~裏切りの剣~   作:MIKOTO.H

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第5話

―――零番隊隊用宿舎―――

 

 

 

 

 

 

 

隊主会から帰宅した櫻井はまっすぐに宿舎へと帰宅していた。

休むにはまだ早く、日も先程頂点を過ぎたばかりだ。

 

櫻井は一番奥の部屋の襖を全開に開け、入口からぼーっとその部屋を眺めた。

開け放たれた部屋の中には無数の本が積み上げられている。

床の間には水墨画の掛け軸が飾られ、一本の斬魄刀が置かれていた。

櫻井は部屋に入り、壁に掛けてあった白い羽織を手に取ると、部屋の前の縁側に寝転び、顔を覆うように羽織を掛けた。

 

隊舎の庭に植えられた桜は満開を迎え、風が吹くたびに花びらが縁側に降り注ぐ。

そこに寝転んだ彼女にも風に舞うそれは降り注いだ。

 

 

「っっっばーーーかっ!ばーーか!ばーかっっっ!」

 

櫻井は突然叫ぶと、上半身を起こし羽織をギュッと握りしめた。

 

「どこ行っちゃたのよ…またそうやって黙っていなくなるわけ…」

 

彼女の肩は心なしか小刻みに震えている。

 

 

 

 

 

「やはり…何かあったのだな…」

 

突然、聞こえた声に櫻井は驚いて振り返った。

 

「白哉!?…皆も…どうしてここに?」

 

振り返った先には朽木、浮竹、京楽、七緒の姿があった。

その後ろから四席の二ノ宮がひょこっと顔を出した。

 

「…皆さま副隊長とお知り合いだと言うので、お通ししましたわ。お茶淹れてきますわね」

 

二ノ宮はそれだけ言い残すとそそくさと去ってしまった。

 

「…タイミングが悪かったか?」

 

その問いに櫻井が不思議そうな顔を返すと、朽木は黙って櫻井の手元を指差した。

彼女の手元には零の文字の入った白い羽織が握られている。

 

事の意味を理解した櫻井の顔は途端に赤くなる。

 

「これはっ!違う!違うの!なんでもないんです!!」

 

櫻井は羽織を後ろに隠し弁解してみせるが、もはや既に遅いだろう。

その場にいた全員が肩を震わせ笑いをこらえていた。

きっとわかっていて二ノ宮も通したのだ。

 

 

 

 

気を取り直し、櫻井は彼らを応接間へと通した。

 

「…で、何しにきたんですか?」

 

「まぁそうむすっとしないで?久しぶりに会ったのに寂しいじゃない」

 

突っぱねる態度を取る櫻井に京楽が笑って見せた。

 

「先日の虚討伐の現場で気になることがある。それを確かめに来た」

 

「気になること?」

 

朽木の言葉に櫻井も視線を上げた。

 

「先日の虚討伐の現場…湊の霊圧がある場所でぱったりと消えていた。虚の数も異常な量だ。そもそも零番隊に虚討伐の任が行くのも不自然だろう。本当に何もなかったのか?」

 

「今回は重傷の者が多いと卯ノ花も心配していたよ。特に西園寺三席もまだ意識が戻らないらしくてね。二ノ宮四席の回道でも間に合わなかっただろうって。」

 

朽木と浮竹の言葉に、櫻井は答えることなく俯く。彼女の拳は正座した膝の上でギュッと握られている。

その様子を見た京楽が一口お茶を飲み、静かに口を開いた。

 

「…湊君が居なくなったこと自分のせいだと思ってるんでしょう?君たちはすぐ自分だけで背負いこもうとするからね…僕たちは心配なんだよ…心配で…お酒も喉を通らないんだから」

 

最後にヘラっと笑って見せた京楽に、櫻井も思わず顔を上げた。

すかさず七緒が京楽に空気を読むように注意をし、怒る七緒を浮竹が必死に宥めていた。

その光景に、櫻井もつい吹き出してしまい、顔を綻ばせた。

 

「…ふふ。本当、京楽隊長は変わりませんね…」

 

櫻井の様子に京楽達は安堵の表情をみせる。

 

櫻井は一度深呼吸をするとゆっくりと当時の状況を話し始めた。

 

「…今月に入って零番隊は二度、虚討伐に出ているんです。零番隊にそんな任務滅多にありませんから…四十六室からの直々の任務で、朝比奈隊長もその点に関しては不審がっていました」

 

 

「一度目は二ノ宮が負傷した時です。二ノ宮は零番隊の救護班ですし、言ってしまえば生命線でもありますから、必ず護衛の隊士も付けています。でもその時二ノ宮を襲ったのは護衛に付けていた隊士でした。幸い、湊が近くに居たこともあり、すぐに制圧出来たのですが、二ノ宮は手首に傷を負いました」

 

「隊士のが裏切ったというのか…」

 

朽木の言葉に櫻井は首を横に振る。

 

「わからない…でも湊の話だと、多分何かに操られたものだろうって…実際、その隊士は二ノ宮を襲ったことさえも覚えてはいなかった」

 

「二度目の討伐もそうです。いきなり操られたかのように隊士を襲う者が何名かいました。でもその時は虚の様子もおかしくて、情けない話ですが、正直一杯いっぱいでそこまで手が回りませんでした…」

 

櫻井はそこまで話すと溜息をついた。そこで何かを思い出したかのように浮竹が話に割って入った。

 

「そういえば、隊士の中に刀で切られたかのような切り傷を負っているものが複数いると、卯ノ花が言っていた気がするな…」

 

「それも気になる点でありますが、一番解せないのは今回の四十六室の対応ですわ!」

 

「…二ノ宮…いたの?」

 

いきなり入ってきた二ノ宮に櫻井は驚いて見せたが、二ノ宮はそれを無視して言葉を続けた。

 

「二度目の討伐にも私は同行するつもりでした。でも当日にいきなり待機するよう朝比奈隊長に言われたんです。上の言葉は絶対だからって…上って四十六室のことでしょう?ですのに…同行させなかったのが判断ミスだなんて横暴もいいところですわ!!」

 

「二ノ宮、勝手に霊圧を上げるのは規則違反よ。それと、護廷十三隊の隊長達の前です。少し場を慎みなさい」

 

持っていたお盆を畳に叩きつけながら霊圧を上げる二ノ宮を、櫻井が強めに注意すると彼女はシュンと縮こまってしまった。その雰囲気を察した京楽が間に割って入る。

 

「まぁまぁ…無理もないよ。今回の事は本当に矛盾ばかりだからね…それに、そのことは美鈴ちゃんが一番良くわかってるんじゃないかな?」

 

「…はい…四十六室に報告に行ったのは私と元柳斉様です…正直、今回の四十六室に関しては私たちも困惑していて…二ノ宮のことも霊圧解除のことも聞いていないの一点張りでした。隊長が居なくなってしまった件に関しても、私たちが行ったときには既に処分は決定していたようでした。とりあえず、その場は聞き入れて様子を見ようというのが元柳斉様のお考えです。少し調べてみるともおっしゃっていました」

 

櫻井は大きな溜息とともにそう告げると、もうお手上げとでもいうかのように俯いてしまった。その落胆した様子に誰も言葉を掛けることが出来ず数秒の沈黙が流れた。

 

「朝比奈の事なんだが…」

 

その沈黙を破ったのは朽木だった。彼は一枚の紙を櫻井の前に差し出しながら話を続ける。

 

「これは、先日の討伐時の現場調査の報告書だ。朝比奈の霊圧が突然消えているのも確かに不自然だが、それともう一つ、ある人物の霊圧痕が見つかった。これは涅隊長にも確認を取ったのだが、その人物の霊圧が断界内にも残っていた。これは、朝比奈と関係があるとみて良いよ思う」

 

「ある人物?」

 

「ああ…それは――」

 

 

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