ダンジョンなんだから探求を深めて何が悪い   作:省電力

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男ばっかです



【爆薬師】

 【ロキ・ファミリア】ホームである黄昏の館。その中庭に三人の男達が集まっていた。

 ラプラス、ベート、ラウルの三名である。あの仲良し四人娘達程ではないが一緒にいることの多い三人だが、彼らの間に漂う空気は決して生易しいものでは無く、何時になく緊張したものだった。

 

 

 

 

 

 

 遡ること数十分前、一週間程前倉庫に閉じ込められるという事件があったラプラスはその後必要最低限の事をする時以外は自室に籠もり、ある実験を行っていた。そして、本日久し振りに部屋から出て新鮮な空気を吸っていると、中庭で鍛錬を行なっているベートとラウルを見つけた。朝食を食べ終わったばかりだというのに元気な奴等だと思っていた彼だったが、そんな二人を見て何かを思いついたかのように軽快な足取りで近づいていった。

 

「二人共精が出るな」

「あ?チッ……テメェか……何の用だ?」

「あ、どうもっす、ラプラスさん」

 

 話し掛けたら不機嫌そうにするベートと爽やかに挨拶してくるラウルの対照的な対応を見て、ラプラスは苦笑した。そして『魔法』でフラスコに入った少量の液体を取り出し、二人に見せびらかすように少し中身を揺らした。

 

「ふっふっふ……今日は久しぶりに持って来たぞ……!」

「……行くぞ、ラウル」

「はいっす」

 

 不敵な笑みを浮かべたラプラスを完全に無視して立ち去ろうとする二人。その目の前に一瞬で回り込むと、普段とは違うテンションでラプラスは絡み始めた。

 

「まあまあ落ち着け。今日のは凄いぞ。試してみる価値はある」

「毎度毎度懲りねえ奴だな。もうその手には乗らねーぞ!」

「いっつも変な薬飲ませてくるじゃないっすか!もう懲り懲りっす!」

 

 話すら聞く気配の無い二人に対し、彼は突然眼鏡をかけると二人の肩に手を置いて勝手に話を進めようとした。

 

「それでは本日の試験薬の説明に移ろう。今回は聞いて驚け、惚れ薬だ!」

「おい、勝手に話始めたぞ」

「ほ、惚れ薬!?」

「ラウルてめえ……」

 

 ベートは呆れたようにしていたが、説明に興味が出たような反応を示したラウルに気分を良くしたのかラプラスは更に話し続ける。

 

「三ヶ月かけて作り上げた一作だ。因みに材料はな……」

「あ、そういうのいいんで効果だけ教えてください」

「む、何だせっかちな奴だ。効果か……それはよくわからん」

「「は?」」

 

 聞き流していたベートも一緒に疑問の声を浮かべてしまった。今までは原材料からその効果まで嫌という程聞かせてくるので、そんなラプラスが曖昧な事を言うのは初めての事だった。

 

「珍しいじゃねえか。何でわかんねえんだ?」

「いや、効果自体はまあわかるんだが……むう、簡単に言えば、今回のこの薬はこれしか作れなかったんだ。だから検証実験等は行っていなくてな。何しろ偶然の産物と言っても過言では無いような完成の仕方だったからな……」

「それって大丈夫なんすか……」

「そこは安心しろ。危険なものは一切入れていないからな」

「お前は危険なもの入れなくても危険に出来るだろうが……」

 

 何とも言えない引き攣った笑顔を浮かべるラウルと興味を失ったのか立ち去ろうとするベートにラプラスは畳み掛けた。

 

「それでどうする?因みに俺の予測でいいなら効果は伝えてもいいが……」

「まあ絶対貰わないっすけど……どんな効果なんすか?」

「まず、この薬にはキラーアントの素材が使われている。キラーアントは瀕死になると仲間を呼ぶだろう?」

「そうっすね。それがどうしたって言うんすか?」

「キラーアントは仲間を呼ぶ。まずはそこを抑えたな。次の材料は肉果実(ミルーツ)だ。これはダンジョンだと豪華な食事になるだろう?」

「まあ好みによるっすけど…‥」

肉果実(ミルーツ)の風味というのは人に空腹感を感じさせる効果があるようでな。これが重要な材料の二つ目だ」

「あれ?俺これ一から説明されてないっすか?」

「最後だ。これが大事でな。眠気覚ましの為に唐辛子がふんだんに使われいる」

「はあ……もう良いです……それで結局何が言いたいんすか」

「落ち着け落ち着け。つまりだな、相手の食欲を刺激し、増大させる。睡眠欲は逆に抑制する。更にフェロモンを発生させる事で食欲を性欲に無理矢理変換させる。つまりだ。この薬は飲んだ奴が誰かに惚れてしまうような惚れ薬では無い。オラリオ一のハーレム王となるか、意中の相手をゾッコンにするのかはわからないが、これは飲んだ人間を必ずモテさせる惚れられ薬なのだ!」

 

 ドヤァと言い切ったラプラスにラウルは何時の間にかキラキラと目を輝かせていた。悦に浸っているラプラスを急かしてラウルは尋ねた。

 

「やっぱり貰うっす!それください!」

「おお!俺の研究をとうとう認めてくれるのか!ありがとうラウル!」

「早くくださいっす!」

 

 ラウルが感動しているラプラスを無視してフラスコに手を伸ばす。それを受け取ろうとした瞬間、横から突然腕が伸びてきてラウルの腕を思い切り掴んだ。

 

「……え?ちょっ!?急に何するんすか!?つーかどっか行ったんじゃなかったんすか!?ベートさん!」

「ラウル……こいつの相手は疲れただろ?薬は代わりに俺が飲んでやる。だから感謝してここから立ち去れ」

「そんなこと言って!どうせアイズさんの所に行くんでしょ!?」

「な、な、な、ンな訳ねーだろ!?ふざけた事言ってっと蹴り殺すぞ!」

 

 そんなやりとりを無限に続けていく彼らだった。最初の内は聞いていたラプラスも、途中から飽きて空を見上げたり、『魔法』を使って遊んでいたりしたが、いい加減飽きたのか暫くすると二人に問い掛けた。

 

「それで結局どっちが飲むんだ?」

「「俺(だ)(っす)!!」」

 

 二人が同時にラプラスに襲いかかる。しかしそれをラプラスは軽く往なすと『魔法』でフラスコを隠してしまった。

 

「「あああああぁぁぁぁァァァァ!?」」

 

 その行動に驚愕した二人は更にラプラスに詰め寄り、ぐっと顔を近づけて叫んだ。

 

「何やってんだ!?」

「出してくださいっす!?」

「だったらとっとと決めろ。ロキにでも渡してしまうぞ」

「ウチがどうかしたん?」

 

 するとそこにちょうどロキがやってきた。フィンも一緒にいた為、ファミリアの方針でも話していたのだろうか。二人は言い争っている三人を見つけるとロキは楽しそうに、フィンは呆れたようにやってきた。

 

「何やえらい大きな声出して。ホーム中に聞こえたんとちゃうか?」

「また喧嘩していたのかい?喧嘩するほど仲が良いってのも考えものだね……」

 

 フィンが右手を額に当て、やれやれ……と呟くと、ベートはその言葉に食って掛かった。

 

「おい、フィン。オレは別に此奴らと仲良くはねーぞ」

「ちょうど良かった、ロキ。お前にも俺の研究の成果を見てもらいたかったんだ」

「えー……ラプラスの研究って大体碌でもないもんやん……」

「今回は惚れ薬なんだが……」

「その話詳しく」

 

 最初は嫌々だったロキも惚れ薬という一言でベート達には目もくれずラプラスの薬に食いついた。これで更にロキが加わり、薬争奪戦は三つ巴の戦いとなった。ベートとラウルはロキの参戦を止める事が出来ず、苦い顔をした。フィンは見た目に似合わぬ溜息を吐きまくっている。

 

「また変な物を作って……」

 

 フィンが呆れている中、説明を聞き終えたロキはラプラスを挟んで向かい側に立ち竦んでいたベートとラウルに向けて顔を向けると、不気味な笑みを浮かべた。

 

「何やお前らそんなん欲しーんか?へぇ……第一級冒険者はそんな薬に頼らんとやっていけんほどヘタレなんか?ん?」

 

 ニヤニヤと笑顔のまま二人を煽っていくロキは何としてでも薬を手に入れようと躍起になっていた。しかし、そんな挑発に乗る程、伊達に冒険者を長年やっていない二人はロキに反撃した。

 

「ロキ、よく考えてみろ。こいつの作った薬だぞ。お前天界に戻りてえのか?」

「そうっす。『神の力』がないロキ様が飲んだら即強制送還っす」

「お前らそれは言い過ぎだろ……」

 

 ラプラスが心に深い傷を負うのも気にせず、ベート達は矢継ぎ早にロキを責め立てた。

 

「それにな、お前は何か勘違いしているようだが、これは異性を惹きつける薬だぞ。お前、男からモテて嬉しいのか?」

「何!?ラプラス!どういう事や!」

「どういうことも何も始めからそう言っていただろう。人の話を聞け」

「えぇ……はあ……なんか一気に冷めたわ。ラプラス酒出せ。お詫びせえ」

「何故俺がお詫びを……?」

 

 と言いつつもしっかり酒と御猪口を出してロキに酌をする辺り、彼も相当毒されているようだ。

 

「もう処分してしまえばいいんじゃないかな?」

 

 フィンはこの面倒臭い騒動に終止符を打つ為、原因の根絶を図ろうとした。しかし二人は断固としてそれを拒否。二人にはお互いに譲れないものがあった。

 

「そもそもベートはアイズやとして、ラウルは誰か好きな娘おったんか?聞いたことないで」

 

 すると疑問に思ったのかロキが口にした。その言葉に他の三人も興味を示し、目を光らせると、ロキのベートはアイズ発言を無視してラウルに詰め寄った。

 

「む、確かにラウルの恋路は気になるな」

「ンー、そうだね。この薬が欲しいならそれぐらい言わないとね」

「おらラウル。とっとと吐け」

「勘弁してくださいっすうううゥゥゥ!!」

 

 団長、主神、格上、製造者と今この場において自分より立場が上の者達に揃ってこんなことを言われてしまったらもうどうしようもなかった。ロキはニヤニヤと意地悪そうに、ラプラスは目を輝かせて、フィンは見た目相応の爽やかな笑顔を浮かべ、そしてベートは自分の気になる相手がモロバレしている事に内心冷や汗をかきながら、ラウルを睨みつけた。

 そして当のラウルはというと、いっその事ありのままを言ってしまって薬を貰い、更に自分の事を応援してもらおうかという気持ちと、この人(主にロキ)達に言ってしまったらとんでもない事が起きてしまうのではないかという嫌な予感の板挟みにされていた。

 う〜ん、とたっぷり悩んだラウルはロキの顔をじっと見つめた。やけに静かになった中庭に緊張が走った。そして暫くすると彼は震える唇から声を出した。

 

 

 

 

 

「すいません、ムリっす。許してください」

 

 とった手は心を込めた謝罪だった。以前ラプラスから教えて貰った極東の謝罪における伝家の宝刀『ドゲザ』を繰り出し、額を地面に擦り付け、恥も外聞もなく主神に許しを乞うた。そのコンマ数秒の間に行われた見事な土下座に四人はラウルの本命を聞けなかった事にがっかりして息を吐き、緊張は解れた。

 

「いやーいつになく緊張したね」

「ああ、久しく感じたことの無い空気だったな」

「ちぇー結局言わへんのかい。真面目な空気出して損したー」

「よし、ならこの薬はオレが貰っていいってコトだよな?」

「どうぞお納めくださいっす、ベート様」

 

 ロキがぶー、と膨れている中、ラウルが降伏した事により自動的に勝者が決まった。勝者となったベートは早速ラプラスから薬を渡して貰い、それを受け取ると少し振って中身を見回した。ラウルは土下座を止め、ベートを真っ直ぐ見つめていた。そんなラウルの視線に気付き、ベートが訝しげに尋ねた。

 

「何だよ、何か文句でもあんのか?」

「いや、ベートさんってやっぱりカッコイイなあって」

「は、はあ!?」

「好きな女の子の為に何でもやるその感じ、すごくカッコイイっす!」

「ば、馬鹿言うんじゃねェ!?オ、オレは別に好きな奴なんて……」

 

 そう言いつつも、耳が忙しなくピョコピョコ動き、尻尾がパタパタと揺れているベートは顔を背けていても照れているのが丸わかりだった。そんなベートを四人は何も言わずただ優しい目で見ていた。

 

「なっ!?そんな目でオレを見んな!!蹴り殺すぞ!!」

 

 そろそろベートが恥ずかしくて怒りそうだという事を察して四人は一様にベートから目を離すが、その口元には笑みが浮かんでいた。そんな様子を見て本当に蹴り殺してやろうかと思うベートだったが、怒りを押し殺して開発者に問い掛けた。

 

「なあ、この薬ってもう飲んでも平気か?」

「いや、薬が惚れさせ薬という事がわかっているだけで、どんな効果でどのくらいの範囲に効果が及ぶかわからん。ただどのくらいの制限時間かは何となくわかるぞ。持って半日という所か。如何せん量が少ないからな。だが、仮に初見の相手のみなんていう効果だったらロキが惚れるから対象が来てからにしろ」

 

 ロキが自分に惚れるという事を想像してかベートがブルリと震えると、丁度良いタイミングでアイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤの四人が帰って来た。丁度お昼時に差し掛かっていた為昼食を取りに来たようである。

 

「む、丁度良い。あいつらが帰って来たぞ」

「おかえり、みんな」

「あ!団長ーー!!」

「おーおかえりー!買い物楽しかったか?」

「うん!いっぱい買っちゃった!そ、それでね、ラプラス……実は渡したいものが……」

 

 一気に騒がしくなった中庭でベートはとても緊張していた。そんな彼にティオナから首輪をプレゼントして貰い、どう反応したら良いか困っている微妙な顔をしたラプラスからアイコンタクトが送られた。更にその少し奥ではフィンに新しい相変わらず露出の激しい大胆な服を見せびらかしているティオネの姿があった。しかし、ベートは見た。苦笑いをしていたフィンが一瞬の隙を突き、此方にウインクをしたのを。極め付けはロキにセクハラされているレフィーヤと、それを止めるラウルを見た時だった。ロキとラウルの、一時は自分と敵同士だった彼らは自分に向かってうなづいたのだ。行ってこいと、そう言っているようにベートは感じた。

 

 

 

 

 舞台は整った

 

 

 

 

 仲間が繋いでくれたこのチャンス

 

 

 

 

 今、ロキを止めようとしている彼女の肩を掴んで引き止める

 

 

 

 

 彼女は驚き、不思議そうな目で此方を見てきた

 

 

 

 

 そして

 

 

 

 

 彼は飲んだ

 

 

 

 

 一気飲みした

 

 

 

 

 瞬間

 

 

 

 

 体の奥底から何か熱いものが湧き上がってくるような感覚がしたかと思うと、一瞬、視界が真っ白になった。

 何が起こったのか理解出来なかったベートだったが、直ぐに気を取り直して目の前にいる彼女ーーーアイズの顔を見た。

 心なしかアイズの頬は紅く染まり、息が浅くなっているように見えた。

 成功か!とベートが喜びの声を上げようとした瞬間

 

 

 

 

 

 

「あの、どうかされましたか?ベートさん?」

 

 

 

 

 

 

 何時も通りの声が聞こえた

 

 

 

 

 その時、彼は悟った

 

 

 

 

 ああ、また失敗かと

 

 

 

 

 製作者に文句を言おうと、視線をあげたその時ーーー

 

 

 

 

「べ、ベートさん……」

「あ?」

 

 何時の間に近づいていたのだろう、ラウルがいた。しかし、彼は何時もと違い、どこかそわそわして落ち着きがなく、その可笑しな雰囲気がベートの背中に悪寒を走らせた。

 

「ベートさん……なんなんすか……この気持ち……ベートさんを見てると……何だか胸が苦しくて……」

「奇遇だね……僕もさ……」

 

 だんちょう?という声が聞こえた気がしたが今だけは無視した。それよりもなんか増えてる。

 

「僕もベートを見てると心が燃え盛るように熱くなる……そう、まるで小人族(パルゥム)の勇気ある子を見つけてしまった時のような……」

 

 そう言いながらフィンも近づいてくる。誰かこの状況を説明してくれ、とベートが思っていたその時……

 

「捕まえたぞ、ベート……」

 

 ガシィッと両肩を掴まれた。普段なら抵抗して直ぐに振りほどけるはずなのだが、この時だけは何故か力が入らなかった。そして耳元でボソリと声が聞こえた。

 

「フフフ、ベート……これは薬のせいかもしれないが……俺は断言出来るぞ……お前の事が好きだ……どうしようもなく、な……」

「待つんだ……ベートは譲らないよ……」

「俺もっす……ベートさんは俺のものっす……」

 

 虚ろな目をして此方を見てくる男三人にベートは言い知れない恐怖を感じた。

 

『アアアアアアアアアアアア!!』

 

 そしてそこでベートの記憶は途切れた。最期に見た風景はヒリュテ姉妹がキレ、もうこれ以上はない程に荒れている中庭に血相を変えたガレスとリヴェリアが駆けつけてくるところだった。

 

 

 

 後に剣姫他数名はこう語る。

 

 

 

 曰く

 

 

 

「「「もう絶対にラプラスに変な研究はさせない」」」




どうしてなんだ……今回の話は今までで一番書いてて楽しかった……だと……!

本当はヒロインとイチャイチャさせたいのに!悔しい!でも書きやすい!

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