さあ!始まらない!   作:まだはげ

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前島での出来事
黒騎士を追い、ルーマシー群島へと降り立ったグラン達はシェロカルテから二つの依頼を受け取る。それは一人の迷子の少女『オルキス』の連れを探して欲しいというものと、ある人物に会って欲しいというものだった。ある人物に会う為に謎の美女『ロゼッタ』が案内人として同行する。しかし、そのある人物とは全空の中でも最強クラスであるバラゴナという者であった。何とかして勝ったグランは黒騎士の居場所を教えてもらう。教えてもらった黒騎士がいるという遺跡に着くとそこで見たのは少女オルキスをグラン達が連れているのを見て激昂する黒騎士の姿であった。だが多勢に無勢を悟ったのか撤退をする黒騎士。連れであった黒騎士が去ってしまったのでこのままグランに同行をするオルキス。案内人であったロゼッタも気になるとの理由でグラン達の仲間となった。


アルビオン編

カツカツと乾いた靴の音が静かに部屋へ響き渡っていく。通常、来賓室として扱われるこの部屋は持ち主の意向により紅く塗られていた。

 

「ーーしかしさぁ、酷いもんだよね。まさか自分の敬愛している先輩を騙しちゃうんだもの」

 

大人、というには背が低い人影が挑発のように呟く。その声は部屋に響きもう一人の女の方向にも伝わっていく。

 

「… 何が言いたいのですか」

 

ーーここで殺ってしまっても構わないんですよ

 

言葉には出さなかったが殺気を出しつつ聞いてやる。もう例の物は受け取ったのでこいつに用はない。あとはこいつの問題だ。

 

「いやいやぁ!別に全然。寧ろ大歓迎だよ!君の目的と僕らの目的が互いにとって好都合だっただけの話だ。何も問題なんか無い」

 

此方の殺意を感じ取ったのか少し慌てたようにおどけてみせる。その男の何もかもが彼女を苛つかせた。

しかし今はこいつの態度にどうこうしている余裕はない。

 

「では… 作戦通りに。失敗がない事を」

「うん、そっちこそ失敗しないようねーー」

 

そう言い残してハーヴィン族の男が部屋から出ていった。何が失敗などしないようにだ。彼など一度ポート・ブリーズでの作戦を失敗したというのに。

 

明かりなど何も無い暗闇の中、少女の持つその目だけが爛々と、狂気の情熱を彩るかのように映していた。

 

「待っていてくださいね… お姉様」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

アルビオン城塞都市は帝国には属しては居ないが帝国寄りの島ではある。

何故属してはいないのに帝国寄りのなのかというと、この島のある特徴が関わってくる。

この島は島全体が軍人を育成する学校となっていて、ここを卒業した生徒はどこかの国に仕える事となる。つまり、今の時代では帝国が一番この空域で幅を利かせている訳だから帝国寄りになるのは当然の事だとこの学校出身者らしいカタリナさんに聞いた。

さて、何で突然こんな話をしてると思う?

 

帝国兵に囲まれちゃってんだなーこれが。

 

いやー迂闊だった。そりゃあ俺たち帝国から指名手配されてんのに帝国寄りの島に来てんだもの。帝国兵もいるよね。

この程度の人なら全然余裕なんだけどこの間の時みたいに紅いおっさんレベルの人が来る事もあるんだから気をつけないと。

そんな事を考えながら全ての帝国兵を意識を叩き落とすと後ろから手をパチパチと叩く音が。振り向いて見ると燃えるような紅い服を着た華やかな金髪美人がいた。街にうろついていたらまず間違いなく男はみんな振り向くだろう。最近美人にしか会ってないような気がする。嬉しい。あとスカートの丈が短くて見え、見え…ないか。チッ。

 

「素晴らしい剣の腕前でしたね… お仲間の皆さんもぞれぞれ連携が取れていてとてもレベルが高かったです」

 

美人に手放しで褒められて野郎連中の鼻の下が伸びる。瞬間、イオちゃんとルリアちゃんからの目線がキツくなった気がした。イカンイカン。

女子の冷たい冷気に当てられたまま、ラカムさんが冷や汗をかきながら質問をする。

 

「賞賛ありがとうよ、嬢ちゃん。ところで嬢ちゃんは一体何者だ?此処にいると嬢ちゃんまで俺たちに巻き込まれちまうぞ」

 

その質問を待っていましたとばかりに彼女は微笑んだ。

 

「ああ… それならご安心なく。

 

ーー私、この島の領主ですので」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

「領主… !領主てことはあんたが俺たちを呼んだのか!?」

「ええ、自己紹介が申し遅れました。私、この島、アルビオンで領主をやっておりますヴィーラ・リーリエと申します。以後、お見知り置きを」

 

みんながみんな驚いている。まじかよ、こんな美人が領主の島とか俺が住みたいわ。どれだけ酷い政策取られても許せそう。むしろそういうプレイか何かで… げふんおほん。

そうしてヴィーラさんはおもむろに俺たちの事を見渡し、カタリナさんの姿が目に入った瞬間何か人が変わったかのような雰囲気を感じた。

 

「お久しぶりですね、お姉様。お元気でいらっしゃったでしょうか?」

「六年ぶりか… ヴィーラ。君も変わりないようで何よりだ」

「ええ、私は変わってなんかおりませんとも。そう、何も。お姉様は少し… いえ何でもありません」

 

親し気に話し合う二人。ヴィーラさんとカタリナさんは知り合いだったのか。領主と知り合いって凄いな。

そこまでの会話を聞き、ルリアちゃんが心底ビックリしたような顔をしてヴィーラさんに問いかける。

 

「お、お姉さまってことは… もしかしてカタリナの妹さんですか!?」

 

その質問にその美しい金髪を左右に振りながら答える。

 

「いいえ、残念ながら私とお姉様は血の繋がりはありません。ここで話すのもお姉様に失礼ですし城へ向かう道中で話すとしましょう」

 

そう言ってヴィーラさんは背をくるりと俺たちに向け、スタスタと歩き始めた。くるりと回った時にスカートがふわっとなってとても素晴らしい。ええとても素晴らしい。後もうちょいまくれればもっと素晴らしかった。

 

城へ向かう道中、魔物がまた出てくると思ったので先に回って退治をしておく。何故かって?美人に良いところ見せたいからに決まってるよな。ルリアちゃん達に怪我させたく無いのもあるけどね。ロリを傷つける奴は処す。古事記にも書かれてる事実だ。

 

このアルビオンでは街中であろうとも魔物が出る。いずれ国に仕える騎士になる奴らが集まる街なのだから自分の身は自分で守らせるためにわざと魔物を放しているらしい。

ぶっちゃけ年寄りとかどうしてんだか気になる。俺の師匠みたいな奴らばっかなのかなこの世界の老人は。怖すぎるんだが。

 

そういえばヴィーラさんとカタリナさんとの関係ってどんな感じなんだろうか。

 

ヴィーラちゃんはお姉様呼びだったし…

 

 

こんな男だらけの軍事学校で数少ない女子生徒だったヴィーラさん。野郎どもの欲望の視線を浴びながらも必死に毎日を生きて頑張る健気な彼女。

しかし、彼女が夜に出歩いていると彼女をつけ狙う芋野郎供が襲いかかってくる!当然多勢に無勢。ヴィーラさんはピンチになってしまう。

そこに颯爽と助けに現れたカタリナさん!

ヴィーラちゃんを襲う芋野郎どもを秒殺したカタリナさんは彼女を慰める為に二人は夜の街へとーー

 

最高かよ。アルビオン城塞都市。いや俺の妄想なんだけどさ。誰だよ芋野郎って。

 

そうこうしている間に城へ到着したようだ。妄想と戦闘ばっかで本当のカタリナさんとヴィーラさんの関係の事に聞き耳たてられなかったし。アホか。あとでルリアちゃんに聞いてこよう。

 

「お姉様、お疲れ様でした。休憩を取りたいところですが… 少し急ぎましょうか、彼は器量が狭いですし」

「彼?とは、一体誰の事だヴィーラ」

 

カタリナさんが問うと、かしこまったようにヴィーラさんが裾を直して答えた。

 

「ーーエルステ帝国将軍、フュリアスでございます」

 

 

 

・・・・・・・

 

「ちょ、ちょっと待てよ!帝国の将軍だぁ!?俺たちはお前が俺たちの活躍を聞いたから会いに来いって言ったから来たんだぜ!?帝国の将軍様なんかと会いにくる為に来たわけじゃねえ!」

 

ラカムさんがもっともな正論をヴィーラさんにぶつけた。そうだよ(便乗)

 

「それについてはお姉様に謝らなければなりませんね、申し訳ありませんでした。ですが貴方達にとっても決して悪い話では無いはずではありましたし、大丈夫だとは思われます」

 

ヴィーラさんは素っ気なく対応を返して俺たちを城の中へと先導する。えぇー、帝国の将軍が待ってるとか行きたくない…

 

そうこうしている間に城の中をぐるぐると目が回りそうなほど進み、とうとう将軍がいるという部屋に着いてしまった。中に入ってみるとそこで偉そうに座っていたのはポート・ブリーズで出会ったあのガキ。お前フュリアスって名前だったのかよ。

開口一番、こいつは甲高い声で俺たちに向かって囃し立てながら笑った。

 

「いやぁ、まいったよ!君たちがこんなに強いなんて思わなかった。… だからさぁ、いい加減、割りにあってきて無いんだよねぇ」

 

カタリナさんが訝しげに聞き返す。

 

「割りに合わない…とは?」

「言葉の通りさァ!そこの蒼の少女と黒騎士の連れ。その二人を研究すれば確かに帝国は星晶獣をも操る力を手に入れる事が出来るかもしれない。けど謎が多すぎるのさ!これじゃあ君達を追い回して捕まえたとしても精算が合わない。だから僕たちはもう君達を追わない。晴れて自由の身って奴だ!」

 

突然言い渡された帝国側からの発言に皆驚いている。というか怪しすぎるぞコイツ。俺はまだポート・ブリーズでやったことを覚えてんだからな。

 

「信用できないって顔してるね」

 

めっちゃビクぅってなった。こいつエスパーかよ。

 

「今回取りやめになった理由としてはね、君の存在が一番大きいんだよ」

 

えっ、俺ですか?

 

「君、バラゴナをルーマシーで退けたそうじゃないか。嘘の噂かと思ってお前達がこの島に着いた時にうちの精鋭を差し向けたんだけど帰ってこないしね… これは本物みたいだ。お前みたいな化け物と真っ当に戦ってまでして、そこの二人は手に入れるものじゃあない」

 

はぇー、あの紅い人はそこまで凄い人だったのか。道理で頭おかしい強さだと思ったわ。

 

「じゃあね!また今度会うときは一緒にお茶でも飲みかわそうじゃないか」

 

そこまで言ってフュリアスは言いたい事を言って満足したのか、部屋を出て行ってしまった。

降って湧いたような出来事に呆然としている俺たちの前にヴィーラさんが出る。

 

「皆様、今は色々思うところがあるでしょうし一度城に泊まってみてはいかがでしょうか?私達も貴方方を客人として呼んだので客室は空いておりますし、御食事もご用意させております」

「あ、ああ… そうだな、その言葉に甘えさせていただこうとしよう、グラン良いか?」

 

断る理由なんて無いのでうなづいておく。こんなデカイ城に泊まれる事なんて中々無いからルリアちゃん達がめっちゃ楽しそうだし。ぶっちゃけ俺もめっちゃ楽しみだけど。

 

「ふふ… 分かりました。それでは部屋に案内しますね。付いてきてください。城には大浴槽もあります。その後にお食事にしましょう。どうぞ旅の疲れを癒してください」

「やった、お風呂!私もそろそろ体を拭くだけは嫌だったのよねー」

 

お風呂という言葉に嬉しそうな反応したのはイオちゃんだ。実はこの世界において、というか騎空士において風呂は結構貴重な物である。水の確保と火が必要になってくるからだ。水は魔法で出せるんだけど火の方は加減が効かないんだよね… あんまり強すぎると船まで燃やしちゃうし。ただやっぱりお風呂というのは何処の世界でも同じで好きな人が多いものだ。俺も久しぶりに肩までゆっくり浸かりたい。

そんな久しぶりの、魅力的な提案に反してビィ君は難色を示した。

 

「うぇー… オイラ風呂は嫌いだぜぇ… なんだってあんなもんに入んなくちゃいけないんだぁ?」

「あっ、駄目ですよ!ビィさん!お風呂はきちんと入らなくちゃ!」

 

ルリアちゃんがそう言ってビィ君を説得する。蜥蜴って水嫌いだったかな...?

そんな風呂に入るのを嫌がるビィ君を見かねたのかカタリナさんが一つ提案をする。

 

「ならばビィ君。私と一緒に入らないか?」

 

俺からビィ君に向かって膨れ上がる嫉妬の殺意。許さん。人間じゃないとしてもカタリナさんの裸を間近で見るとか許さん。むしろ俺が見たい。

 

「ぐ、グラン?ヴィーラも落ち着いてくれないか!?」

 

カタリナさんが叫ぶようにして静止した。ヴィーラさんもやっぱりそう思うよなぁ!?

そう思ってビィ君の近くにいたヴィーラさんを見ると怒りの形相でこちらを見ていた。えっ、俺に対して怒ってたんですか。なんかどん引きされてそうな顔でもあるし動物に怒るなんて器が小さいって思われたかな… 最悪だ。

 

「お姉様、部屋を三つとります」

「あぁ、いやしかしだな。我々は人数もそんなに多くないから二つで充分だと… 」

「ご遠慮なさらずに。団長さんもそれでよろしいですね」

 

謎の迫力を感じてうなづく暇も無く承諾されてしまった。そうしていつの間にか部屋に着いていたのか、彼女にカタリナさんが部屋に連れられて行く。ほんと仲良いなあの二人。マジで妄想展開ありえるんじゃないか?

このあと部屋に行った二人はーー

 

「グラン、何してんだ?俺たちもさっさと入るぞ」

 

この後の二人を妄想をしようとしたらラカムさんに不思議そうな顔をされてしまった。危ねえ危ねえ。こんな妄想バレたら社会的に終わる。

 

そんなこんなの出来事があり、俺たちはゆっくりと食事までの時間を過ごした。

風呂サービスシーン?オイゲンさんの筋肉が凄かったです(腐った目)

 

・・・・・・・

 

ヴィーラさんのはからいによりやたらと豪華で滅茶苦茶美味しかった食事をした後、俺は食後の運動として散歩をしていた。食べてすぐ寝ると太るからね。気をつけないと。修行もしてるからそうそうそんなことは無いとは思うけど気をつけて損はない。

そうして城内をフラフラと散歩しているとカタリナさんが此方に背を向け、夕焼けを見ていた。まだ後ろにいるこっちには気づいてないらしい。

 

…… これは、驚かすチャンスでは?

 

バルツではルリアちゃんに仕掛けるつもりが人違いで失敗したけど今度はちゃんとカタリナさんだ。間違いない。髪色も同じだし。美人だし、なんだあの美人。夕焼けに合いすぎだろ。惚れてまうわ。

話は脱線したけどいつもはクールなカタリナさんの驚いた顔を見るなら今しかない。急いで脅かす準備をする。

 

まず、魔法で作った水を用意します。風呂から取ってきておいた石鹸を取り出します。後でルリアちゃん達と遊ぼうと思ってたんだよねコレ。卑猥な意味じゃないぞ、そこ。

後はいい感じに混ぜる!後はちょっと魔法で空気に静電気を留まらせておいて.... 喰らえ!必殺シャボンランチャー!!

 

風魔法で大量に送り出したシャボン玉が静電気のおかげで地面に着かずにカタリナさんの周りを漂う。大成功ですね。昔でん○ろう先生の番組を見ていてよかった。

周りを突如シャボン玉に囲まれたカタリナさんは滅多に見ることのない顔をしていた。美人はどんな顔しても絵になるな。羨ましい。

流石に俺のことに気づいたのかカタリナさんが振り返る。

 

「グラン、君だったのか… 驚いた。なんとも幻想的な光景だ。ありがとう」

 

笑いながらカタリナさんがこっちにお礼を言う。いえいえ、こっちこそご馳走様です。

 

「しかしグランは何故ここに居るんだ… ん、いやまさか… 」

 

食後の散歩中ですが

 

「いやはや、君には全てバレてしまっていたか… 心配をかけたな。すまない」

 

えっいや何が?

クエスチョンマークで頭が一杯になっているとカタリナさんの驚く程に整った顔が俺に向かってやってきた。

 

「そして礼を言う。ありがとう、グラン。ーーもう私は迷う事はない。そう約束しよう」

 

そう言ってカタリナさんは去っていった。何か決心したようだけど俺何かしたのかな... 気になる...急展開すぎてついていけなかったぞ。

 

 

 

「お姉様、やはり貴女は…… それに貴方も一体... ?どこまで知っているんですか」

 

うぉう!?いつの間にか背後にヴィーラさんが立っていた。脅かした罰、因果応報ってやつですか。

 

「…… まあいいでしょう。貴方にはすでに…ふふっ」

 

怖っ!えっ何!?俺なんかされたの?!最後の含み笑いなんだったんだよ!?可愛いけど怖いんですけど!?

肝心な俺が何をされたのだかもわからずヴィーラさんも去ってしまった。やべぇよやべぇよ...

 

 

・・・・・・

 

 

カタリナさんとヴィーラさんの会合後、俺は女子部屋の方に向かって行った。シャボン玉が予想以上に上手くいったので早くルリアちゃん達にも見せたい。あの少女達の笑顔でこの荒んだ心を癒されたい。あわよくばそのまま囲まれて寝たい。

 

そんな事を思いながら部屋に入ると中にはオルキスちゃんしか居なかった。あれ、他の皆はどこいった?

そんな疑問が顔に出てたのかオルキスちゃんが部屋の窓を指差す。街の方角だった。なるほど遊びに行ったのか。

なんでオルキスちゃんは行かなかったんだ?

 

「貴方を待ってた」

「......」

 

くっそびびった。えっ何どんだけ分かりやすい顔してんの俺って。もう今日だけで心を読まれたの2回目なんですけど。

 

「貴方に聞きたい事がある」

 

ほほう、お悩み相談とな?思春期だろうし色々あるだろうなぁ… 恋の相談とかばっちこいだぜ。二次元に限るけど。

閑話休題、オルキスちゃんが真面目な顔してるからこっちも真面目に返してあげないと。

 

「貴方は...貴方はなぜ仲間を守るの」

 

貴女みたいな美少女助けて死にたいって思ってたらこうなってました。くっそくだらない理由です。

どうしよう、真面目に返すとふざけた回答になっちゃったのだけども。こんなの言っちゃ駄目だろ。どう答えりゃいいんだ教えてくれグランさん!

しばらくなんで返せばいいのか迷っていた俺はとうとうオルキスちゃんに返す言葉を見つける。

 

「誰かを... 」

「....?」

 

「誰かを助けるのに理由はいらない」

「... !」

 

昔このゲームをやった時は滅茶苦茶かっこよかったなー。女好きの主人公が男を助ける時のセリフだぜ、これ。俺とは大違いだ。

俺の名言(違う)に満足したのか少し考えた後にすくっと立ち上がり此方に背を向けた。

 

「....旅、楽しかった。ありがとう」

 

そう言ってオルキスちゃんは部屋の外に出た。なんか最後に笑ってた気がしたのは気のせいかもしれない。

あれ、これってもしかして別れの挨拶だったのかな。アルビオンで連れの方見つかったの?それは良かったけど凄い短い間の旅だったな。

 

こうして女子部屋には一人の洗剤を片手に持った男だけが残った。虚しい。

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

いつの間にか持っていた物。問いかけても分からなかった物。

 

私に与えられた優しさではない。それは彼女に向けられた優しさ。だけどそれが私には嬉しかった。嬉しいという感情を覚えられた。

 

私も...与えられるだけじゃなくて返したい。

 

(アポロもそうだったのかな...?)

 

少女は戻る、一つの小さな旅を経験して。

 

元々持ってなどいなかった。分からなかった。これが、感情。あの騎空士は言った。誰かを助けるのに理由はいらない。私のそこには感情があっただけだった。

 

「ん?君は、黒騎士の… ああ、なるほど。戻りたいって訳か。いいよ!誰かこいつを連れていってやってくれ!」

 

答えは出た。もう迷わない。

 

オルキスじゃなくて、私の… 初めてのワガママをーー

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

やたらと腹が痛くて真夜中に目が覚めてしまった。トイレが何処だか分からない。助けて。割と限界に近いんだが。城が無駄にでかい所為でここがどこだかも分からなくなってきた。

 

そうやって少し城の中を探索していると光がドアの隙間から漏れてきている部屋を見つける。よっしゃあ!トイレの場所を教えてもらおう。

そう思い思いっきりドアを叩き開ける。こちとら余裕がない。早く教えてくれないとマズイことになる。

 

「っ!貴方は… !何故そこにいるのですか!!」

「グラン!無事だったのか!」

 

部屋の中に居たのは剣を抜いているヴィーラさんとカタリナさん達だった。あとついでに帝国のガキと帝国兵さん達もいた。えっ、なんでみんな居るの?あとトイレの場所教えてくれないですか?

カタリナさんが心底嬉しそうに俺の無事を確認する。お腹の調子は無事では無いですよカタリナさん。

 

「おい、おかしいじゃないか!なんでお前がここに居るんだ!!?キサマァ!毒はどうしたんだ!!」

 

どうやら俺がきたことによって動揺しているような様子のフュリアスが、ヴィーラさんに向かって吠える。

 

「… おかしいですね。夕食に混ぜておいた毒は、確かに致死量には至らないですが一週間は動けない筈だったのでしたが…」

「まともな戦闘じゃこいつには勝てない!だから作戦を邪魔されないように毒を盛ったのに!!」

 

クソガキが凄い発狂してる。ざまあ。というか毒盛ったって事はこの腹痛はそれのせいだったって事ですか。毒の耐性はザンクティンゼルでサバイバルしてたから結構自信有るけど、それで腹痛って事はそれって致死量じゃ……

とりあえず、毒だったって事が分かったのでクリアオールで治しておく。毒だったら治せるからね、この世界。

 

「クソぉ!まさか毒も効かないような化け物だったとはね… 誤算だったよ」

 

バリバリ効いてました。滅茶苦茶お腹痛かったです。

 

「… なあ、一つ提案があるんだけど、いいかい?君もここに来たという事は、もう事のあらましは分かっているんだろう?」

 

分からないです。何でお前はここに居るんですかマジで。

 

「アルビオンの星晶獣、シュヴァリエが真の騎士を決める戦い。勝者がシュヴァリエの加護を受け、この島に生涯領主として取り憑くことになる」

 

今初めて知りました。星晶獣が領主を決めるって何だそれヤバそう。生涯とか制約キツすぎませんかね。

 

「僕としてはどっちが勝ってもいいけどあの二人にとっては因縁のついた大切な戦いらしい。だったら邪魔なんでせず君も大人しくここであの二人を見ているべきなんじゃないかなァ?もちろん僕らも手出しはしないよ」

 

引きつった顔のまま此方に条件を持ちかけるチビ。

 

「グラン…ここは私に任せてはくれないか?」

 

そう言って俺とフュリアスの話を傍で聞いていたカタリナさんが俺に近づく。

 

「君がここに駆けつけてくれたのは本当に嬉しい。だがこれは私と彼女との騎士の矜持をかけた試合なんだ。… 君にも、少し頼りすぎてしまった。もうそんな訳にはいかない」

 

カタリナさん達の過去の事情はよく分からないけど貴女方の戦闘に手出しする気はないです。ヴィーラさん怖いし。

その意思を込めて俺がうなづくと、見惚れるような笑顔を見せてカタリナさんも同様にうなづいた。

 

「ありがとう、グラン。さて、ヴィーラ…… 始めるとしよう。悪いがここは勝たせてもらう。私を信じてくれたグランの為にも負ける訳にはいかない」

 

そういってカタリナさんは自分の剣をヴィーラさんに向けて構えた。

その様子を見てヴィーラさんは低く響くような笑い声をする。

 

「ふ、フフ… やっと分かりました。この島で初めてお姉様を見受けした時から消えなかった違和感… もうお姉様は昔のお姉様では無かったのですね」

 

笑っているのに切なげな顔をするヴィーラさん。彼女もカタリナさんに向けて剣を構えた。

 

「私も、あの時の私ではもうありません。ゆめゆめ楽になど勝てると思わないよう、全力でお願いします」

 

こうして、ヴィーラさんとカタリナさんの一騎打ちが始まった。

 

・・・・・・・

 

 

カタリナさんが流れるような剣裁きでヴィーラさんに猛攻を仕掛ける。しかしそれをヴィーラさんが裏手に返し剣の勢いをつけさせて逆に戻す。だがそれも読んでいたのか鎧の肘当てで上手く流す。いずれも一歩間違えれば即終了。そんな見ているこちらがヒヤヒヤするような場面は先ほどから何回も繰り返され、かれこれ十回に達していた。

 

「っふふふ……剣が疼くな!ヴィーラ!」

「うふふふっ、はぁっはっ!そうですわねお姉様!!」

 

あかん、変なスイッチ入っとる二人共。アドレナリン出すぎじゃないか。

 

「ここで終わらせるのには勿体無いが… そろそろ決めさせてもらう!」

 

カタリナさんが床を蹴ってヴィーラさんに向かって走りだした。持っていた剣に魔力が溜まっていき水の魔力の蒼に変わっていく。

 

「我が奥義、お見せしよう!アイシクルネイル!!」

 

ヴィーラさんへと向かっていくカタリナさんの蒼。それに対抗してヴィーラさんの剣にも紅い魔力が満ちていく。

 

「紅く咲かせて差し上げます!リストリクションズ・ネイル!!」

 

紅と蒼。両方の魔力がぶつかるーー かと思われたその瞬間、カタリナさんの剣から魔力が消えた。

 

「なっ…!」

 

まさか自分の奥義を消すとは思っても見なかったのだろう。ヴィーラさんの顔が驚愕に染まる。

そうしてカタリナさんは自らの剣を腰から上へとヴィーラさんの剣をすくいあげるようにして弾いた。

 

「しまっ…!?」

 

ヴィーラさんの身体に大きな隙ができる。頭上に剣を持ち上げさせられた格好で胴がガラ空きになったのだ。

その隙を見逃すカタリナさんでは無く、その胴に剣を叩き込む。

 

「ぐァ…!」

 

流石に直撃した剣の威力には耐えられなかったのだろう。ヴィーラさんがその場に崩れ落ちた。

 

 

「はぁ、はぁ… 作戦は一つではないぞ。ヴィーラ」

「そう、でしたね… お姉様が良く学生時代に言っていた言葉でした… まさか自分の奥義を解くとは… お見事でした、お姉様」

 

小さく自分に言い聞かせるように呟いたヴィーラさんの顔は、何故かとても嬉しそうに見えた。

 

「ヴィーラ、たしか君はこの勝負が始まる前に私が変わってしまったと言っていたな。… 私は私の中の、大切な物を守りたかっただけだ。私は何も変わってなんかいないさ」

 

ヴィーラさんにカタリナさんがそう言い、手を差し出す。

 

「君も、その大切な物の中に入っている。もうこの手を離さない」

「っ、ぅあ… 」

「私は君を一人には、絶対にさせない」

「ぉ、お姉様… 」

 

ヴィーラさんの目尻に涙が溜まっていき、彼女はそのまま我慢しきれず、体に抱きついた。カタリナさんがイケメンすぎてやばい件について。あの人男だったら全空一のモテ男だよ… ヴィーラさん顔真っ赤じゃん…

 

「っ!シュヴァリエ……」

 

そんな二人を邪魔するように現れた紐のような触手のような… そんな物がついたクリオネに似た、ビィくん位の大きさの生物が部屋に現れた。シュヴァリエとヴィーラさんが呼んでいたからあれが星晶獣らしい。なんか今までに見た奴と違ってちっこいな…

 

「来たか、シュヴァリエ… 」

「お姉様… 本当によろしいのですか?シュヴァリエを受け入れればお姉様は生涯この島に…」

「ああ、その事については打算がある。ヴィーラ、君が心配しているような事は起きないだろう… 君も、もしかしたら助かるかもしれない」

「えっ…?」

 

そこまで言ってカタリナさんはシュヴァリエに近づいていく。

しかし俺達はすっかり戦いに気を取られ一つ忘れていた事があった。

 

フュリアスとその愉快な仲間たちの存在だ。

 

・・・・・・・・

 

 

それは、カタリナさんがシュヴァリエに近づいた時に起こった。突如としてカタリナさんへと飛来する銃弾と矢の雨。

 

魔法による壁を貼り、防ごうとしたが間に合わない事に気付き急いでカタリナさんの前に出る。

 

「………っ!」

「グランッ!フュリアス貴様らァ!!」

 

どうやら撃ってきたのはフュリアスらしかった。らしかったというのは俺が撃ってきた方向を確認できないからだ。絶賛ぶっ倒れ中。銃弾10発くらい食らったんじゃないかな… カタリナさんと頭だけは何とか守ったけど血の量がマジでヤバイ。死んじゃう。お腹痛い。ヒールかけてるけどきいてんのかこれ。

 

「あは、アハハハハハ!なんだこれは!とんだ幸運じゃないか!!まさか一番厄介な君がこんな奴を庇って死んでくれるなんてねェ!!」

「幸運…!幸運だと貴様ァ!」

「おいおい、あんまり怒らないでくれよ?元々僕らは君を狙うつもりだったんだ。此奴を狙うつもりなんて僕は更々になかったんだよ。僕は悪くない」

 

カツカツと此方へ歩いてくる音が地面についてる耳から伝わってくる。こいつ自分の靴に何か入れてやがるなチビ。上げ底か?

 

「アルビオンの星晶獣シュヴァリエ……真の騎士が加護を受ければそれは国を守るほどの力になる。けどさあ、さっき気付いちゃったんだよねェ!」

「一体何の話しをしている!それに気付いただと…!何に気付いたと言うんだ!」

「シュヴァリエの力の条件にだよ。… 本来星晶獣ってのは大きさが小さくなればなるほど弱くなる筈なんだ。例外はいるけどね。けれどシュヴァリエは国を守れる程の力を持っているのに、そんなにも小さかった。これって可笑しいだろう?何か条件があるに違いないと思った訳だ」

 

確かに。ティアマトとかリヴァイアサンとか 頭おかしいぐらいデカかったもんね。

 

「そう!シュヴァリエの力が発揮出来るのは真の騎士が加護下に入った時だけ。僕はこの仮定を立てた。そこの女と君が決着がついた時に、一時的に主人を決めようとしてそこの城主から離れる瞬間の、弱い状態のシュヴァリエをいただこうとしたんだよ」

「だがもし私が負けていたらどうするつもりだったんだ…!元々のシュヴァリエの主人はヴィーラだ。私が負けてもシュヴァリエは現れない!」

 

カタリナさんが声を震わせてフュリアスに叫ぶ。その様子を見てフュリアスが心底おかしそうにあざ笑う。

 

「その心配はしなかったなぁ〜?君って元々帝国にいたでしょ?だから君のデータは帝国にあるんだよ。君がどれくらい強かったか、なんて物は丸わかりさァ!ましてやそこの城主は十年前の決着とやらに拘ってシュヴァリエを使おうとすらしなかったしね。これじゃ結果なんて見えきってるよ」

 

協力してくれてありがとうねなどと笑うフュリアス。ムカつく絶対殴るこいつ。

 

「そうしてシュヴァリエが宿主を離れ、顕現した時に君を狙ったんだけど… 当たりも当たり!目的は違ったがこいつが引っかかってくれたって訳だ!この化け物さえ居なくなればもう君達にくだらない策を労する事も無い。笑いが止まらないよ」

 

そう言いながら俺の頭を蹴り飛ばす。まじブッコロ。

 

「フュリアス貴様ァアあ!!」

「おっとぉ、動かないでよね。今君達の命は僕らが握ってるんだからさ。君らもこいつみたいに死にたくないでしょ、ホラホラァッ!」

 

また思いっきり蹴り飛ばされた。その後の追撃で後頭部を連続で踏みつけられる。

痛くないけどコロス。絶対コロス。

 

「アハハッハァ!よくもポート・ブリーズでは馬鹿にしてくれたなァ!この野郎がァ!……あ〜もういいや。おい、誰かここに蒼の少女を連れてこい」

「ハッ、分かりました!」

 

体の中の血を流しすぎ、朦朧としてきた意識の中、フュリアスの甲高い声が傷跡に響く。蒼の少女…?

 

「蒼の少女…ルリアの事か!なぜここに連れてくる!」

「決まってるだろぉ?今の此奴の無様な姿を見せてやるのさァ!随分と此奴に懐いて居たようだからね、もう一度捕らえられていた頃と同じように絶望させてあげるんだよォ!もう二度と脱走なんてする気が起きない程心を痛めつけてやるんだ!」

 

はっ?今何言ったこいつ。ルリアちゃんを絶望させるとか言ったか?

 

「ッこのゲスがァ!どこまで腐りきっている!!」

「どこまでも、さ。アハッハハハ!!……おいそこの、何をしている。さっさと蒼の少女を連れてこい。何故そこで待機している」

「ハッ、いやそれが… 連れの仲間の方はどうしましょうか?」

 

その帝国兵の問いかけにフュリアスもとい改めてクソチビはこんな事を言った。

 

「全員ぶち殺せ」

 

その瞬間、俺の中で大切な何かが切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

「全員ぶち殺せ」

 

顔を背けたいほどのクズ。フュリアスが言ったことは到底許される事ではなかった。

ヴィーラが冷たい目線でフュリアスを見つめる。

 

「ーーあまり、舐めないで頂きたいですね。先ほどから黙って聞いていればお姉様の大事な場所をなくさせるなど… させると思いですか?」

「させると思いですかって?逆に聞くけどさぁ…今の一騎打ちで疲弊した君達で僕らを止められるつもりなのかなァ?無理だよねぇ!

君達はもう立っているだけでフラフラじゃないか!」

「ック…!」

 

その通りだった。今はもう魔力不足による疲労困憊とあの一騎打ちによるダメージでこうして立っている事すら厳しい。ましてやヴィーラは私の全力の剣をくらっていた。私よりもダメージの量は大きいだろう。

言いようのない悔しさがこみ上げる。私のせいでグランだけでなく他のみんなまでもが… !強い自責の念と恥が私の足を止めた。

 

「あっはハハハ!!いい顔だよ!その顔が見たかったんだ僕は!じゃあお礼にまずは裏切り者の君から殺そうとするかな。死んだ君を見る蒼の少女の反応が楽しみだよ」

「ッ!お姉様ァ!」

 

フュリアスの持っている銃口が嘲笑うかのようにして、近づく。

その持つ指には撃鉄が触れられ、引き金を絞られている。

 

「じゃあね!色々と君には助かったよ!」

 

走馬灯のようにあらゆる思い出が脳裡を去来した。下らないとすら思えた出来事や些細な場面があっという間に頭から溢れでて、私の中の多くの顔が瞼に重なりあう。

 

どん、と破裂するような音がした。勢い良く空気を跳ね返すような衝撃が伝わる。

 

ーーああ、死ぬのか。私は

 

…… だがしかし、自分が想像していた痛みがいつまでたってもやってこなかった。感覚が麻痺したとかそういった類でも無かった。

自分が感じた恐怖のためかいつの間にか瞑っていた瞼をゆっくりと、開く。

 

 

そこには信じられないような光景があった。

 

「な、なんで… なんでお前が立ってるんだよォおおお!なんでなんでなんでダァ!!クッソォオオおお!!」

 

おおよそ常人では立ってはいられない程のおびただしい血を流し、それでも真っ直ぐに前を見つめる、グランが私の前を護って立っていた。

 

「ーーーーーー 」

 

チラリと私の方を見る。その目は何時もと同じような底の知れない無機質な色。無機質ながらも優しさの溢れる目。

 

しかし、今は何故かゾっと鳥肌が止まらなかった。

 

グランに声をかけようと前に出る。だが自分の身体が板のように硬直しているのに気づいた。膝がわなわなと震えているのを感じ、まるで氷漬けにされてしまったようだった。

 

敵を見れば帝国兵や、あれだけ叫んでいたフュリアスでさえも止まっている。

 

 

ふと、まるで散歩でもするかのように一歩、フュリアスに向かい彼が踏み出す。

それを見たフュリアスがほとんど絶叫に近い声を出す。

 

「お、おいお前ら何をしてるんだ。見てないで早くあいつをぶっ殺せよ!早く!」

 

そうするとその声で我に返ったのか、グランに向けて銃を構えておびただしいほどの銃弾を放つ。しかしそれらは魔法によって彼に届く前に全て止められてしまっていた。

撃たれている間にも彼はどんどんフュリアスへと近づいていった。ゆっくり、ゆっくりと銃弾の波をかき分けていく。

 

そしてとうとう、彼はフュリアスの前までついてしまった。

彼の前に立ったフュリアスは恐怖からなのか、顔が蒼白になり今にも昏倒してしまいそうだ。何か言おうとしているのか口をしきりに開けているか声が出せていない。彼に反撃をしようにも銃すらもきかない。まさに八方塞がりだった。

 

「……… 」

「っひゃすけ、たすけてくれ!お願いダァ!僕はまだ死にたくない!僕は、まだ!ッグァ… !」

 

フュリアスの首を、彼が軽々と持ち上げた。呼吸が出来ないのか辛うじて喉から出た空気が音になる。

 

「ヒュッ…ぐげ… オぁ… ぁっ」

 

彼の手からぎきぎッという骨の音がする。ひどく嫌な予感がした。腹の奥から酸がせりあがってくる。

 

 

ーーボキッ

 

 

あ、と声を漏らしたのは誰だったのだろうか。それは驚くほどあっさり、人の命が終わったとは思えない程簡単にへし折られた。

 

彼が、人を殺めた。

 

思えば彼が殺人という行為をしたのを見たことは無かった。どんな敵と戦ったとしても、例えばあの緋色の騎士との勝負でさえも絶対に命をとろうという動きはしなかった。

剣士の世界では命を奪う事に躊躇をしていれば自分が斬られる。隙を見せて殺されるのは自分だ。戦うという事はその覚悟を持つ事。それは両者にとって暗黙の了解だ。しかもあの時の相手はあの緋色の騎士だ。少しでも隙を見せていたら彼は死んでいただろう。

 

一度その事についてルーマシーを出た後に聞いたことがある。

何故君は殺そうとしなかったんだ、と。今思えば意地の悪く、嫌な質問だがその時の私は問わずにはいられなかった。

 

彼は私の質問を聞き少し迷った後、遠くで遊んでいるルリアとイオ、それにオルキスを眺める。追いかけっこだろうか、走りながら息切らしながらも、楽しそうにして笑っている。

その様子を見ながらグランは目を細め、何か尊そうに呟いた。

 

ーー守りたい、あの笑顔を

 

自分の体に戦慄が走った。そうだ、戦闘をしていたのは何も自分だけでは無い。あの年端のいかない少女達も見ていたのだ。戦いは悲しみを生み笑顔を無くす。その悲しみを彼女達には感じて欲しくは無かったのだ。

 

なんという深い優しさだろうか。自らの命がかかっている状態ですら少女達の事を気遣う精神。それに心を打たれずにはいられなかった。

 

しかし、その精神にフュリアスは触れてしまった。つまるところ彼の逆鱗に触れてしまったのだ。彼の自らの命よりも大切な物を傷つけようとした。それが結果として彼の命を落とした。

 

 

「ひ、ひぃっ!化け物がァ!く、くるなぁああ!!」

 

フュリアスが殺された事により場は恐慌状態に陥った。ある者は銃を乱射し、ある者は泣き叫び、ある者は茫然自失としてしまっていた。

しかしそれら全ての意識を、感情も無く、只々作業のように彼はいとも簡単に失わせる。

 

全員を気絶させ終わると、グランはフュリアスの亡骸の元へ戻った。

 

彼はフュリアスの胸ぐらを掴みながら、力なく身体が垂れ下がり首があらぬ方向へ向いているフュリアスの身体を確認していく。

 

「彼は一体何を… ?」

 

ヴィーラが不安げに呟く。先ほどまでの彼の蹂躙を見たからだろうか、指先が震えてしまっている。かくいう私も足元が未だに震えていた。

今はヴィーラも私も、彼が何をするのか不安で仕方がなかった。

 

彼の一挙一動に注目していると、フュリアスを掴む手に魔力が集まっていくのを感じる。やがて彼は魔法の詠唱を、まるで唄うかのように口ずさんだ。

 

ーー湧き上がる命の泉よ、万物に宿りし生命の息吹よ、紡ぎしは抱擁の女神たる癒しの旋律

 

突如始まった詠唱に思わず聞き惚れてしまう。

 

「これは… なんとも綺麗な… 」

 

悲しいほどに美しい声。この世のものとは思えないほどの浄らかさを感じた。

 

ーー溢れる慈しみの光を、訪れぬ終焉。永劫足り得る光の奇跡に名を与え、いま希望を宿す

 

そこまでの詠唱を聞き、ヴィーラが何かに気づいたのか怪訝気に数秒だけ唸る。するとハッとしたように目を見開く。

 

「まさか… !いや、そんな… 信じられない!」

 

全身の神経を緊張させ、グランを見つめる彼女。その額にはうっすらと汗が滲んでいた。

 

「どうかしたのか、ヴィーラ。彼が今どんな魔法を唱えているのか分かったのか?」

「…… はい、恐らくは。ですが、コレは余りにも信じがたい事実だと…!」

 

そう言いながらもグランから目を離そうとはしない。何か神々しい物を見る目でグランを見ている。

 

「…… 一体彼は、グランは何をしているんだ。教えてはくれないか」

 

その私の問いに答えるべきかどうか迷ったのか少し考え込み、ヴィーラは決心した顔で答える。

 

「… 死者の魂を現世に呼び戻す大魔法、蘇生魔法でございます」

「なん… だと…!?」

 

驚きで言葉が出てこない。そんなバカな事がありえるのか。

 

「ええ… 回復系魔法の中でもトップクラスの性能を誇るそれは、まさに奥義といっても過言ではありません。」

「ああ、一度耳に挟んだ事がある。私も一応回復魔法を習得しているからな。人を蘇らせるという奇跡に、昔は憧れたものだ」

 

人が死んでも生き返れるならば戦いにおいてそれは圧倒的アドバンテージを生み出す。

戦闘以外においても、日々魔物に怯える人々からしたら、なんという安心のできる魔法なのだろうか。もう魔物による命の殺戮は無いのだから。

 

「しかしこの魔法には一つの大きな欠点がある… そうですね、お姉様?」

「ああ… そうだな」

 

そんな汎用性が高く、強力な魔法だがやはりどんなものにも欠点がある。

 

この魔法の大きな欠点、それは習得が非常に難しいということだった。

莫大な素質、なおかつ命を削るような努力。それでやっとこの魔法は振り向いてくれる。

 

「その余りの難しさに、習得しているのは十天衆の一人とゼエン教の秘蔵っ子ぐらいだと聞いていたが… 」

「ええ、私もです。まさかこんな所にもう一人の使い手がいたとは… !」

 

そんな私たちの話をよそに、彼は詠唱を淡々と進めていく。どうやら最後の節にまで入ったようであり、透き通るまでの光が強くなっていく。

 

ーー天よ、死の淵に眠る者に、再び光を

 

 

神々しくも優しい光にフュリアスが包まれた。蘇生魔法という物は初めて見るが、なるほど確かに蘇生という物にふさわしい美しさだ。その光景にしばし圧倒される。

 

光が止むと、人間の首とは思えない方向に曲がっていたフュリアスの首も治っていた。

ヴィーラが横たわっているフュリアスに近寄り生死を確認する。

 

「大丈夫です、正常に脈も刻まれています」

 

どうやら蘇生魔法は無事に成功したらしい。彼が失敗するなんて事はあまり想像はできないが、それでも蘇生魔法という特大の代物だ。少し信じられなくもあった。

 

「ホッ… まさか本当にやってしまうとはな」

 

安心して息をつく。

 

「グラン、君も… 」

 

大丈夫か、そんな労いの言葉を彼に声をかけようとした時だった。

 

隣にいた彼の身体がグラりと揺れ、体が斜めに崩れていく。周りの物が遅く見えた。ドサっと音がして、それが彼が倒れた音だと気づいた後、我を取り戻す。

 

「ッグラン!大丈夫かッ、おい返事をしてくれグランッ!」

 

彼の身体を大きく揺さぶる。思い返してみれば私を助けにきた時、彼は全身が血まみれでなぜ立っているのか不思議ですらあったのだ。あの状態で動けば、下手をすると死ぬ恐れすらある。そんな重要な事を先ほどまでの事態ですっかり頭から抜け落ちていた。

 

「いけません、お姉様。彼の傷が悪化してしまいます。ひとまずは落ち着いてください」

「っ…!ああ…すまない。焦っていたようだ」

 

ヴィーラの落ち着いた声が、私を止めた。そうだ、負傷人に向かって何をしているんだ私は。余りにも焦りすぎていた。

 

「とりあえずは医務室まで運びましょう。彼処には医師も居ますし、エリクシールもあります」

 

そう言って彼女は彼を担ぎ、救護室に向かって歩き出そうとする。しかし彼を担ぐ体力すら残ってすらなかったのか、よろめいてしまった。

 

「私が彼を持とう。ヴィーラは医務室までの案内を頼む」

「申し訳ありません… お姉様のお手を煩わせるなど…」

「いいんだ、元はといえば私との勝負で君の体力を奪ってしまったものだ」

 

そう言ってすまなそうにしているヴィーラから彼を受け取る。

 

(軽いな…)

 

鎧のお陰で幾分か増えているであろう体重。しかしその分を差し引いても彼の身体は軽かった。

こんなにも軽い身体で、普段の私達を守ってくれている。助けてくれている。今回も私を心配して付いてきてくれたのだ。

思えばあのヴィーラとの確執に悩み、黄昏ていた私を励ましてくれた時から、彼は私を守る気でいたのだろう。

そう思うと感謝の念が尽きなかった。

 

(絶対に生きててくれ、グラン… !)

 

まだ、私は君を支えられてはいないんだ。

 

・・・・・・

 

彼が医務室に入って、いくらたったのだろうか。時間だけが無常に過ぎていき、しんとした廊下は不安の念をかきたてた。

そんな不安を知らず、ガチャりとドアノブが回った。彼の治療が終わったのだ。

 

「っ、ヴィーラ。グランの様子はどうだ?」

 

今しがた医務室から出てきた彼女に彼の安否を問う。

ヴィーラはその美しい金の髪を、横に振りながら答えた。

 

「命に別状は無いそうです。医師によれば傷は既に回復魔法によってほとんど塞がれていて、今回倒れたのはただの貧血だと」

 

その言葉に安心し、いつの間にか入っていた全身の力が抜けていく。

 

「ああ、ありがとう。そうか、ただの貧血か。よかった…」

 

彼が無事であった。ただそれだけが嬉しく破顔してしまう。

 

「… 凄まじいまでの精神力ですね、ただでさえ集中力が必要な蘇生魔法を、あの倒れる寸前の状態で成功させたのですから」

 

心底感心したように小さくヴィーラが呟いた。

確かに魔法というのは集中力というものを使う。それは詠唱を行なったり、魔法陣を描くなど人によって違うが、どれもこれも貧血の状態でやれるかと言えば、皆首を横に振るだろう。そんな魔法の中でも最上級の蘇生魔法だ。少しでも集中力が欠けていたら成功はしなかっただろう。

 

「彼の出身地はさぞかし高名な所なのでしょう。あれだけの魔法と戦闘技術が残っている島は限られていますし… 伝説のカルム一族の末裔という可能性も… !」

 

そう言ってヴィーラが早口で憶測を立てていく。彼の強さに驚いた者は皆そう思うだろう。彼は一族から英才教育を受けていたからあんなにも強いのだと。

だが、違う。

 

「… 言いづらいがヴィーラ、彼は独学だ」

「えっ…」

「彼の出身地はザンクティンゼルという辺境の島であり、師と呼べる者はたった一人の老婆だったらしい。そこで魔法を学んだそうだ」

「ろ、老婆?老婆というと老いた女性を指すあの…?」

「ああ、その老婆だ。昔は名のある騎空士だったようだが… 」

 

前に彼から聞いた話だ。あまりにも無口な彼に、謎が多すぎて前に質問の時間を取った時に聞いた事だが、いずれも信じていいものか分からないような事ばかりだった。

 

「曰く、三歳から剣術と魔法を自分から学んでいたらしい。十を超える歳の頃には大抵の属性魔法は出来るようになっていたとも言っていた」

「十… !?」

 

絶句して言葉が口から出てこないようだ。普段の冷静な彼女からは想像のできない、呆気にとられた顔をしている。当時、彼から話を聞かされた私もこんな顔をしていたのだろうか。少し気恥ずかしい気分になる。

 

「ヴィーラ、君は確か二属性持ちだったな。確か土と闇だったと記憶してるが」

「はい。… もしかしてですが」

 

まだあるのかと、彼女がうんざりとした顔でこちらをみる。残念ながらまだある。それも、とびっきりのが。

 

「彼は世にも珍しい六属性持ちだ。しかもそれらを全て達人級にまで鍛え上げ、尚且つ無属性までも習得している」

「…本当に人間ですか、あの方は」

 

諦めの入った顔に変わる彼女。

属性というのはそれぞれに、火だったら水。風には火というように大きくダメージをくらってしまったり、与えたりする相性というものがある。

それを上手くカバーをしながら戦うのがこの空での基本的な戦闘方法で、自らの属性を使いこなせてやっと一流とよばれる。

しかし稀にヴィーラのように二属性や三属性を操る者もいる。そういった者たちは大抵は得意な方の属性を伸ばし、もう片方はサブウェポンとして使うのだが、それでも大きなアドバンテージだ。一つ属性が増えるだけでも弱点が減るのだ。

そこにおいて彼は異常すぎる。六属性を操るということはつまり、弱点がない。しかもそれら全てをメインウェポンとして扱えるということは相手に応じて弱点をつけるのだ。ヴィーラが呆れるのも無理はなかった。

 

彼に関係する話はそこからも止まらなかった。彼が普段している訓練、イオに魔法を教えてあげていること、彼の使う飛翔術で空に飛べたこと… 彼の情報は余りに少ないのに、何故か彼に関する事はスラスラと喉の奥から湧き出てきた。

そんな私の様子を見て、ヴィーラが安心したように微笑む。

 

「… どうやら、私が今回した事は全て杞憂だったようですね。本当に、申し訳ありませんでした」

「そういえば、なぜ今回ヴィーラは私達を罠に嵌めるような真似を…?」

 

改まって思い返して見ると少し変だ。彼女が私を呼んだ理由も、一言手紙をくれればいい話ではあるし、そこからのフュリアスとの関係性。所々に引っかかりがあった。

 

「そうですね… ここまでの迷惑をかけてしまった私には、今回の騒動を話す義務があります」

 

姿勢を整え直し、真面目な顔でこちらを見直す彼女。少しの深呼吸の後に覚悟を決め、語り始める。

 

 

「ーー元は、一つの報せから始まりました」

 

 

 

 




星晶獣の大きさの設定→色々な私の妄想入ってます。公式ではいってないので注意です
二属性やら三属性→運営がこれ書いてる間に闇属性カタリナ出したため説得力がない。小説はこんな感じなんです、信じてください…
オルキス→抜けた。早い。だって私が持ってないから。
カルム一族→十天衆の一人、シスさんの一族。そのあまりの強さと有名さにこの一族の島は観光地となっているほど。
蘇生魔法→グラブル世界ではレアだが他のゲームとコラボすると割といる。あと厳密にいうと十天衆の使う蘇生魔法はドラクエでいうとリザオリク、FFでいうとリレイズでちょっとグラン君が使ったのとは違う。最近自分が死なないメガザルも追加された。詠唱の台詞はテイルズから引用。
ゼエン教の秘蔵っ子→HLでおなじみソフィアさん。ベホマ、ザオラル、クリアという便利さからHLでは永遠の5番手。かつてはSSRのハズレ枠と言われたがザオラルの上方修正と高難易度クエが出るたびに活躍の場が広がった。エロい。
フュリアス→殺したかったけど死んでほしくはなかった。当初の予定では生き返らせた後に、もう一回首の骨を折る予定だったが、それだとグラン君がサイコパスすぎたので中止。彼はいま独房にいます。

次はヴィーラさん視点という名の説明回。過去編もやります。
いつも感想、評価ありがとうございます。毎回楽しみに読ませてもらっています。
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