―――零番隊壊滅から数日――
零番隊が虚に破れたという噂は尾ひれをつけて瞬く間に広まっていた。
瀞霊廷では緊急の隊主会が開かれた。
すでに山本総隊長以外の隊長達は隊主会室に顔を揃えている。
相変わらず三番隊、五番隊、九番隊の隊長は不在のままだ。
「今回の集まり … 先日の零番隊の件であろう。あの零番隊が全滅したという話は誠なのか?」
「待て待て。全滅だなんて … 隊士達は全員無事だよ。そうだろ卯ノ花隊長」
「はい。軽傷の者はすでに復帰していますし、他の方々も後、二、三日目すれば復帰も可能です」
狛村の言葉に浮竹は慌てて弁解をしてみせ、浮竹の問いかけに卯ノ花は淡々と答えた。
零番隊敗北の噂は最悪の形で広まってしまっているようだ。面目も丸潰れであろう。
「そういえば京楽隊長は零番隊の奴らと知り合いだったのか?」
日番谷は話題を変えようと先日からの疑問をここで投げかけた。
その言葉にずっと黙っていた京楽が口を開く。
「隊長さんと副隊長さんだけだけどねぇ。湊くんと美鈴ちゃんは小さい頃からの付き合いでね。朽木隊長は 2 人と幼馴染だし。ね?」
京楽はそう言って朽木に笑顔を向けるが、彼は黙って俯いたまま反応を示さない。
その時、一番奥の扉が開き山本総隊長が部屋へと入ってきた。ピリッとした空気の変化に隊長達も会話を止める。
「 … 待たせたのぉ」
山本のすぐ後ろには零番隊副隊長の櫻井が付いて歩いてきた。彼女の目元は少し赤く腫れている。
山本はいつもの場所に立つとその隣に立つよう櫻井を促した。櫻井も無言のまま山本の隣に立つ。
「皆も、もう分かってはいると思うが、今回は先日の零番隊の件についてじゃ。その前に初めての者もいるじゃろう。櫻井」
山本は簡単に主旨のみを説明をすると挨拶をするよう櫻井へと視線を向けた。
櫻井もそれに、はいと小さく返事をして顔を上げた。
「王族特務零番隊副隊長の櫻井美鈴と申します。先日はありがとうございました。本日は、現在不在の朝比奈湊隊長の代理として出席させて頂きました。以後、お見知り置きを」
凛とした立ち振る舞いでそう答えると軽く頭を下げた。
「まぁ、初見は狛村隊長と日番谷隊長くらいかの…今後暫くは護廷十三隊と共に任務にあたってもらう事もあるじゃろ。他の隊士にも話を通しておくように」
山本の言葉に隊長達は無言の了承をする。
そのまま山本の咳払いと共に話は本題へと進んだ。
「して…朝比奈隊長の捜索はどうじゃ…砕蜂隊長、涅隊長」
「はい…事件以来、隠密起動総出で捜索はしていますが未だ足取りは掴めず、霊圧の痕跡すら発見できておりません」
「断界ヲ遠ッタ形跡モナイネ」
「……そうか」
明るい兆しの見えない報告に山本は黙り込んでしまい、数秒の沈黙が流れる。
最初にそれを破ったのは朽木隊長だった。
「朝比奈くらいの者なら霊圧を消す事も容易だ。此方に居ないのであれば現世にいる可能性がある。先程、阿散井副隊長を向かわせた」
朽木の言葉に山本は重そうに口を開いた。
「…その事なんじゃが…」
珍しく口籠る山本を見て、櫻井が衝撃の言葉を続けた。
「本日付で四十六室より零番隊隊長 朝比奈湊の捜索打ち切りの決定が下りました。以降当面の間、零番隊は一時凍結。もともとの零番隊の任務は一番隊が代行。隊士達は護廷十三隊に別れ、各自任務に付くようにとの事です」
櫻井の発言にその場にいた全員がどよめいた。
「…捜索打ち切りってどうゆう事だ」
日番谷の問いかけに櫻井は表情変える事なく答えた。
「今回私達は、救護班の二ノ宮四席を同行させませんでした。彼女が負傷していた事もありましたが、同行していれば被害を抑える事が出来たかもしれない。この事から朝比奈隊長の判断ミス。隊長能力の欠落と判断されました」
櫻井は眉ひとつ動かさず言葉を続けた。
「他にも朝比奈隊長は無断で霊圧制御装置を外した事も咎められています。合わせて隊長羽織と斬魄刀を破棄した事から四十六室は朝比奈隊長の職務放棄と断定し、零番隊隊長の称号の剥奪を決定されました」
櫻井は言いきると同時に俯いてしまった。
あまりにも理不尽な決定にその場の全員が言葉を失った。
「山爺…そりゃ酷すぎじゃないかい…」
絞り出すような京楽の言葉に山本は答える事は無かった。
「…零番隊に所属する三席以下の者は後日、護廷十三隊に振り分ける。人事は後ほど連絡する。本日は以上じゃ」
それだけを言い残し、山本は奥の自室へと姿を消した。ゆっくりと隊主会室の入り口が開かれる。
その場には動く事の出来ない隊長達と櫻井だけが取り残されていた。
「…美鈴。君は納得しているのかい?」
浮竹の言葉に櫻井はピクッと反応を示した。
それを皮切りに日番谷も言葉を続けた。
「どう考えたって可笑しいだろう。第一、羽織と斬魄刀は破棄された物では無い…お前が一番よくわかっているはずだ…」
「霊圧解除の許可申請もうちの隠密機動の隊士が要請を受けて四十六室へと許可願いに行っている。渋ったのは四十六室の方であろう」
きちんと説明をしたのかと砕蜂は櫻井を攻め立てた。
櫻井は俯いたまま黙って言葉を受けている。
「まぁ砕蜂隊長落ち着いて。現場と四十六室との間で話が食い違ってしまってるんじゃないかい?四十六室への報告に行ったのは美鈴ちゃんだよね?」
京楽は砕蜂を宥めると優しい口調で櫻井に問いかけた。その言葉に櫻井は少しだけ視線を上げる。
「…何があったか話してもらえるかい?」
京楽の優しげな口調に、櫻井は視線を上げ動揺の様子をみせたが、すぐに首を横に振った。
「…何もありません。ご報告は以上です。失礼しますっ!」
彼女は俯いたまま、隊主室を出て行ってしまった。
「相変わらず…頑固だねぇ…」
京楽は小さく溜息をつき、彼女の出て行ったドアを見つめていた。