「ではやはり、修羅天海の斬魄刀は他者を操ることが出来るんですね」
瀞霊廷内。四楓院家。
二十畳はあるかのような部屋で櫻井は夜一と向かい合わせに座っている。
「…そうじゃ。しかしなぜワシが知っていると思ったのじゃ?」
夜一はあぐらをかきながら膝の上に頬杖をつき、櫻井に問いかける。
「修羅天海が零番隊隊長になる前、彼の所属は隠密起動でした。当時の上司であった貴方なら天海の斬魄刀の能力をご存じでないかと思いまして…」
終始、真剣な眼差しを向けてくる櫻井に、夜一は頬杖をつくのを辞め大きく溜息を吐いた。
「よぉ調べたの。さすが零の姫君は頭が良いの」
「からかわないでください。彼の斬魄刀が人を操る能力を持つのなら……虚を、操る事も可能ですか?」
"虚"という言葉に夜一は反応をみせる。
「お主そこまで…さては大霊書回廊に入ったのか?」
いつになく真剣な態度を見せる夜一に櫻井は一冊の冊子を手渡した。
「いえ、大霊書回廊にはありませんでした。これは零番隊の隊主室にあったものです。朝比奈隊長はここ最近ずっとあの事件について調べていましたから…斬殺事件の事の他に修羅天海に関しても記述がありました。彼の斬魄刀で操る事が出来るのは人だけではないかもしれないと…」
夜一は受け取った冊子に目を通しながら、櫻井の話を聞いていた。
「それともう一つ、気になる事があるんです」
櫻井言葉に夜一は視線を冊子から櫻井へと向けた。
「斬殺事件の被害者である隊士は皆、事件を起こした副隊長と親しい関係にあった者達のようでした。1人の目の副隊長は幼馴染を、2人目の副隊長は自分の妹。他の副隊長達もそうです。手に掛けた隊士の中には必ずその副隊長と関係の深い人物が存在します。…これは、偶然でしょうか?」
櫻井の言葉に夜一は眉をひそめた。
「…偶然ではなく必然だと?」
「…わかりません。でも前に朝比奈隊長が言っていた事があるんです。斬殺事件の目撃者の中に、まるで虚を見ているようだと述べた者がいたと…」
「副隊長達は虚化したと言うのか?」
一層眉間にしわを寄せ話す夜一に、櫻井が返答をしようとした時だった。
―――キンッ!!―――
耳鳴りと共に全身に電気が走ったような痺れを感じた櫻井はその場で振り返った。
"霊圧"
一瞬にして消えたその感覚は、紛れもなく懐かしい彼のものであった。
そしてそれは時を同じくして夜一も感じていた。
「…夜一さんっ!!」
「ああ…これは現世じゃな…行くぞ美鈴っ!!」
「はいっ!!」
2人は瞬歩でその場を後にしたー。
現世での戦闘で朝比奈の放った霊圧は櫻井達だけではなく、護廷十三隊にも届いていた。
「離せっ!行かせてくれっ!!」
四番隊舎の一室。
西園寺拓は何人もの隊士に抑えられながら踠いていた。その中に混じる勇音は西園寺の腕を必死に掴みながら叫んだ。
「ダメです!西園寺三席、ご自身の怪我の酷さ分かってるんですか!?絶対安静です!」
「うるせぇ!!怪我なんかツバ付けときゃ治んだよ!俺は行かなきゃならんのだ!!離せっ!!」
「破道の一…衝っ!!」
西園寺は途端に入り口とは反対方向に吹き飛び、ベッドから落ちた。
勇音は驚きつつ、入り口に視線を向けるとそこには青い髪をツインテールに結んだ少女が仁王立ちで立っていた。
「…二ノ宮四席!!」
勇音は少女を見ると少し安心した様子を見せた。
「拓…人様に迷惑かけて、みっともないですわ」
お嬢様口調で話す少女は吹き飛ばされ床にひっくり返る西園寺を見下すように見下ろした。
「こんのっ…てめぇ凛!!痛えじゃねぇか!お前もさっきの霊圧感じただろう…あれは隊長のだ!!俺たちがいかねぇとっ!!!!」
隊士達に抑えられながら、感情のままに食ってかかる西園寺を二ノ宮は軽くあしらう。
「はぁこれだから単細胞は…わかってますわ。零番隊がこんな事になって悔しいのは貴方だけではないんですのよ。私のせいで隊長が称号を剥奪されるなんて…認めないですわ」
二ノ宮は悔しそうに両手を握る。
そのまま二ノ宮は西園寺に向けていた視線を勇音に移した。
「残念ながら、西園寺を止めに来たのではないんですの。自分達のミスは自分達で始末しなければいけません…私が同行しますので、西園寺三席を行かせて欲しいのです」
「えぇ!?」
予想外な二ノ宮の言葉に勇音はあからさまに困った様子を見せた。
「勇音…構いませんよ」
答えに困る勇音の代わりに許可を出したのは、いつの間にか部屋の入り口に立っていた卯ノ花隊長だった。
「卯ノ花隊長!!…でもっ」
「二ノ宮四席の治癒能力は相当に高いものです。彼女がいるのなら問題ないでしょう」
「卯ノ花隊長、ありがとうございます!!…拓っ行くわよ!」
「あ!?おいっ引っ張んな!!」
困り果てる勇音の隣で二ノ宮は満面の笑みを卯ノ花に向けると、西園寺を引っ張り足早に部屋を出て行った。
「……ご武運を…」
2人の姿を見送りながら、卯ノ花は誰にも届かない声で呟いたー。