サザンビークの結界使い   作:すけ

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第二話 ゼシカの成長

「メラ!」

 

ゼシカが呪文名を叫ぶ、すると彼女の手に小さな炎が宿る。

拳ほどの小さな炎であるが確かにそれはメラである。

 

あれから早速ラグサット様の護衛をする傍ら、彼女の魔法を見ることにした。彼女は原作の主人公なだけあって魔法の上達がかなり早い。俺はただ、完成されたメラのイメージを彼女に伝えただけであるのに彼女はそのイメージを取り込み、さらにメラの完成度を上げている。このままいけばフォル爺を超えるほどのメラゾーマを撃てるようになるかもしれない。ちなみに俺はフォル爺のメラゾーマを何度も受けたことがある。結界の修行の一環として大技を叩き込まれるという地獄の修行をした時だ。もう二度とやりたくない。だから俺は若干メラ系にトラウマがある。今も拳ほどの大きさのメラだが十分こわい。それがフォル爺以上になるかもしれないのだ、想像するだけで震えが止まらない。

 

「ふぅ…どう!前より良くなったでしょ!」

 

「ああ、かなり上達しているよ。このままいけばあと三年ほど練習すれば完璧なメラになると思うよ。」

 

「えー!まだあと三年もかかるのー。先は長いなー。」

 

「幼少期は魔力がまだ高くないからそもそも魔法を使えるだけ君は凄いんだよ。だからあと三年と言ったのも完璧なメラに必要な魔力が十分に備わる期間を言っただけさ。だからそう悲観しないで今はもっと形を整えて、魔力が備わったなら思いっきりメラを打ってみるといい。きっと自分でも驚くほどのものが撃てるはずさ。」

 

「うーん。わかった、今は耐えるわ…。でも三年後、あんたも驚くほどのメラをあんたにお見舞いしてあげるんだから!」

 

「いや、それは勘弁してくれ。」

 

俺は真顔でそういった。

 

 

 

 

 

 

 

 

私、ゼシカ・アルバートが彼と初めて出会ったのは私が十歳の誕生日に、婚約者とかいう将来結婚しなければならない相手と会うために夕食会を我が家で開いた時だった。

私は結婚なんてしたくなかった。私は兄さんみたいに強くなっていつか冒険者になるのが夢だったが、母には猛反対され終いには婚約者などという、いよいよ私の夢を潰すようなものまで用意してきた。だから私は夕食会で終始不機嫌であった。後々考えると、相手のラグサットには少し申し訳ないと思ったが私の怒りは収まらない。ラグサットが私の興味を引こうとあれやこれやと話をしてきたが全く興味がわかなかった。しかし、ラグサットの話の一つに私は興味を惹かれた。曰く、自分が付けている護衛はサザンビークでもかなり有名な魔法使いだ、曰く、彼がいなければサザンビークはこんなに平和に暮らすことはできなかった、そんな者を私は護衛につけているのだと。私はラグサットの自慢話には興味がなかったが、その魔法使いに興味をもった。私は兄さんほどではないが村の同い年の子達と比べるとかなり魔法が使える。だから私は魔法が好きだったし、将来、凄い魔法を使う魔法使いになるのが夢であり、そんな時に凄い魔法使いの話を聞いた、興味がわかないはずがない。私は夕食会の後日ラグサットの紹介のもと、その魔法使いと会うことにした。

 

 

彼は黒髪黒目で黒いローブを羽織っており、とにかく黒いという印象を受けた。そして何処か冷たい印象を持たせる冷たい雰囲気を醸し出している。私は彼に魔法を教えてとお願いするのが怖かったが勇気を振り絞って

 

「私はゼシカ・アルバート。ねえ!?あなた、凄い魔法使いなんでしょ?私に魔法を教えてよ!」

 

とお願いをした。

彼は無表情な顔で私をじっと見つめてくる。

まるで私の話を無視して何か別のことを考えているように感じて、つい大声をだしてしまう。

 

「ねえ!聞いてるの!?黙ってないで答えてよ!」

 

「ああ、すまない。少し考え事をしていたんだ。決して君の話を無視して別のことを考えていた訳ではないよ。」

 

私は驚いた。まるで先程まで私が考えていたことについて知っているような口振りで私に謝ってきたからだ。やはり魔法使いとは特別な存在なんだなと思った。

それから彼の魔法について聞き、彼に魔法を見てもらえることになった。嘘泣きをしたのは少し申し訳ないと思ったけど、どうしても魔法を上達させたかっんだもの、仕方ないわよね!

 

 

あれから私は彼の仕事の合間に村の中で魔法を見てもらっている。

彼は私の第一印象と違ってとても優しく丁寧に私に魔法のイメージを教えてくれる。おかげで自分でも魔法が上達しているのがわかる。イメージ次第で魔法はこんなに変わるものなのだと、とても感動した。だから私は村のみんなの役に立ちたくて、彼に魔物退治をしてもいいかと相談した、すると

「それはまだ駄目だ。前も言ったが君の魔法はまだ完全ではないんだよ。魔物と戦いながら魔法を発動するのはかなり大変なことで、しかも君はまだ魔物を倒すということを完全に理解できていないと感じる。だから今はしっかりと村の中で魔法の練習をすることだ。」

 

そう言われてしまった。

納得がいかないわ!だってこれほどの大きさのメラを撃てるのは兄さんを除いて村の大人達でもそれほどいないし、私より魔法がうまくなくても魔物退治をしている人もいる、私にできないはずがない。

そう思い私は家族と彼に内緒で夜、村の外にでた。

 

 

 

「わー。素敵…」

 

そう呟いてしまう程、夜の世界は幻想的だった。

月光と蛍が辺りを小さく照らし、昼の活気や喧騒とは真逆の静粛が私を出迎える。まるで別世界を冒険している様な気分がして心が躍る。

 

「(よし!早速、魔物を倒しに行きましょう。まずは弱い魔物から倒していこう。やっぱり最初はスライムぐらいがちょうどいいかしら)」

私は家にある魔物大全集という本に書いてあった最も弱い魔物を目標に夜の世界を歩いた。

 

 

 

夜の世界を歩くこと10分、草むらの中に隠れて辺りを見回してみると道の真ん中に青い影を見つけた。あれがおそらくスライムだろう。

「(どうやらまだ私に気づいていないようね。それならこのまま魔法を撃ちましょう。)」

魔法を撃つために神経を集中させる。体の中にある魔力を手の上に集め、メラに変換していく、さらに彼に教わったイメージを取り入れ威力を上げていく。

「(よし!できたわ!今までで一番いい出来かもしれない。」

ようやくスライムが私の存在に気づいたようだがもう遅い。私の魔法は完成している。

「メラ!」

拳ほどの炎がスライムに向かい

「ピキー!」

見事スライムに命中した。スライムは炎に焼かれ、そしてしばらくすると跡形もなく消えていく。体の中が少し熱くなる。

「(これがレベルアップなのかな。)」

噂では聞いていたが初めて感じる不思議な感覚に私は興奮と感動を覚えた。そして普段の私なら出さないであろう大きな欲が出てしまう。

「もっと強い魔物を探しましょう。今の私ならおばけきのこぐらいなら余裕なはずよ。」

そう思い付き、さらに夜の世界を歩くこと数分、おばけきのこを見つけた。そいつは私が想像していたものよりも巨大な体を持ち、かなりの力を有していると感じた。

「(確かに強そうだけど今の私なら大丈夫なはずよ)」

私は先ほどと同様に草むらの中に隠れメラを撃つ準備する。すると

「!!どうして!」

おばけきのこは私が魔力を高めるとすぐに私の存在に気づきこちらに向かってくる。このままじゃあ魔法は撃てないと思い、私はあいつから逃げるために全力で走る。しかしまだ十歳ほどの足の速さなどたかが知れていて、

「うぐ!」

私はおばけきのこに頭突きをくらってしまった。

吹き飛ばされ地面に体を擦る痛さと、頭突きされたお腹からこみ上げる吐き気、そして

「■■■!!!」

おばけきのこが叫びながらこちらに向かってくる恐怖に私の体は全く動かなかった。

「(こわい。こわいよ。こんなに魔物がこわいなんて知らなかった。こんなに攻撃を喰らうと痛いなんて知らなかった。嫌だ。死にたくない、まだやりたいことたくさんあるのに!)」

しかしやつは待ってくれない。私が恐怖しているのを知って、楽しんでいるかのようにゆっくりとこちらに近づいてくる。そして、赤い息を私に吐き掛けた。それは酷く甘く、私に睡魔という誘惑を誘う息だった。

「(眠い。…でもこのまま寝てしまえば本当に死んでしまう。でも眠ったまま死んでしまえば痛くないのかな…。でも嫌だなぁ。お母さんやサーベルト兄さんと会えなくなるのは。)」

そして私は深い眠りについた。眠る直前に何か暖かいのものに包まれるを感覚を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ。」

「!!ゼシカ!!」

「あれ?サーベルト兄さん…?」

 

「よかった。目が覚めたんだな。本当によかった…。母さんに伝えてくる。お前はまだ寝ていろ。」

そう言ってサーベルト兄さんは部屋を出て行った。

あれ?私なんで無事なんだろう。確かおばけきのこに殺されそうになってそれで

 

「ゼシカ!!」

「お、お母さん…」

「体は大丈夫なの?どこか痛いとこはない?」

「う、うん。ないよ。」

「そう…」

 

そうお母さんがつぶやくと直後、私の頬に鋭い痛みが生じた。お母さんに頬を叩かれたのだと数秒経って気がついた。痛いが、どこか暖みのある痛みだった。

 

「本当によかった…。本当に…。」

 

お母さんが泣きながら私を抱きしめる。お母さんの体はとても震えていて弱々しく、普段の私を叱る強いお母さんの姿はそこにはなかった。

 

「ごめんなさい。」

私も涙が止まらなかった。お母さんがこんなに心配してくれていて、私を大切にしてくれていることに気づかず危険を犯した自分が情けなくて、お母さんにもう一度会えたことが嬉しくて。

私達は抱きしめ合いながらしばらく泣きあった。

 

 

「本当にごめんなさい。」

「今度という今度は許しません。しばらくは外出禁止、そして魔法の練習をするのを禁止にするわ。いいわね?」

「うん。わかったわ。本当にごめんなさい。」

 

「今回のことはさすがに僕も擁護できないかな。ゼシカ、君は母さんや僕、そして他の人達の信頼を裏切ってしまったんだ。しばらくは外に出られないことを覚悟しておいたほうがいい。」

「ええ。サーベルト兄さんも心配をかけて本当にごめんなさい。」

「ああ、もうこんなことはやめてくれよ。母さん、僕はメイドにゼシカの朝食を持ってくるように伝えてくるよ。」

 

「ええ、お願い。」

 

そう言ってサーベルト兄さんは部屋を出て行った。

 

 

「ねえ、お母さん。一つ聞いてもいいですか?」

「ふふ、ゼシカが敬語を使うなんて今回はかなり懲りたようね。で、なにかしら?」

 

「私はどうして助かったの?私は確かにおばけきのこに殺されそうになった、なのに今こうして生きてる。サーベルト兄さんが助けてくれたの?」

目が覚めてから感じていた疑問をお母さんに尋ねる。

 

「いいえ、違うわ。あなたに魔法を教えていた魔法使いの方があなたを助けてくれたのよ。」

「え、あの人が。じゃあお礼をしなくちゃ!あの人は今どこ?」

「ゼシカがあの魔法使いと会うことはできないわ。彼はもうリーザス村にいないもの。」

 

「え、なんで…。」

「なんでも、サザンビークで問題があったみたいよ。ゼシカの容体が安定したらすぐに村を出てってしまったわ。」

「そんな…。」

まだたくさん話したいことがあった、今回のお礼を言いたかった、そして何より彼の忠告を破ってしまったことを謝りたかった。なのに…。

 

「そう落ち込むことはないわ。三年後あなたの魔法を浴びるために彼はまたここを訪れてくれるそうよ。彼には変わった趣味があるようね。」

 

 

「…ふふ。そうね。とても変わってるわ。」

 

彼と魔法の練習をしている時の会話を思い出し、思わず笑ってしまった。

 

 

よし!三年後、彼に今回のことをたくさん謝って、彼が驚いて腰が抜けてしまうほどのメラをお見舞いしてあげるわ!

「随分と楽しそうな顔をしているわね…。今回のことを本当に反省しているのかしら?」

「!してます!してます!!本当にしてます!」

「全く…。」

 

まずはお母さんに許しをもらうのが先ね…。

 

 

 


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