トウホウ・クロウサギ   作:ダラ毛虫

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(筆者も忘れかけていた)前回のあらすじ

バーサーカーとして喚ばれて蟲爺を同族嫌悪で悪即斬
桜ちゃん絶対守るマンに雁夜おじさんが進化



倉庫街でのやらかしについては、アキノカミ姉の後書き参照

あと、ケイネスは死ぬ(ネタバレ



フェイト・クロウサギ:第4次聖杯戦争編②

 

 酷く興醒めな話をしてしまえば、この『聖杯戦争』という遊戯において、私に敗北は無い。

 

 理由は単純。

 負ければ『死ぬ』からだ。

 

 他の模造品(サーヴァント)に倒されれば当然、契約者を狩られても、令呪で自害させられても、負ければ死ぬ。

 例えば、霊基を別の場所で保管し、『一時的に肉体を失っても再構築できる』環境であれば、私の危機察知も鈍っただろう。

 だが、この場において、敗北は即ち死。

 死に至る道筋は常に分かっているのだから、袋小路で行き詰まらないよう進めば、自ずと受肉へ至ることができる。

 

 私を仕留めたいのなら、因果の固定か反転でもしなければならないだろう。

 そんな能力が行使されることを察知した瞬間に、全力を以て潰させてもらうが。

 

 

 まあ、私は死なないものの、今の契約者が狩られた後、消滅する前に他の魔術師と契約する可能性も存在しているが、それはそれとして。

 わざと死なせるほど疎んじてはいないが、別にわざわざ守るほどでも無い。

 私の生存が保障される範囲では協力しても良い、程度か。

 桜とやらを守ると決意してからは、それなりに良い目をするようになったので、契約者であることも含めて、他の人間より優先度は高い。

 裏切らない限り、彼を主として聖杯を目指すとしよう。

 

 

「こんなところにいたのか、バーサーカー」

 

 つらつらと思考を弄びつつ、月見酒に興じていたところに、契約者が顔を覗かせる。

 ほぼ半身不随だった身で、よく屋根の上まで登ってきたものだ。

 身体を文字通り蝕んでいた蟲が消え、私の酒をしばしば飲ませているから、多少は回復してきたか。

 

「何をして……ああ、酒盛りか……。

 見た目は桜ちゃんと大して変わらない年なのに、好きだなお前も」

 当然。

 人の形を取れるようになって以来、私が酒造りと酒呑みを欠かしたことは無い。

 花鳥風月、春夏秋冬、喜怒哀楽に森羅万象、全ては肴。

 だから生きるのは面白い。

 

 とは言え、今宵については、月見のためだけに屋根の上に居る訳では無いが。

 

「……ん」

「何だ? 家の……まわ、り……?」

 くいと顎で示してやれば、意図を察した青年が周囲を見渡す。

 

 今は亡き、私が仕留めた蟲爺が基盤を築き、私が引き継いで張り直した結界。

 それに群がる、無数の魑魅魍魎。

 

 一心不乱に結界へ突撃し続けるそれらを、妖気で絡めとり、魔力に解いて喰らい尽くす。

 契約者の魔力が乏しい分、些か腹が減ったのだ。お前ら残らず私の肴になれ。

 

「桜ちゃんに惹き付けられた怪異、か。見張りをしていてくれたんだな。ありがとう、バーサーカー」

 何か誤解したみたいだが、まあ良いか。不都合もあるまい。

 

 

 ところで、不自由な身体に鞭打って私を探しに来た以上、雑談をしに来ただけでも無いだろう。

 用事は何だ、という気持ちを込めて契約者を見詰める。

 微塵も表情は動かないし、目が死んでいるけどな、私は。

 

「あ、ああ、そうだ。

 少し良いか? バーサーカー」

 通じた。やるなこの男。

「倉庫街で、サーヴァント同士の戦闘が始まった。

 様子を見て、状況によっては仕掛けたい。手を貸してくれ」

 ふむ。

 成る程。私としては、行こうが行くまいが『死の可能性』に大きな差は無いのでどうでも良いが、彼にも『(サーヴァント)を受肉させて桜を守らせる』という目的がある。

 聖杯の獲得に向けて動くのは当たり前か。

 

 首肯を返し、杯に残る酒を飲み干して、屋根から庭へ飛び降りる。

 

 

 さて、競い合う相手方との初顔合わせの初陣だ。

 

 狂化のお陰で喋ることも出来ない我が身だが、挨拶に赴くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 複数の英霊に厄を撒き散らして喰う魔力が凄く美味しかった。

 他所の契約者や、あと何か剣士(セイバー)の後ろに居た人擬き(ホムンクルス)からも魔力を頂き、私は大変満足である。

 

 …………うむ。酔っているな、私。

 

 酒には強いのだが、『大量の上質な魔力を喰らう』という初めての経験に、少々浮かれているらしい。

 

「上機嫌だな、バーサーカー」

 おや? 分かるか契約者。

 未体験の美酒や美味は、生の喜びだ。楽しまなければ損というもの。

「時臣のサーヴァントも随分と苛ついていたな。いい様だ」

 そう言って、ふん、と鼻を鳴らす契約者。

 時臣……確か、召喚初日に聞いた気がしないことも無くは無いような……忘れた。どうでも良い。

「そんな顔をしなくても、別にもう、あいつを殺すことに拘りはしないさ。

 必要なら迷わずに殺すが、そんなことよりも、聖杯を取って桜ちゃんを守る方が大切だ」

 私の訝しげな様子を勘違いしたのか、契約者が何か言っている。

 

 特に問題も無いから良いか。

 

 

「それで……お前が即座に撤退したってことは、そんなに危険なのか、時臣のサーヴァントは」

 誰だ時臣。

 話の流れから、あの金色男が『時臣のサーヴァント』だろうか、多分。

 先程の面々の中でも、一際危機察知に反応したからな、あいつ。

 空間ごと引き裂く神剣とは、物騒な代物を引っ提げて来たものだ。

 鎧のせいか元の幸運が強すぎるのか、『不運』の効きも悪いし、やり合うなら相応に準備しておきたい。

 

 他の英雄共も、正面から殴り合いをしたら大体『生きるか死ぬか』半々だがな。

 霊基は劣化、魔力の容量も小さい、加えて理性は狂化と、酷い有り様だ。

 

 色々と思考したところで、意思疏通の手段が無く、「危険なのか」と聞かれたことに頷く程度しか出来ないのが殊更不便。

 具体的にどう危険なのかも、先程の場に居た者で私を殺せる可能性がある連中が何人かも、伝える(すべ)は無い。

 契約者の精神が私との念話に耐えられるくらい強靭なら別だが、二百万年積もりに積もった狂気(ネガイ)は、毒に過ぎる。

 

 筆談なら、と思ったが、狂化のせいでこれも駄目。

 

 決して、最後に文字を書いたのが思い出せないくらい昔過ぎて、まともに読める字が書けない訳では無い。

 無いのだ。

 全部狂化が悪い。

 狂戦士という『枠』に当て嵌められ現界しているせいで解除も出来ない、洒落にならない欠点だ。

 何もかんも狂化のせいだ。

 

 

「……何か、妙なこと考えてないか? 言い訳というか、何というか……」

 言い訳では無い。厳然たるまごうことなき事実だ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「舞弥、状況は」

『足場が崩れたため、監視を中断しています』

 なるほど、こちらと同じか、と男は思考する。

『もう一度登り、再開しますか?』

「いや、その必要は無い」

 黒髪に兎の耳飾りを着けた少女……紅い瞳から、おそらくバーサーカー。

 彼女から黒い霧のような魔力が溢れた直後、上空に逃れたライダー達を除き、全員が転倒した。

 

 セイバー、ランサー、アーチャー、アサシン。

 唯の人間に過ぎない魔術師達だけならまだしも、歴戦の英霊であるはずの彼らが、戦闘中に、それも複数が同時に、転倒するなど有り得ない。

 更に、突然足場を失い、咄嗟に体内時間を加速した男の両目は、アーチャーの放った五十を超える宝具の弾雨が、互いにぶつかり合い、制御を外れ、見当違いな方向へ飛び散って行く様も見届けていた。

 

 まさか、これらが全て、単なる偶然のはずがない。

 間違いなく、宝具、あるいはそこから派生したスキルによる効果だろう。

 

 そして、マスターとして与えられた能力で見抜いた、バーサーカーのステータス。

 狂化ランクが低いのか、筋力と耐久は低い。

 A++の敏捷や評価規格外の魔力は注意すべき性能だが、それも今は置く。

 問題は『幸運 ー』、即ち、幸運というステータスが存在しないことだ。

 

「……バーサーカーの能力は、おそらく『幸運の操作』だ。

 発動の瞬間以降、歩くだけで転倒するようなことはないが、迂闊な行動はするな。

 車両の運転も禁止する。

 アイリスフィールと合流し、深山町の拠点で待機しろ」

 

 部下からの了解を聞くと同時に、男は通信を終え、バーサーカーについて更に考察する。

 

 接近戦を行う場合、強制的に隙を作られるあの能力は脅威だが、遠距離からセイバーの宝具を使えば打倒は可能だ。

 周囲の被害を抑えるために状況を整える必要はあるが、種が割れている以上、対処不可能な相手ではない。

 

 

 ならば何故、その初見殺しを、この序盤で使ってきた。

 

 転倒し隙だらけだったにも関わらず、追撃せず退いたことから、何らかの意図があるはずだ。

 

 思考しつつ、自身の状態を確認すると、先程から感じてはいたが、魔力が減少している。

 セイバーへの魔力供給が増していることから、彼女も魔力が減っているらしい。

 戦闘不能になる量ではないが、あの時に影響を受けた全員の分を合わせれば、かなりの魔力だろう。

 

 

 つまり、理由は、少なくとも理由の一つは、魔力の補給か。

 

 

 どうやら、バーサーカーのマスターは、魔力に乏しいらしい。

 無差別な魂喰いを行うほど、切羽詰まっている訳ではないようだが。

 もしくは、マスターが供給できる以上の魔力を使い、何かをしようとしているのか。

 

 これについては、現状、情報が不足している。

 

 セイバーの対魔力を貫き、広範囲のサーヴァントとマスターに影響を及ぼす能力が、多数ある手札の1枚に過ぎないとは思いたくないが、更に奥の手があると想定し、バーサーカーについては保留する。

 

 

 

 男は考える。

 

 この戦争を勝つために。

 聖杯を勝ち取るために。

 世界平和を実現するために。

 愛娘が、次の聖杯戦争に参加する必要をなくすために。

 

 ひたすらに、ひた向きに、男は思考する。

 

 

 

「まずは、セイバーの宝具を使える状態にすることが先決だ」

 左手を封じた、ランサーを落とす。

 

 今の彼は、幸運が下がっているだろうが、関係ない。

 準備し、論理を固め、運が絡む要素を排除する。

 

 

 運任せ(サイコロ)は不要。

 

 技術によって、計算通りにホテルを爆破した男は、交渉失敗(不運)修羅場(不運)ディスコミュニケーション(不運)慢心(不運)油断(不運)により、ランサーを遠ざけ、まさか工房を無視されると思わず礼装を手離していた魔術師を仕留めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 或いは、ここで婚約者共々死ねたことは、魔術師にとっては、『不幸中の幸い』だったのかもしれない。

 





なんでこいつバーサーカーのくせに自力で魔力補給してんだろ?←今更感


そしてケリィ、そのウサミミ幼女、不意討ちしようとしても致死攻撃は未来予知レベルで回避するんだ、すまんな

余談ですが、FGO版黒兎の危機察知は、『負けても死なない』ために超絶弱体化しています




ケイネス先生救ってやれよ、というご意見あるかもですが、アポクリ世界線でも雑に死んでいる彼を救済するには、主人公のやる気が足りませんでした

黒兎「自ら戦場に赴き決闘気分で婚約者を連れてきた挙げ句、従者に婚約者を寝取られそうで修羅場な矜持が高い学者を生還させろ? 私が危険を冒して?
   嫌に決まっているだろう、面倒極まり無い」

せやな、としか言えねぇ

水銀先生の特に面倒なところは、四次マスターで唯一人ハサン1/80に自力で勝ち目がある程に優秀なところでしょう
決闘ならクソ強いから「死にますよ」と忠告しても聞きゃぁしねぇ

でも殺すだけなら、単独行動している時に、一般人に重機関銃与えて不意討ち乱射させただけで死ぬのよ貴方

何でホテルの最上階なんて死地に陣取って無断改造してドヤってんの双子館借りなさいな空いてるでしょ
魔術協会に譲渡されてんだから講師が調べたら場所分かるだろ下調べしやがれください先生
何? 他家の魔術師が使い捨てた拠点を使うのはプライドが?
サーヴァントでぶん殴って気絶させて令呪剥いでアタッシュケース詰めで強制帰国させるぞアンタ


Zeroイベントの孔明さんはスゲーや (  ̄▽ ̄)



なお、麻婆神父は舞弥にも会えずにさ迷っていました

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