トウホウ・クロウサギ   作:ダラ毛虫

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niccolumさん誤字報告ありがとうございます



拗ね雛!←今回のモチベーション




第宴話

 

「………………」

「………………」

 やばい。雛の機嫌が悪い。

 先程の宴会では、久し振りに会った河城などと話していたし、家に帰るまで秋の姉妹神と談笑していたのに。

 む? 帰り道、私とは会話していなかったな……。

 つまりあの時点で実は不機嫌だった!?

 そしてそれに気付かず雛達の会話をのほほんと眺めていた私に、余計に機嫌が悪くなった!?

 え、あの、その……あーどうしようどうしたら良い!?

 答えろ、危機察知! 精神的な負荷で生命の危機だぞ!? 出番だぞっっ!?!?!

「…………母様」

「何だ?」

 雛の機嫌が治るなら何でもするから言ってくれ。ん? 今、何か嫌な感覚が……気のせいだな!

「何でも良いんですね?」

「できる範囲で頼む」

 無理なことは許してくれ。

「なら今日は、一緒にお風呂に入って、一緒に寝ましょう」

 何故に!?

「だめでしょうか?」

「大丈夫だ。問題ない」

 だが、入浴中の目隠しだけは装備させてくれ。

 雛に欲情したら、私は私の両目を潰さなければならん。

 

 その後、何やらやけに雛が甘えてきた。小さかった頃みたいで懐かしいな。

 不機嫌の原因が何だったのかは、不明なままだが。

 まあ良いか。雛が可愛いし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 異変後の宴会。

 酒を届けに行ったことはあれども、考えてみると、参加者として赴くのは初めてだ。

 そう、白黒のに絡まれた為か、何やら私にも異変関係者への招待が来た。

 いやまあ、雛や秋の姉妹神も招かれているので、帰りを家で待つ羽目になるよりは良かったのだが……。

 しかし、私みたいな、見るからに明らかについでに実際に厄種が参加して、空気が悪くならないかがだな。

「では、行きましょうか、母様」

「そうだな、行こう」

 あ。悩む前に、反射的に即答してしまった。

 悩んだところで、私が雛の誘いを断れるはずがないので、結果は変わらんか。為る様に成れ。

 

 

 

 

 そして現場に到着。とりあえず手土産を兼ねた酒を届けて、後は隅の方でまったり呑むことにーー

「よく来たわね。一応、客として迎えるわよ。歓迎するかは別にして」

 なんでこっちに来た博麗の巫女。

「他の参加者の相手で忙しいだろうに、わざわざ済まないな」

 だから早く、他の連中のところに戻ってくれ。

 うわ。諏訪子やら射命丸やら、聞き耳立てていやがる。何も面白いネタなんぞ話せんわ。散れ散れ。

「あんたとこうやって話すことって、今までなかったと思ってね」

 て、腰据えおったこいつ。

「確かに、まともに会話したのは手合わせの時くらいだったか。しかし、特に話すこともないだろう?」

「かもしれないわね。あんた、よく分かんないもの」

「良く言われる」

 それもどうなの、と、微かに笑う博麗の巫女。

「霊夢でいいわ」

「……なら、私もコクトで良い」

 思考を読まれた気がする。単なる偶然であれば良いのだが……。

 とりあえず、杯が互いに乾いたままなのも何なので、持参した酒を注ぐ。

 意外なことに、博麗、いや、霊夢も私に注いでくれた。

 うむ。何だこの状況は。誰か解説をしてくれ頼む。

 はっきり言って、人間と酒を酌み交わしながら会話するなんて生まれて初めてで、まるで勝手が分からない。

 十六夜はスカーレット嬢の従者としての関わりだし、それ以外の相手も半分神だとかそんな経験しかない。

 そういえばスカーレット嬢もといレミリアも「名前で呼んでちょうだい」と言っていたな。ってああ考えが他所に飛んだ。

 何だ。人間相手って、何を話せば良いんだ。妖怪や神と同じ感じじゃ駄目だよな?

 元人間の感覚など、時の彼方に摩りきれて消滅しとるわ。

 前世もそんな喋る方じゃ無かっただろうしな。覚えてないが。

 むしろ人間の頃の感性が残っていたら、とっくに精神が壊れて……ん? 既に壊れているのか? 自覚は……結構、心当たりがあるな……。

 いや、今はそんなことどうでも良い。とりあえずこの場をどう対応するのかがだな……。

「思ったより、表情に出るわね」

「……そうか?」

「ええ。随分と困った顔してたわ、コクト」

 うぬぅ……何か敗北感。

「ま、あんたが好き好んで人間を傷付ける奴じゃないってのは分かってたし、確認もできた。

 もちろん、騒ぎを起こしたり関与したらシメるけど」

「巻き込まれん様に善処する」

「ほんと、逃げ腰ね」

「そういうのは、戦闘好きな連中だけでやってくれ。霊夢と戦うのは勘弁だしな」

「あら? 一度勝ったくせして?」

「次やったら、一切容赦せんだろう?」

「当然」

「だから勘弁なんだ」

 奥の手は奥の方に隠しておいてくれ。少なくとも私に対しては。

 負けると分かっても挑む程、私は酔狂ではない。酔って狂うことも無い。

「ほんっと、変な妖怪だわ」

 それも良く言われる。

 

 ……割りと会話できているな。相手が誰に対しても自然体な霊夢だからだろうが。

 

「しかし、想像していたより好意的に迎えられたな。驚いたよ」

「だってあんた、お賽銭入れてたでしょ?」

「一応今回は、酒屋としてでなく、参加者として呼ばれているからな。多少なり気は遣う」

「ちょっと爪の垢ちょうだい。あいつらに飲ませてくるから」

 何を言っとるんだおい。

「なになに? コクトの爪垢を煎じて飲む会?」

「む。出たわね商売敵」

「諏訪子まで何を訳の分からんことを……」

 頭に乗っかるな。重いわ。

 霊夢の言う商売敵とは、神社の経営的な意味だろうか。

 そうなると、雛や秋の姉妹神も商売敵か? 人里に祠があるらしいし。それも複数。

「……別に、あんたの娘達を目の敵になんかしないわよ」

「考えていることが、そんなに分かりやすいか、私」

 つい先程も、内心の困惑を読まれたな……自他共に認める無表情だと思っていたのだが。

「勘よ」

 勘かよ。

「慣れてくると、意外に表情豊かだよ?」

「貴女の場合、付き合いの長さが桁違いだからだろう。

 それより、そろそろ頭から下りてくれないか」

 重い。

 退け。

「なにさー若い子にデレデレしてー私と過ごした夜は遊びだったって言うのー」

「棒読みで何を言っているんだ」

「あんたたちそういう関係だったの」

「悪乗りするな霊夢」

 何だこの意味不明な状況。いや霊夢が私の所にわざわざ来たのも良く分からんかったが、余計に訳が分からんことになっている。何だこれ。

「……確かに、割りと表情豊かね」

「でしょ?」

 私をだしにして意気投合するんじゃない。

 

 

 

 

 

 

「あやややや。この度はお疲れ様でした」

 霊夢と諏訪子が他の参加者のところへ移ると、入れ替わりに、次の客がやってきた。

「そちらも、山に立ち入った霊夢とやり合ったそうだな」

 私の言葉に対し、それが役目ですから、と慇懃に応じる射命丸。

 と、会話していて思い出した。

「諏訪子……新たに山の住民となった、守矢神社に関して、天狗はどんな立ち位置を選ぶ予定だ?」

 私の発言を受けて、射命丸が僅かに身動ぎする。

 おそらく、あちらも、会話の流れでその話題に持っていくつもりだったのだろう。

 意図せずして機先を制した形になったか。別に心理戦などしたくはないが。

「古い知己とは伺っていましたが、親しいのですね」

「親しいと言えるのは諏訪子だけだが、二、三千年くらい前まで、居候させてもらっていた。二万年程」

「……時間感覚がおかしくなりそうです」

「至極真っ当な意見だな」

 あの頃は、何千年があっという間だったからな。

 雛と出会ってから、そして、ここ数年の異変続きで、やけに時間が長く感じる様になった。

 密度の違い、という奴だろうか。日々が目まぐるしく充実しているとも言える。

「私と新参者の関係を探って来る様に、上から指示された、か?

 相変わらず天狗は忙しないな」

「情報と組織力こそが、私達の強みですから」

 だからこその、山の統治者である、と。

 誰が統治しても、害が無ければ構わんのだが。正直、どうでも良い。

「心配しなくて良い。

 仮に、諏訪子達が天狗に敵対するとして、私は肩入れせんよ。どちらにもな」

 なので、どちらが勝とうが、騒動に加担する気は無い。

 山の覇権争いが異変扱いされ、巻き添えで霊夢にしばかれるのは御免だ。

「……まあ、天狗に協力を、なんて頼めはしないですけどね。

 我々としては、あちらが現状を崩す気が無いのなら良し。それ以外は交渉、といったところです」

「ああ。お前達の好きにしろ。私は私の好きにする」

「かしこまりました」

 納得したのかは分からないが、深々と頭を下げる射命丸。

「それはそれとしてですね。

 名前を呼び合う新参の神とのご関係を、もう少し詳しく教えていただければ……」

「記事にでもするのか?」

「いえいえ。天狗以外には広まらない様にいたします。ですので……ぜ、是非とも取材をさせていただきたく!」

 こいつの性格上、軽く凄んで断れば大人しく退くのだろうが……。

「隠す程のことでも無いか。何から聞きたい?」

「では! 馴れ初めからお願いします!」

「馴れ初めねえ……当時まだ能力を制御できず、周囲に厄を撒いていた私が、諏訪子の治める国に踏み込んだことが、切っ掛けだったな」

 ほうほう、と相槌を打ちつつ素早くメモを取る。

 毎度のことながら、表情は作り笑顔だが、真剣な眼だ。酒も美味そうに呑むし、見ていて飽きんな。

 この様子と昔話を肴に呑むのも、悪くない。

 ところで、射命丸が少しばかり汗をかいている様に見えるが、どうかしたのだろうか。今夜は涼しい秋の夜なのだがな。

 飲み過ぎたのか?

 

 

 

「……コクト様が『逃げる余裕が無い』ってどんなのよ……いやでも、勝てないとは言ってないし、今は全盛期より弱体化してるし……。

 ああでも、それに勝って国を奪った神と組んでいることを考えると……末裔とかいう現人神の巫女も要注意ね……。

 胃の痛い思いして聞き出した情報でもっと胃が痛く……もぉやだぁ……普通に取材だけしたいぃ……」

 取材を終えて、何やらブツブツと呟きながら、射命丸は飛んでいった。

 宴会は早退するらしい。忙しいな、あいつ。

 

 

 

 

 その後も、次から次へと、絶え間無く客が続く。

 私が持参した酒目当てだろう。いつも宴会に供しているより良い物だからな。

 だがしかし、分身を使ってまで、二杯目以降を呑みに来た伊吹。お前は自重しろ。

 

 ……当初予定していた、まったり呑む時間は、欠片も無し。疲れた。

 





親と一緒に行った宴会で、親は他の人の相手ばかりしていて、時間潰しに知り合いと話してもやっぱり寂しくて帰ってから拗ねて甘えちゃう、そんなマザコンな雛様が書きたかったッッッ!!!!!!

以上!


ちなみに、金髪の子も宴会に参加していますが、黒兎と和やかに酒を呑み交わす霊夢を遠巻きに眺めて複雑な心境になっていましたprpr


そしてあややの、「過去にどこまで踏み込んだら黒兎様キレるかチキチキチキンレース(賭け金は命)」開催!
出てくる情報は爆弾まみれ! 汗だくだくなあやちゃん可愛い!

※ 一般烏天狗は、そもそもコクトに取材する時点で胃が溶解します






そして時節ネタなオマケ



【メリー厄リスマス】

雛「母様! 今日はこういう服を着る日らしいですよ!」
黒「だらっしゃあっ!!」
雛「急に自分を殴り付けた!?」
黒「すまん。危うく暴走しかけた」
雛「そんなことより鼻血!? 鼻血が凄いことになっています!」
黒「気にするな。少しばかり血圧を下げておく。
  サンタの衣装、良く似合っているな。可愛らしい」
雛「あ、ありがとうございます//////
  って! 早く血を止めないと!」
黒「安心しろ。死ぬ程の出血じゃない」
雛「安心できません!」
紫「そうよ。せっかく、貴女の分も用意したんだから、着替えてもらわないと」
黒「私までそんな格好をするのは……あー、ぺあるっく、という奴か。
  仕方無い。止めよう」
雛「はいどうぞ、手拭いとお湯です」
黒「手間をかけてすまない。ありがとう。さっぱりしたよ。
  それで、紫も同じ服なんだな」
紫「ええ。似合うかしら」
黒「元が良いのだから、大抵の物は似合うだろう。綺麗だ」
紫「…………ちょっと出直してくるわ」
黒「どうした? 何か忘れ物か?」
紫「そうね。冷静さを取りに」
黒「何だそれは」
雛「……母様のたらし……」
黒「?」
雛「鈍感。天然。すけこまし。にぶちん。ジゴロ。軟派屋」
黒「何故か娘に罵られた!?」


爆ぜろリア充! メリークルシミマス!

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