「心を読まないでくださいよ」

「顔に出過ぎだ」

 さてさて。いつまでも埋まっていられない。

 まずは下半身を地面から垂直に伸ばし、脚を振り下ろす反動を使い立ち上がる。

 うわっ。服が土まみれ。後で洗わなきゃ。

「ですけど、非殺傷の弾は察知できないってことは、もしかしてコクトさん、弾幕ごっこ苦手ですか?」

「ああ。弱いぞ」

 いやそんなあっさり自分を弱いとか言って良いんですか妖怪が。

 妖怪なんて、自尊心と他者の畏怖で形成されている様な存在でしょう?

 お嬢様が何度も仰っていたが、本当に不思議な人、もとい妖怪だ。

 私も、妖怪らしくない、とは言われることがあるけど。

「今のところ機会は無いが、私の厄弾で死ぬ相手とかだと、最悪だな。手が出せん」

「威力を弱めればどうでしょうか?」

「最小なら、十六夜辺りであれば数発は耐える、かもしれん」

「……人間に向かって撃っちゃダメですね」

「だな」

 意外に不器用、なのだろうか? 既に付き合いは、初対面時を除いても、紅霧異変以来、それなりの期間と頻度だが、知らなかった一面だ。

 二、三千年くらい前までは、無差別に周囲へ厄を撒き散らしていた、なんて聞いた覚えもある。

 聞いた時は、物騒だとしか感じなかったけれど、改めて考えると少し微笑ましく……無いな。全く無い。

 この人の纏う厄がバラまかれるって、それなんて地獄絵図?

「対人間用のスペルカードも、一応作ってはみたが……どうにもな……」

「未完成なんですか?」

「殺傷力の高い弾幕を放つ相手には対応できん」

「どうして両立させようとしてるんです!?」

 あと、意外に欲張りなのも、今日初めて知ったことだ。

 

 

「……さて、休憩は充分か?」

「ふぅ…………かしこまりました。お相手させていただきますよ、お客様」

 言葉を交わし、拳を蹴りを交わす、武を介した交流。

 初めて見た時は、完全に災厄が形を成す魔王だった相手と、こんな関係になるとは、想像もしていなかった。できる訳も無いけど。

 だって、あの時のコクトさん、本気で怖かったし。

 何が起きたかも分からず仲間は全滅、守るべき門は崩壊。

 決死の覚悟で、せめて一矢報いようとしたら、気付けば投げられ地面に仰向け。

 不吉極まるその右手が、私の顔に、ゆっくりと……あ、寒気が……。

 言うまでも無くトラウマである。今でもたまに夢に見るくらいの。

 紅霧異変後の宴会で、唐突に再会した時のことも、良く覚えている。膝が震えて仕方が無かった。

 ああ私ここで死ぬのかな、的な走馬灯まで……凄く気安く話し掛けられて霧散したけど。

 怖くて、気安くて、気紛れで、面倒見が良い時もあって、お酒が美味しくて、武術が好きで、娘が大好きで、意外と不器用で欲張り。

 そんな良く分からない妖怪兎さんは、こうして付き合ってみると、思ったより何も考えていなかったり、かと思えば思慮深かったりで。

 結局、良く分からない人なのであった。

「何か腹が立つことを考えられた気がする」

「気のせいでウギャーッ!?!?!」

 ついでに、やけに勘が鋭くて、割りと容赦が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………やってしまった……。

 

「……コ、コクトさーん?」

 

 眼下にはちょっとしたクレーター。

 

 やらかした……。

 

「生きて……はいると思いますけど……無事ですかー……?」

 

 いや本当にもう、やってしまったのである。

 

「ああ。もちろん生きているさ、メイリン」

 

 クレーターの底から、弾け飛ぶ砂礫。

 

 ゆっくりと浮かび上がってくる小柄な人影。

 

 

 魔王が居た。

 

「見事だ。実に見事だ素晴らしい。

 なるほど、周囲の気、そして龍脈の力をも取り込む、か。

 確かにそれならば、肉体が維持できる限り、際限無く自身を強化できる。

 どことなく、伊吹の奴の能力にも、通じるところがあるな」

 

 両手足に纏っていた妖力は、厄と混ざり合い、否、厄を貪り喰らい、生物じみた脈動をしている。

 私の『奥の手』を防いだのも、あの力か。

 出会った時よりも更に禍々しい、悪夢よりも悪夢な、その威容。

 

「では、手合わせを続けよう」

 

 

 私は今日、ここで死ぬのかもしれない。

 

 






めーりんで何か書こう、と発作的に書いたのでちょい短めです

そして、本編がまったり(武)だった反動か、オマケがいつも以上にアホです









アホです(念押し









【トウホウ・ウスイホン】

 MURABITOではどうあがいても「謎の技術製・厄遮断手袋」によるお触りか、「厄遮断靴下」を履かせて踏んでもらうくらいしかできない、因幡コクト百数十万才(中身男・磨耗済み・処女)
 彼女にエ□いことができる者なんて、どこにもーー


『『『いるさっ! ここにな!』』』


エントリーナンバー1 鍵山雛
 義母娘百合は王者の道よ!
 厄? むしろ栄養ですモグモグ
 いつものスキンシップが段々……みたいな展開良いよね!←煩悩全開

エントリーナンバー2 洩矢諏訪子
 私の子を産め! それが駄目ならせめて先っちょだけでも!
 同棲歴およそ2万年! 全盛期には百合ハーレムで子沢山の祟り神!
 厄も涙も飲み干してやるさ! 私の国に堕ちて来い!

エントリーナンバー3 八雲紫
 幸運と不運の境界もまた彼女の意のまま!
 コクトの生涯をほぼ全て覗き見! ただし諏訪の国では妨害された!
 ストーキングの挙げ句に自作の箱庭に囲うとか厄いね!

エントリーナンバー4 星熊勇儀
 不運なぞ、自慢の肉体ではね除ける!
 強いぞ凄いぞ勇儀姉ぇ! 出番はまだまだ先だけど!

エントリーナンバー5 伊吹萃香
 鬼の四天王から二人目の参戦!
 基本は酒飲み友達だけど、据え膳になったら迷わず食うよ!
 分身しまくって疑似乱k(自主規制

エントリーナンバー6 風見幽香
 殺し合いましょう! 全身全霊を懸けて! 死力を尽くして!
 倒した後に、死にかけのコクトが転がっていたら、リョナなことになるかも!

エントリーナンバー7 射命丸文
 いやいやいやいやムリムリムリムリムリムリ無理ですって!
 勘弁してください私は帰らせてもらiーーえ? お酒? いただきます!

エントリーナンバー8 フランドール
 狂気は消えた訳では無い!
 疼き沸き立つ心のまま、嗚呼あなたを■したい■したい■したい!
 吸血行為は健全な食事風景です!

エントリーナンバー9 水橋パルスィ
 誰よ? とりあえず、何だか人気者みたいで妬ましいわね
 厄と親和性が高そうだから呼んでみた! それだけ!
 雛パルは不幸中の幸い! にと雛もイケる口だがなウオオー!




 一方その頃、話題の黒兎は、何も気付かずに姉と酒盛りしていた。
 身の危険(性的な意味で)については、危機察知の適用範囲外である。

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