夢を見ていた――。
もう100年くらい前の夢だろう。
俺は白哉と朽木家の庭で毎日の日課でもある稽古に励んでいた。
縁側では美鈴と緋真が自分達を眺めながら談笑している。
時折顔を出す夜一隊長や朽木銀嶺隊長に稽古を付けてもらい、京楽隊長にからかわれながら、毎日笑って平和に過ごす日々―――。
場面は変わり、俺は四十六室に囲まれた場所に立たされていた。
あの日の嫌な記憶。
「抗うことは許されない」「逃れることは許されない」「護りたいなら従え」
反論したいのに声が出なかった。
口から洩れる空気だけが空を切る――。
零の文字が刻まれた腕章を腕に付けた俺は当時の零番隊隊長に連れられ、零番隊隊舎の中へと促されている。
隊舎の入口には京楽隊長や夜一隊長に抑えられながら、こちらに叫び続ける美鈴と白哉の姿が見えた。声は聞こえないが、美鈴は泣いているように見えた。
場面は再び変わった。
薄暗い隊舎内、ハッと辺りを見渡すと血まみれの同胞達がすぐ横で息絶えている。
「…たいちょう、やめてください」
一人の隊士が途切れ途切れにそう呟くと目の前で息絶えた。
自身へと視線を移すと痛みは感じないものの、死魂装は血で染まっている。
視線を上げると当時の三席の人間を斬魄刀で串刺しにしながら高笑う零の文字が刻まれた隊長羽織が視界を支配した。
こちらに振り向き、斬魄刀にささったそれを引き抜き投げ捨てると、彼はゆっくりとこちらへ向かってくる。口元は三日月の如く笑っている。
声は出ない。俺は震える手で横に落ちていた自身の斬魄刀を握る。
握った刀がカタカタと揺れる理由が自分自身が震えているせいと気付くのにそう時間はかからなかった。喉が詰まり息が苦しくなる。腰が抜けているのか立ち上がることができない。
目の前まで来たそいつは相変わらず笑っていた。
「死ね」
声は聞こえない。しかし口元の動きから多分そう言った。
自分に振り下ろされた斬魄刀に俺は目を見開いた―――――――。
―――
「わあああああああっっっ!!!!」
叫ぶのと同時に朝比奈は上半身を起こした。とたんに全身に激痛が走る。
「いっっつ…」
激痛に耐えながら辺りを見渡すと病室のような無機質な部屋が広がっていた。
視線を落とすと自身には真っ白な布団がかけられベッドの上にいる事が認識できた。
サイドテーブルにはボロボロの死魂装が丁寧に畳まれ、置かれている。
「…ゆめ…か」
朝比奈が小さく呟いた時だった。
部屋に一つだけあるドアが開きオレンジ頭の少年と、水の入った洗面器を持った栗色の髪の少女が入ってきた。
「よう。目覚めたか」
少年はそう言って笑いかけるとベッドの横にあった椅子に腰かけた。
後に入ってきた少女も良かったねと笑顔を朝比奈に向け、部屋の奥でなにやら作業をしている。
事態を掴めず、黙っている朝比奈の様子を察した少年は自ら言葉を発した。
「俺は黒崎一護。そっちは妹の遊子。ここは俺の家の黒崎医院、病院だ。覚えてねぇか?お前2日前に俺の家の前で倒れてたんだよ。血まみれで…って聞いてるか?」
「…ああ。すまない。とりあえず助けてくれてありがとう…」
そこまでで再び黙ってしまった朝比奈に、「おう」と笑顔で答えると一護は席を立ち作業を続ける遊子の元へと歩いて行った。
2人の姿を目で追いながら、ふと頭に手をやると包帯が巻かれている。
他にも胸や腹、腕にも包帯が巻かれているのを実際に手を置くことで認識した。
朝比奈は一通り自分自身を確認した後、背中の枕に身を預け、深く息を吐いた。
「じゃあ、お兄ちゃん。私買い出しに行ってくるから後お願いね」
「おう」
遊子と呼ばれた少女は朝比奈に1度視線を向けにっこりと微笑むと部屋を出て行った。
遊子が出て行くのを確認すると、一護は先ほどの笑顔とは打って変わり朝比奈に真剣なまなざしを向けた。
「…お前…死神だろ?」
死神という言葉に朝比奈はピクッと反応し視線を一護へと向ける。
朝比奈が言葉を発そうと口を開いた時だった。
バンッッッッッ!!!
「みーなーとーっっっっ!!目~覚めて良かったぜ~心配したんだからなもうっ!」
勢いよく扉を開け、朝比奈に飛びついてきたのは黒崎一心だった。
抱きつく寸前の所で一護に止められ、跳ね返された一心はドアのすぐ横の壁にめり込んだ。
「親父てめぇ。怪我人に抱きつこうとしてんじゃねぇよ」
「…一心さん…?」
朝比奈は思いがけない知り合いの登場に驚きの様子をみせた。
そして更にそれに驚いたのは一護の方だった。
「親父…知り合いなのかよ」
「いてて…ん?ああ…湊のことならガキの時から知ってるぞ?なぁ?」
ぶつけた頭をさすりながら、一心は朝比奈にニカッと笑って見せた。
「そうゆう大事なことは早く言えっ!!」
再び一護の怒号が部屋中に響き渡る。
いきなり目の前で繰り広げられた幕間劇に朝比奈もクスッと笑ってみせた。
「良かった元気みてぇだな!」
一心は再びニカッと笑うと朝比奈の頭をくしゃっと撫でた。
どうやら相当心配させてしまったようだ。
一護も先ほど真剣な表情は見られない。
朝比奈は深く深呼吸すると一護へと視線を向けた。
「一心さんの息子さんだったのか。警戒してすまなかった。朝比奈湊だ。よろしく」
朝比奈は先ほど密かに一護に向けた殺気を詫び、片手を差し出した。
「いや。誰だって起きて知らない奴ばかりだと警戒するさ。気にしてねぇよ」
一護も笑顔で差し出された手を握り返した。
「あ、一護。ちなみに湊は零番隊の隊長さんだからな。霊圧に当てられんなよ?」
「え…はぁぁぁぁ!?」
朝比奈の症状を記してあるカルテに目を通しながら付け加える一心の言葉に一護は再び怒号にも似た声で驚いた。