トウホウ・クロウサギ   作:ダラ毛虫

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お待たせしました m(__)m

前話の前後辺り、黒兎視点です




第地話

「お前といい伊吹といい……頑丈過ぎるだろう」

「そりゃ鬼だからねえ」

 カカカッと笑い、杯を空ける星熊。

「くぅぅぅ! 傷に沁みるぅ!」

「それでも呑むとか阿呆かお前は」

「何百年振りかのあんたの酒さ! 呑まずにいられるか!」

 干した杯に手酌で酒を注ぎ、また笑う。

 笑った拍子に、塞がりかけの傷から血が滲むが、気にする様子も無く、楽し気に笑う。

 両手両足と顔面潰して胴体に幾つも風穴空けたはずなんだがなぁ……。

 うん。むしろなんで生きているんだお前。やったの私だけど。

「いやまったく! 情け容赦無くやってくれたねえ!」

「加減したら私が死ぬ。お前に殺される」

「もっともだ! もしも加減なんざしやがったら、ぶっ殺すさ!」

「だろうな」

 星熊だけに呑ませてばかりなのも何だし、私も呑む。

 他の鬼共も、動ける奴らはどんちゃん騒ぎだ。

「…………減ったな」

「ああ。随分と減ったよ」

 馬鹿騒ぎで、大騒ぎだが、昔に比べると、明らかに鬼の数が少なくなった。

「地底に籠る前に、強敵に喧嘩吹っ掛けて逝った奴も居た。

 地底で、鬼同士で喧嘩して逝った奴も居た。

 私に挑んで逝った奴も居た」

 そして今日、私とやり合って、私が殺した奴も、大勢居る。

「コクト」

 そんなことは、私も星熊も、分かっている。

「鬼(わたしら)に付き合ってくれて、ありがとうよ」

 とっくに、最初から、分かりきっている。

「別に、『いつも通り』の、馬鹿騒ぎだ」

 だから全て、杯に注ぎ、飲み干した。

 私も鬼も、どいつもこいつも、暴れて呑んで、笑った。

 次に会う時も、きっと、暴れて殺して死んで、呑んで笑うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生まれ落ちて百数十万年という、訳が分からんほど永くを生きた、この世界。前世の知識とやらによれば、『物語』について、考える。

 既に歳月で摩り切れ消えかけた知識ではあるが、時折覚える既視感や、少なくとも姉、『因幡てゐ』や、娘、『鍵山雛』を知っていたことから、おそらく妄想の類ではないだろう。

 

 そして、その『物語』には、私、『因幡コクト』が存在していなかったことも、確かだ。

 

 では、私とは、前世とは、知識とは、この世界とは、何なのだろうか。

 

 考えても答は無い。

 そんなこと、分かりきっている。

 生まれて百年も経たない内に、「まあ、どうでも良いか」と結論して、遥か未来の、『物語』が始まる時代、多分現在まで、覚え続けておく努力を放棄したくらいだ。

 この思考に意味は無い。

 価値も無い。

 ならば、何故こんなことをつらつらと考えているのかと言うと。

 

「………………暇だ」

 

 暇過ぎて他にやることが無いからである。

 

 

 

 一応、仕事中ではある。

 散歩中に現場に出会した為に成り行きで始めたことだが、その後、紫からも継続するよう頼まれてしまった。

 何やら『選択肢次第で死ぬ可能性』を察知して興味本意で首を突っ込み、見事に、間欠泉が湧く瞬間に立ち会った結果だ。

 とは言え、『死なない道筋』がある程度は見えているので、そう騒ぐことでもないのだが。

 

 

 思考を弄びながらも、間欠泉から噴き出す怨霊を、妖力で絡め取り自我を塗り潰し、不運の幽霊、即ち厄として掌握する。

 

 怨霊と厄を同じものとして扱うのは、色々と異論があるだろうが、率直に言って、ある程度の能力になれば、「自分ができると判断したらできる」のだ。

 身も蓋もない話だが、実際そんなもんである。

 大体、その手の話題なら、紫が一番訳が分からん。境界を操るって何だ。

 

 

 そんなことはともかく、とりあえず現在、私は次から次へと湧いてくる怨霊を逃さず捕らえ、厄に分解し収束している。

 

 言葉にすると大仕事だが、私がやっていることと言えば、普段は身体の周囲に循環させて纏っている厄を、適当に間欠泉を覆う様に広げて、厄に妖力を混ぜているだけだ。

 後は、妖力に耐えきれなかった怨霊が、勝手に厄として巻き込まれていく。

 吸引力の変わらない唯一つの黒兎、なんて、何か良く分からん文が脳裏を過った。前世関連だろうか。どうでも良いが。

 

 結局、私にとっては、いつもと少し違うことをしているだけなので、特に集中する必要も無い作業。

 厄の量は阿呆の様に多いが、制御出来ないこともない。

 砲撃として放てば、何処に向けても大惨事になること請け合いだが。上空から拡散して四方八方に撒けば、幻想郷の九割強が死滅する。やらんけど。

 

 兎に角、束ねて制御する分には、全く問題は無い。

 そうなると、この場から離れることもできない以上、脳味噌が暇を持て余す。

 つまり、暇なのだ。

 

 紫から報酬として貰った外の世界の酒も美味いが、一杯飲めば酒造方法は理解できた。

 人間も進歩したなあ、とは思うものの、こと酒に関してであれば、まだまだ私には及ぶまい。思いもよらない技法に驚かされることはあるが、真似できなかった試しは無い。

 味を楽しむ分には、飽きは全く来ないのだが、思考を全て費やすほどでもない。美味いけど。

 ちなみに、紫曰く高級車とやらが買える値段らしい。何か高そうだな。とりあえず美味。

 

 

 

 

「……と、酒だけ呑んで楽に終いなら、良かったのだがなあ」

 そうもいかんか。それもそうか。

 最初から、『死ぬ可能性』があることは、分かっていた。

 分かった上で、ここに来た。

 ここに来て、こうしたら、地底に潜ったあいつらが上がってくると、分かっていた。

 

「こんな所でやり合う訳にもいかんが、な。周囲が更地では済まん。

 怨霊も尽きたことだし、そろそろ都合の良い場所に動きたいのだが?」

「用意しろ、ってことかしら?」

「世話になる」

「はあ……どういたしまして」

 どうせ居るだろうと声をかければ、案の定、紫から返事が寄越される。

 必要な時に必要な場所に。相変わらず、間を外さん奴である。

 

「相手は星熊と……あとは鬼が……沢山だな。地上に来るぞ」

「貴女の妖気に惹かれてね」

「それを言われると……まあ、許せ」

「はいはい。貸しておいてあげる」

 いやはや全く、頼れる賢者様である。

 今の私だと、纏う厄が多すぎるせいで、思いきり相手を殴るだけで地形が変わりかねん。

 

「ちなみに、厄砲を撃っても大丈夫な空間とかはーー」

「無いわ。厄弾も禁止」

 残念。

 

 

 

 

 

 相手は星熊、その後には鬼の集団と連戦。

 戦場は紫が用意した、結界に覆われた隔離区域。

 そして戦闘は肉弾戦限定。

 

 

「よう。お招きに預かり、参上したよ、コクト」

「地底から遥々、御足労だな、星熊」

 

 なかなかに、疲れる条件である。

 

「なあに、そんな、地底からでも分かる妖気を放たれちゃ、気合いも入るってもんさ」

 

 これから、この腕力馬鹿と殴り合いとくると、余計に疲れる。

 

「……まったく」

 

 だが、まあ。

 

「まるで変わらんな、お前は」

 

 悪くない。

 悪くは、ないな。

 

 

 

 

 知らず、歯を剥き出しに笑い、怨霊を束ねた厄を四肢に凝縮していた。

 

「この厄を消費し尽くさなければ、家にも帰れんからな。

 付き合ってもらうが、できれば死ぬなよ? 星熊」

「おいおい……誰にもの言ってんだい? コクト」

 

 どう転んでも、私は死なない。

 どう足掻いても、星熊は私を殺せない。

 

 

「手ぇ抜きやがったら、ぶっ殺す」

「上等だ。たかが兎ごときに狩られるなよ、鬼」

 

 

 私が仕損じるか、或いは、星熊が因果を曲げでもしない限り、結果は見えている。

 

 だが、しかし。

 それはそれとして、ああやはり、この瞬間は、熱に浮かされる。

 

 

 

 さあて、久方ぶりの、馬鹿騒ぎと行こう。

 

 




ゆかりんさとりん「「地上と地底の取り決めとは……」」
鬼軍団『『『妖気全開コクトとの喧嘩優先』』』



これにて第2部完!

バトルシーンの黒兎視点も入れようかと思いましたが、モチベが来ない! カット!


なお、予約投下1分ずらしで、最終話(仮)投下しています

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