阿散井恋次は驚いていた。
あの冷静沈着な朽木隊長が珍しく血相を変えて探すよう命じてきた零番隊隊長が、こう意図も簡単に見つかってしまっていいものだろうか。
朽木ルキアと共に気合いを入れて現世に来たは良いものの、その目的の探し人は目の前で呑気に茶を啜っている。
「いやぁ、それにしても白哉に妹が出来た事は知っていたけど、本当、緋真そっくりな」
優しく微笑む朝比奈にルキアは頬を赤らめた。
「きょ、恐縮ですっ!兄様と緋真様とご友人だったとは…その…えっと…」
「ルキア。お前しっかりしろよ。顔真っ赤だぞ?」
朝比奈の隣で一護はルキアの様子をニヤニヤと眺めている。
「たわけっ!!零番隊の隊長だぞ!?き、緊張くらいする…」
その後も一護がルキアに何やら言葉を返すと痴話喧嘩のような言い争いが始まった。
朝比奈はそれを微笑みながら眺めている。
「あの…あ、朝比奈隊長。一緒に尸魂界に帰還頂きたいのですが…」
阿散井も緊張を滲み出しながら自身の任を朝比奈に告げた。
「…ちょっと調べものがあってね。もう少し待ってくれる?」
一護達を眺めていた朝比奈は、阿散井に視線を向けるとにっこりと言葉を返した。
「湊さん…ちょっと…」
阿散井の言葉と同時に奥の部屋から戻って来た浦原は手にしていた紙を朝比奈に渡しながら内容について告げた。
「やっぱり可笑しいっすね。修羅天海について調べて見ましたが所々改ざんの後があったっす。それと彼の斬魄刀。その記述だけがごっそり抜けている」
朝比奈はそれを見ながら、口元に手を当て何かを考えている様子だった。
「まぁ、あの事件の首謀者ではあるから他者を操ることが出来るってのが能力なんだろうけど…副隊長しか操らなかったのには何かしらの理由があるはずなんだ。例えば一定の距離内の近親者しか効かないとか…」
「一緒に居たの一週間足らずっすからね…夜一さんなら面識もあったし知ってるかもしれないっすけど、あいにくいま尸魂界に行ってましてね…」
会話を続ける浦原と朝比奈を見ながら阿散井は妙な疎外感に襲われて居た。
俺、忘れられてないか?
その時だった。
ズゥゥゥゥゥンッッッ!!!!
異様な霊圧が辺り一面を覆った。
身に覚えのある霊圧に浦原と朝比奈は顔を見合わせ、急いで外へと出た。
「なんなんだ!?」
一護達も急いで外へと出ると、目の前には1人の大男が立っていた。鬼のような風貌のその男は笑いながら殺気にも似た霊圧を放っている。
「天海…」
朝比奈の言葉に一護は目を見張った。
「あいつがっ…!?」
「やっと見つけたぜ朝比奈ぁ。霊圧消しやがって生意気によぉ~」
大口を開けて笑う天海を朝比奈は無言で睨み返す。
斬魄刀を持たない朝比奈以外は、みな既に刀を抜き天海に刃を向けている。
天海はそれを見て更にニヤッと笑ったい、ぽつりと呟いた。
「なぁ朝比奈……美鈴はまだ元気か?」
途端に朝比奈の霊圧が一気に上がった。
瞬歩で一瞬にして姿を消した朝比奈は、次に目で捉えた時には天海の目の前に拳をかざしていた。
彼の目は我を忘れたように殺気立っている。
一護達は2人の霊圧で動く事すらままならなかった。
「破道の七十三…双連蒼火墜ッッッ!!」
瞬間に炎が天海を襲う――
が、吹き飛ばされたのは朝比奈の方だった。
自身の攻撃と同時に天海が仕掛けてきた鬼道を寸前で交わすも、衝撃波に当てられてしまった。
「…湊ッッッ!!!?」
壁に当たった朝比奈はそのまま地面へと倒れこんだ。
天海は攻撃を受けながらも元の場所で笑っている。
「わはは。反応は良かったが、やっぱまだ怪我が治ってねぇなぁ。反応が遅すぎんだよ」
ニヤッと笑う天海を朝比奈は苦しそうに睨み返した。
「朝比奈隊長っ!!」
朝比奈の霊圧が弱まったことで動けるようになったルキアが朝比奈に駆け寄る。
「…てめぇ。…おい、恋次!!行くぞ」
既に卍解をした一護が天海に飛びかかる。
「おお。咆えろ蛇尾丸!!」
二人は次々に攻撃を仕掛けるが、天海は笑顔でそれらを全て避けてしまう。
肩で息をし始める一護達の様子に天海は更に嬉しそうに笑い、腰に差していた斬魄刀を引き抜いた。
「わはは。その程度か。まぁ冥土の土産話程度に魅せてやろう。…殺れ、守裏鎌(しゅりれん)」
天海の持つ斬魄刀は柄の部分が伸び大きな鎌の形へと姿を変えた。
しかしそれは所々刃が欠け、今にも壊れてしまいそうな様子をしている。
浦原は初めて見る天海の始解に目を見開いた。
「あれはっ…!?」
「はっ!?なんだよそれ、ボロボロじゃねぇか!んなの、おれがぶった斬ってやるよ!!」
一護は怯まず、再び天海に刃を向けると一気に飛びかかった。しかし、同時に聞こえた叫び声に思わず足を止めた。
「ゔあああああっっっ!!」
振り返った視線の先には、苦しそうに胸を掴みながら踠き叫ぶ朝比奈の姿があった。
ルキアが困惑した様子で必死に朝比奈を押さえている。
「なんなんだ!?」
一護の言葉と共に天海はより一層、満足気に笑って魅せた。
「がっはっは。しっかりと効いてるようだな。堕ちるのも時間の問題か。…折角だ…最高の瞬間までもう少し…楽しみに待とうか」
天海は鎌を一振りし、強風を起こすとその風に紛れ姿を消した。
恋次が急いで後を追うが、既に痕跡すら残っていなかった。
「くそ…っ」
恋次は天海がいた場所に立ち、奥歯を噛み締めた。
「…おい!湊っ大丈夫か!しっかりしろ!」
一護は脱力し倒れる朝比奈の傍に飛んで行った。
すぐ横には心配そうに見つめるルキアと浦原の姿がある。
苦しんだ際に掴んだ朝比奈の胸には指の跡がくっきりと残り、胸の包帯からは血が滲んでいる。呼吸も浅く、軽い過呼吸のような症状を見せ、ぐったりとしていた。
「急にどうしたというのだ!?」
「わかりません。とりあえず中へ…」
ルキアの言葉に浦原は珍しく焦りの色を見せ、すぐに朝比奈を抱き抱えると商店の中へと走った。