さてと、多分次回は数ヵ月後に更新だと思います。よくぞここまで書いたと自画自賛してみます。
気が付けばそこは、天井だった。
よくあるテンプレみたいな状況に、遊丸はただボンヤリとしていた。
起き上がり辺りを見渡して、ようやくここが保健室だと理解した。カーテンで仕切られたベッドから身を乗り出し、誰かいないかと周りを探し出す。
残念ながらいる気配すらしない。ここには自分1人だけしかいない。
「・・・・僕は、どうしてここに」
さっきまでの軌道を思い出そうと頭を悩ませる。
・・・・。・・・・・・・。・・・・・・・・・・。
澱んだ感情だけが募り、むしろ思い出したくない言動だけが頭の中を駆け回る。軽く目眩が起こる程の恥ずかしい言集ばかりだ。
さっきまでの自分に果たして何が起こったのかと頭を抱える。
「・・・・ダメだ。僕が思い付ける限りであんな行動を起こそうと思った発端が思いつかない」
『当たり前だ。俺がやった行為だ。お前が思い悩んで答えにたどり着けるとは到底思えない』
「それは言い過ぎ・・・・・え?」
遊丸の視線があちらこちらに向けられた。
しかし誰もいない。もう1度だけ言う。ここには自分1人だけしかいない。
だったらさっきの声は誰なのか? もしかして・・・・。と遊丸は顔を真っ青にさせ、腰を抜かした。
「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆ・・・・・幽霊!?」
いつしか涙目になり、ビクビクと震えていた。
しかしそれに対しての返答はなく、何事もなかったかのような静寂が遊丸の心を次第に落ち着かせていった。
「・・・・気のせい、だよね?」
誰に向かってでも言った訳ではない。しかし同意などされなくても、誰かに縋りたくなるのが人なのである。
心理的な不安定から生まれた問いに、誰も答える訳がなく・・・・。
「何が?」
背後から答えが届いた。
遊丸はビックリして数センチ飛び上がり慌てて後ろを振り向いた。
そこには放課後に出会い、自分に仲間となれと求めてきた人。大和佐久絵が居た。
嘆息しながら、ビビリ性の遊丸にズイズイ近づきながら指を突き立て。
「貴方、どうしてあんな場所にいたの?」
急に自分でも理解していない質問を吹っ掛けられた。
遊丸は必死になぜあの時、あの場にいたそもそもの発端となる事柄を思い出そうとする。
・・・・思い出した。あの時、2人組から絡まれて。
遊丸はすぐに保健室に備わっている巨大な鏡で自分の姿を見る。そこには、相変わらずの女顔が健在だ。
(・・・・じゃあ、一体何で僕は?)
渦巻く疑問。すると佐久絵はスッと遊丸の頬に手を触れさせた。
「ひっ!?」
「ジッとして」
何やら探すように頬を触り続ける。佐久絵が動く度に髪からシャンプーが発生させていると思われる良い匂いが鼻腔をくすぐる。ここの学校にはシャワールームもあるので、恐らくそこで使ったのであろう。
顔が芯まで真っ赤になり、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「・・・・大丈夫だったのね」
ふと佐久絵が呟き、遊丸から離れる。
「・・・・佐久絵先輩?」
「どうしたの? それに私の名前、知っていたんだ」
「先輩は有名人ですから、この学園で知らない人がいる方が珍しいですよ。ある意味、羨ましい部分もありますけど、恨めしい部分が大半ですので」
「恨めしい部分?」
聞き返す。遊丸は視線をそっとそらし、本心のままに口にした。
「言うなら、嫉妬です」
「・・・・?」
訳の分からないと言わんばかりに疑問を抱く佐久絵に、遊丸が言葉を続けた。
「僕とは違い、友達が多くおまけに信頼も厚い。そんな人がいるってだけでも僕は自分と比べがちですので」
「でも、私と貴方は違う。生まれも、生き方も。だけど誰にでも個性と言うのはある。貴方が抱えるコンプレックスだろうとも、それを逆転の発想によってプラスに変える事だって可能だよ? なのに最初から諦めるみたいな事ばかり言って」
「仕方がないじゃないですか。僕にはマイナスしかないのです。マイナスをマイナスと合わせても、プラスにはならずマイナスとしかならないように。僕は大人しくしていればいいのです」
沈黙だけが辺りを支配する中、遊丸は儚き心を露わにした。
「けどね、まだ貴方には可能性と言うのが・・・・」
言いかけたが、遊丸はその途端に表情を変化させた。
剣幕に身を委ねられ、言葉にはしないがこめかみをガリガリと掻き始め、ついにそこから出血してきた。
苛立ちが募った結果とも言うべきそれに、佐久絵は何もする事ができない。自分が優位な立場なのがそこまで嫌いなのか? それとも自分に対する劣等があまりにも憎いのか?
そのどれでもないとすれば、恐らくは嫉妬だ。
自分と佐久絵、全く釣り合わない2人を天秤に乗せて測っても結果が分かるように結果が分かりきっている事に対して憎かったのだろう。
「・・・・可能性なんて、たかが知れています。考えるだけでも反吐です。昔から、強者は弱者を支配するように、先輩も上の立場ですから」
「・・・・っ!!」
パァン!
遊丸の頬に何かが直撃する。
遊丸は思考がしばらく停止するものの、その正体が分かるまでに時間がかかった。佐久絵は掌を握り締め、遊丸の襟元を掴んだ。
「貴方は被害妄想をしすぎよ! 私がいつ支配する側になった? 私は純粋に、貴方にデュエルの楽しさを分かってもらおうとしているだけなのに! けど貴方はそれをないがしろにしている!」
その叫びは怒りと悲しみを含み、瞳からは透き通る程の涙が溢れていた。
しかし遊丸の心は変わらない。彼の腐りきった心に、彼女の涙など汚水に等しかった。
「ないがしろ? 違いますね、信じられないだけなんですよ。昔から騙され、何もかもを奪われた僕に一体何が残されていると言うんですか?」
「そ、それは!」
押され、言葉を失う。
気が付けば手が震え、握っていた手さえも力が入らなくなっていた。
「僕は騙されてはカードを奪われ、誰かに言おうとすればその人が既に息が吹きかけられ味方などいない。綺麗事など戯言の一環に過ぎなかった。殴れば誰かに言え。でなければ殴り返せ。そんな事をほざいたバカがいますが、それはまるで無意味。下手をすれば自殺行為に順じます」
死にかかった瞳からは、何も感じられない。
彼が今までに受けたイジメがどれだけ彼の心から綺麗を奪ったのかが伺えるまでだ。
佐久絵は怖気付いた。ここまで心が死に、尚かつ言葉でも人の事など何も考えず相手を傷つける発言までも平気で言う人など。
しかも彼はそこまで追い詰められてもなお、自殺などには結びつかなかったのが幸いだっただろうが逆に言えば自殺目前で足を停止しているとも言える状態だ。
人の腐った心により幾度もなく痛めつけられた、被害者。それが綺羅星遊丸だ。
「・・・・分かったわ。そこまで言うなら私はこれ以上追求しない」
ゆっくりと離れ、保健室の外へ出ようと足を動かす。
扉を開け、一度遊丸の方を振り向いた。
「けどね、私はまだ諦めない。貴方がそこまで考えるなら、こっちだって考えがあるわ」
それだけを残すと、ゆっくり扉を閉めた。
→→→
佐久絵がここまでするのには理由がある。
遡る事数年前の出来事である。彼女には弟がいた。
その弟は活発で、何にでも手を出すようなやんちゃ坊主であった。しかしそんな活発少年が突如、まるで火を消したかのように沈静化した。
最初は年齢が重なる事によって落ち着きを得たのかと思っていた。が、現実は違った。
彼のクラスにいたワルガキ、それも人をおもちゃとも受け取っているような思考者から虐めを受けていたのだ。
しかもただ虐めるだけではない。彼らの上に兄がいて、その兄は佐久絵と同じクラスの人間だった。いつもカッコつけ、未成年でタバコを吸うなどして度々先生から目をつけられている要注意人物として。
そんな人たちの弟で、しかも根が腐っているどころではなかった。ありもない事実を捏造し、それがいかにも事実であるかのように振舞うような人間であった。
なので、彼女の弟に「お前が俺たちに逆らえば、お前の姉が兄ちゃんたちに襲われる」と脅し続けた。
結果、弟は自分の存在により自分の姉が辛い目を見る責任を背負い、誰もいない公衆トイレの中で首吊り自殺を行なった。
本当はあるハズもない偽りが原因で命を絶ったのである。
その事を知ったのは彼が死んでから数日後であった。
しかし彼らは反省の色すら見せず、むしろ死んで喜ぶべき人だと絶賛していた。
流石の彼らの兄もこれには頭に来たらしく、その人たちが人間不信になるまでの酷い事が行われたらしい。
結局、親が死についての重さと罪についての云々を教えていなかった事が原因であった上に裏で二十歳ぐらいの自称「狂人」によって人殺し、恐喝についての知識を入れ込まれていた事が発覚。
本人は面白半分で教えていたのだが本当に恐喝へと結びつくとは思っておらず、怖くなり自殺を図るも失敗。警察に取り押さえられその場で逮捕された。
この事件は全国に行き渡り、どれだけ子供の理念が周りに影響されるのか。どれだけ道徳と正しい教育が必要なのかと言うのが伝わった事件でもあった。
彼女はその時の姉で、死んで間もない弟の遺体を間近で見てしまった人物であった。
発見したのは彼女で、その場で足が崩れ、泣き叫んだと言う。
彼はデュエルを始めたばかりで、デュエルの楽しさにさえ触れず亡くなった。
1度だけでもいいから、一緒に楽しみたかった。悔やみが彼女を襲い、今も心のどこかでさまよっている。
なので、同じような現状にある遊丸の事がかなり気にかかっていた。
入学当初、上級生から呼び出されては無茶なデュエルで敗北し、リンチを食らい挙句にデッキを没収されと。横暴に晒されながらも必死にそれを自分の中で消化しようとする。
見ていられる訳がない。タダでさえ過去に自分の弟が虐めで心が殺されたと言うのに、それを平然としていられる訳がない。
小さな親切大きなお世話とは言うものの、事前に自殺を防ぐのは親切ではない。だがそれを遊丸から見たら、さっきの言葉通りにしかならないであろう。
諦めている人生に何の意味などない。早く終わらせたい。だから放っておけ。
これが彼の思考である。
根が暗いとはよく言うが、これはダークマターに匹敵する暗さだ。目には見えない、辛さがある。
保健室から出た彼女は、しばらくその場で足を止めた。
何も聞こえない廊下。しかし微かに声が聞こえる。野球などの体育系の人たちの活発な声援だ。
それで明るくなるのならいいが、一向に暗くなる空と気持ち。
唇を噛み締め、手に自然と力がこもった。
「・・・・えぇ、分かっているわよ。追い詰められた人を見て救いたんなんて思う事がただのお節介だって。けどね、私はもう見たくないのよ。何も楽しさを分からないまま死にゆく人を見る苦痛は、好きで味わえるモノじゃないって」
どこにも発散されない苦しみが、彼女の心の中を巡る。
気が付けば、震えが止まらなかった。
→→→
夜。
佐久絵の近くには、小さな三等身のツバメが居座っていた。
これはこの世界での「アバター」と呼ばれる電話などで用いられる「ネットワーク世界での自分」である。
様々な種類があり、中には人ではない何かで登録している人がいるとかどうとか。
そのアバターツバメが、何やら喚いていた。
『ちょっと! 遊丸先輩から何も情報をもらっていないってどう言う事ですか!』
本人が喚けばアバターも似たような仕草で暴れだす。
佐久絵は頬に手を当て、反省の色を見せていた。
「ゴメン。ちょっといろいろとあったから忘れていた」
『忘れていたで済まされる問題じゃないでしょ! 第一、倒れていた生徒は怯えて何もモノすら言えない状態だったし、重要参考人として遊丸先輩から話を聞くとか言っていたのはどこのどなたですか!!』
「だから、ちゃんと反省しているよ。最も、あの場で遊丸・・・・もう一々アレだからゆーるでいいや」
『何ですか、そのゆるキャラみたいなネーミングは?』
「いいじゃん。可愛らしいあだ名だし。それは後にするけど、本来の目的。あの男子生徒2人が何であんな場所で倒れていたか? それと、あの時に現れた謎のモンスターの正体。恐らく相手は1人。その根拠に、あの2人はつるんでろくな事をしないバカだと話に聞いていたからね」
デフォツバメはうんうんと頭を頷かせ、佐久絵は言葉を続ける。
「そしてあの場所に倒れていたゆーる。正直、誰かから襲撃を受けたとは思えないけど、もしもの事があるからねぇ。今は何も言えないわ」
『言えないって。軽く考えれば襲われた1人だと考えるのが自然でしょう。それとも何ですか? あのデュエルを行なっていたのは遊丸先輩とでも言いたいのですか?』
疑い深くツバメは尋ねる。
佐久絵は冷静な声で、言い放つ。
「可能性は、低くないわ」
ツバメは言葉を詰まらせ、佐久絵の顔を睨む。
『・・・・その根拠は?』
「根拠なんてないわ。けど、何となくそんな気がするだけよ。案外予想って的中するモノでしょ? 例えで言えば、何となく応募したけど景品番号間違えていていいやどうせ当たらないしと諦めて応募した結果見事にその景品が当たるみたいな感じで」
『何ですか、その体験談。無駄に運気を消費したみたいで嫌ですよそれ。それはともかくとしましてですね、根拠のない空想なんてただの戯言に等しいですよ』
「それはそうなんだけどね、何にせまずはあの巨大モンスターが一体何なのかと明日の練習試合に備える必要もあるわ」
一旦肩の力を抜き、髪をまとめるとヘアーゴムでポニーテールを作った。
「でもねぇ、練習試合の前に1つだけ。問題が発生しているのよねぇ」
どこか虚ろな瞳になる佐久絵。
『問題?』
疑問視と表情から察する嫌な予感を感じ取ったツバメ。大抵こう言った外見完璧な人は何かしらズレている事が多々あるので、油断はできない。
目に力を入れ、どんな言葉が飛んで来ても驚かない覚悟を身に染み込ませる。
が、
「メインメンバーの白野原(しらのはら)ミスズが風邪で寝込んでいるのよねぇ。確実に明日は間に合わないって言っているし。だからと言って変待暴君の宮上聖也(みやうえせいや)は馬鹿やったおかげでやってしまった骨折で明後日まで何にもできないって。だから実質、私とツバメちゃん。それに享だけの参加となっているわ」
問題以前に、そんな状況となっていると言う事実を今知ったツバメ。
ズッコケ、アバターが尻餅をつく。
『それって本当に大丈夫なのですか!? 滅茶滅茶こっちが不利じゃないですか!!』
ギャァギャァと騒ぎ出す。
しかし耳を向けないどころか反省の色も見せない佐久絵に、その騒ぎは勝手に沈静化した。
項垂れ、どこか呆れを含んだ眼差しとなり、諦めた口調で、
『・・・・で、だから明日遊丸先輩を連れてこようって魂胆なんですね?』
しかし、「へ?」と疑問を抱くような素振りを見せる佐久絵。
これにはツバメは動揺しざるが得なかった。
『ち、違うのですか? さっきまでの流れから、そうなのだと思っていましたけど』
「何をそんな甘い事を言っているの?」
甘い事。
これに深い意味を感じ取ったツバメは、感で大体この人が何をしでかすかを予想した。
『あの、先輩? 流石に脅迫や恐喝はやめておいた方が・・・・』
「そんな事をやっても無駄よ。あの子に言葉で勝てる訳がないから」
だったらどうやって勝つのかと言う疑問が生まれる訳だが、一体どんな方法で連れてくるのかと何通りかを思いつくツバメ。
だが答えに行き着く前に佐久絵の口から直々に、発言された。
「手段がないなら力ずくでよ。享に頼んで、遊丸を拉致ってくるわ」
→→→
嫌な程に静まり返った夜。
無駄な物音さえも聞こえず、足音も虫の鳴き声もしない。
いや、今が本当に夜なのかも疑問に思う程だ。周りは暗く、言うなれば「不吉を呼ぶ夜」とでも言い表そう。
しかも、周りには何もない。否、ここが自分の部屋ですらないとも思えてきた。
遊丸は静かに目を開け、今自分がどんな状況なのかを確認する。
何もない、ただ灰色に広がる空間の真っ只中にいた。これが夢である事には間違いないと思い、何も動じずにボーッとしていた。
その時間は長く続かず、気が付けば目の前に・・・・。
自分がいた。
一瞬の瞬きで現れたそれは、かなりの不機嫌そうな表情をしており、しかも関節を鳴らしていた。
遊丸は怯え、それをただ見つめていた。
すると、もう1人の遊丸はドスを効かせた声で余計に苛立ちを露わにした。
「・・・・お前。マジでざっけんなよ?」
ただビクビクと戦く遊丸。手出しはしないものの、その威圧は並大抵の人が出せるモノではない。
「自分の弱さが当たり前? それ、俺に対して言ってんのか?」
「・・・・ぼ、僕に対してしか言っていな・・・・」
チッ。と舌打ちをし、口を黙らせる。
ビビリは大抵脅されれば手を出さずとも勝手に引いてくれる。雰囲気が怖い人なら尚更だ。
しかし彼の場合、本物の殺気と修羅を見せつけている。これはビビリじゃなくても自称不良でも尻尾を丸めて逃げるだろう。
戦場を知らない一般人がいざ戦場へと行かされその恐ろしさに腰を抜かすようにだ。しかし彼はこの例えで言えば兵士。それも熟練でたくさんの敵兵を地獄に送りつける死神だ。
普通とは違う。何かが、それは何か。
経験。境。人格。
言い出したらキリがない。そこまで彼の背後に見え隠れするモノとは何なのか。
本人にしか分からない、相当な過去が力の根源になっているだろう。
遊丸はやはり顔を崩さず目の前にいる腰抜けを睨んでいると、そこらへんに唾を吐き捨てた。
「・・・・お前が自分だと言うなら、俺はお前だ。他に誰とも言わねぇ。過去に何があったかは知らんが、お前は今のままで良いんだろうな。いや、今のままが良いんだろ?」
鋭い視線と言葉の適当な並べ方に戸惑いを見せるも、脳である程度整理整頓をしてやっと理解した。
「は・・・・はい」
素の答えで言ってしまった遊丸。
それが原因で、もう1人の遊丸の怒りの導火線に火が付いた。
遊丸の髪を掴み、荒々しい声で怒鳴り始めた。
「お前が良くても、俺が納得できねぇんだよ!! 何もしないまま過ごす? 退屈過ぎて死んでしまうわ!!」
どやされ、何も物も言えなくなった。
それが火に油を注ぎ、更に怒りを加速させた。
「お前が気が弱い原因はこっちが知った事じゃねぇ! 俺は退屈でしょうがねぇんだよ! お前が何か火種でも散蒔かない限り、俺はクッソつまんねぇ退屈味わせられなければならねぇじゃねぇか!!」
流石に自分勝手な意見だ。
それを感じて、遊丸は反論の意を表す。
「そんな、自分勝手じゃないですか」
暗い雰囲気を漂わせ、反論させないようにと被害者ぶった態度を取る。
が、相手がそれには通じない。
「あぁ? それは俺に言ってんのかぁ? 良い身分だなぁ。いつからゴタゴト言える立場になった!」
まるで相手の事など聞いていない。
遊丸はただその姿に呆気を取られた。
今までにない、新手のタイプ。他人の意思などおかまいなしに、勝手に話を進めた。
「俺はなぁ、面白みが欲しいんだよ! 根暗で! 怖気付き! 弱虫泣き虫のテメェには分からねぇと思うがな!」
・・・・・。
段々と、遊丸の中から何かが湧き出してきた。
言いたい放題言われ、とうとう本性が露となりかけている。
「・・・・だったら、アンタに何が分かるんだよ」
急にもう1人の遊丸は黙った。
これを機にと、自然と曝け出される本音が止まらないと言うまでに、
「アンタには分からねぇだろ! 劣等感に押され、頭もマトモじゃないバカで! おまけに騙されやすく人を信頼したが故に何もかもを奪われた奴の気持ちなんか! 僕はマイナスの中で生きりゃ良いんだよ! もう放っといてくれ! 嫌なんだよ、優等の身から言われる言葉なんか。悪魔の囁きに等しいんだよ!」
言い終わった途端、さっきまでの言葉に対して何も動じない声が聞こえてくる。
「・・・・それで、お前はその程度で自分に自信をなくしていたのか?」
「・・・・あぁそうだよ。いつもはビビリだのなんだのと言われているけど、僕は怒りを自分の中で消化して弱いフリをしていたんだよ。じゃなきゃ、孤独でいられないから」
「・・・・孤独を望む、ねぇ。その理由は何だ」
「っ!」
瞼が少し痙攣したように見えた。
何かしらの理由があるのは明白だが、今それを問いただしても無駄だとは遊丸は知っている。
「言わなくても良い。お前の暗い過去話なんか聞いていたら、退屈だろうから途中で眠ってしまいそうだからな。んなモン、別の誰かに聞いてやれ」
投げやりな言い方で済ませると、再び殺伐とした眼差しで遊丸を見据え始めた。
「お前が言う劣等感がデッキのせいだと言うなら、俺は仕方ないと思っている。世の中は力こそ正義。奪われて牙を失ったテメェに勝つ手段すら残されていないと言っても過言じゃないからな」
言われ、グっと心に言葉が突き刺さる。
だが、と遊丸は言うと。
「お前が変わるんなら、俺は協力してやろう。もしお前がこれを機に何かが変わり始めるとかなったら、少なくとも俺は退屈せずに済む」
何の話かサッパリ理解できない。と言うような顔をするも遊丸は、説明は面倒いと付け加え。
「何にせよ、今のままのデッキじゃどんな雑魚でも勝ち目はない。んな魔法も罠も入っていない通常モンスターオンリーのデッキじゃ、どんな相手でも太刀打ちできる訳がない。そこまで根まで掻き毟った野郎どものせいだろうがな」
ヤレヤレと首を横に振り、下げていたバッグの中から何かを取り出した。デッキケースだ。それもボロボロでかなり使い込んでいるようで魂を感じられる。
その中からデッキを取り出す。そして遊丸の手に、それを覆わせる。
「お前が信じれば、面倒な事は起こらずに済む。むしろ面倒事は俺に任せろ。デュエルでボコボコにした上に暴力的になってくれば俺が返り討ちにしてやる」
営業スマイルの満面な怪しい笑みを浮かべ、とりあえず安心感を与える。
遊丸はどうすれば良いか分からず、そのままその場で立ち尽くすしかなかった。
→→→
やる事が終わり、夢の中からもう1人の遊丸が出てくる。
実態はないが、そこにはいる。まるで幽霊のように半透明だが、勝手に近くにある椅子に腰を下ろした。
『・・・・自分を劣等として見ている俺、か。こうも生き方が違うと、弱々しい自分がくだらないと感じるな』
腕を組み、何様かと聞かれても俺様と返す傲慢さをうかがわせる。
『しかし、退屈せずには済みそうだ。俺が持つ可能性がコイツにもあるのなら、やる事は決まっている』
ニッヒと悪巧みを企んでいるのが見え見えな笑みを、彼は浮かべていた。
『さっきも言ったが、お前が自分の弱さを嫉妬するのなら俺が力を貸してやろうじゃねぇか。もしお前がそれなりの覚悟を抱き、かつ誰かを受け入れる心を持つのなら、な』
そこにあるのは可能性。ではなく、ただ暇を持て余すからやってあげます。と上からの視線を含んだバカの余計なお世話であった。
だが、そのバカは遊丸の姿を見て。なぜか自分の孤独と照らし合わせていた。
『・・・・チッ、何がマイナスだ。お前が掴んだチャンスをないがしろにしてんじゃねーよ。お前が望まなくても俺が望む。戦いと面白みさえも否定する言葉だぞ、それ。可能性がないのなら、俺が見せてやろうじゃねーか。諦めクソ野郎がただのクソ野郎と化するのも、時間の問題かもな』
言葉は汚いものの、彼のプライドに火が付いた。
最も、救ってやるとは言っていないのだがそれはただ恥ずかしいだけなのか? はたまた本気でそう言っているのか?
どちらの可能性も指摘できないまま、夜は過ぎていった。
→→→
次の日。
明け方の日差しは何よりも美しく、眩い光として遊丸の視界に入った。
眩しさで目蓋の裏が光り、目を開けずにはいられなかった。
まだ目覚ましがなっていない。となれば、別に起きなくてもいいだろうと自分で判断し毛布を頭からかぶり光を遮った。
今日は土曜日。週の疲れを取るために堕落する日だ。
遊丸はまるでここが自分の楽園だとも言うように安堵の表情で寝っ転がっていた。
日差しのせいか。段々と部屋が暖かくなり、快適な気温へと変化して行く。ポカポカとする陽気、機嫌もそこそこ良くなってくる。
昨日の苛立ちはなくなり、ご機嫌な雰囲気を漂わせた。
・・・・と、手元に何かがあるのに気がついた。
何かと思い、毛布から顔を出し確認する。
それが何なのか。知った瞬間に、今までの安楽的な思考が一気に苦痛の地獄へと変貌を遂げる。
デッキケースだ。それも昨日の、または今日の夜に見たあの夢と同じような。ボロボロのデッキケース。
愕然とした表情で、それを見つめた。
「ど・・・・どうして、こんなモノが。僕は一度もこんなモノを所持した覚えはないのに・・・・」
一生懸命思い返しても、当てはまる記憶など存在しない。
何度もそれを見つめては、深く悩む。
一体どうすれば、ここまで頭を抱えるまでに至るのだろうと自分でも驚きだ。下手すれば溜息だけで地球温暖化が進むかも知れない。
思いっきり溜息を吐き、肺の中の空気を全て抜くと心臓を落ち着かせた。そして改めて冷静に、デッキを開けて中身を確認する。
見た感じ、魔法使いを主体としたデッキ構築だ。それにほとんどの魔法カードは「魔導書」と書かれてあり、モンスターも「魔導」と言う名で大半締めくくられていた。
手短に見終えようと手と目を動かした。と、1枚だけ、目に止まるカードがあった。
十字架だが、上の部分が円を描いている絵柄のカード。そして名前を見ると、腰を抜かした。
「こ・・・・これは!?」
それはこの世界で「デュエルモンスターズの魔法三大神機」と呼ばれている伝説上でしか現れた事がない魔法カードの1つ。その名も「死者蘇生」である。
他にも、その神機の中に含まれている最強の破壊カード「ブラック・ホール」「強欲な壺」とあるが流石にそれは入っていないようだ。
だが、最低でもこの世界における「伝説」のカードが入っているのだ。驚かない方がおかしい。
改めてその効果を確認する。どれも1枚でデュエルを左右する重要なカードである事は間違いない。墓地からのノーコストリボーン。噂ではもう2枚の効果は、全てのモンスターを闇へと吸い込む最悪の効果。そして強欲で手札を増やすと聞いた事があった。
「で、でも何でこんなカードが。まさか偽装品じゃ・・・・」
遊丸は疑い深そうに見つめる。
このご時世、偽物で商品を売る愚か者などたくさんいる。見た目で判断しても、実際使うとなった途端にエラーが発生し偽装カード使用によるルール違反で負けるケースも少なくない。
法律でカード偽装の禁止はあるものの、とある一部の組織が今なお行なっている。
なので、このカードも同じように偽装かと疑う。だが、それを調べる手段は存在する。
遊丸は机の上から充電していたデュエルプレートを腕につけると、カード検索モードへと切り替える。
このモードは本物か偽物かの判別を行う専用のアプリで、プレートにセットする事で検索をかけそれが普通のデュエルで使用できるかどうかの審査がかけられる。
偽物だったらブザーが鳴り、本物だった場合は専用のアラームで知らせてくれるのである。
遊丸は恐る恐る「死者蘇生」のカードをプレートにセットしてみる。
数秒間カードを読み取る機能が働き、デュエルネットワークに検索を用いた。
しばらくして、プレートの方から「ピンポーン」と言う音が耳に届いた。つまり、本物だ。
唖然と、死者蘇生のカードを見出した。
本来このような貴重カードは博物館や研究用として大学の方にあるのが自然だ。実際、アメリカのとある博物館では「デュエルモンスターズ罠三大神機」の1枚、「聖なるバリア―ミラーフォース」が厳重に寄贈されているまでである。
しかもこのようなカードはこの世界で生み出されたモノではない。別の世界で生み出され、この世界に迷い込んだモノだと言われている。
だとすれば、このカードらがこの世界のカードではないと言うのは推測を立てれば分かる事だ。
おまけに、何1つとして見た事のあるカードなんてない。だとすれば紛いもなくこのカードらは、何かが原因で自分の手元に現れたカードだと思われた。
本来ならこんなカードを手にした瞬間、自分の力と履き違い実力を相手に見せつけ威圧を見せるのが一部の人間がやる事だ。
しかし、だからと言って手に入れた力に自惚れる遊丸ではない。
「け、けど。どうして僕の元に・・・・」
まず、その原因を突き止めるために思い返し出す。
つい昨日までこんなデッキを持っていなかった。だとすれば、夜中の間に誰かが渡した可能性が浮かび上がる。
だがどうして? 思い悩もうとする遊丸だったが・・・・
「遊丸、朝ごはんよ。早く降りてきなさい」
自分の母親が呼ぶ声が耳に届いたので、一時的に中断した。
あとで考えれば良いや。今日はたっぷりと時間がある。
しかし後に、彼は後悔した。
今日の自由など、無に等しかった事。そして昨日佐久絵に出会った事。その2つが、今日、彼を地獄のどん底へと突き落とす最大の決め手となった。
→→→
七色学園を含む全ての学校及び専用の施設には、地下部屋が完備されている。
ここには大型のコンピューターが、マザーコンピューターと思われるモノから小型の補助用のコンピューターまで備わっている。
その近くに、大型のカプセルらしき物体が横に4台並んでいた。大きさからして人が入れるまでのスペースがあり、中の様子は伺えないものの恐らく眠るかそれに属する事をやる為の機械だろうと推測が立つ。
と、見ればその近くに人が数人いた。
皆がここの制服を着ているのを見れば、ここの生徒だとすぐに理解できた。
その中の1人、背の高い桃色の髪の女性。佐久絵が腕を組みながら何かを待っていた。
「・・・・・・・・」
ただ言葉もなく、目を瞑りジッとしている。
そこへオズオズと、黒くまるで「カラス」のような外見を持つ大和を人で表したような少女。ツバメはその持ち前さえも縮こませながら尋ねる。
「あの、佐久絵先輩?」
「何、ツバメ」
返ってきた冷血な言葉に多少圧されるも、すぐに切り返し。
「今日は練習試合ですよね? 相手も近辺では名が知れている、嵐山高校でしたっけ? 貴女が何とかウチの顧問を説得して練習試合をお願いして何とか許可を得た」
「そうよ。で、何か問題でも?」
それだけを返し、言いたい事を今まで溜めていたツバメは思いっきり大声で・・・・。
「ありますよ!! そりゃ相手はそこまでしてやっと戦うと言った相手ですよ! それなのにメンバーは不幸ばかりで挙句この学園で雑魚と呼ばれている遊丸先輩使おうだなんて、正気の沙汰も定かじゃありませんよ!!」
ここが地下だと知ってか知らずか。声の響きは良いモノで、下手をすれば地上まで聞こえていてもおかしくはない。それどころかこの場にいる自分を除いた人たちが耳を押さえるまでであった。
現にここで作業をしている生徒数名と顧問である先生が涙目で、耳を押さえていた。
だが、佐久絵は気にせず涼しい顔でさっきと何も変化はない。
「・・・・正気の沙汰も、定かじゃないねぇ。それは貴女にも言える言葉じゃないの?」
肩まである髪を弄りながら、彼女はその視線をツバメに片目だけ向けた。
「雑魚だからと下に見ていたら、いつか痛い目に遭う。これが返り討ちの法則よ。案外力を蓄え、それを未だに解放していないとなれば綺麗な話よ」
「しかし、遊丸先輩はレアカードを根こそぎ奪われているとの事ですが。一応倒れていた男子生徒の話を聞く限り、ロクなカードを持ち合わせているとは思えません」
それがデュエルモンスターズでの法則だ。
例え強力な力を自分が秘めていたところで、結局はカードの強さで分けられる。それがこの世のルールである。
弱者は強者に屈さなければならない。そんな間違った発想の下で成り立っている。
奇跡など起きようが、結局そのターンで決めなければ返しのターンで戦況を覆されるのが厳しさだ。例え足掻いたとしても無駄足にしか終わらない。
それを十分に知っているハズなのに、どうして彼女がそこまで遊丸にこだわるのか? ツバメは理解できなかった。
・・・・と、近くから足音が聞こえてきた。
ツバメと佐久絵は音源が何なのかを知るため、そっちの方を振り向いた。
なぜかそれが何なのかを知った瞬間、ツバメは言葉を失いそれに対して目を見開いた。
「・・・・あの、佐久絵先輩?」
「なに?」
「アレ、何ですか?」
佐久絵は不思議そうな顔をして、
「見ての通り、享よ?」
「いいえ、そっちじゃありません」
愕然とツバメは享、の肩に担がれているそれを指した。
「・・・・何か?」
享が首を傾けた瞬間に、ツバメの限界が来たようで・・・・
「何か? じゃないでしょ!! そこにいるの遊丸先輩ですよね!? 何で享先輩の肩に担がれているんですか!?」
佐久絵は「あぁ、それね」と苦笑しながらハッキリと。
「聞いていなかったの? 昨日、言ったじゃない。享に頼んで、ゆーるを拉致ってくるって」
「本当に実行するとは思いませんよ! ってか遊丸先輩気絶していますよね!? 一体何をしたんですか享先輩ぃ!!」
ツッコミで激しい運動をしたみたいに息を切らし、未だに表情を崩さない犯罪予備軍2人を睨む。
当の本人は気絶しており、何も喋らない。
この状況で反論の意を示したのは、享だった。
「・・・・勘違いするな。これは、アレだ。ついつい可愛かったからちょっと持ち帰っただけだ。遊丸って名前だけしか聞いていなかったし、あの時だって不良2人を運ぶために見ていなかった」
「冷静な表情崩さずに言っても結局やっている事は犯罪以外の何者でもありません!! ってか可愛いからと持ち帰った!? ここの学園の女子に知られたら全員ドン引きしますよ!」
それでもなお、無言を通す享。
外見良し、ちょっと不思議系でクールな雰囲気醸し出しながら実際は小さくて可愛いいモノ好きの享。それで女子からのウケがないハズがない。
そう言うも、一応遊丸も一部のお姉様方からの人気はあるようで雑魚と認識されながら女子が手を出さなかったのは、そっちの圧力が意外にも強いからだとは遊丸を含め全員知らない裏の事実である。
もしこれがそのお姉様方に知られたらどんな反応を示すのかは大体の予想が立つものの、今は誰一人として気にしない。
知らない事実など、知らぬがマシだからである。
話がズレたが、ツバメの言葉にそっぽを向く享。
視線を上の空に向け、しかし地下なので天井しか見えず結局は天井を見上げて気にしない姿勢を見せた。
が、哀れみを含んだツバメの純粋な目には敵わず。疲れ果てたような仕草で担いでいた遊丸を下ろした。
「・・・・知れた事。俺は俺の筋で事を進ませる」
「カッコよく言ったようにしていますが、行動と言葉を比べる限り全然カッコよくありませんよ!! むしろこの人大丈夫なの? と心配しますよっ!!」
しかしツバメの言葉など無視し、享はジッと遊丸を見つめていた。
いい加減起きない遊丸。佐久絵は頬をバシバシと叩き、無理矢理起こさせる。
純粋でもなく、ただ疲れ果てたような眼差しを目蓋の裏から見せる遊丸。しばらくボーッとするも、すぐに状況がどんなモノなのだか把握できていないようで。
「え、何ここ? どこですか?」
慌て、パニックとなった。
そんな姿に、2人は子供を見るような目で愛でていた。
「・・・・やっぱり小動物は最高」
「あぁ、やっぱり子供は良いわぁ」
「2人して何サラリととんでも発言しているのですか!? まさか貴方達サド!? 救いようの無い程腐れまくれまくった心をしているのですか!?」
やはりと言うのかされどと言うのか、優秀な人ほど変態は多いと言うモノだ。
一体彼ら彼女らに常識と言うのがあるのかをそろそろ危険視しても良いのでは。とツバメは思い始めた。
と、澱んだ2人を無視するように遊丸はツバメの存在に気がついたようで。
「・・・・あの、誰ですか?」
若干まだ怯えながら、尋ねる。
純粋な瞳ではないものの、流石にこの状況で答える術を見いだせないツバメは本格的に困り果てた。
しかも頑なに2人を見ようとしない。当たり前かとツバメは納得し、少なくとも自分が何をすべきかを教えようと思い。
「遊丸先輩、悪い事は言いません。ここから逃げてください」
え? と遊丸は顔を引きずらせ。
「どう言う意味、ですか?」
「原因は、あの汚れた心を持った2人に訪ねて下さい。私はこれ以上犯罪者の肩を持ちたくありませんので」
そうは言うも、とりあえず自分が今危険な状態にいるとしか理解できていないようで。
「・・・・出口は、どこですか?」
自分のすぐ後ろに求めているモノがあるにも関わらずそう訪ねてくる。
もう疲れた。とツバメは頭を抱えて壁にもたれかかった。
ようやくいつもの調子を取り戻した佐久絵が、遊丸の近くへと寄って来る。
目をしかめ、警戒する。
「・・・・何ですか、先輩」
「言うわね。あの時は初対面でおどけていた貴方が、どうしてそこまで辛口を言えるのかを私は不思議でしょうがないわ」
遊丸は返す術がなく喉に息を詰まらせる。
「それはアンタには関係のない事でしょう」
「それが本当の顔ね。いつもは敬語で慕っているように見えて、実際は影から飼い犬のごとく睨んでいる。それはなぜか聞かせてもらおうか?」
笑顔でそう言ってくる佐久絵。
しかし遊丸は口を開こうとせず、しっかりと閉じた。
絶対に言おうとしない姿勢。このままじゃダメだ。この子は案外頑固な姿勢を崩さない。そう悟った佐久絵は、視線で享に伝える。
享は少し考えるも、仕方ないと自分に言い聞かせて動く。
遊丸の腕を抑えつけ、両手を使えなくした。
「な、一体何をするんですか!!」
しかし享は視線だけを逸らし、
「・・・・すまない。佐久間先輩の命令を無視すれば、こっちが痛い目を見る。あとでパフェ辺りぐらいは奢るから今は我慢してくれ」
「・・・・あの、先輩?」
涙目で、必死に訴えかける遊丸。
ツバメの方を振り向き、助けを求めるも彼女もまた口笛を吹いて知らんぷり。
「・・・・ゴメン、遊丸先輩。助ければ、私が痛い目を見るから今だけは我慢してね」
この場に味方がいない事を確認させられ、恐怖に突き落とされた。
一方の佐久絵は手をワキワキと動かし、徐々に距離を縮めていた。
「ちょっと、一体何をするのですか!!」
「何って、そこまで頑固な姿勢を見せられれば、こっちだって考えがあるわよ。忘れていないかしら? 私は言ったハズよ?」
満面の笑顔の裏に淀めく影。
簡単にこの先輩に逆らえばどうなるのか。その瞬間、お仕置きが待っている。そんな恐怖を既に植え付けられているのが、この2人だと瞬時に理解した。
気が付けば距離はすでに目と鼻の先。遊丸は佐久絵が悪魔に見えてきた。
そして脇の下辺りに手をやると、動かし始めた。
「うりゃ」
「にゃいっ!?」
ビクっと跳ねる。
良い反応に、うっとりと眺める佐久絵。
「な、ななななななななな」
みっともない声を出したと知った遊丸は、顔を赤らめ始める。
「虐めていたあの2人は、貴方が弱々しそうだったから手懐けようとしていたのは見えているわ。けど、案外そっちの顔も持っていたのならちょっと弄りたくなってきちゃったわ」
コショコショと擽り始め、必死になって声を出さずにする遊丸。
が、限界はすぐに来た。
「にゃにょにょー!」
「日本語で喋りなさい」
「ゆ、ゆるしふぇくりゃしゃい!」
しかし聞く耳持たず。ウリウリーと更に手を早める。
「は、はりゃりゅりゃりぇりゃー! ひゃくえひぇんふぁい、ふあくみゃりゃ!!」
ちなみに「あ、悪魔だ! 佐久絵先輩、悪魔だ!」と言っている。
「ほらほら、これで終わりじゃないわよ?」
ゾッと何か感じるも、くすぐったさで全てが吹っ飛んでしまった。
→→→
バタンと、床に倒れ込む遊丸。
息を荒げ、捨てられた子犬のように佐久絵を見上げていた。
「話してくれるよね? 貴方の本心を」
手をワキワキとさせ、脅しをかける。
首を横に振ろうとしたが慌てて縦に振った。
「は、ハイ!!」
そして距離を置くと、近くにいたツバメから「よく耐えたねー」と頭を撫でられた。
それを恥ずかしそうにし、遊丸の口が開く。
「・・・・言ったとは思いますが、僕は脅されたりして強者に抗えませんでした。実際、歯向かおうとしたものの、殴られ、地面にひれ伏せられた事がありました」
ピタリとツバメの手が止まり、遊丸は沈んだ表情を更に濃くする。
「その時、僕は思いました。結局弱者は強者に屈するしかありませんと。結局僕は、弱いままだと。そりゃ、強くなろうと努力はしていませんよ。けど人は生まれた時から、スキルと言うのは決まっていますから」
それは十分に理解できる。そうツバメは思った。
けれど、それで終わりで良いのだろうか? どうしても強くなりたかったら、周りに助けを求めるとかしてどうにかならなかったのだろうか?
この時のツバメは少なくとも疑問しか抱かなかった。
しかし、事情をある程度知っている佐久絵は溜息を吐きながら。
「・・・・ここで誰かに頼れば良いじゃない。とは言えないわね。デュエル記録を見させてもらったけど、貴方の周りには敵だらけね。流石の私でも、20対1の対決なんて負ける未来しか見えてこないわ」
え? とツバメはキョトンとなった。
それは正に苦戦モノ。例え1人2人倒しても、3人4人で敵討ちに来る。あまりに非道で汚いやり方である。
遊丸はその状態で今まで過ごしてきた。そりゃ人間不信になってもおかしくない。
それなのになぜ学校に通っていたのか。不思議でたまらなくなる。
「・・・・分かったでしょう。僕は孤独でいたい。チームデュエルだか何だか知りませんが、連携なんて僕に求めても」
言いかける。しかし佐久絵の一言で、遊丸は言葉を失った。
「えぇ、分かったわ。けど、それがどうしたの?」
鶴の一言とはこの事だ。一緒に聞いていた享やツバメでさえも唖然としてしまった。
付け足すように、佐久絵は続ける。
「私だって、そのぐらいは理解できるわよ。けどね、立ち止まり続けても何も始まりはしない。むしろ動けなくなるばかりなのよ。貴方の過去に何があったのかは深追いする義務はないわ。けど、これだけは言わせて」
ギッと目力を強め、佐久絵は自分の思いを放った。
「いつまでも目を逸らし続けて、一体何が得られるの? 孤独を通しても、居場所なんてどこにもない。逆に自分を追い詰めてしまうものよ」
「けど、先輩に僕の気持ちが分かる訳が・・・・」
反論を述べようとするも、それはまたもや佐久絵の言葉によって途切れた。
「・・・・痛い程分かるわ。同情される筋合いはないけど、私の弟はいじめによって命を絶ったわ」
「え!?」
遊丸は動揺する。
他の2人は知っていたようで、苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。
「だから私は誓ったの。もう誰も、孤独のままにはさせないと。1人で悩むよりも全員で悩んだ方が助かる術があると!!」
その瞬間、遊丸は考えた。
この人の言葉、表情に偽りなど見えない。ともなればこの過去は本当だと分かる。
「・・・・でも、変な話よね。全然関係ない私がこうやって説得しているのは。でもね、私はもう嫌なのよ。誰かを失い、目の前に救える人がいるのに救えないなんて」
気が付けば、佐久絵は大きな瞳から涙を零していた。溢れんばかりのそれは、頬を伝って下へと落ちる。
これには動揺し、どうすればいいか分からずあたふたとしだす。
しかし佐久絵は涙を拭き取ると、さっきまで濡れていた顔に笑顔を咲かせた。
「でもね、私はそれでも笑うわ。いつまでもイジイジと過去を引きずっても、何も起こりはしないもの」
「っ!!」
遊丸の心のどこかで、何かが割れるような感触がした。
佐久絵が伝えたかった事。それが何なのかを理解した上で、心の中にあった彼を束縛する何かが壊れたのだ。
遊丸は思った。
確かに先輩の過去は耐えられるモノではない。言いながら涙を見せたのが何よりもの証拠だ。けど、どうして弟を失ってもなおこうやって元気でいるのだろう。もしこれが彼女の強さなら、僕は浅瀬よりも浅い事柄を気にしていた。
人の命は決して軽くはない。それなのになぜ彼女は、笑顔でいるのであろうか?
それを考えても、恐らく彼女の事を知らない僕は答えを導き出せないであろう。なら、どうするべきか。
遊丸は決心し、暗いながらもどこか炎の灯った目と変わった。
「・・・・僕はまだ、貴方がたを信じた訳じゃありません。でも、先輩の強さに興味を持ちました。なぜ先輩は今、笑顔でいられるのか。僕が導けなかった何かを見つけ出すために・・・・」
アレ? と遊丸は疑問を抱いたまま固まった。
「・・・・何で僕、ここに連れて来られたのかまだ知らないんだった」
少なくともツバメだけはその言葉にずっこけて尻餅を打った。
「知らないのですか!! いや、知らなくて当然ですけどね!」
限りなく正論に近い正論だ。誰も反論の意など示さない。
当の佐久絵も「あっちゃー」と頭に手を当てていた。
そんな沈黙を崩したのは、ここに近づいてきた人である。
地下室へと歩いてくる音が聞こえ、誰かと思い振り返る。そこには、女性がいた。
白い研究員のような服に身をまとい、下にはタンクトップ。更に誰がどう見ても短すぎるミニスカートを穿いていた。
一歩動くだけでも限りなくアウトに近く、遊丸はそっぽを向き享は最初から興味なさそうにどこかを見ていた。
トレードマークと思える銀髪ストレートの頭をボリボリと掻き、気だるそうな言葉を吐く。
「んあ゛ぁ、だっりぃー。クソッ、こんな休日に何でガキどものためにわざわざ学校に出向かなきゃならんのだい。っつーか、少し寝坊して遅れてきたが、まだ滑り込みセーフってところだろう」
やる気すら見せない言葉に、一応教師だと思うがどこからどう見ても教師と思いたくない姿に誰もが溜息を吐いた。
遊丸だけ察せないままポカーンとしている。
「・・・・あの、変態先生?」
佐久絵がそれを言った瞬間、変態先生と呼ばれた女性は怒り出す。
「んだとぉ! それが教師に向かって言う言葉か佐久絵!! あたしにぁちゃんと返帯鈴(ぺんたいすず)って名前があるんじゃー!」
「先生、へもぺも変わらないと思います。ってか酒臭っ!! 貴方は一体今までどこを飲み歩いていたんですか!?」
佐久絵は返帯に近づいて、鼻を押さえる。
この教師はこの学園で一番適当かつだらけている子供に見せたいダメ大人の見本。しかも年下好きでこれまで手を出した生徒は数知れず。の変態である。
しかしデュエルの腕は学園一で、右に出ようなら完膚なきまで叩き止めされる「最強」でもあった。
だが性格が全てを壊している、言わば「バカ」であった。
「・・・・あぁ、ちょっと酔っ払いのオヤジ捕まえて奢らせていたんだわ。わっはっは。んで、私はタダ酒飲んだっくれた後、オジャンしてきた。最高だろう?」
今頃そのオヤジたちがどんな運命に遭っているのか。考えただけで呆れしか出なかった。
「・・・・んで?」
返帯は遊丸の方へと視線を向けた。
「この明らかに弄ったら面白そうなガキは何ぞ? もしかしてあたしのおもちゃにしても良いのか!」
「ダメに決まっています!! アンタなんかに渡したら、遊丸先輩は廃人と化して帰ってくる未来予想図しいか立ちません!!」
激しいツバメの抵抗に、腕をぶらつかせ「わーかったわかった」と適当に振舞った。
「じゃぁ何ぞ? 仮のメンバーか? それとも・・・・」
「正式なメンバーです!」
ハッキリと、佐久絵が断言した。
すると返帯は「ほぅ」と意外そうに遊丸を見つめると、ニヤニヤと気持ち悪い分類に入る笑みを浮かべた。
「確かにコイツからは、何かとてつもない何かを感じるなぁ。特に、内側にいるそれとか」
「っ!?」
察され、動揺に溶け込む。
「さ、さぁ。一体何の事やら・・・・・」
「ふーん、誤魔化しても無駄だよ? あたしにぁ分かるんだよ。隠しきれていない殺気と感情がね。どう見てもあたしを警戒あるいは引いているようにしか思えないがねぇ」
「あ、引かれているって自覚はあるんですか」
言われる。が、そんなどうでもいい事は放っておいて。と返帯は話の道を無理矢理変え。
「コイツがメンバーなのなら、一応これで部活は成立だ。良かったな、お前ら」
そうは言うが、誰一人として喜んでいない。
果たしてこれで良いのかと遊丸は思ってしまうも、心無しか享が「わーい」と感情を含んでいない喜びを表していた。
「お前ら、あとで覚えておけよ。しかし、今から始めるデュエル、そこの子犬君には教えているのか?」
いいや、と遊丸を除く全員首を横に振った。
ちなみに遊丸は「こい・・・っ」と呻いていた。
「・・・・いいえ、今から教えようとしていたところですのでご安心を」
享が静かに告げた。
話について行けていない遊丸は目を丸くして「え・・・・?」と呟いた。
「まぁ、アレです。今回我が校でも取り入れる事になりましたデュエルを、やろうとしているのです」
ツバメが補足し、佐久絵が付け足す。
「ゆーる、これから行うデュエルはチーム力と戦術を取り入れたデュエルよ。だから私に、力を貸して?」
天使顔負けの光り輝く笑顔。
それでも、重要な内容は聞いていない。
「えっと、そのデュエルと言うのは・・・・?」
すると返帯は、パソコンをいじくりながら答えた。
「プラットンデュエルよ」
これが、これから始まるプラットン{小隊}デュエルと、この世界が一体何なのかを知る物語の始まりであった。
そんな訳で、途中のおかしい文章を多少訂正しながら投稿します。やっとの思いで・・・・いや、Pixivの時よりはまだマシか。勢いで一気に十話まで投稿した日もあったからなぁ。低スペックパソコンで(今もだけど)
はてさて、次回はプラットンデュエルと、物語が始まります。ちなみに今は疲れ果てておかしなテンションになっています。多分後で後悔するような気がします。ってか毎日が黒歴史です。
そんなTagaですが、これからもよろしくお願いします。
それでは次回に向けて、デュエルスタート!!