「さー行くわよー!!」
フロントに鍵を置いてポケセンを出たと同時に叫びだすシロナ。大変耳によろしくない。
「わかったから。少し静かにしてくれ。今何時だと思っているんだ?」
「3時(AM)!!!」
どや顔で言い放つシロナに軽く殺気を放つ。なぜこんな早い時間かというと簡潔に言えばテンションマックスのシロナさん大暴走の巻きである。そんな時間にたたき起こされる身としてはたまったものじゃない。
「理解しているんだったらもう少し声のボリュームを落とせ」
「はーい。それで今日は204と205番道路だっけ?」
「そうだな。そこで新しい手持ちを手に入れる」
「ふふ~、楽しみね」
「はいはい。じゃあ行きますか」
コトブキシティ
203番道路を抜けてコトブキシティに入ったあたりからだんだんとすれ違う人が多くなってきた。
「やっと明るくなってきたな」
「んー? そうね。そろそろ朝ごはんにする?」
「おなかペコペコです」
そう腹をさすりながら言う。朝飯抜きに三時間近く歩き詰めは元現代っ子には死ねる。まあ12年こっちで過ごしたおかげでだいぶ慣れてきたが。
ポケモンセンターのフードコートは八時からなので近場のフレンドリーなショップでおにぎりを買っておく。レジに持って行ったとき、急にガラスが割れる音が店内に響いた。
「何だ!?」
思わず音のしたほうを向くと、二つの影が割れたガラスから店内に侵入してきた。片方はオレンジでもう片方は緑色で正確な姿かたちを捉えることはできなかった。呆気にとられていると緑色のほうから顔に謎の粉をかけられてしまい、そこで意識を失った。
目を覚ますとさっきまでいた店ではなくどこか別の場所のベッドに寝ていた。そうだな……こんなときはどうするべきだろうか……。とりあえず人生で行ってみたかった言葉を言ってみる。
「知らない天井だ」
「……? 何言っているの? ここポケモンセンターだよ?」
すぐ近くから訝しむようなシロナの声が聞こえてきた。誰もいないと思っていたため大変恥ずかしい。その気持ちを隠すためにできるだけ平穏を装って答える。
「まあいいじゃん? んで、何でポケセンにいるの?」
今更だがポケセンはマジで総合機関みたいなものでフードコートに宿泊施設、今いる医療施設のほかに銀行まである。本当にすごい施設だなーっと軽くトリップしていたら医者っぽい人が入ってきた。
「ふむ、起きたばっかなのにずいぶんとまあ元気なものだな」
「あ、どうも。そういやなんで俺はここにいるんだ?」
「そうだな、意識を失う前の記憶はあるか?」
「んーなんかワチャワチャしてましたね」
「うーむ……だいぶ混乱しているようだね。そうだね……フレンドリーショップで買い物していたのは覚えているかい?」
「うーん…………あーそういえばガラス割れてたな」
「そうだ、それで侵入してきたポケモンに眠らされたんだ。そのポケモンたちにフレンドリーショップの食料品は根こそぎやられてしまったらしい。それで何か覚えていればと思ったが、その様子だとダメなようだね」
やれやれと手を挙げてあきれたような表情をしている。
「あー、でもオレンジ色と緑色の二匹が入ってくるのは見ましたよ」
「ほう? そうかそうか、ほかに何か覚えていることはあるか?」
「いえ、何も」
「ふむ、とりあえず警察にはそう伝えておくよ。ただの眠り粉だったようだけど君は一番近くで浴びたからね、一応体調には気を付けておくのだよ」
そう言って出て行ってしまった。この後どうしようかな? 一応ここには新しいポケモンを捕まえるために来たが、今日は無理っぽいかな? その旨をシロナに話すと、
「えー今日はダメなの?」
「そうだな、一応体調に気をつかえって言われたしな。つーか今何時だ?」
「えーと……4時ね」
「…………微妙な時間だな」
「ホルの寝ている時間が長すぎるのよー」
「一番近くで浴びたって言ってたろ。だいぶ濃かったんじゃないか? お前はいつ頃起きたんだ?」
「3時間くらい前かな」
「そうか。とりあえずここから出ようぜ。ずっといちゃ悪いし」
ひとまずベッドから出て受付に行き、着替えと荷物を受け取ってポケセンを出た。
「んで…………これからどうする?」
「そうねー……今日はもう部屋で休んでる?」
「そうだな。なんだかんだ結構つかれたしな。じゃあ部屋に行くか」
~夜~
「ああ……眠れん」
布団から這い出て静かな部屋の中で愚痴る。時計を見ると1時半であった。
隣ではシロナが気持ちよさそうに寝ている。見た目は普通にかわいい部類なため一般男子であればときめくこともあり得るだろうが、それを台無しにする要素が一つあった。
「よだれ…………」
いったい何の夢を見ているのだろうか。口端からよだれが垂れている。ティッシュで軽く口元をぬぐってやると、「まだ食べるー」とか言いながら布団にしがみついて明後日の方向を向いてしまった。
「はぁ……どっか歩いてくるか」
シロナを起こさないように静かに戸を開けて少し肌寒い外に出る。当然真っ暗な外は街灯の明かりがちらほらあり、人通りの多いはずのコトブキは静けさに包まれてた。
小腹がすいたためコンビニでおにぎりでも買おうかと思い昼間に行ったフレンドリーショップに行くと入口にいくつかの影がたむろっていた。特に気にもせずに突っ切ろうかと思ったら、
「…………ん? おーいいとこにガキがいんじゃねーか。金持ってねーか?」
「おいおい、こんなちっちゃなガキからとんのかよwwマジひでえやつだなww」
「おいガキ。痛い目見たくなかったら金おいて帰れよ」
見事に不良に絡まれた。しかし、俺はこんな時の対処法をすでに熟知している! 悲しいことにポケモンを手に入れた四年前からずっと絡まれ続けているからである。
では対処法の解説に入ろうと思う。対処法といっても簡単な話だ。まず腰にぶら下げているモンスターボール(ミニリュウ)を指先で3回たたく。その瞬間にミニリュウは飛び出し、素早さを存分に生かした体当たりを不良共のみぞおちにぶち込み、またボールに戻ってくる。この間わずか二秒。
もちろんその後は懐をあさり財布の中身をごっそりいただく。
「……………………異常なまでの犯罪臭がするが、まあ大丈夫だろ」
ちなみにこの方法は半年ほど前から考えついており、たたく回数をあらかじめ決めておいて指示を出さずともある程度の連携をとれるようにしている。
とりあえず不良達の財布の中身は中々に潤っていたため、思わぬ臨時収入がありおにぎりをいつもの100円おにぎりではなく120円のを買い、早速歩き食いをしているところである。美味い。
明日の分の食料も確保し、準備は万端! 不安要素といえばシロナの暴走があるが、そこについては回避不可能なのでもう諦める。あれは無理だ。
そんなことを考えているうちに一個目のおにぎりを食べ終えて二つ目に手を出そうとしたら後ろの茂みから物音が聞こえた気がした。
「……ん?」
振り返って確認してみるが、特に気になるところはない。気のせいと思い前を向いたら後ろから突き飛ばされてしまった。
「っ!? 痛てて……なんだ?」
突き飛ばされた衝撃で前のめりに倒れてしまい、手に持ってた袋から明日の食料が零れ落ちてしまう。その直後、袋の中身をくすねていく小さな影がちらりと視界の端に映った。
「あっ!? おいこら! 何人の食料とってんだこの野郎!」
急いで追いかけるが、暗くてさらに林の中となると、見つけることはかなり難しい。てか無理。
「はあ、諦めるか…………ん?」
ガサガサと草をかき分けて進むと、林の中に倒れている小さな影が目に映った。もしかしたら子供かもしれなかったので、急いで駆け寄るとそれはポケモンだった。
「こいつは…………ブイゼル? でもここって204番道路にすら入ってないぞ。どうして?」
一先ずこのブイゼルはポケモンセンターに連れて行こうと思い抱きかかえようとするが、掴んだ瞬間にするりと逃げ出してそのまま茂みの奥へと消えてしまった。ただこの時手のひらには触れた感触が強く印象に残っていた。
「痩せてる……?」
掴んだ感触は想像よりもずっと細く、骨ばっている体だった。
しばらく手のひらの感触に浸っていると、不意に重い音が遠くから響いてきた気がした。木々が微かに揺れて、葉がこすれる音が林の中に響き渡った。
急な出来事にしばらく困惑していたが、ようやく落ち着いてきたのでいったん帰ることにした。
なんとなく突っかかりを感じるが気にしていても仕方がないので、その場を後にした