ダンジョンなんだから探求を深めて何が悪い   作:省電力

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過去最高の長さになってしまった……
そして前回との落差が……



怪物祭・幕間

 この日のオラリオは普段よりもとても活気付いていた。道行く人は興奮を抑えきれない様子で、何時もならダンジョンに行く冒険者達も今日に限っては地上にいるようだった。

 今日は一年に一度の催しである怪物祭(モンスターフィリア)の開催日であった。そんな賑わいを他所に『豊穣の女主人』の店先に居たリューは浮かない様子だった。そんなリューに一緒に居たアーニャは呆れたように声を掛けた。

 

「いつまで引き摺ってるニャー。もう気にすんニャよ」

「ですが……あの日からラプラスさんは店に来ていませんし……」

「アイツが店に何日も来ないことなんてしょっちゅうニャ。それよりシルの財布どーするニャ……お!あれは……おーいっ、待つニャそこの白髪頭ー!」

 

 アーニャが一人の少年を見つけ声を掛けた。それから暫くして、東のメインストリートの方角に少年が走って行く。

 

「シルはシルであの兎の事気にしてるっぽいしニャ。しょうがニャい恋愛マスターのミャーが相談に乗ってあげるニャ」

「冗談は語尾だけにしてください。ですが少し元気が出ました」

「あれ……?結構真面目に言ったつもりニャのに……」

 

 波乱の一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 東のメインストリートにある闘技場は怪物祭(モンスターフィリア)開催によりとても混雑し、露店が至る所に並んでいた。その内の一つにラプラスはいた。『Jaguar-MARU出張店』と書かれた出店で彼はジャガ丸くんと並行してある物を作っていた。その隣にはまるで人形のように美しい少女がその金色の瞳で作業を見守っていた。

 

「それ何……?」

「これは『オ・コノーミ』という極東の一部地域で熱狂的に食べられている食べ物だ。ロキがこの前作って食べさせてくれたんだが、今それに近いものを作っている」

「不思議な香り……でも、美味しそう……」

「ジャガ丸くんが目の前にあるのに他の食べ物に興味を示すなんて珍しいな、アイズ」

「別にジャガ丸くんばかり食べてるわけじゃないよ」

「そうか?一にダンジョン、二にジャガ丸くんみたいなイメージがあるんだが……」

 

 とても女の子に言うことではない言葉を放ったラプラスをアイズは睨み、頬を膨らませた。それを見たラプラスはコテでオ・コノーミを一口サイズに切ると、アイズに向けた。

 

「悪かった。言いすぎたな。ほら、出来たぞ。口を開けろ」

「あーん……んむ。もぐ……うん。美味しい……」

「そうかそうか!なら良かった!では俺も一口……む?ロキが作ったのとやはり少し違うな」

「そうなの……?」

「ああ、なんかしっくり来ないというか……ムムム、何が原因だ……?」

 

 アイズにオ・コノーミを食べさせそう言うと自分も食べ始めたラプラスを微笑みながら見ていたアイズはラプラスに尋ねた。

 

「楽しそう……だね。ダンジョンに行ってた時みたい」

「まあ、今の生活は実際楽しいぞ。ダンジョンに行かなくてもここは色々な意味で世界一と言ってもいいオラリオだからな。俺の興味は尽きないよ」

 

 そう言って焼いていた残りも全て口に放り込んでしまった。するとアイズが今度は何かを思い出したかのようにして、口を開いた。

 

「そういえば、『豊穣の女主人』の店員さん……リューさん?と何かあったの?」

「ン!ぐむっ!むぐっ!ごほっ!ごほっ!ど、どこで聞いたんだその話!?」

「えと、ティオナが心配そうに……」

 

 急にデリケートな話題を振られ、喉につっかえたラプラスは涙目になりながらも情報源を聞き出したが、漸くして落ち着いて来た彼はティオナと聞いて目の辺りを片手で覆い天を仰ぎ見た。そして一つ溜息を吐くとぽつりぽつりと話し始めた。

 

「はあ……俺も悪い事をしたと思ってる。だが、俺が言ったのはリューに余計な心配を掛けさせないように『アーーイーーズウウウゥゥゥゥゥゥ!!』……ほら、お迎えだぞ」

 

 すると何処かからロキが奇声を発しながらラプラスの出店に猛スピードで直行して来たかと思うとジャンプ一番で鉄板を飛び越え彼に抱きつき、涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになった顔を胸板に押し付けて彼に尋ねた。

 

「ラプラス!!アイズ見てへん!?あの子とはぐれてもーた!!一緒に探しでぐれ″ぇ″ぇ″!!」

「ロキ……お前の体液で俺のエプロンが酷いことになったんだが……それにアイズならここに「アイズウウゥゥゥ!!」……今日は悉く俺の台詞を遮るな。この女神」

 

 ロキにベタベタ触られていたアイズは主神を一瞬で捻ると申し訳なさそうに謝った。

 

「勝手にはぐれてごめんなさい」

「いや、行動と言葉が一致してへんけど可愛いから許す!!」

 

 なるほどこれが神の愛か……と眺めていたラプラスのエプロンでロキは顔を拭くとアイズの手を引こうとしたが、結構強めに叩かれて落ち込んだ様子で店を出た。

 

「ほな、アイズ行くで。デートの続きを楽しもうや」

「じゃあラプラス。もう行くね。忙しかったのにごめんね……」

「いや、いい気分転換だったぞ。よし、これを持っていけ。ジャガ丸くんとオ・コノーミだ。偶には羽を伸ばしてこい。迷子になったら知り合いを探すんだぞ?怪しい奴にはついて行くなよ?」

「うん、気をつけるね。じゃあ、頑張って」

「アイズたんガン無視かいな……ほななーラプラスー……」

 

 落ち込みながらもくっつこうとするロキを躱しながら人混みに紛れていくアイズを見送ると、再びラプラスは作業に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女神のものなら何でもいいというわけにもいかないな……」

 

 女神の体液というその手の界隈で言い値で買えそうなエプロンをきっちり衛生管理する事を忘れずに。

 

 

 

 

 

 

『ーー小さな女神(わたし)を追いかけて?』

 

 最後に去っていく『彼女』は自分ではない怪物にそう言っていた。なぜ自分ではないのか。自分も貴方を追いかけたい。探して、探して、探して。あの鼻腔に残る甘い天にも昇るこの世のものとは思えない圧倒的な『魅了』をもう一度感じたい。気まぐれな女神の残り香は美の女神本人も【未完の英雄(リトル・ルーキー)】も与り知らぬ所でその牙を剥いた。

 

 

 

 

 

 

(お願いだから、避難していてよ……?)

 

 そう願うエイナの耳に悲鳴が聞こえた。

 

『モンスターだ!!』

 

 ラプラスがアイズ達と別れた少し後正面入り口の辺りにいたエイナ達の元にモンスターの集団脱走が伝えられ、アイズ・ヴァレンシュタインがその討伐に向かった。しかしその直後、狙いすましたかのように上級冒険者がいない彼女らの方にモンスターが向かって来ていた。

 

『こっちに向かって来てるぞ!』

『上級冒険者は!?』

『ダメだ!東のメインストリートに行っちまってる!』

 

 突如現れたモンスターに周囲は大混乱だった。それもそうだろう。たとえ一階層にいるゴブリンですら、『神の恩恵』がない一般人からしたら脅威でしかないのだ。そして、都市の中でも実力がある冒険者しか倒せないモンスターに恐怖を感じない人がいないはずがなかった。

 エイナ達のいる闘技場正門付近は大パニックだった。誰もが我先にとモンスターに背中を向ける中、怪物はじっと周りを注意深く探っていた。

 

 

 ーードコダ

 

 ーードコダ

 

 ーードコニイル?

 

 

 スン、と鼻を鳴らしたそれは少し離れた場所から漂うある匂いに気が付いた。

 

 

 ーー見ツケタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!何て事だ……!歴史が覆るかもしれない……!」

 

 モンスター脱走を知らないラプラスは呑気にオ・コノーミとジャガ丸くんを合体させるという離れ業に挑戦しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 アイズが最後のトロールを斬り伏せた頃、小さな英雄もその戦いを終わらせ、自らの主神の為に奔走していた。

 

「それでおばちゃん。あの男の子って、誰や?」

「白い髪の赤っぽい目の男の子だよ!兎っぽいね!ほら、あの子だよ!」

 

 ベルがアイズの隣を駆け抜けていき、人混みに紛れたその少し後絶叫が響いた。

 

『おい!まだモンスターが残っているらしいぞ!』

 

 突然の大声にアイズはすぐにその声の主である青年に詰め寄った。

 

「どこにいるの?」

「わ、アイズ・ヴァレンシュタイン……」

「どこ?」

「あ、ええと、闘技場の正門だ。トロールがまだ一匹残っていたらしい」

「みんなこっちに来ていたから、向こうは上級冒険者がいない……早く行かないと……!」

「あ、いやでも……」

「何や、早よ言い」

 

 いつの間にかアイズの隣に来ていたロキがぶっきらぼうに言い淀んでいる青年に尋ねた。

 

「一人で戦っている奴がいるらしいです……」

「「は?」」

 

 主神と眷属は二人で首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 エイナは目の前の光景に首を傾げていた。

 突然こちらに向かっていたモンスターが方向転換して屋台が並ぶ通りを走って行ったかと思ったら、大きな爆発音の後、走って行ったモンスターが吹っ飛んできた。地面で二度大きく跳ねた後十Mほど地面を滑りそれはようやく止まった。

 眼鏡を一度確認してしまうほど驚いたのはその後だった。

 モンスターが飛んできた方向から目にも見えない速度で影が飛んできたかと思えば、束の間モンスターを地面に抉りこませる程の強烈な蹴りを叩き込んでいた。その影はトロールの脂肪をジャンプ台代わりにして後ろに跳び上がると空中で一回転して着地した。そして銀色に輝く、先が平らになり、持ち手は木でできた武器?を構えて怪物と向き合った。

 どう見てもラプラスだった。しかも肩で息をしており、疲れているというよりも何かを堪えているようだった。

 

「え?え?ラプ君?ラプ君だよね?」

「ああ?エイナか……?話なら後でしてやるからちょっと待ってくれ……今背中が燃え上がるほど俺は怒っている……!」

 

 瞳に炎を灯し、フーフーと息を荒げる彼は、もう既に満身創痍のトロールと見比べてもどっちがモンスターか一瞬わからなくなるほど気が立っていた。

 

「この畜生が……!俺の探求を邪魔したことは万死に値するぞ……魔石になって命で償え……!」

 

 そう言うや否や彼は腕を顔の前でクロスさせてトロールに突っ込んで行った。先程のダメージから幾分か回復したトロールは、直進してくる彼を押し潰そうと二Mを軽く超える巨体から両手を合わせて握り締めた太い腕を上から振り下ろし、彼を叩き潰そうとする。しかし、その太い腕が彼に接触する直前に彼はもう一段階加速し、駆け抜けると急ブレーキをし、腕を地面に叩きつけたトロールと背中合わせとなった。

 自らで上げた砂塵により、トロールの視界が一瞬奪われた隙に彼は持っていた銀の得物でトロールの右横腹を両腕で地面と平行に切り裂いた。殆ど拳程のリーチしかないそれはトロールの腹から鮮血を飛び散らせ、トロールは突然走る痛みに堪らず悲鳴をあげた。

 

『グオオオオオオオォォォ!!!』

 

 痛みの走った方向に右腕を振るい、勢い良く体を向けるが既にそこには忌々しい小さな姿はなく、右側に回転したため必然体重の乗っていた右足。そこに再び激痛が走る。

 

『グアアアオオオオァァァァ!?』

 

 的確に腱を切られ自らの体重を支えきれなくなった右足が膝をつくと、更にボフンという音と共にトロールの視界が白く染まった。煙玉による視界の奪取。そして、来たるは四方八方からの斬撃の嵐。容赦無くも、深すぎず浅すぎずの()()()()()()絶妙な切り加減で加えられる裂傷。腕、脚、背中、頭、と至る所に付けられていく傷に対してトロールに出来るのは少しでも急所を守るために蹲り丸くなることだけであった。

 

『グオオ……オオオ……』

 

 煙が晴れた頃にはトロールは自らの流した血の海に浮かぶ小さな孤島のような有様だった。辛うじて生きてはいるが、その命は最早風前の灯火であり、今なら一般人にも倒せそうなほどだった。

 

「まだ死ぬなよ……たっぷりと痛めつけてから灰にしてやる……」

 

 ニヤァと歪に口を歪めた彼のその表情をエイナは久しぶりに見た。悪人にしか見えない笑みを浮かべた彼を見てエイナは絶句し、若干どころか結構引いた。

 

「ククク……たっぷりと可愛がってやる……!」

 

 仮にも二十階層以降から出現するモンスターに放つ言葉ではなかったが、トロールにはもう戦闘意欲はないようで、震えながら一歩一歩近づいてくるラプラスを恐怖に彩られた目で見ていた。

 

「まずは腕を落とそう。そらいくぞおォォォッッ!……んがっ!?」

 

 思い切り振りかぶってトロールに襲い掛かろうとしていたラプラスは突然変な悲鳴をあげるとその場にうつ伏せで倒れてしまった。そして、次の瞬間トロールの首が弾け飛び、一瞬で灰になると魔石が地面に落ち、金色の少女がトロールがいた場所に立っていた。何が起こったのか誰も理解していなかったが、数瞬後歓声が巻き起こった。

 しかし、周りの歓声に目もくれず、金色の少女は魔石を放っておき、気絶したラプラスを肩に担ぎエイナの方を見て手招きした。それ見たエイナは彼女に近づいた。

 

「ホームに行く?それともギルド?」

「あの……何のことですか?」

「ラプラスにお説教するんでしょ?リヴェリアにも報告するから出来ればホームがいいな」

 

 少し天然が入っている剣姫の言う言葉にエイナはここから忙しくなることを確信した。

 

 

 

 

 

 

 ギルド本部がモンスター脱走の後始末により大忙しな中、エイナは【ロキ・ファミリア】のホーム『黄昏の館』の一部屋にてギルド職員としての職務よりも優先されたO・SHI・GO・TOをしていた。

 

「はい、この度は本当に皆様にご迷惑をおかけしたと……ええ、はい少し頭に血が上ったというか……あの……もう……許して下さいお願いします」

「なあエイナたん……もうええんとちゃうん?こいつウチも見たことないくらいめっちゃ綺麗な土下座かましてるで……」

「ダメですロキ様!この人は本当に金輪際一切やらないと誓うまで反省させないとダメです!」

 

 ぷんぷんと如何にも怒っていますというエイナの目の前には本日盛大に暴れたラプラスが土下座していた。エイナとロキの他にはフィンとリヴェリアそしてアイズが居り、豪華な顔触れの中臆する事無くエイナはラプラスに説教した。

 

「レベルはトロールと戦っても問題は無いな。それに無傷に済んだのだからその辺にしてやればいいだろう、エイナ」

「そうだね。今日はこの辺にしておいてあげようか」

「いや、無傷では無いぞ。俺の今日の稼ぎと出店が……」

 

 リヴェリアとフィンの言葉にラプラスが死んだ目で答える。実はトロールにより彼の店だけ蹂躙され跡形もなくなっていたのだった。しかしエイナはまだまだ言い足りないらしく、更に怒りオーラを出して捲し立てた。

 

「違うんです!ディムナ氏!リヴェリア様!彼は本当に危ないことをしたんです!アイズさん!ラプ君があの時使っていた武器って分かりますか!?」

「そういえば変なので戦ってた……」

「ヘぇ〜どんなん?」

「ラプラスがコテって言ってた」

「は?ハアアアァァァ!?コテってあのコテか?引っくり返す奴!?お前どういうことなん!?」

「いや、手にそれがあったから……」

「んな脳筋みたいなこと言いおって……」

 

 ロキを珍しく呆れさせたラプラスの武器は現場を見ていないリヴェリアとフィンにはよく分からなかったらしく、首を傾げていたが、あのロキが辟易している時点で碌な物ではない事は察していた。

 

「何をいうか。俺のコテはコルブラントに作ってもらった特注品だぞ。『不壊属性(デュランダル)』も付いているし、上質なミスリルを使ったから武器としても調理器具としても申し分ない」

「コルブラントって【ヘファイストス・ファミリア】の団長じゃないか!どうしてそんな物作ってくれたんだい!?」

「頼んだらやってくれたぞ。コルブラントはノリが良いからな」

「そもそも何で逃げなかったの!いくらラプ君がLv.3だからってダンジョンに行っていないんだから戦闘は危険でしょ!」

「奴が俺の探求を邪魔したからな。それよりもアイズのせいで奴の遺品(ませき)を回収できなかったぞ」

「私はもう頭が痛いぞ……」

 

 何とも言えない気まずい空気の中、リヴェリアの嘆きだけが部屋に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

「今日ラプラスが危ない目にあったらしいけどいつも通りね、あんた」

「え?あたし?」

「オメー以外にいるかよ。つーか今日もストーカーしてたのか」

「はあ?ベート何言ってんの?あたしはストーカーじゃないよ!ラプラスに危険がないか見張ってるだけ!」

「アイツには本気で同情するぞ……」

「それよりも何であんた飛び出して行かなかったの?」

「だってラプラスならあれくらい倒せるし、それに傷ついたラプラスも久しぶりに見たいかなって思って……もう!何言わせるの!」

 

((強く生きろ……ラプラス……!!))




今更ですが主人公の魔法は手に四次元ポケットの劣化版があると思って頂ければ幸いです。決して設定が楽だからこうしたんじゃないんだからイイネ?
初めての戦闘描写。だがこの主人公コテしか使っていないんだなコレが。
それにしてもやはりギャグっぽい日常は書きやすいなあ。

感想・批評・質問等お待ちしています。

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