トウホウ・クロウサギ   作:ダラ毛虫

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Q. なんで完結から1週間も待たずに書いてんの?
A. 湧いたから


突発な分、短いです

各場面の時期は、読者の皆様のご想像にお任せします(怠




第闇話

「あれ? コクトは食べないの?」

「体質的に肉は合わないと何度言わせれば……ああ、いや……」

 途中で言葉を切った私を、金髪に大きなリボンを結わえた少女は、不思議そうに見つめる。

「お前に対して言うのは、初めてだったか」

「んー?」

 余計に分からなくなったのか、こてんと首を傾げる少女。

 口元と両手が鮮血に塗れていることに目を瞑れば、無邪気な仕草。

 元より、彼女に邪気は無いのだろうが。存在が邪(ヨコシマ)であったとしても。

「……肉は良いとして、酒はどうだ?」

「うん! おいしー!

 ちょっと辛いけど、お肉にあうー」

「そうか。それは何よりだ」

 水割りの具合も、勘任せでやったが、丁度良かったらしい。

 昔のこいつであれば、薄めずに肉と一緒に流し込む様な呑み方をしていたものだが。

 それでもやはり、気に入るのは当時と同じ種類の酒。

「姿が変わり、味覚が変わり、記憶も力も無くとも、好みは早々変わらん、か」

「なんのはなし?」

 きょとんとした、嘗てとは似ても似つかぬ、あどけない表情。

「なあに。生きているのは面白い、というだけの話さ」

 今の姿を写真に収めて、いつかこいつが元に戻る時が来たら見せてやるのも、愉快だろうか。

「そーなのかー」

 嘗ての友の、今と過去と、いつかの未来を肴に、酒を呑む。

 ああ全く、生きるのは、面白い。

 

 

 

 

 

 

 

 遠い遠い昔の話。

 神と妖怪の大戦よりも前のこと。

 

「ねえ。ソレ、食べないの?」

 

 一帯を支配していた大物を、少ない消耗で仕留めた後は、暫く余裕ができる。

 時間を置けば次の支配者の座を巡り、縄張り争いが始まるものの、前任者を殺した相手へ即座に喧嘩を売る奴は、そう居ない。

 そんな気概のある奴は、既に支配者に挑んで死んでいるからだ。

 

 

 加えて、危機察知に反応も無し、ということで、下級龍神の死体を椅子に酒盛りをしていたら、そいつはふらりと現れた。

 

 

 

 飢餓。

 

 

 

 第一印象は、その一言に尽きる。

 飢えて餓えて、渇いて枯れて焦がれて願い望む底無しの黒色。

 呑み込み飲み干し喰らい尽くす宵の闇。

 

 方向性は異なるが、私の生存欲求に似た有り様。

 

 その一点以外は同じ部分の方が少なくて、同族嫌悪を抱かない、程好く共感できる一線。

 同じ様に互いが感じたことを、恐らく同時に直感した。

 

「食いたければ食え。肉は好かん。

 この蛇も、そこらに群れる獣にでもくれてやるつもりだった」

「勿体無いなぁ。お肉の美味しさを知らないなんて、大損じゃない?」

「その分、酒で補うさ」

「なら私は、お肉もお酒も楽しみたいなぁ」

「……飲み干すなよ」

「どうかしら?」

 

 ころころと笑うそいつに酒を渡すと、先ずは大口を開けて龍の死体を一噛み、呑み込みながら杯を干す。

 

「うん。美味しい。幾らでも食べられるし呑めるわね」

「比喩抜きで『幾らでも』行けそうだな」

「試してみるかしら?」

「御断りだ。牛飲馬食なら河でやれ」

「つれないなぁ。別に、お酒を出してくれない兎さんを食べても良いのよ?」

「返り討ちか腹を下すかの二択で良ければ、かかってこい」

「あははははは」

「…………ふん」

 杯を交わし、言葉を交わし、殺意を交わす。

 思えば、あの頃は色々と、若かった。何十万才の頃か忘れたが。百万超えていたかも知れん。

 

 

「次は、もっと強いお酒が良いなぁ。

 大神の血肉にも負けないくらい、強ぉいお酒」

「肴は自前で狩って来いよ」

「えぇぇぇ……先に食べ切っちゃう……」

「知らん」

 

 

 

 これも、気が置けない、と言って良いのだろうか。

 気遣いも気配りも互いに無用で、遠慮も配慮もまるで無い。

 

 それがどうにも、居心地が良かった。

 

 

 どちらかがその気になったら殺し合っていただろう。

 どちらかが死ねば、それっきりだったろう。

 

 それで良し。

 それ以外に無し。

 

 それが、私とあいつ、宵闇と呼ばれる妖怪の、関係だった。

 

 

 時機が合えば、共に酒を呑む。

 敵が重なれば、狩りを競う。

 戯れ混じりに、流れ弾を狙い合う。

 裏も表も無く、その場その場のその時々で、互いが互いに好きにやる。

 

 

 共感すれど共有はせず、共生せず、共存せず。

 

 

 

 

 

 

 そうして過ごした時代から、永い永い年月が過ぎ。

 変わり果てたあいつは、その実、大して変わってもいなかった。

 

 

 あいつは肉を食い、酒を呑み、そして私も酒を呑む。

 

 

 日々変化し、得て失い、進化し退化し、それでも尚も、変わらない。

 

 

 

 何度目かの乾杯をし、杯を干し、私もルーミアも、笑った。

 

 




なんやこいつらの関係←作者

ちなみに、厄の闇を操る程度の能力を持った娘さんが産まれる可能性世界は、ありません
てかこれ以上増えるな魔王(懇願



冒頭シーンで、写真撮影係に呼ばれて胃を痛める文ちゃんが浮かんだ方は、あややを泣かせ隊に任命します

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