トウホウ・クロウサギ   作:ダラ毛虫

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烏瑠さん、前々回に続き、誤字報告ありがとうございます


クロカラス下の後編は、何か湧いて来ないので、とりあえず本編を進めることに

改めて注意
うちのケロちゃんは、幼女の形をしたオッサンで全盛期には多数の妾を侍らせ黒兎にまで手を出そうとした子沢山な色魔です
…………酷い有り様だなこの祟り神 (--;)




第2部:風神録~地霊殿
第風話


 

「お帰りなさい、母様」

「お帰りなさーい!」

「コクトさん……お帰りなさい……」

 帰宅するや否や、雛と秋の姉妹神がお出迎え。帰る所があるというのは嬉しいものだ。美少女達に迎えられるなら尚更。

 と、そんな『前世』が暴走しかけた妄言はさて置き。

「ただいま。怪我は……大きなものは無さそうだな」

 頭から爪先まで、三者の姿と神力を確かめる。博麗の巫女達とやりあったと聞いて、気が気でなかったが、どうやら無事なようだ。

 負傷は掠り傷と軽い打撲程度。消耗し存在が薄れている様子も無し。服は着替えたらしい。

「母様ったら……ちゃんとルールに則った弾幕ごっこなんですから、問題ありませんよ?」

「ほら。コクトさん心配性だから」

「……ご配慮いただき、ありがとうございます」

「まあ……万が一規則を逸脱しているようであれば、少しばかり『話し合い』に赴く必要があるしな」

「「「やめてください」」」

 完璧に異口同音で止められた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある秋の日のこと。妖怪の山の頂上付近に、随分と懐かしい気配と共に、神社と湖が出現した。

 何となく、いつかまた会うだろう、とは思っていたが、それでも懐かしく感じるのは、私もあの日々を楽しんでいたからか。

 嘗ての諏訪の国で過ごした、あの日々を。

「……久しいなぁ……洩矢神様よ……」

 山頂から吹き下ろした、秋の風が頬を撫で、過ぎ去ってゆく。

 

 

「そこの妖怪兎! 止まりなさい!」

 で、思い立ったが吉日と、酒を手土産に社まで挨拶へ出向いたところ、緑色の巫女に阻まれた。

 ちなみに、天狗にはちゃんと『古い知己に会いに行くから通せ』と伝えてある。問題無い。やけに慌てていたが私は知らん。

「見たところかなりの大妖怪! しかし! この先には進ませません!」

 元気な娘である。これが若さか……。

 それに、なによりも。

「……ふむ……現人神か……しかも、洩矢神様の末裔とは……」

 髪の色といい、気配といい、諏訪の国に居た洩矢神様の直系そっくりだ。隔世遺伝という奴か?

 ますます懐かしい。人間で例えるなら、親戚の子供を久し振りに見る様な感覚だろうか。

 人間の感性なぞ覚えていないので、違うかもしれないが、まあどうでも良い。

「え? 諏訪子様をご存じなんですか?」

「その諏訪子様が、私の知る洩矢神様と同じであればな。昔、世話になった方だ。叶うならお目通り願いたい」

「え、ええっと……あれ? この場合、通しても……いやでも確証がないし……もし敵なら……」

 おー混乱しとる混乱しとる。

 幻想郷の住民達は、雛等の例外を除いて、どいつもこいつも常識を投げ飛ばした連中ばかりなので、こういう初々しい反応は貴重だ。

 よく分からん相手は叩きのめしてから考える、が標準である。狂っとる。

 それに比べて、この娘は……いやー、若い若い。実に和む。

「そうだ! 諏訪子様ご自身に確認してもらったら……! あ、だけどそれだと諏訪子様を危険に晒すことに……! えーと、えーっと……」

「コ! ク! トー!」

 悩める若人を鑑賞していたところに、祟り神襲来。まさしく襲い来る様な勢いで、弾丸の如く突撃してきた。

 危機察知に従い受け止め、ぐるりと1回転して、柔術擬きの応用で力を流す。

「……ご健勝で何よりだ、洩矢神様」

「コクトー! コクトー! ひっさしっぶりー!」

 下手すると肋骨がやられていたぞ今の突進。と、突っ込みたいのは山々だが、満面の笑みに毒気を抜かれた。

 どう見ても唯の幼女である。しっかりしろ土着神の頂点。

 いや、『唯の幼女』は、亜音速で突撃したりしないか。もう少し加減しろ祟り神め。

 些かの非難を視線に混ぜるも、それにすら嬉しげな笑顔を浮かべる洩矢神様。相変わらずな御仁である。

「はーこの酒精と厄が絶妙にブレンドされた匂い……くんかくんかすーはー」

「嗅ぐな」

 僅かに妖力を込めた拳骨一撃。

 何をしとるか。

 本当、まるで変わらんな、この色魔。

「あうぅ……再会を喜ぶくらい良いじゃない……」

「言いつつ尻を撫でるな」

 拳骨2発目。先程よりも妖力を増やした結果、なかなかに良い音が鳴った。

「ああーううううぅぅぅー……っ!!!」

「だ、大丈夫ですか諏訪子様!?」

 慌てて緑巫女が駆け寄って来るが、それでも私にしがみつく洩矢神様。

 まったく……その気概を他に活かせば良いものを……。

「それで? 少しは回復したか、祟り神様?」

「んー……ちょっとは、かな。昔に比べると、受け取れる畏れも減っちゃってねー」

「歳か?」

「あんたがそれ言う?」

 それもそうか。

 そもそも、全盛期の洩矢神様が抱え込んでいた厄の方が、明らかに常軌を逸していたのだ。

 今の、私が纏う厄と妖気を祟り神としての呪いに変換して吸収する、という芸当も、充分に異常なものなのだろうけれども。

「あのぅ……それで……諏訪子様のお知り合い、で間違いないのでしょうか?」

 放置されていた緑巫女がおずおずと聞いてくる。

 なんか小動物っぽいな。追い込まれたり思い込むと暴走しそうなところを含めて。

「うん、私の嫁」

「誰が嫁か」

 本日3度目の快音が、秋の空に響いた。

 

 

「……まだ頭ヒリヒリする……」

「自業自得だ」

 守矢神社の本殿にて、祟り神と妖怪兎が酒盛り。

 こう表現すると、何か陰謀でも企んでいそうな雰囲気だが、本当に酒を飲んでいるだけだ。

 洩矢神様は、余計な荒事を計画しているかもしれんが、まあ、山が崩れん程度に楽しくやってくれ。私を巻き込まずに。

 …………どっかから、お前が言うな、という念を感じた。多分、紫か誰かだろう。

「それで、洩ーー」

「諏訪子って呼んで」

「いやしかしだな……」

「す・わ・こ」

「………………諏訪子様」

「様は禁止。殿もさんもね。ちゃんは許す」

 許すじゃないわ。歳を考えろ歳を。

「話を進めよう、諏訪子。……これで良いか?」

 うむ、と偉そうに頷く洩矢神様、もとい諏訪子。ふんぞり返っても張る胸が無いぞ。私もだが。

「幻想郷への引っ越しは……えーと、何て名前だったかな? あのオンバシラ」

「神奈子のこと?」

 多分それだ。

 諏訪子との戦争で私の蒸留設備を吹き飛ばしたのと、初対面でやたら突っ掛かってきた印象しか無いおかげで、顔や名前をすっかり忘れていた。

「その神奈子とやらが主導してこちらに移ってきた、という認識で、間違いないか?」

「……その通り、っていうか、私は正直、何もしていない内に飛ばされてきた感じだけどね」

 それはまた災難な。

「コクトと再会できたし、その件はもういいんだけど、それがどうかした?」

「いや。てっきり諏訪子は、信仰が薄れ行くならそれも時代、などと受け入れるかと思っていたからな。

 自ら幻想郷に来ようとしたなら、認識を改めようかと考えていた」

「それはあんたもでしょ。そもそもあんた、こんな箱庭、必要ないよね」

 確かに。

 未だ人間が運に左右され、不運を畏れる以上、たとえ外の世界でも私は『妖怪』、『不明なナニカ』として存在できる。

 万物は粒子の塊で、万象は科学的に説明できる、と謳う科学主義が相手でも、正面から喧嘩できる訳だ。しないけど。

 祟り神もまた、同様。

 私達は、誰かが不運を嘆く限り、不幸を神やら天命やらのせいにする限り、消えることは無い。

「ともかく、こうして会えたのだから、良しとするか」

「だね。一段とお酒も美味しくなっているし」

 ああそうだ。それが結局、私にとって最重要だ。

 美味い酒を造り、友や家族と語らい呑む。それさえ叶えば、私は私で居続けられる。

 

 

 暫くの間、呑んで食って呑んで風呂入って呑んで寝て夜這いに来た色魔を吹っ飛ばして二度寝して起きて呑む生活を送った。

 持参した酒が尽きてからは、神社の倉にあった酒で呑み直し。

 人間が造った酒も、千年前より遥かに向上している。なかなかイケるな。今度、紫に外から買ってきてもらおう。

 と、酒三昧に堕落しつつ酒代に酒を求める、酒中毒な思考を弄んでいたところ、危機察知に反応有り。

 まだ遠いが、山の上に神社が出現する、というこの『異変』が、『解決』される時が来たらしい。いつも通りの流れか。

 不安要素としては、雛や秋の姉妹神、ついでに山の妖怪達の無事くらいだろうか。

 あと、私も博麗の巫女とは遭遇したくない。前回、不意討ちしたことを根に持たれていたら面倒臭い。逃げよう。

「どーしたのー?」

「服を着ろ」

 だらけきった声と共に、背中へしがみついてくる色情幼女。寝る前は着ていたはずの服は、部屋の隅に脱ぎ散らかされている。

 添い寝にいかがわしい意味は無いと力説していたのはどこのどいつだコラ。

 この状況を東風谷に見られたら詰むぞ、私が。

「詰めばいいじゃない」

「黙れ服着ろ」

 

 東風谷が朝食に呼びに来るまでに、どうにか服を着せることに成功した。

 もし2、3分遅れていたら、無理矢理着せている最中、見方によっては脱がしている様に取られるところだった。色々な意味で際どい。

 

 

 

 

 

 余談だが、博麗の巫女を避けて帰る途中、危機察知に全く引っ掛からなかった白黒の魔法使い未満に絡まれた。

 異変と無関係であることを主張しても、関係者である諏訪子が奥の本殿に居ることを教えても、頑なに勝負勝負と……若者の考えることは良く分からん。

 当然、私が弾幕なんぞ撃つと、当たれば殺してしまうので、適当にやってお茶を濁す。

 真面目に相手をするには、彼女は些か脆すぎる。

 

 何か後ろの方から、怒号が聞こえてくる気がするが、放置である。

 さっさと帰って、雛達の無事を確かめなければならんからな。

 

 





金髪の子かわいそう(挨拶

さらっと魔理沙に諏訪子の居場所を売る畜生兎ですが、こんなんでもうちの主人公()です
魔理沙が黒兎から、どんなスペルカードを使われたかについては、次回、トウホウ・ホウキボシにて
なお、第2部は本編と他キャラ視点ごっちゃの時系列並びですので、最新話が常に一番下です、ご安心ください

扱いの悪いガンキャノn神奈子様も、何かメイン回書かないとなー





【下りた幕の裏側で】

「いるんだろう? 八雲紫」
 コクトを見送った姿勢のまま、視線すら動かさず、諏訪子は告げる。
「あらあら。散々除け者にしておいて、今更お呼びかしら?」
 応(いら)えはすぐに、すぐ傍から。
 空間が裂け、何も無かった場所に境界が、スキマが生じる。
 そこから歩み出るのは、諏訪子の初めて見る顔で、しかし良く知る相手。
 コクトが諏訪の国に居た頃から、幾度と無く覗き見しようとしてきた相手。それを阻んできた相手だ。
「かつては国土全ての隙間を、ことごとく閉ざした貴女が、今は本殿を囲うのが精々。
 時の流れは残酷ですわね」
「そうでもないさ。良い変化も悪い変化もあるけれど、変化すること自体は、決して悪いものじゃない」
 互いに視線は合わせず、言葉だけを交わす。
「あいつ、母親になったんだって? ますます良い女になっていたじゃないか」
「彼女は、女性として扱われることを、望みませんわよ?」
「わざと弱音を吐かせたあんたが良く言うよ」
「良くご存じで」
 夜の伽に昔話を語ってもらったからねぇ、と笑う諏訪子。
 その隣で、口許を扇で隠し笑う紫。
 視線は交わさない。
 唯、言葉だけを交わす。
「彼女が泣いたのも、憎悪に狂ったのも、貴女と出会う前のこと。
 それを見られなかったからと、私に愚痴られても、ねえ?」
「ああ、前々から知っていたことだけれど」
 言葉だけで分かるくらいに、明確な煽り方をする紫。
 その狙いは、諏訪子を怒らせて判断力を鈍らせることではなく、八雲紫がこの件に関して洩矢諏訪子を煽った、という事実を作っておくこと。
「本当、面倒臭いよね、あんた」

 アレが欲しい。
 お前とは共有できない。

 とりあえず、今回の会合は、この認識統一が成せた時点で、終いにするべきだろう。

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