トウホウ・クロウサギ   作:ダラ毛虫

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作者が脳内で何度「お外に出なさい! ていうか原作に関与しろテメェ!」と言っても「嫌だ面倒臭い」としかお返事しない黒兎の為に、

元凶さんの方から出張していただきました天子ちゃんマジ天子




第緋話

「……まだやるのか?」

「当然! 何? もう限界?」

「年寄りに無理をさせんでほしいのだがな……」

 見た目は幼かろうと、高天原やらの古き神々を除けば、かなりの高齢者なのだ。

 腰だの肩だのが痛む訳では無いが、精神的な疲労がしんどい。

「心が老いれば気力も老いる。気力が老いれば生命までも老いていくでしょう。

 不老であれど、不老であるからこそ、若くあろうとせねば朽ちゆくのみよ」

「私に忠言は要らん。気持ちだけは貰っておこう」

「そこで完全に拒否せず、『気持ち』は受け取る辺りが、貴女の歪さね」

 知っとる。

「まあそんなことより! せっかく来たんだからもう少し付き合いなさい! お楽しみはこれからよ!」

 ……天人ってこんなんだったか……?

 昔に見た連中は、もっとこう、悟った様な顔をしていたのだが……。

「変わり者、か」

 まったくもって本当に、私に勝負を挑んで来る奴は、どいつもこいつも何というか…………変なのばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月に攻め込んだ連中が帰ってきたり、何やかんや理由をつけて宴会したり、理由もなく宴会したり、姉様が中有の道の出店を過半数傘下に置いたりなんだり。

 

 えむあんどえーとやらが何かは、私には良く分からんが、さすがは姉様である。姉様は本当に賢いお方。そして可愛い。

 姉様と言えば、先日会った際、鬼の酒虫が品質向上していたと話していた。

 ……アレが、か……マシに成ったとはいえど、自分から飲みたいとは思わんなぁ……昔のが酷かっただけに。

 

 何? 月への侵攻? 興味ないな。

 面倒事に巻き込まれる予感を危機察知抜きでも覚えたので、ロケットお披露目パーティーとやらも、祝いの酒だけ届けた。

 

 

 その他諸々、何やかんやあり、そんなこんなで、夏が来た。

 

 

 

 博麗神社が倒壊した。

 

 誰がやったか知らんが、死んだな、間違いなく。

 

 

 

 

 

 

 などと、完全に傍観していたのだが。

 

 それから少し経って。

 

 

 我が家に向けて、巨大な岩が降ってきた。

 

 

 

 

 勿論、危機察知にかかったので、出現するまでに練り上げた厄砲で迎撃した。察知から出現まで八秒弱あったおかげで、伊吹に対し撃った以上の破壊力。

 天に向かう黒い光の柱は、岩を消し飛ばし、更に高く高く延びて行った。

 

 初手必殺とは、しかも家ごと潰しにくるとは、なかなか良い度胸だ。

 どこのどいつかは知らんが、今ので死んでいなければ改めて叩きのめし……あ、今の厄砲、大結界に被害が出ているかも……不味い紫が怒るどうしよう。

 もう少し出力を控え目にしておくべきだったか……やってしまった……。

 

「し……死ぬかと思った……生まれて初めて、本気で死ぬかと思ったわ……!」

 

 下手人ーー見たところ天人だから、一応『人』の区分で良いなーーとにかくそいつは、生きていた。

 良し。責任は全部こいつに押し付けようそうしよう。

 先に手を出してきたのだから、間違ってはいない。私は悪くない。

 

「ふ、ふふふふ。いきなり、随分なご挨拶ですね、厄災の黒兎」

「いきなり要石を叩き込むのが、天界流の挨拶なのか?」

「あら? 一目で私が天人と分かるなんて、引きこもりのくせに物識りだわ」

 喧嘩を売っているのだろうか。

 いや、不意討ちで襲い掛かってきた時点で、既に喧嘩を売っているのは間違い無いが。

 物言いがいちいち、相手の神経を逆撫ですると言うか……殴られたいのか? この娘は。

 

「神社を壊して博麗の巫女に退治されてみたり、天人を虐める祭とやらを返り討ちにしてみたりしたけど、あんな攻撃されたのは初めてよ!

 さっきは驚いて避けちゃったけど、今度は正面から迎え撃ってあげましょう!」

 さあ来なさい! と両手を広げる天人。

 ああ、分かった。

 こいつ被虐趣味だ。殴られたいんだ。

 

 だったら、遠慮は要らんな。

 

「え……? あれ? ちょっと?」

 

 先程放った厄砲の残滓を妖力で絡めとり、手繰り寄せる。

 周囲一帯に存在する厄も同様に。

 絡めとり、束ね、萃め。

 私が纏う厄も混ぜ合わせて。

 妖力を注ぎ。

 厄と妖力を反応させ合い、互いに強めさせ。

 圧縮し、凝縮し。

 繰り返し、繰り返し。

 強く。

 もっと強く。

 貫通させると、大結界にまで被害が及ぶので、命中した対象を中心に、渦巻く様に。

 

 装填、完了。

 

「迎え撃ってあげる、だったか……」

「すっごく前言撤回したい」

「吐いた唾は飲めんぞ、天人」

「……うわぁ……」

 

 安心しろ。殺す気は無い。

 見た限りでは、お前なら死なん。

 凄まじく痛いだろうが、そこはまあ、望むところなのだろう? 被虐趣味としては。

 

 

「耐えきって見せろ」

 

 発射。

 

「や……やぁってやろぉじゃぁないのぉっっ!!!」

 

 気合い充分な天人を、厄の超局所的嵐が飲み込んだ。

 

「ぬぐぐぐぐぅ……おぐぇ……うぎぎぎぎぎぎぎ……ぐひぇ……!」

 少々、美人が出してはいけない声が漏れているものの、力尽きる様子は無い。

「呆れた頑丈さだな」

 予想以上。

 身体にまとわりつき渦巻き、身心を削ぎ取る、妖力で強めた厄を受けながら、天人の目は、衰えること無き戦意でたぎっている。

 むしろ、負傷すればするほど燃え上がっている気が……被虐趣味って凄いな。

 

「……興が乗った。もう少し付き合おう」

 

 風見とやり合う時は、お互いスペルカード宣言なんぞ無視した、あくまでもルールに『準じた』有効打一発勝負。これまで三勝三敗一分け。

 フランの場合、あの娘がスペルカードを使いたがるので、毎回、私が避けながら撃つ側。メイリンとは武術の方が主になる。

 伊吹については、言うまでも無し。半ば以上、単なる殺し合いだった。あいつの気も済んだらしいし、もうやらん。絶対にやらん。

 紫や諏訪子となら、と思ったが、彼女らには立場があるからなぁ。余り軽々しく遊べはせんか。

 白黒の……名前何だったか……相手には、対人間用のしか使っていないので、実質、まともにスペルカードを使うのは、未体験。

 

 そう考えると、益々興が乗る。

 面白い。

 

 強度は充分。厄への耐性も上々。

 多少無茶をしても死にはしない相手。

 神社を壊し霊夢を挑発することで、わざわざ『異変』として退治されたらしいので、弾幕ごっこを拒みはせんだろう。

 

 作りはしたものの、陽の目を見ないままだった、私のスペルカード達。

 それがついに! とうとう! やっと!

 うむ! こういう時、人間は「テンション上がってきた」と言うんだったか!

 

 

「……ぐ、ぅぅぅぅ……耐えきって、やった、わよ……!

 って……へ? えぇ? なに、それ?」

 

 私が選んだスペルカードは、5枚。

 

「耐久力は見事。

 では、次は回避力を見せてもらおうか」

 

 思わず、笑みが溢れる。

 命を賭けずに『遊ぶ』ことができるとは、まったく、良い時代に成ったものだ。

 

「拒むのであれば、追いはせんが?」

「安い挑発ね! 乗ってあげましょう!」

 本当に面白いな、この娘。

 

「まずは1枚目」

 

 それでは、楽しもう。

 

 

 

 

    兎符『兎の鮫肌剥ぎ』

 

 

 

 

 

 宣言と共に、海を模した青色の弾幕が波打ちながら広がる。

 間隔は広めに取ってあるので、当たりはしないはず。これで落ちられても興醒めだ。

 続いて、人間大の魚影、鮫の形をした弾が、私から相手に向けて、ポツポツと順番に現れる。

 進行方向は敵の前方。そこまで到達すれば次は敵の右側、後方、左側へ進路を変える様に設定してある。

 

「こんな低速で誘導弾……?

 じゃないわね。囲むつもりか!」

「ご明察だ。そして、ここからが、私版の『因幡の素兎』だよ」

 

 私自身から飛び出した、黒い兎型の弾。

 それが、まさしく神話の様に、和邇(ワニ)の上を跳び移る。

 無論、ただ渡って行くだけではない。

 

 これは、白では無く、黒い兎なのだから。

 

「鮫が次々に真っ赤に弾けて……!? 飛び散った弾幕が血飛沫みたいに……。

 うわ!? これって皮を剥いでるってこと!? えぐっ!!」

「理解が早いな。作った側としては嬉しくなるよ」

「貴女、鮫に何の恨みが……あ、素兎の妹なんだっけ? そりゃ恨むわ」

「良く知っているな。正解だ。もし時間が戻せるのなら、あいつら一匹残らず『素和邇』にしてやる」

「発想が怖いし鮫が囲んでくるのと赤と青の小玉で避けづらいし段々兎が近付いてくるし!

 怖いわ! 何これ滅茶苦茶怖い! こっち来るな!」

 

 一面の青色に、皮を剥がれ赤に染まった鮫と飛び散る赤い弾幕。そしてピョンピョンと跳ねる黒い兎。

 実戦で使うのは初めてだが、我ながら『美しさ』という理念に沿った弾幕ではなかろうか、と自画自賛。

 皮を剥がれた鮫が悶える動きも、なかなか上手く出来た。満足だ。

 

 まあ、厄の塊である以上、使える相手は限られるが。

 殺傷力は落としているものの、並の人間だと、当たれば死ぬほど不運になる。

 

「だから怖いっての! 恨みつらみベタ塗りじゃないの!」

「スペルカードには性格が出るらしいからな」

「それで良いの貴女!? ちっ! 1枚目から、回避に集中させられて反撃もできないなんて!」

 

 文句を言いつつ、弾幕を見事に掻い潜り、最初のスペルを攻略する天人。

 ……そう言えば名前を聞いていなかったな。後で良いか。

 

「さあ、2枚目と行こうか」

「休む暇無し!?」

 

 いやぁ、たまには攻める側に立つのも楽しいな。

 毎度毎度、殺意全開の連中から、しつこく追われるばかりだからな! 本当に毎度毎度!

 

 

 

 

 2枚目、厄符『リベンジ・ブラック・ラビット』

 

 3枚目、禍符『八百兎夜行』

 

 4枚目、天変『七十六年周期の接近遭遇』

 

 5枚目、禍福『糾(アザナ)える塞翁が馬の縄』

 

 6枚目、災禍『因幡の厄災の黒兎』

 

 

「……5枚……って……言った……のに……」

「5枚目を終えた時点で、勝負は貴女の勝ちだと言ったろう?

 取って置きも見るか、と聞いたら、かかって来い! と答えたじゃないか」

「あんなフリされたら仕方無いでしょうが!」

 何やら不服らしく叫んでいるが、いやはや……あー、楽しかった。

 

「さて、酒呑んで寝よう」

「待ちなさい」

 気分良く遊んだし、もう満足したのだが、待ったがかかった。

「5枚クリアで私が勝っていても、6枚目で当てられたんだから、まだ1勝1敗、決着が付いていません!」

「……要するに、次は自分がスペルカードを使う番だ、と?」

「当然よ!」

 当然らしい。

 

 それにしても回復が早い。流石は天人。

 いや、もしや、虐められるほど元気になるのか? どんな生態だ。変態か。

 

 

 …………断っても食らい付いてきて、面倒事になるな、間違いなく。

 

「仕方が無い……手早く済ませよう」

「その次は、さっきの6枚目、もう一度使いなさい! 今度は攻略してあげましょう!」

 手早く済ませようと言っとるだろうが話を聞け。

 

 

 これ、既に面倒事になっている気がする。

 

 そんな私の予感は、実に喜ばしくないことに、大正解だった。

 

 




黒兎による天子ちゃんドM認定
ノリノリで攻めまくるドS(酒好き)幼女
天人と妖怪兎の遊びの付き合い(not意味深)

以上、本文を三行でまとめてみた結果


各スペカの内容は……いつか設定資料まとめでも書きます
他キャラ視点で書くのもありかな?キャーイクサーン






そしてオマケ(千文字超え)の時間です!



どの台詞が誰の娘か、初見で全て分かった方には、黒兎握手会チケットプレゼント(生存の保障無し&実施日時未定)


【とぉほぉ・くりょぅしゃぎ:第1話】

 悪神、厄災の黒兎の座は、如何なるものか。
 この世全ての不運を束ねし神。
 あらゆる不運を産み落とす悪神。
 子供達もまた、各々が『不運を司る』と呼べる存在ばかり。
 穢れの坩堝。悪神が集う魔境。神々が畏れ忌避する場所。

 そこはーー

「あー、今日も酒が美味い」
「そうですね、母様」
「御母様と雛のリラックスした姿を肴にすると、更に美味しく感じますわね」
「母上様、お代わり下さいな」
「あれ? あたしの酒どこ行った?」
「私が飲んだ!」
「せめて言い訳しろや!?」
「鬼は嘘を吐かん!」
「鬼なのは半分だけだろうが!」
「お前もそうだろうが!」
「「やんのかこら!」」
「ちょ!? ストップ! ストーップ!」
「楽しそうね? 混ぜてもらおうかしら?」
「確実に私が巻き込まれるんでやめてくれません!?」
「あははははは! よーっし! いっくよー!」
「行かなくて良いです!」
「あらあらまあまあ。わたくしを差し置いて争いなんて……」
「貴女は大人しくお酒を飲んでて下さい冗談抜きで!」
「賑やかすぎて喧しいわね……みんな妬み合って不運になれば良い」
「こっそり能力使わないでくれませんかねぇ!?」
「ついでに何人か減れば御の字ですわね。特にあの外道悪神」
「不穏な台詞やめて! あとその引き出した厄しまって!」

「……あー、酒が美味い」
「かーさまー、わたしもおさけのみたーい」
「外見は幼いけど……飲酒して大丈夫なのかしら?」
「見た目の年齢で駄目なら、私も飲めなくなる。よって問題無し」
「まったりしてるとこ悪ぃーんだけどよー、おかーさま。
 姉貴達止めねーと、あのままじゃ、座が丸ごと吹っ飛んじまうぞ?」
「仕方無いな……。おーい、お前らー、暴れるなら外でやれー」
「「「「「はーい」」」」」

 割りと平和である。
 座の付近で、神話レベルの大戦が頻発すること以外、平和である。

「ああ、そうだ。あいつらがやり過ぎないように見ておいてくれ」
「何で俺!?」
「いざとなれば止められる能力があって、釣られて暴れる可能性が低い」
「……その能力、俺の致命傷が前提なんだが……」
「私の手には負えません……。後は任せましたよ……マユたん……」
「マユたんって呼ぶんじゃねぇよ! ウサミミカラス姉貴! キャラ盛りすぎて意味不明になってんだよ!」
「な!? 何てこと言うんですかこの全身刺青! 常に模様が変わる謎仕様! 立ち絵には反映されない死に設定!」
「立ち絵だの設定だの、何の話をしてんだあんた!?」
「もう良いから、お前ら一緒に行ってこい」
「何で私まで!?」
「ざまあ!」

 平和の裏で、苦労する者達も居るのは、世の常である。

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