カースド・メモリア 〜The Cursed Memoria〜   作:亜美

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Memory-1【邂逅 〜First Curse〜 】

「はぁ…。」

山際に沈んでいく夕陽を見ながら、中條工太郎(なかじょうこうたろう)はため息をついた。

「金曜日なのに…、なんでこんなことに…。」

彼は今、遅刻過多の罰として、反省文を書かされているのだ。

「いや、しょうがないよ。マナミちゃんの面倒もあるし、そもそも僕の家はここから1時間は掛かるから、遅刻が多いのは仕方がないんだ…。って、言い訳してる場合じゃない!早くこれを仕上げないと、檜原(ひのはら)先生に怒られる‼︎」

「あら、よく分かってるじゃない、中條君。その調子で、馬車馬の如く書くのよ。」

独り言を聞いていたのか、廊下から教室の中に向かって、担任の教師—檜原(はるか)が声を掛けてきた。

「せ…、先生…。」

あまりに唐突すぎて、思わずたじろいだ。

「うーん…、次第点ってところかしら。まぁ、規定のラインまでは書けてるから、もう帰ってもいいわ。ただし…、次また遅刻したら、今度は廊下を全力で雑巾掛け、してもらうわよ。」

「は、はい…。」

 

「もうそろそろ、最終下校時刻の時間になるわ。さ、遅くならないうちに、早く帰りなさい。」

「失礼します、檜原先生。」

校門を出て、家路に着く。

「はぁ…、やっと終わった…。」

チラッと腕時計を見る。時刻は午後6時25分。遅くとも8時までには帰れそうだ。

ここから最寄りの駅までは15分掛かる。そこから電車で30分、そして降りてから歩いて10分ほど。更に駅前のスーパーで買い物をしてから帰るからそのぐらいだろう。

工太郎は、家で腹を空かせているであろう"妹"の為にも、早めに帰ることにした。

 

工太郎が住むこの街—杉岡(すぎおか)市は、都心部から1時間ほど離れた郊外にあり、その立地から、副都心としての役割を担っている。

街の中央部は、鷺川(さぎがわ)二乃川(にのかわ)という二つの河川が削って出来た河岸段丘の上にあり、その為に徒歩での移動を困難とさせている。

故に、市の規模と相まって、ここの住人は電車か自家用車での移動を強いられているのだ。

 

『まもなく、ホームに電車が参ります。黄色い線まで下がってお待ちください。』

 

いつも通り、電車に乗り込む。

イヤホンを耳に付け、ウォークマンで曲を聴く。

眼下に川が見える光景は、曲と合って、幻想的な雰囲気を醸し出す。

ターミナル駅である杉岡中央駅で乗り換え、家を目指す。

 

『次は、終点、篠崎(しのざき)でございます。足下に気を付けて、お降りください。』

 

「んぅ…、っは⁉︎ …寝てた?まぁ、終点駅が最寄りだから別にいいけど。…さて、今日は何を作ろうか。週終わりだし、カレーがいいかなぁ…。」

夕食の事を考えながら、電車を降りる。

 

「ついいろいろと買ってしまった…。いや、特売品だったからよかったけど。…で、今は何時かなぁ…ってヤバい!8時まであと5分だ!早く帰らないとマナミちゃんのお腹がマズいことになる‼︎えーっと…、確か近道が…、あった‼︎」

工太郎は迷うことなく路地裏に入って行った。

 

—この選択が、今後の運命を決めるとも知らずに。

 

「あれ?ここ、どこだ…?」

慣れない道と街灯のない暗闇の中で彼は迷っていた。

「はぁ…、やっぱり、普段通りの道で帰ればよかった…。」

暗い道を彷徨っていると、彼はあることに気が付いた。

「まさか…、行き止まり⁉︎」

慌てて引き返そうとした。

 

ガンッ‼︎

 

「痛っ⁉︎」

冷たく硬い、"何か"に足を取られた。

思わず足下を見る。

「人間の…、足?」

暗闇でも分かる白い肌、そして少し骨ばった形。

それは、明らかに"人間の脚部"だった。

 

—瞬間、全身に寒気が走る。

工太郎は、今朝のニュースを思い出した。

 

『今朝、杉岡市内で、女性と思われる惨殺遺体が発見されました。遺体の頭部には損壊が見られる為、身元の特定には至っていないとのことです。』

 

まさか。

その、まさかなのか⁉︎

 

「う、うわぁぁ…。」

理解が少し遅れて追い付き、その結果としてその場にペタンと座り混んでしまった。

と、その時、その足が、()()()()()()()()()()動きをした。

そのままの姿勢で後ろに下がる。

そして、月明かりが刺すところまで来た時、その"何か"が姿を現した。

 

一言で言うならば、"異常"。

人間の女性の裸体。

ただし、頭部は、()()()()()()()()()()()()()()スッパリと無い。

そして、腹部には、縦に切れ目が入っている。

 

そんなものが、地上から数mは浮いているのだ。

「—!」

最早、恐怖で声も出せない。

"何か"は、ギチギチと音を鳴らしながら迫って来る。

ゆっくりと、かつ確実に。

—ああ、僕はここで死ぬんだ。

頭の中でそう考えた。

—ごめん、マナミちゃん。もう、君の世話をすることは出来そうに無いや…。

心の中で謝る。

 

しかし、運命というものはどう動くかは分からない。

 

我が使い魔よ、速やかに活動を停止せよ。(Stop your moving, my dolls. Right now.)

 

その"何か"のさらに上空から、声が聞こえる。

「え…?」

頭上から、人影が降りて来る。

「すまない、私の"人形"が迷惑をかけた。—ところで、お前は私を倒しに来た者か?」

栗色の髪に緋色の瞳、赤い外套の下は黒のドレス。

そんな出で立ちをした女性が、そこには居た。

「あの…、どちら様ですか…?」

遠慮がちに聞く。

「ふむ…、その反応だと、本当に何も知らないようだな。詳しい事情は、今からでも話したいところだが…、それよりも先にやる事がある。ほら、"アレら"が見えるか?」

彼女が指差す先、そこには、正気の無い歩き方をした人型のモノ達が居た。

「あ…、あれは…?」

食屍鬼(グール)だ。まだ脳が形成されていない、"成り損ない"だな。数にして数十体…、大したものだ。親はさぞ強力なんだろうな。」

彼女はそう答えた。

「さて…、あの程度なら、三体ぐらいで足りるだろう。—出でよ、我が使い魔。(Come on, my dolls.)

さっき見た、あの"首の無い人形"が二体現れた。

起動し、捕食せよ。(Set, and eat.)恋食餓姫(Love La Doll)!」

"それ"は、目にも止まらぬ速さで食屍鬼達に突っ込むと、()()の切れ目をガバッと開けて飲み込み始めた。

肉を断つ音が聞こえる。血の臭いがする。

一言で表すなら"地獄"。

そこには、阿鼻叫喚の光景が広がっていた

やがて、辺りが沈黙すると、そこには"例の人形"しか無かった。

 

「…さて、そこの人間。まだ自己紹介をしてなかったな。私は、ダルヴ=エリザベス・スケーリア・ロゼリオ。()()()だ。私のことは、エリザ、と呼んでくれ。」

—この日、中條工太郎の平穏は崩れ去った。

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