「修羅天海!?…誰なんだよそいつは」
一護の言葉に浦原はハハハと乾いた笑いを漏らした。
「まぁ、昔の人ですからね。私も久々に聞きましたし、一護さんが知らないのも無理ないいっすよ」
一通りの事情を聴き終えた一護は、朝比奈と共に浦原商店を訪れていた。
浦原と朝比奈の感動の再会も浦原からの一方的な抱擁で済ませている。テッサイとも顔なじみだったようであった。
「俺がまだ零番隊の副隊長だった時の隊長だよ」
「そうなのか?…で、そいつが何したんだよ」
「一夜にして零番隊を全滅に追い込んだ裏切り者っすよ」
「なっ!?」
笑顔で答える浦原にたじろいでみせる一護を朝比奈は神妙な面持ちで見つめていた。
「今から100年程前、零番隊の隊士が次々に斬殺される事件が起こったんすよ」
「その犯人が天海っつう奴なのか?」
一護の問いに答えたのは朝比奈の方だった。
「最終的にはそうだが、実際…当時隊士に手を掛けていたのは零番隊の副隊長に当たる人間だったんだ。目撃者もいた事から犯人なのは確実とされたが、全員犯行時の記憶が無いのも、当時は不可解な点ではあった」
「記憶が無いって操られでもしたのか?全員って…?」
「全部で5人だ。副隊長に就いた者は数日以内に隊士を複数名、手に掛け即日追放されている。変わりの副隊長がすぐ就けられたが、一護の言うように全員操られたかのように同じ犯行を繰り返しては追放されていった。それで俺がその6人目」
朝比奈は他人事のように淡々と説明を続ける。
「…それで、湊…お前は大丈夫だったのかよ?」
一護の問いかけに朝比奈は困ったように笑い、黙り込んでしまった。
その代わりに浦原が続きを話し出す。
「湊さんが副隊長に就いて1週間後っすよ。当時隊長だった修羅天海は同じ零番隊の隊士を皆殺しにし、霊王にも手を掛けました―」
「は!?霊王って…どうゆうっ…」
「霊王に手は掛けてねぇよ」
一護の言葉を遮り、朝比奈は浦原の言葉に訂正を入れる。
「そうっすね。正しくは掛けようとした。寸での所で湊さんが天海を粛清しました。結局、斬殺事件も修羅天海が黒幕で副隊長を操っていた事が分かり、彼は即日処刑。めでたしめでたし……のはずだったじゃないすか」
浦原は、ねっ?と、笑顔で朝比奈を見つめるがその瞳は笑っていない。
「ああそのはずだ。でも、確かにあの時見たのは天海だった」
「その…向こうで虚と対峙した時か?」
一護の言葉に朝比奈は黙って頷く。
「処刑から逃れてたってことっすか?」
浦原の言葉に朝比奈は首を横に振った。
「わからない。実際、天海の処刑には立ち会っていないし…正直…あの夜…天海が隊を襲った時の事もよく覚えてないんだ…」
朝比奈は頭を押さえながらため息混じりにそう話した。
「嫌な予感しかしませんねぇ」
考え込む浦原の隣で一護も黙り込んでいた。
何かを考えると言うより事の理解に手間取っている様子だ。
朝比奈はすっかり冷めてしまったお茶を一口飲み、窓の外へと視線を送った。
曇天模様――。
昼過ぎにも関わらず夜のように薄暗い空はいかにもな不気味な空をしている。
―――
―――瀞霊廷―――
暗い室内で、パソコンの画面だけが青白く櫻井を照らしている。櫻井は一人大霊書回廊に足を運んでいた。
『修羅 天海』
あの時、白哉は確かにそう言った。
あいつはあの時確かに処刑された。
今更、断界で霊圧が見つかるはずもない。
しかしなぜ――
櫻井にはその名前に身に覚えがあった。
そしてそいつは白哉の言うとおり、朝比奈とも関係の深い人物だ。
櫻井の頭にあの日の記憶が蘇る。
ある日突然言い渡された朝比奈の昇格は喜べるものではなく、当時、斬殺事件として騒ぎにあった渦中の零番隊副隊長の席だった。
文句一つ言う事なく辞令を受け入れた朝比奈を私は感情のまま攻め立てた。彼にも何かしらの思惑があったのだろうが、その時は事件解決よりも朝比奈自身の方が大切だったのだ。
そしてあの夜、事件は起こった。
零番隊から漏れた彼らの霊圧は瀞霊廷に留まらず流魂界にも悪影響を及ぼした。席官以下の者達は皆、意識を持っていかれ大パニックになった。
ようやく辿り着いた零番隊隊舎で見たのは血まみれでその場に立ち尽くす、朝比奈の姿だった。
あの時初めて見た恐怖に怯える彼の顔を思い出すたび、後悔の念に襲われるー。
「…湊……」
櫻井は目の前のモニターを見ながら呟いた。
画面には修羅天海についての記録が映し出されている。
記録には出生記録や戦歴が記されている。
あの日の事件の事も記録はされている。
その中の備考欄に記された記述に櫻井は目を止めた。
「虚の…支配化?まさか…虚の事も操れるって言うの?」
これが本当なら最近の虚の変化にも納得がいく。
櫻井は衝撃の事実に眉をひそめた。
あいつがまだ生きていたとして、あの事件の再来を狙っていたとしたら…。
湊を狙っているのかもしれない。
今度こそ、湊は私が護る―――